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第12章 二つ目の地域制覇へ

第13話 合流

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 エルフご一行様を連れて、エルフ領の温泉で一泊。
 その翌日に岩宿ホテルザガンで慰労会をし、そこで一泊。
 接待続きで少々疲れたけれど、皆が喜んでくれたのでヨシとしよう。今まで頑張ってくれたし、今後も頑張ってもらうという意味合いもあるしね。

 そして、俺はノワールに乗り、一枚目の地図の場所に向けて一人旅だ。
 偶にはこういうのもいいかもね。
 初めは一人だと寂しいんじゃないかと思ってたけど、最近忙しかったせいか、妙に気分も落ち着くんだ。

 ノワールに乗ってれば速いし快適だし、周囲の危険に対しては頼れる衛星が守ってくれる。
 食事も衛星、野営も衛星、ガードも衛星。今更だけど、もう衛星さまさまだね。

「さてと、ノワール、今日の所はここまでにしようか」
『御意!』

 ノワールに適当なところに降りてもらい、野営の準備を始める。
 準備と言ったって、衛星が場を均してそこに簡易小屋シンプル・バンガローを出すだけ。一人だから食事も簡易小屋の中でできるしね。
 収納バッグから風呂用の簡易小屋と並べて出すだけだから一分も掛からない。
 後は、風呂入ってメシ食って寝るだけ。楽なもんだよ。
 普通の商人や冒険者だったら、食事の心配から野営の設置に夜番の見張り、移動も徒歩か良くて馬車。馬車は高いと聞いてるけど、俺はそれもノワールと収納バッグに入ってる馬車とか衛星に作ってもらう馬車を牽いてもらうだけだからね。

 その収納バッグにしても普通は持ってない。俺がどれだけ恵まれてるのかって考えると……転生してよかった、になる。
 あと贅沢を言わせてもらえるならば、パソコンかテレビとかゲームが欲しかったな。
 これだけは衛星に頼んでもダメなんだよ。
 電気を使うものとか、燃料を使って走るもの。車やバイクだね。自転車は出してもらえるかもしれないけど、こんなガタガタ道しかない世界だと余計に疲れるから言ってない。

 だから夜がヒマなんだよね。暇潰しと言えば、誰かと話すぐらいか。あとは本かな。本は読まなくもないけど、そんなに好きじゃないから特に欲しくもない。漫画なら別だけどね。
 だから弓の稽古もするし剣の素振りもする。魔法の練習もするし、魔法付与も色々やって遊んでる。
 それぐらいしかする事が無いんだよ。

 それでは、今日も行きましょうか。今日も今日とて練習だ!

 一応、先に言っとくと、色々と魔法も覚えたし、弓と剣の練習は毎日とまでは言わないけど、まぁまぁやってる。偶に槍の練習もやってる。
 だけど、殆んどの熟練度は1か2だ。3以上あるのは付加術が5、重力が3。付加術はヒマな時に遊び感覚でやってるので伸びてるのは分かる。大した物は作れてないけど、付加が成功してるのでカウントされてるのかもしれない。
 重力が3というのが分からない。元々3だったのか、上がって3になったのか。覚えてないんだよね、興味なかったから。
 でも、折角上がったんだから、練習では重力魔法も取り入れてる。

 一体、いつこの魔法や剣術・弓術が日の目を見る日が来るのか。そんな日が来るのかどうかも分からないけど、今回も弓の練習は役立った。
 使い方は違うのかもしれないけど、モックントンネルの基盤になったじゃないか。何が功を奏するかも分からないのだから、今後も練習は続けて行こうと思ってる。主に暇潰し的な意味で。

 弓を一時間、剣を少々、あとは魔法の練習をしていると、何やら声が聞こえて来た。
 この周りに人はいない。近くに町も村も無いのだから当たり前といえば当たり前なんだけど、誰かが森で迷子になってるのかな?

 あっ! やっぱり何か聞こえる。でも、衛星が迎撃しないって事は危険は無いって事だよな。

「タマちゃん? 何か声がしたみたいなんだけど、何かいるの?」
『ヴァイスが近付いてきます』
「ヴァイス!? ヴァイスって天馬の?」
『はい、そうです』

 だったらノワールの方が話が早いか。

「ノワール? ヴァイスが来てるの?」
『御意』
「……」
『……』

 それだけ? 早すぎー! もうちょっと何か説明があるのかと期待したんだけど。
 仕方ない、聞きたい内容をこっちから言ってあげれば答えてくれるか。

「何でヴァイスが来てるか知ってる?」
『存じません』
「……どの辺まで来てるか分かる?」
『声が届くところまでは来ているようです』
「……誰と来てるの?」
『存じません』

 使えねー! なんも知らねーじゃん!
 でも、声が届くとこだと、天馬の脚だったら……

『エイジ様、ヴァイスが来たようです』

 うん、そうなるよね。

『エイジ様ー! ご無沙汰してお……』
「エイジー!」

 ペガサスのヴァイスの会心の挨拶はユーの声に掻き消されてしまった。
 ユーはヴァイスの上からそのままエイジに向かってダイブした。

 ドーン!

「ぐはっ!」
「エイジー! エイジだー! エイジだエイジだー!」

 痛いけど、これだけ喜ばれたら文句が言えない。
 いつも思うけど、ユーだけは俺にダメージ食わせるよね。ベアバッグの時もそうだったし、なんでユーに対しては衛星の防衛機能が働かないんだろ。今、結構なダメージを受けたよ? 怖くてステータス確認ができないほどだ。
 すかさずHP回復薬を飲んだ。ハグという名のベアバッグをされてたけど、手は自由だったからね。
 もしかしたら、回復薬を使ったのは初めて……うん、試しに飲んだ事はあっても、本当に回復のために飲んだのは初めてだ。
 もしかしたら、俺の天敵はユーなのかもしれない。

「エイジ様~、もう二人、後から来るんだけど、いいかしら」
「アッシュも来てくれたんだ。もう二人って誰? ザガンとダンタリアン?」
「いいえ、ビランデルとヘリアレスよ。私の下僕にしちゃった。テヘ」
「はい?」

 ビランデルとヘリアレスって魔族じゃん!? なんで魔族を連れて来るのさ! 一番隠しておきたい奴らなのに!
 しかも何? 下僕にしたって? テヘっじゃねーし! ちょっと可愛いと思っちゃったけど…そうじゃなくて、面倒事ばっかり持ってくるんじゃねーよ! 連れて来るんなら、もっと別の奴にしてくれよ!

 未だに身体から離れないユーはそのままにして、アッシュに話しかけた。

「アッシュは向こうに行って来たんだよね。どうだった? 上手く購入できた? ユーがいるところを見ると出来たと思うんだけど、向こうにはクラマもマイアもいるし、ゼパイルさんも癖のある人だからなぁ」
「みなさん良くしてくれましたよ? 鍛冶師ゼパイルなどは色々と協力もしてくれたし、マイアって精霊とも話せたわよ。それで、定期的に仕入れるようにしたんだけど、その配達人として魔族の二人に頼んだの。その代わり、こっちに来た時は強くするって約束したのよ」

 ゼパイルさんが協力的? ありえない、ゼパイルさんも男だったという事か。
 ビランデルとヘリアレスは今の配達も大変なのに、そんな時間取れるのかな? ま、そこはいいとして、強くする? 修行するのかな? 悪魔と魔族が修行……そんな場所ってあったっけ? 修行するだけで周りには相当な被害が出そうなんだけど。

 修行場所について思いを巡らせてると、懐かしい知ってる声が聞こえて来た。

「エイジ様、お久し振りでございます。数々の武勇伝も伺っております。こちらでもエイジ様に仕える者達がいるとか。かく言う私もエイジ様のお役に立つべく、日々精進しております。輸送の方も滞りなく……」
「エイジ様! お久し振り! あんま、見た目変わってないんだな。もうちょっと逞しくなってんのかと期待したんだけどな」

 パコーン!

「ヘリアレス! エイジ様に向かって無礼であろう! お前はいつになったら言葉を覚えるのだ!」
「痛ってーなぁ。いいじゃねーか、俺はこうやってしかしゃべれねーんだよ!」
「だから、覚えろといつも言っているのだ。せめてエイジ様と話す時だけでも丁寧に話してくれ」
「へいへい、分かりやしたよ。努力しましょ。ところでさ、エイジ様。俺達、悪魔に強くしてもらえんだぜ。もっとエイジ様の役に立てるように頑張っからさ、偶には一緒に旅させてくれよ」

 パコーン!

「もっと丁寧にと言ったであろう!」
「痛ってーって! もっと優しく叩いてくれよ!」
「優しく叩いては意味がないではないか!」
「強く叩こうが意味ねーよ。それよりさ、エイジ様、聞いてくれよ。この修行で俺達魔王様より強くなれっかもしれねーんだぜ」

 パコーン!

「お前という奴は……」
「だから痛てーってよ!」

 相変わらずの仲みたいだ。これだけ全然性格が違うのに、よくいつもいれるもんだよ。

「アッシュが稽古するの?」
 二人じゃ、話が進みそうもないので、直接アッシュに聞いてみた。場所をハッキリさせとかないと、最悪俺の監督責任を問われそうだしね。

「ええ、私もするけど、ダンタリアンがメインでやろうと思ってるの。でも、体術とか武術とか魔術を教えるわけじゃないから、誰にやらせてもいいんだけどね」

「「「え?」」」

 アッシュの予想外の言葉に驚く俺。
 でも驚いたのは俺だけじゃなく、魔族に二人も同じように驚いていた。

「じゃあ、何をするんだ?」
「そうだよ姐さん! 強くしてくれるって言ったじゃねーか!」
「アシュタロト様。この者は口が悪いですが、内容は私の思ってるものと同じです。説明を願えませんでしょうか」
「う~ん、面倒? 聞かなくてもやれば分かるでしょ?」

 いやいやいやいや、そこは面倒でも説明してくれよ!
 その思いは二人の魔族も同じようで、アッシュの答えに呆気にとられて声は出ないようだったが、縋るような目で問い掛けていた。

「……聞きたいの?」

 コクコクと肯く俺達三人。俺はそこまでじゃなかったんだけど、二人に釣られて同じ動作をしちゃったよ。

「はぁ……」

 溜息をつきながらもアッシュが説明してくれた。
 簡潔に言うと、魔族が赤目になると強くなるという特性は、悪魔は何もしないで持ってるのだそうだ。その赤目を無条件で常時発動させるようにするという。

 確かに、悪魔はずっと赤目だ。人の前に出る時は幻術を使ってるというが、本当にそんな事ができるのか。
 魔力が強すぎるせいで、悪魔界から出られないと以前聞いたが、その赤目が関係しているのだとか。

 その赤目になれるようにアッシュの手で魔改造するそうだ。魔族から悪魔に体質改善するだけなのだそうだが、そんな事ができるって、アッシュって凄い奴だったんだね。
 丸薬フェチの残念な悪魔だと思ってたけど、やる時はやるんだね。

 配下になった後は、アッシュの配下になるだけで、初めの内はアッシュのお零れがもらえて格も上がって行くんだそうだが、ある程度上がるとそれぞれが魂を摂取しないと格も上がらないのだとか。
 現状で言うとザガンやダンタリアンがその位置にいるそうだ。

 その魂の摂取方法を習う必要があるのだが、それはアッシュでなくともよい。ザガンやダンタリアンで十分だから、初めの調整だけアッシュがやって、後はダンジョンでお手伝いをするだけで強くなるって寸法だ。

 何の稽古もせずに強くなれるって、反則じゃん! クラマとマイアにレベルを上げてもらった俺が言うのも変だけど、強い悪魔を作ろうと思ったら、魔族を連れて来ればいくらでも作れるじゃん!

 因みに、ザガンとダンタリアンは魔王より強いらしい。
 あれだけ強い魔王との対戦を経験した身としては、ザガンとダンタリアンの方が弱いと思ってしまうんだけど、魔王なんて目じゃないそうだ。
 そのザガンとダンタリアンはアッシュには敵わない。
 そのアッシュはマイアといい勝負らしい。しかも、ユーや花子さんに敵わないという。という事は最強はユーか花子さん? マジで?

 でも、俺は花子さんの弱みを握ってるから、俺最強?
 ユーは俺の天敵かもしれないから三すくみ? ユーと花子さんのどっちが強いか分かんないけどね。

 誰が強くてもいいんだけど、平和が一番だよ。三人の中に戦闘狂はいないからね。ユーは違うよね?

 話が終わったので、アッシュは一度ダンジョンに戻ってビランデルとヘリアレスの調整後、再合流すると言って飛んで行ってしまった。
 それなら別に明日でも良かったのにと思ったけど、俺の場所が分かるのがアッシュしかいなかったから、ユーのために態々来てくれたんだって。魂の繋がりで分かるって言ってたけど、悪魔と魂の繋がりがあるって聞いてゾッとしてしまった。アッシュは俺が召喚したから召喚主の居場所はいつ何処にいても分かるって……なんか見張られてるみたいで嫌な気分になってしまったよ。
 ビランデルとヘリアレスは飛べないから、必死で走って追いかけて行ったよ。
 明日からは、ユーと共に地図探しだな。

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