25 / 36
神決め大会 予選二日目
鴨川糸電話大作戦Ⅴ
しおりを挟む
京都は大学生が多い。いや、大学が密集しているという環境を考えるとそれは当たり前のこととなる。それゆえに、飲食店の学生に対する『優しさ』は俺たち学生からすると非常にありがたい。
「ここだ、ここ」
先頭を歩いていた鶴太郎さんが立ち止まり、建物を指さした。言われなくては素通りしてしまいそうなくらい、店としての主張がない。だが、店の中から楽しそうな声が聞こえる。きっと知る人ぞ知る、そんな店なのだろう。
「わ、私、そんな飲めませんわよ」
一番後ろに居た梅森さんがそう言った。俺は今日、講義が終わり次第、梅森さんを家に送り届ける予定だったのだが……。
---30分前 大学校門前
「あら、皆さん、おそろいで」
講義が終わり、校門に来た梅森さんは、俺の他に、ニケ、鶴太郎さん、佐藤さんがいることに驚いていた。
「今からみんなで飯に行くんだが、梅森も一緒にどうかと思ってな! というか、行こう!」
鶴太郎さんが両手を上げて叫んだ。
「で、でも、私、お酒はそんなに飲めませんわよ」
そう言いながら、手に持っていた扇子を広げ、顔を隠す。お酒を飲むとは一言も言っていないのだが……。
「ぼ、僕もそんなに飲めないですよ」
俺がそう言うと、梅森さんは目を大きく見開く。
「アナタ、それなのに、鶴太郎さんとご飯に行くのかしら!?」
「?」
鶴太郎さんは時間を持て余していたのか、ニケと酒談義をしている。佐藤さんの方を向くと、ニコリと笑っただけだった。
「まぁ、いいわ。分かった。私も行きますわ」
そんなこんなで、お店の前まで来たのであった。
店の中に入ると、すでに出来上がった大学生と思わしき人たちがワイワイと騒いでいた。
「いらっしゃーい! お、鶴ちゃん、今日は大勢だねぇ」
鉢巻を巻いたおじさんがカウンター越しに声をかけてくる。
「そうなんですよ、上いいすか?」
鶴太郎さんはそう言いながら、上を指さした。鶴太郎さんの敬語はなんだか新鮮だ。
「ええよー! 5名様、入りまーす」
俺たちは階段を上がり、二階の大広間に入った。
ーーー1時間後
「なかなかやるやないかぁ! ほい、おちょこ空いてるで」
赤い顔をした鶴太郎さんが言う。こてこての関西弁になっているのはなぜなのだろうか。
「お主もなぁ、拙者、ここまで飲む者は初めてでござる~」
そんな鶴太郎さんと飲み比べをしているのはニケだ。ニケも赤い顔をしている。2人は、ビールから始まり、ハイボール、そして、今は日本酒を飲んでいる。というか、気になるのは、ニケの口調だ。アレはホントに意味が分からない。……ただ、かわいい。酔っぱらう女の子、かわいい。
「もう飲めましぇん」
俺の隣で突っ伏しているのは、梅森さんだ。梅森さんは散々飲めないと言っていたのに、鶴太郎さんから勧められるとグイグイとハイボールを飲んでいた。グイグイという表現を使ったが、実際には、二口飲んだだけである。それ以上飲もうとしていたが、俺と佐藤さんで止めた。無理やり、ダメ、絶対!
「拓真くん? 大丈夫?」
向かいに座る佐藤さんが声をかけてきた。佐藤さんもそれなりに飲んでいるはずなのに、顔色一つ変わらない。
「あ、はい! 大丈夫ですよ! 佐藤さんは?」
「私は、全然大丈夫! 楽しそうだねぇ」
そう言いながら、鶴太郎さんとニケの方を見る。佐藤さんは微笑んでいる。
「私はまだ飲めましゅ!!」
隣の梅森さんが突如叫んだ。そして、またテーブルに突っ伏した。そんな梅森さんに驚きつつ、俺は佐藤さんと顔を見合して笑った。
「あとで、皆さん、『特殊天界桃』を食べましょうね」
「そうですね」
佐藤さんが『特殊天界桃』を手に持ちながら言う。『特殊天界桃』はほのかに黄色く光っている。再生リバースの能力を込めているのだろう。
「佐藤さんの能力って、素晴らしいですよね」
俺は素直な感想を言った。
「そんなことないよ、こんな能力。今は、好きだけどね」
そう言う佐藤さんの顔は少し曇ったように見えた。
「なんかすいません」
「いや、拓真くんは悪くないよ、逆にごめんね」
生まれながらにして何かの能力を持つ。ニケのように、能力がなかった者がされていたことが、万能な能力を持つ者に対しても行われていたとしたら……。俺は話を変えることにした。
「えっと、鶴太郎さんってどんな神様だったんですか?」
「え? 鶴太郎さん? えっとね」
俺の質問に佐藤さんは笑う。
「今とあんまり変わらないかな」
「そうなんですか?」
佐藤さんは頷く。
「突拍子もないことを思いついて実行して、困っている人を助けて……って感じかな」
「なんか想像出来ますね」
「でしょ?」
神様でも神様でなくても鶴太郎さんは鶴太郎さんなのだろう。
「でも……」
「?」
「鶴太郎さん、神様の時はよく体調崩してたね。私が秘書だったのも、それが理由で」
「そうなんですか」
神様という重圧はやっぱりとてつもないものなのだろうか。
「時々、人が変わったように口調が変わる時もあったかな」
「それって鶴太郎さんは何が原因とか言ってたんですか?」
体調不良はともかく、人が変わったように口調が変わるのは、おかしくないか。
「それが、今の鶴太郎さんは、自分が神様だった頃をあんまり覚えていないの」
「覚えていないんですか?」
「そう、まぁ、色々あったから、そういうこともあるんじゃないかな」
そういうことでいいのだろうか。でも、佐藤さんが言うのだからそれでいいのだろう。
「鶴ちゃん、そろそろいいかい?」
店の大将が顔を覗かしている。鶴太郎さんはベロベロに酔っているので、代わりに俺が返答をする。
「あ、じゃあ、お会計をお願いします」
「じゃあ、皆、また明日な!」
鶴太郎さんはそう言いながら、佐藤さんと一緒に帰っていった。店の会計は全て、鶴太郎さんのおごり……というわけでもなく、皆で折半だった。俺は結局、ニケの分と二人分払うことになった。
「さ、さぁ、帰りましゅわよ」
「梅森さん大丈夫ですか?」
佐藤さんの言う通り、会計の計算の間に、皆で『特殊天界桃』を食べたのだが……。
「梅森さんは人間だから、聞かないんじゃない?」
ニケが耳元で俺に言う。確かに、そうかもしれない。いや、そうなのか? 佐藤さんも不思議そうな顔をしていたが……。
ふらふらと歩く梅森さんをニケと俺で支えながら歩く。力が抜けている足に、急に力が入った。
「わ、私、部長のこと好きだったんですのよ。でも、部長には佐藤さんがいて」
「梅森さん、酔っていたんじゃ」
「女にはね、お酒に溺れて忘れたいこともあるの……。だから、優しくしてくださる?」
鶴太郎さんと佐藤さんの間柄を知らぬとも、ただならぬ関係だということを梅森さんは知っているのかもしれない。梅森さんの目にはウルウルと涙が溜まっている。
「よしよし」
そんな梅森さんの背中をニケはさすってあげていた。俺たちはゆっくりゆっくりと歩きながら梅森さんの部屋に向かった。
「送ってくださって感謝ですわ」
「いえいえ、約束だったので。では……」
そう言って帰ろうとした時に、俺は『鴨川糸電話大作戦』のことを思い出した。
「あ、そうだ、明日、梅森さん、19時頃空いてます?」
「え、空いてますわよ? どうして?」
ここで、愛の告白があってなどと馬鹿正直に答えるわけにもいかない。事情を知らないニケは俺を何とも言えない顔で見ている。後で、説明しなきゃだな。
「えっと、イベントがあって」
「なんで私を誘ってくださるの?」
「そ、それは……」
俺が口ごもっていると、梅森さんは何かを悟ったように、顔を赤らめた。
「いや、分かりましたわ。私ったら野暮な質問を! では、明日、どちらへ行けば?」
「場所は鴨川で開催されるので」
「分かりましたわ、では19時に鴨川で!」
扉が閉まり、俺はふぅと一息ついた。不思議そうな顔、いや、怒っているような顔をしているニケに俺は『鴨川糸電話大作戦』について話をした。
「多分、梅森さん、拓真くんが気があると勘違いしてるよね」
「そうだな」
これで、明日、俺ではなく、峰田さんが告白してはたして上手くいくのだろうか。
「でも、誘い出すことは出来たんだから、あとは、その峰田さんって方が頑張るしかないよ」
「まぁ、そうなんだけどな」
結局、また、何もせず一日が終わろうとしている。APを『100万』も貯めることなんて出来るのだろうか。
「拓真!」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。振り向くと、そこにはよく知るイケメンが立っていた。
「田中!!」
いつもと変わらぬ田中だ。しまった、ニケと一緒にいるところを見られてしまった。またいじられる。
「元気だったか?」
俺の隣にいるニケに目を向けるが、すぐに俺の方を見て、そう尋ねてきた。
「いや、元気だったかって、まだそんなに日も経ってないだろ」
「ああ、そうか。そうだったな。はっはっは」
田中らしくない笑い方をする。
「拓真……」
「ん?」
田中が手を伸ばしてくる。俺も手を伸ばそうとした時、ニケが俺の体を引き寄せた。
「うおっと、ニケ?」
ニケは田中の方を睨んでいる。
「じゃあな、拓真」
田中はそう言うと、走って路地に入っていった。
「田中!!!」
追いかけようとするが、そこには田中の姿はなかった。
「ニケ、一体どういうことだ」
そう尋ねた時、ニケが震えていることに俺は気がついた。
「ニケ? どうした?」
「……」
ニケは下を向いている。
「ニケ?」
もう一度訪ねた時、ニケはゆっくりとこっちを向いて言った。顔は真っ青だ。
「あの人、拓真くんのこと殺そうとしていたよ」
「ここだ、ここ」
先頭を歩いていた鶴太郎さんが立ち止まり、建物を指さした。言われなくては素通りしてしまいそうなくらい、店としての主張がない。だが、店の中から楽しそうな声が聞こえる。きっと知る人ぞ知る、そんな店なのだろう。
「わ、私、そんな飲めませんわよ」
一番後ろに居た梅森さんがそう言った。俺は今日、講義が終わり次第、梅森さんを家に送り届ける予定だったのだが……。
---30分前 大学校門前
「あら、皆さん、おそろいで」
講義が終わり、校門に来た梅森さんは、俺の他に、ニケ、鶴太郎さん、佐藤さんがいることに驚いていた。
「今からみんなで飯に行くんだが、梅森も一緒にどうかと思ってな! というか、行こう!」
鶴太郎さんが両手を上げて叫んだ。
「で、でも、私、お酒はそんなに飲めませんわよ」
そう言いながら、手に持っていた扇子を広げ、顔を隠す。お酒を飲むとは一言も言っていないのだが……。
「ぼ、僕もそんなに飲めないですよ」
俺がそう言うと、梅森さんは目を大きく見開く。
「アナタ、それなのに、鶴太郎さんとご飯に行くのかしら!?」
「?」
鶴太郎さんは時間を持て余していたのか、ニケと酒談義をしている。佐藤さんの方を向くと、ニコリと笑っただけだった。
「まぁ、いいわ。分かった。私も行きますわ」
そんなこんなで、お店の前まで来たのであった。
店の中に入ると、すでに出来上がった大学生と思わしき人たちがワイワイと騒いでいた。
「いらっしゃーい! お、鶴ちゃん、今日は大勢だねぇ」
鉢巻を巻いたおじさんがカウンター越しに声をかけてくる。
「そうなんですよ、上いいすか?」
鶴太郎さんはそう言いながら、上を指さした。鶴太郎さんの敬語はなんだか新鮮だ。
「ええよー! 5名様、入りまーす」
俺たちは階段を上がり、二階の大広間に入った。
ーーー1時間後
「なかなかやるやないかぁ! ほい、おちょこ空いてるで」
赤い顔をした鶴太郎さんが言う。こてこての関西弁になっているのはなぜなのだろうか。
「お主もなぁ、拙者、ここまで飲む者は初めてでござる~」
そんな鶴太郎さんと飲み比べをしているのはニケだ。ニケも赤い顔をしている。2人は、ビールから始まり、ハイボール、そして、今は日本酒を飲んでいる。というか、気になるのは、ニケの口調だ。アレはホントに意味が分からない。……ただ、かわいい。酔っぱらう女の子、かわいい。
「もう飲めましぇん」
俺の隣で突っ伏しているのは、梅森さんだ。梅森さんは散々飲めないと言っていたのに、鶴太郎さんから勧められるとグイグイとハイボールを飲んでいた。グイグイという表現を使ったが、実際には、二口飲んだだけである。それ以上飲もうとしていたが、俺と佐藤さんで止めた。無理やり、ダメ、絶対!
「拓真くん? 大丈夫?」
向かいに座る佐藤さんが声をかけてきた。佐藤さんもそれなりに飲んでいるはずなのに、顔色一つ変わらない。
「あ、はい! 大丈夫ですよ! 佐藤さんは?」
「私は、全然大丈夫! 楽しそうだねぇ」
そう言いながら、鶴太郎さんとニケの方を見る。佐藤さんは微笑んでいる。
「私はまだ飲めましゅ!!」
隣の梅森さんが突如叫んだ。そして、またテーブルに突っ伏した。そんな梅森さんに驚きつつ、俺は佐藤さんと顔を見合して笑った。
「あとで、皆さん、『特殊天界桃』を食べましょうね」
「そうですね」
佐藤さんが『特殊天界桃』を手に持ちながら言う。『特殊天界桃』はほのかに黄色く光っている。再生リバースの能力を込めているのだろう。
「佐藤さんの能力って、素晴らしいですよね」
俺は素直な感想を言った。
「そんなことないよ、こんな能力。今は、好きだけどね」
そう言う佐藤さんの顔は少し曇ったように見えた。
「なんかすいません」
「いや、拓真くんは悪くないよ、逆にごめんね」
生まれながらにして何かの能力を持つ。ニケのように、能力がなかった者がされていたことが、万能な能力を持つ者に対しても行われていたとしたら……。俺は話を変えることにした。
「えっと、鶴太郎さんってどんな神様だったんですか?」
「え? 鶴太郎さん? えっとね」
俺の質問に佐藤さんは笑う。
「今とあんまり変わらないかな」
「そうなんですか?」
佐藤さんは頷く。
「突拍子もないことを思いついて実行して、困っている人を助けて……って感じかな」
「なんか想像出来ますね」
「でしょ?」
神様でも神様でなくても鶴太郎さんは鶴太郎さんなのだろう。
「でも……」
「?」
「鶴太郎さん、神様の時はよく体調崩してたね。私が秘書だったのも、それが理由で」
「そうなんですか」
神様という重圧はやっぱりとてつもないものなのだろうか。
「時々、人が変わったように口調が変わる時もあったかな」
「それって鶴太郎さんは何が原因とか言ってたんですか?」
体調不良はともかく、人が変わったように口調が変わるのは、おかしくないか。
「それが、今の鶴太郎さんは、自分が神様だった頃をあんまり覚えていないの」
「覚えていないんですか?」
「そう、まぁ、色々あったから、そういうこともあるんじゃないかな」
そういうことでいいのだろうか。でも、佐藤さんが言うのだからそれでいいのだろう。
「鶴ちゃん、そろそろいいかい?」
店の大将が顔を覗かしている。鶴太郎さんはベロベロに酔っているので、代わりに俺が返答をする。
「あ、じゃあ、お会計をお願いします」
「じゃあ、皆、また明日な!」
鶴太郎さんはそう言いながら、佐藤さんと一緒に帰っていった。店の会計は全て、鶴太郎さんのおごり……というわけでもなく、皆で折半だった。俺は結局、ニケの分と二人分払うことになった。
「さ、さぁ、帰りましゅわよ」
「梅森さん大丈夫ですか?」
佐藤さんの言う通り、会計の計算の間に、皆で『特殊天界桃』を食べたのだが……。
「梅森さんは人間だから、聞かないんじゃない?」
ニケが耳元で俺に言う。確かに、そうかもしれない。いや、そうなのか? 佐藤さんも不思議そうな顔をしていたが……。
ふらふらと歩く梅森さんをニケと俺で支えながら歩く。力が抜けている足に、急に力が入った。
「わ、私、部長のこと好きだったんですのよ。でも、部長には佐藤さんがいて」
「梅森さん、酔っていたんじゃ」
「女にはね、お酒に溺れて忘れたいこともあるの……。だから、優しくしてくださる?」
鶴太郎さんと佐藤さんの間柄を知らぬとも、ただならぬ関係だということを梅森さんは知っているのかもしれない。梅森さんの目にはウルウルと涙が溜まっている。
「よしよし」
そんな梅森さんの背中をニケはさすってあげていた。俺たちはゆっくりゆっくりと歩きながら梅森さんの部屋に向かった。
「送ってくださって感謝ですわ」
「いえいえ、約束だったので。では……」
そう言って帰ろうとした時に、俺は『鴨川糸電話大作戦』のことを思い出した。
「あ、そうだ、明日、梅森さん、19時頃空いてます?」
「え、空いてますわよ? どうして?」
ここで、愛の告白があってなどと馬鹿正直に答えるわけにもいかない。事情を知らないニケは俺を何とも言えない顔で見ている。後で、説明しなきゃだな。
「えっと、イベントがあって」
「なんで私を誘ってくださるの?」
「そ、それは……」
俺が口ごもっていると、梅森さんは何かを悟ったように、顔を赤らめた。
「いや、分かりましたわ。私ったら野暮な質問を! では、明日、どちらへ行けば?」
「場所は鴨川で開催されるので」
「分かりましたわ、では19時に鴨川で!」
扉が閉まり、俺はふぅと一息ついた。不思議そうな顔、いや、怒っているような顔をしているニケに俺は『鴨川糸電話大作戦』について話をした。
「多分、梅森さん、拓真くんが気があると勘違いしてるよね」
「そうだな」
これで、明日、俺ではなく、峰田さんが告白してはたして上手くいくのだろうか。
「でも、誘い出すことは出来たんだから、あとは、その峰田さんって方が頑張るしかないよ」
「まぁ、そうなんだけどな」
結局、また、何もせず一日が終わろうとしている。APを『100万』も貯めることなんて出来るのだろうか。
「拓真!」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。振り向くと、そこにはよく知るイケメンが立っていた。
「田中!!」
いつもと変わらぬ田中だ。しまった、ニケと一緒にいるところを見られてしまった。またいじられる。
「元気だったか?」
俺の隣にいるニケに目を向けるが、すぐに俺の方を見て、そう尋ねてきた。
「いや、元気だったかって、まだそんなに日も経ってないだろ」
「ああ、そうか。そうだったな。はっはっは」
田中らしくない笑い方をする。
「拓真……」
「ん?」
田中が手を伸ばしてくる。俺も手を伸ばそうとした時、ニケが俺の体を引き寄せた。
「うおっと、ニケ?」
ニケは田中の方を睨んでいる。
「じゃあな、拓真」
田中はそう言うと、走って路地に入っていった。
「田中!!!」
追いかけようとするが、そこには田中の姿はなかった。
「ニケ、一体どういうことだ」
そう尋ねた時、ニケが震えていることに俺は気がついた。
「ニケ? どうした?」
「……」
ニケは下を向いている。
「ニケ?」
もう一度訪ねた時、ニケはゆっくりとこっちを向いて言った。顔は真っ青だ。
「あの人、拓真くんのこと殺そうとしていたよ」
0
あなたにおすすめの小説
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる