ランプの魔人ニケちゃん

くじぇ

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神決め大会 予選二日目

鴨川糸電話大作戦Ⅴ

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 京都は大学生が多い。いや、大学が密集しているという環境を考えるとそれは当たり前のこととなる。それゆえに、飲食店の学生に対する『優しさ』は俺たち学生からすると非常にありがたい。

「ここだ、ここ」

 先頭を歩いていた鶴太郎さんが立ち止まり、建物を指さした。言われなくては素通りしてしまいそうなくらい、店としての主張がない。だが、店の中から楽しそうな声が聞こえる。きっと知る人ぞ知る、そんな店なのだろう。

「わ、私、そんな飲めませんわよ」

 一番後ろに居た梅森さんがそう言った。俺は今日、講義が終わり次第、梅森さんを家に送り届ける予定だったのだが……。

---30分前 大学校門前

「あら、皆さん、おそろいで」

 講義が終わり、校門に来た梅森さんは、俺の他に、ニケ、鶴太郎さん、佐藤さんがいることに驚いていた。

「今からみんなで飯に行くんだが、梅森も一緒にどうかと思ってな! というか、行こう!」

 鶴太郎さんが両手を上げて叫んだ。

「で、でも、私、お酒はそんなに飲めませんわよ」

 そう言いながら、手に持っていた扇子を広げ、顔を隠す。お酒を飲むとは一言も言っていないのだが……。

「ぼ、僕もそんなに飲めないですよ」

 俺がそう言うと、梅森さんは目を大きく見開く。

「アナタ、それなのに、鶴太郎さんとご飯に行くのかしら!?」

「?」

 鶴太郎さんは時間を持て余していたのか、ニケと酒談義をしている。佐藤さんの方を向くと、ニコリと笑っただけだった。

「まぁ、いいわ。分かった。私も行きますわ」

 そんなこんなで、お店の前まで来たのであった。



 店の中に入ると、すでに出来上がった大学生と思わしき人たちがワイワイと騒いでいた。

「いらっしゃーい! お、鶴ちゃん、今日は大勢だねぇ」

 鉢巻を巻いたおじさんがカウンター越しに声をかけてくる。

「そうなんですよ、上いいすか?」

 鶴太郎さんはそう言いながら、上を指さした。鶴太郎さんの敬語はなんだか新鮮だ。

「ええよー! 5名様、入りまーす」

 俺たちは階段を上がり、二階の大広間に入った。



ーーー1時間後

「なかなかやるやないかぁ! ほい、おちょこ空いてるで」

 赤い顔をした鶴太郎さんが言う。こてこての関西弁になっているのはなぜなのだろうか。

「お主もなぁ、拙者、ここまで飲む者は初めてでござる~」

 そんな鶴太郎さんと飲み比べをしているのはニケだ。ニケも赤い顔をしている。2人は、ビールから始まり、ハイボール、そして、今は日本酒を飲んでいる。というか、気になるのは、ニケの口調だ。アレはホントに意味が分からない。……ただ、かわいい。酔っぱらう女の子、かわいい。

「もう飲めましぇん」

 俺の隣で突っ伏しているのは、梅森さんだ。梅森さんは散々飲めないと言っていたのに、鶴太郎さんから勧められるとグイグイとハイボールを飲んでいた。グイグイという表現を使ったが、実際には、二口飲んだだけである。それ以上飲もうとしていたが、俺と佐藤さんで止めた。無理やり、ダメ、絶対!

「拓真くん? 大丈夫?」

 向かいに座る佐藤さんが声をかけてきた。佐藤さんもそれなりに飲んでいるはずなのに、顔色一つ変わらない。

「あ、はい! 大丈夫ですよ! 佐藤さんは?」

「私は、全然大丈夫! 楽しそうだねぇ」

 そう言いながら、鶴太郎さんとニケの方を見る。佐藤さんは微笑んでいる。

「私はまだ飲めましゅ!!」

 隣の梅森さんが突如叫んだ。そして、またテーブルに突っ伏した。そんな梅森さんに驚きつつ、俺は佐藤さんと顔を見合して笑った。

「あとで、皆さん、『特殊天界桃』を食べましょうね」

「そうですね」

 佐藤さんが『特殊天界桃』を手に持ちながら言う。『特殊天界桃』はほのかに黄色く光っている。再生リバースの能力を込めているのだろう。

「佐藤さんの能力って、素晴らしいですよね」

 俺は素直な感想を言った。

「そんなことないよ、こんな能力。今は、好きだけどね」

 そう言う佐藤さんの顔は少し曇ったように見えた。

「なんかすいません」

「いや、拓真くんは悪くないよ、逆にごめんね」

 生まれながらにして何かの能力を持つ。ニケのように、能力がなかった者がされていたことが、万能な能力を持つ者に対しても行われていたとしたら……。俺は話を変えることにした。

「えっと、鶴太郎さんってどんな神様だったんですか?」

「え? 鶴太郎さん? えっとね」

 俺の質問に佐藤さんは笑う。

「今とあんまり変わらないかな」

「そうなんですか?」

 佐藤さんは頷く。

「突拍子もないことを思いついて実行して、困っている人を助けて……って感じかな」

「なんか想像出来ますね」

「でしょ?」

 神様でも神様でなくても鶴太郎さんは鶴太郎さんなのだろう。

「でも……」

「?」

「鶴太郎さん、神様の時はよく体調崩してたね。私が秘書だったのも、それが理由で」

「そうなんですか」

 神様という重圧はやっぱりとてつもないものなのだろうか。

「時々、人が変わったように口調が変わる時もあったかな」

「それって鶴太郎さんは何が原因とか言ってたんですか?」

 体調不良はともかく、人が変わったように口調が変わるのは、おかしくないか。

「それが、今の鶴太郎さんは、自分が神様だった頃をあんまり覚えていないの」

「覚えていないんですか?」

「そう、まぁ、色々あったから、そういうこともあるんじゃないかな」

 そういうことでいいのだろうか。でも、佐藤さんが言うのだからそれでいいのだろう。

「鶴ちゃん、そろそろいいかい?」

 店の大将が顔を覗かしている。鶴太郎さんはベロベロに酔っているので、代わりに俺が返答をする。

「あ、じゃあ、お会計をお願いします」



「じゃあ、皆、また明日な!」

 鶴太郎さんはそう言いながら、佐藤さんと一緒に帰っていった。店の会計は全て、鶴太郎さんのおごり……というわけでもなく、皆で折半だった。俺は結局、ニケの分と二人分払うことになった。

「さ、さぁ、帰りましゅわよ」

「梅森さん大丈夫ですか?」

 佐藤さんの言う通り、会計の計算の間に、皆で『特殊天界桃』を食べたのだが……。

「梅森さんは人間だから、聞かないんじゃない?」

 ニケが耳元で俺に言う。確かに、そうかもしれない。いや、そうなのか? 佐藤さんも不思議そうな顔をしていたが……。

 ふらふらと歩く梅森さんをニケと俺で支えながら歩く。力が抜けている足に、急に力が入った。

「わ、私、部長のこと好きだったんですのよ。でも、部長には佐藤さんがいて」

「梅森さん、酔っていたんじゃ」

「女にはね、お酒に溺れて忘れたいこともあるの……。だから、優しくしてくださる?」

 鶴太郎さんと佐藤さんの間柄を知らぬとも、ただならぬ関係だということを梅森さんは知っているのかもしれない。梅森さんの目にはウルウルと涙が溜まっている。

「よしよし」

 そんな梅森さんの背中をニケはさすってあげていた。俺たちはゆっくりゆっくりと歩きながら梅森さんの部屋に向かった。



「送ってくださって感謝ですわ」

「いえいえ、約束だったので。では……」

 そう言って帰ろうとした時に、俺は『鴨川糸電話大作戦』のことを思い出した。

「あ、そうだ、明日、梅森さん、19時頃空いてます?」

「え、空いてますわよ? どうして?」

 ここで、愛の告白があってなどと馬鹿正直に答えるわけにもいかない。事情を知らないニケは俺を何とも言えない顔で見ている。後で、説明しなきゃだな。

「えっと、イベントがあって」

「なんで私を誘ってくださるの?」

「そ、それは……」

 俺が口ごもっていると、梅森さんは何かを悟ったように、顔を赤らめた。

「いや、分かりましたわ。私ったら野暮な質問を! では、明日、どちらへ行けば?」

「場所は鴨川で開催されるので」

「分かりましたわ、では19時に鴨川で!」

 扉が閉まり、俺はふぅと一息ついた。不思議そうな顔、いや、怒っているような顔をしているニケに俺は『鴨川糸電話大作戦』について話をした。



「多分、梅森さん、拓真くんが気があると勘違いしてるよね」

「そうだな」

 これで、明日、俺ではなく、峰田さんが告白してはたして上手くいくのだろうか。

「でも、誘い出すことは出来たんだから、あとは、その峰田さんって方が頑張るしかないよ」

「まぁ、そうなんだけどな」

 結局、また、何もせず一日が終わろうとしている。APを『100万』も貯めることなんて出来るのだろうか。



「拓真!」

 聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。振り向くと、そこにはよく知るイケメンが立っていた。

「田中!!」

 いつもと変わらぬ田中だ。しまった、ニケと一緒にいるところを見られてしまった。またいじられる。

「元気だったか?」

 俺の隣にいるニケに目を向けるが、すぐに俺の方を見て、そう尋ねてきた。

「いや、元気だったかって、まだそんなに日も経ってないだろ」

「ああ、そうか。そうだったな。はっはっは」

 田中らしくない笑い方をする。

「拓真……」

「ん?」

 田中が手を伸ばしてくる。俺も手を伸ばそうとした時、ニケが俺の体を引き寄せた。

「うおっと、ニケ?」

 ニケは田中の方を睨んでいる。

「じゃあな、拓真」

 田中はそう言うと、走って路地に入っていった。

「田中!!!」

 追いかけようとするが、そこには田中の姿はなかった。

「ニケ、一体どういうことだ」

 そう尋ねた時、ニケが震えていることに俺は気がついた。

「ニケ? どうした?」

「……」

 ニケは下を向いている。

「ニケ?」

 もう一度訪ねた時、ニケはゆっくりとこっちを向いて言った。顔は真っ青だ。

「あの人、拓真くんのこと殺そうとしていたよ」
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