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第07章 チームエイジ

第18話 受勲とおまけ

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 翌日、予定通り王都からの部隊と合流し、三〇〇人を超える行軍となった。
 こんなに必要か? と思わなくもないが、領主様の言う通り王都側もメンツがあって、まだ後続部隊も向かってると言う。
 なぜ、こんなに送るのか、何となく分かった。
 既にフィッツバーグ領軍の方が少なく、中央に固まっているため、外から見ると王都軍にしか見えなくなってきている。

 報告をするのは領主様だし、実際この行軍中の合併軍のトップは領主様なんだけど、この行軍を見た人は王都軍が通ったと言うだろう。
 公式にはフィッツバーグ領が活躍した報告が成されるが、印象としては王都軍が活躍したように見える。
 それが狙いなんじゃないかと思う。素人の見立てだから合ってるかどうかは分からないが、そうじゃなければこんなに王都から兵士を送って来ないと思うんだよね。旗の数も異様に多いように思えるしさ。

 その後、何事も無く、王都に到着。その頃には一〇〇〇人の行軍になっていた。
 百名ほどのフィッツバーグ領軍は、中心にいて周囲からは目立たない状態になっていた。
 もう、王都軍の凱旋にしか見えない。
 それなのに領主様は何も動じていないように見える。何か秘策でもあるのか。それともこの状況を受け入れてるのか。

 一〇〇〇人の行軍は、外壁の門を潜るとそのまま止まらず王城を目指して行軍を続けた。

 行軍は城門前で止まり、代表者のみ城門を潜っていく。
 領主様、王都側の隊長と副長。領軍の隊長と副長。そして俺と領主様の執事。
 なぜ執事が? と思うのだが、当然とばかりに付いてくるし、誰も何も言わないのだからいいのだろう。
 執事は領主様付きなのだから、何となく分からないでもないが、なぜ俺まで……

 城門前で止まった兵士達は俺達が入門して回れ右をし、敬礼すると兵士達は順次解散をして行った。
 王都兵は自分達の部署に戻って行く。領軍の兵士もどこか決まった待機所があるのだろう、全員が迷う事無く一方向を向き隊列を乱さずその場から去って行った。
 捕らえられていた魔族と間者を乗せた馬車も無くなっているので、どこかに収監されるために運ばれて行ったのだろう。

 全員がいなくなるのをまって城門が閉まり、前出の七名が城に向かって歩き始めた。
 先導役は、やはり王都軍を率いていた隊長と副長。その後に領主様が続き領軍の隊長・副長、そして俺がその後で、俺の後に執事がいる。
 もしかして、誰も執事がいる事に気付いてない? そんなはずはないよな…はは、まさかね…


 そのまま、どこにも立ち寄らず、謁見の間に到着した。
 王城の謁見の間か…初めてだな。うう緊張する。
 前に来たときはジュレ公爵……じゃなかった、ワプキンス公爵って言えって王都のギルドマスターから言われたっけ。ジュレの方が覚えやすいんだよね。の執務室だったし、あと行ったのは地下の魔族が囚われてた地下牢だ。シェルと初めて出会った所だな。
 行ったのはその二箇所だけで、謁見の間には寄ってなかった。
 ワプキンス閣下の所でも死ぬほど緊張したのに、謁見の間で王様に会うなんて心臓バクバクで気を失いそうだ。
 でも、あの時は一人だったけど、今日は他にもいるし、俺は黙って頭を下げてればいいんじゃない?


 謁見の間に入場の際、高らかに誰かが何かを言ってたけど、俺の耳には入って来ない。もういっぱいいっぱいだ。もう帰りたい……。
 前を行く領主様達が立ち止まり平伏したので、俺も逸れに倣う。動きが固くてカクカクした動きになっているのが自覚できた。もう、余計に恥ずかしくなって更に周りの景色が狭まっていく。
 何か声がして領主様達に動きがあったが、俺にはもうどうでもいい。早く終わってくれ。

 横から突つかれた気がしたので、うつろな目で見てみると執事が顔を上げるように言ってくれていた。
 どうやら『面を上げよ』と言われてたようだ。
 慌てて顔を上げて領主様達の姿勢の真似をした。が、既に遅かったようだ。

 謁見の間には、正面は王様と王妃様が座ってるようだが、右サイドには沢山の人が並んで座っていた。
 話によく聞く貴族なんだろう。領主様も貴族だけど、あと話した貴族って、この前捕らえたボッシュールぐらいか。
 領主様の所で、長男のアンソニー様の祝勝会で見たような豪奢な服装の連中が何人いるかわからないほど並んで座っていた。
 その連中から「無礼な奴だ」「だから平民をここに入れるべきではないのだ」「礼儀作法を弁えろ」「手打ちにいたせ!」などなどブーイングの矢が飛んでくる。

 はぐぅ……もう無理、帰りたい……

 そのブーイングが波が引くように収まっていく。
 その貴族達の視線を追うと、全員が王様を見ていた。俺も釣られて王様を見ると、王様が片手を上げていた。
 静粛に、という合図なんだろうか、貴族達のブーイングが収まると、王様は手を下げ話し始めた。

「これで魔族が四人であるか。フィッツバーグ卿には『三連月勲章トリプルムーン』を、そこな……には『四連月勲章クアドラプルムーン』を授ける」

 勲章ですか、領主様が勲章を授けられたんだね。凄いな。もう一人貰えるみたいだね、凄いな。魔族の捕縛が凄く評価されたんだろうな。魔族って尋問すら儘なら無い存在だったみたいだからな。
 でも、貴族の連中のブーイングがまた大きくなってて、何を言われてるのか分からない。
 少し聞こえたのは「やりすぎです!」「お考え直しを!」「有り得ない!」「何百年振りだ!?」「陛下! 今一度!」「勇者様以来じゃないのか?」「陛下ー!」……
 もう煩さ過ぎて何を言ってるのか……でも、どうせさっきのブーイングの続きだろうし、分からなくて助かってるか。もう、終わった? 帰っていい?

 王様が数段高い玉座から下りて来て、領主様に勲章を授けている。綺麗な短いリボンに七角形のお洒落な枠が付いており中に三連に連なっている三日月が並んでいる装飾になっていた。
 格好いい…いいなぁ領主様。あれって売ったらいくらぐらいするんだろ。
 畏まる領主様が勲章を受け取ると、恭しくお辞儀をして御礼を述べていた。

 次に、王様が隣の宰相? 大臣? 年配の偉そうなおじさんからもう一つ勲章を受け取った。
 領主様がもらった勲章に似ていたが、リボンの柄が違うのと、中の装飾が違っていた。
 たぶん、恐らく、月なんだろう。さっき、領主様もらった勲章を見て無かったら三日月という発想は出てこなかったな。
 十字手裏剣か風車だと思ってしまった。三日月が十字で並んでいるのだ。さっき領主様が貰ったものに比べると格好悪い。あんなのだったら、やると言われてもいらないな。

 すると、王様が三列目の俺の方に向き、俺の前にいた領軍の隊長と副長が左右に分かれて道を作った。
 どうしたの? と呆気に取られていると、執事が俺の背中を押した。押された拍子につんのめって領主様の隣まで出てしまった。

 ヤバッ! 執事は何してくれてんの! こんな罵声だらけの所でこれ以上失態を重ねると、捕らえられるかもしれないじゃん! 下手すりゃ処刑にされちゃうかもよ!

 王様の前に出てしまった事で執事を振り返る事もできない。本当なら振り返って、睨みつけるぐらいはしてやりたいのに、それをすると作法がなってないってまた罵声を浴びせられそうだし、ここは悪かったと頭をさげるしか俺の生き延びる道はない。

 そう思って、素早く跪き頭を下げると、領主様が俺の手を持って立たせてくれた。
 いやいや、立たせてくれたじゃないって。俺は謝ってるんだから立っちゃダメなんだって。あんた達コンビは何してくれちゃってるんだよ!

「大儀であった」

 え……

 王様が俺の胸に、さっき格好悪いって思った勲章を付けてくれた。

 え……?

 呆気に取られる俺には構わず王様は領主様に話し掛けていた。

「フィッツバーグ卿よ、この者を王都付きと考えておるのだが」
「恐れながら我が王に進言いたします。このエイジなる者、未だ貴族の礼儀も弁えぬ杜漏な冒険者にございます。今はまだ我が手元に置き、教練したいと存じます」
「ほう、余も聞いておるが、この者は魔族に強いだけではなく、ケーキなる菓子の経営者だとこの耳には届いておる。王妃と王女がのぉ」
「ははっ、確かにその通りでございますが、今は王都にも支店を出す準備もしております。今しばらくお待ちください」
「そうであったか、ならばよい。して、どう教練するつもりだ。こちらで見てやってもよいのだぞ?」
「ははっ、このエイジを代官として一地区を任せようと愚考しております」
「ほぉ、ならば社交界にも出ねばならぬか。貴族の教練としてはよいかもの。あい分かった、今しばらく其方そなたに預けよう」
「有り難き幸せにございます」

 おおおお! とどよめきを上げる貴族ギャラリー。
 さっきまでのブーイングとは違って、いい感じで盛り上がる貴族ギャラリー。
 何があったか分からなかったが、俺には王様たぬき領主様きつねが化かし合いをしているように見えた。
 元々、セリフが用意してあって、それを貴族の前で演じたようにしか見えなかったのだ。嘘くさい、わざとらしい。そんな印象を持った。


 何とか謁見も無事(?)終わり、生きて王城から出る事ができたのだが……
 城門を出る前に捕まってしまった。
 王都軍を率いていた隊長に捕まったのだ。

 領主様とは話ができていたみたいで、領主様の前で捕まったのに、領主様は領軍の隊長と副長を連れてそのまま城門を出て行ってしまった。
 俺も連れて行ってくれー!

「イージ殿、少し付き合って頂こう」
 どこへ?
 そんな事は聞けないまま、屈強な兵士達にドナドナされる俺だった。
 連れて行かれた先には、ジュレ公爵じゃなかったワプキンス公爵が待っていた。

「疲れているだろうが、勲章も貰えたようだからそんな疲れも吹っ飛んだだろう」
 いえいえ、もう死にそうなぐらい疲れていますが。

「その勢いで、今回の魔族と残っている魔族を纏めて面倒を見て欲しい」
 あの…おっしゃってる意味がまったく分からないのですが。

「処刑だ」
 え?

「魔族を処刑をしてほしいのだ」
 え? 何言ってんの、この人。
 ……
 ……え―――――っ! 魔族を俺が処刑するの!? なんで?

「あの……」
「言いたい事は分かっている。前回の功労として当分は国からの依頼は免除という事だったが、どうしても君にやってもらいたい」
 たしか、十年免除してくれるって言ってたよね。それがなんで?

「イージが拘束したので抵抗はされないのだが、魔眼は使えるのだ」
 確かにそうかも。今回の奴らの拘束から魔眼が使えないように、衛星の拘束術がレベルアップしてたからね。前の奴らなら拘束されてても魔眼は使えるだろうね。

「既に事情聴取は終わっている、聞きたい事は全て聞けた」
 そういう風に命令したからね。ちゃんと命令を聞いた結果だね。

「あとは、処刑するだけだ」
 うん、だったらそっちでやってくれない?

「さっきも言ったように、奴らは魔眼が使える。だから処刑しようとすると魔眼を発動し、執行人を無力化してしまうのだ」
 それはそうかもね。奴らだって死にたくないだろうし、そういう時には魔眼を発動してしまうかもね。
 でも、近づかなくても魔法とか弓とかあるじゃん。俺の弓を貸そうか?

「遠距離魔法だと、拘束だけが解けた場合、魔族に逃げられる恐れもある。近距離だと無力化される。八方塞りなのだ」
 だからって俺に頼まなくても、他に誰かいるだろ。この隊長さんだって精鋭って話じゃないか。

「この隊長クラス以上の兵士は王都軍に何人かいるが、その者達でもダメだったのだ。剣、槍、斧では無力化され、弓、投げ槍、は奴らは目がいいので拘束されてる縄だけ切られる恐れがあり使えない。大魔法は余波で周囲が見えなくなるから、上手く処刑できればいいが、できなければ確実に逃げられるので使えん。そこで魔眼が効かないイージに白羽の矢が立ったのだ」

 立ったのだ、じゃねーし。立てなくていいし。

「どうだ、引き受けるな。この処刑を受ければイージのやろうとしてる事の手助けができると思うぞ」
 俺の手助け? 一体なんだろ。

「王都に支店をだすのだろ?」
「え……」
 もう知ってるの? 早すぎない?

「さっき謁見の間にいたから当然知っている。王都の一等地を確保してやろう。もちろん、資金はこちら持ちで許可も取ってやろう」
 いたのかよ! わかんなかったよ。あれだけ貴族がいれば分からなくて当然か。
 でも、いい条件だな。いやいや、処刑だよ? 執行人だよ? 嫌だよ、そんな役目。

「あの……」
「そうか、引き受けてくれるのだな。いやぁ助かったよ」
 いや、オッケーなんて全然言ってないし。むしろノーだし。

「じゃあ、明日の昼に待っている。遅れるな、王も見に来るからな」
「い、いや…あの……」
 結局、何も言えずに、また屈強な兵士にドナドナされて城門まで送られた。
 なんで、ここまで言葉が出ないのか、夜になってようやく分かった。
 神経が磨り減りすぎて声が出なかったんだよ。謁見の間で神経がズタズタになってたんだよ。
 宿は取ってなかったけど、前回来た時の高級宿に行くと部屋が空いてたからそのままチェックインして部屋に入ったら、そのままバタンキューで眠っちゃったから相当神経を磨り減らしてたんだと思う。体力は衛星がいつも回復してくれてるみたいだけど、精神までは回復してくれないからな。

 とはいえ、明日、魔族の処刑を俺がやるのか。というか、もう今日だけどね。朝までグッスリ眠っちゃったから。
 重い気分のまま、朝食を摂るため食堂に向かった。

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