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神決め大会 予選二日目
鴨川糸電話大作戦Ⅵ
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「田中が? 俺を?」
何を言っているんだ。そんなことあるはずがない。
「で、でも、あれは絶対に」
「気のせいだろ! 俺と田中は友だちだぞ、そんなことするわけない!」
「た、拓真くん……」
「だいたい、もうお前には『魔人』としての能力はないんだろ、そんなことわかるわけないじゃないか」
「……」
にけは黙っている。何かを言いたそうに口を動かそうとしたが、なにを言っても聞かない俺に愛想をつかしたのか、後ろを振り返り、歩き出した。
「アイツがそんなことするわけないんだ、絶対に、俺は信じてる」
『俺は神くんを信じるよ』
昔、田中が言ってくれた言葉だ。あの言葉に俺は救われた。田中はそれ以降も俺を信じてくれている。そんな田中を俺は疑うわけにはいかない。
「おい! ニケ! どこ行くんだ!」
田中のことを考えている間に、ニケとの距離はずいぶんと開いていた。俺の声が聞こえないのか、ニケは反応しなかった。
「なんだ、アイツ」
普通はここで追いかける必要があるのかもしれないが、俺は追いかけることをしなかった。
この夜、俺はニケが帰ってくると思い、玄関の鍵を開け、待っていたが、ニケが帰ってくることはなかった。
「朝か」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。誰もいない。静かな朝だ。つい最近までそれが当たり前だった。だが、今はなんだか寂しい気持ちになる。
「ニケ、どこいったんだよ」
こうして、ニケが居ないまま、予選三日目が幕をあけた。今日は『鴨川糸電話大作戦』が行われる。峰田さんから『ありがとう』というお礼を貰えば、『AP』は獲得出来るはずだ。だが、それでどれほどの『AP』が貯まるのだろうか。本当に俺は勝ち抜くことが出来るのだろうか。
「ダメだ。一人でいると色々考えてしまう。大学へ行こう」
大学は朝8時頃にはもう開いている。もちろん、24時間、自由に出入りが可能な大学もあるのだが、俺の通う大学はそうではない。
「そうだ、テスト期間は通常の授業日と開始時間が違うんだった……」
何やってんだ、俺は。誰もいない教室を前に俺は気づいた。開始まで時間がある。仕方なく、教室の外に置いてある長椅子に腰かけ、俺は一息ついた。
「あ、神さん!」
そう呼ばれ、振り向くと、そこには峰田さんが立っていた。
「峰田さん、おはようございます」
「どうしたんですか!? 元気ないですねぇ!」
峰田さんは初めて会った時の印象とは違い、テンションが高い。今の俺からすると、少し面倒に感じてしまう。峰田さんは俺の横に座った。
「いや、まぁ、朝だからですよ」
「そんなことより、いよいよ今日ですねぇ、『鴨川糸電話大作戦』!」
そんなことって。まぁいいか。顔を合わせず、お互い前を向いて話しているが、声のトーンからおそらくにこやかなのだろうと俺は思った。
「彼女のこと呼んでくれました?」
「はい。昨日、来てくれるようにお願いしておきました」
梅森さんはなんだか勘違いしているようだったことは言わないでおこう。
「いやぁ、実は昨日も彼女を家まで送っていましてね」
「?」
「彼女と一緒に歩く男がいましてね……」
峰田さんの声のトーンが低くなる。俺は直感で身の危険を感じた。昨日、梅森さんと一緒に歩いていたのは……
「アナタに似ていたんですよぇ、拓真くん」
俺は峰田さんと距離を置こうと離れようとした……。が、峰田さんは俺の肩に手をまわし、自分の体の方に俺を寄せた。
「どういう関係なんですか?」
「……」
「おい」
俺は峰田さんの手を取り、優しく俺の肩から手を下ろさせた。
「何もないですよ、安心してください。峰田さんを応援していますので」
「本当か?」
「はい」
俺の返事に、峰田さんの表情は一転し、笑顔になった。立ち上がり、こちらを振り向く。
「じゃあ、今日、また19時に!! ばいばーい」
そう言って、峰田さんは去っていった。
「アイツはヤバい」
俺は声に出して言った。俺は峰田さんの心を視た。あの人の思考は、『狂って』いた。全てを視ることは出来なかったが、少なくとも、あの人と梅森さんがくっつくなんてことがあれば、梅森さんは……。俺は身震いした。
その後、俺はテストを受けた。田中と同じ授業もあったが、いずれも田中は出席していなかった。熱血先生の授業は、『ビクトリア戦』の一件で巻き込まれた学生たちが病院もしくは自宅療養しているため、学生数は少なく、熱血先生は少し寂しそうだった。
そして、いよいよ『鴨川糸電話大作戦』開催の時間がやってきた。さっそく鴨川に向かう。
「青年! 来たか! これを見たまえ!」
鴨川の北大路橋の上で鶴太郎さんが言う。俺は下を見た。
「!?」
そこには、50人ほどの人たちが集まっていた。
「向こうにもいるからな」
鶴太郎さんが指さす方に目を向ける。そこにも同じくらい人がいた。
「すごいですね」
「まぁ、主催者の力ってわけだな」
どんなもんだと胸を張る。
「では、始めるか!」
そう言うと、鶴太郎さんは橋から下へ、下へ!? 飛び降りた!? 俺は身を乗り出して、下を見る。鶴太郎さんの登場で『ワァ~』と歓声が上がった。
「皆さん、本日はお集り頂き誠にありがとうございます!」
同じように、向こうでも歓声が聞こえる。向こうには、佐藤さんがいるようだ。こうして、『鴨川糸電話大作戦』が始まった。
「ちえみ~、いつもありがと~~~!」
「私こそ、大好きだよ~~~!!」
口にコップを当てて、言葉を発し、耳にコップを当てて、それを聞く。どういう構造なのか分からないが、会場には、音響設備が完備しており、参加者の言葉が他の人にも聞こえる。
その言葉の一つ一つに『ワァ~』と歓声が上がる。
「愛の告白が多いですわね」
そう言われ、いや、ひとり言かもしれないが……。振り向くと、梅森さんがいた。
「来てくださったんですね、ありがとうございます!」
「それは……来ますわよ……」
頬を赤らめ、俺を見る。ゴメンなさい、俺じゃないんです。
「では、次、学生の峰田さん!」
対岸に居る佐藤さんの声が音響機器から聞こえる。
「そして、お相手は、これまた学生……梅森さん!」
鶴太郎さんの呼びかけで、梅森さんにスポットライトが当たった。ちなみにだが、この様々な設備は、全て、鶴太郎さんの創造で作ったらしい。
「え!? 私ですの?」
自分の名前を呼ばれ、困惑する梅森さんを俺は背中を押しながら、糸電話が設置されている場所まで連れて行った。
「ごめんなさい、騙すような誘い方をしてしまって」
「それはそうと、あの方は一体……」
怒ってはいないようだが、梅森さんからしたらその反応になるのは当然だろう。
「では、峰田さん、どうぞ」
梅森さんはコップを耳に当てた。
「す、好きです! 付き合ってください!!」
「!?」
『フゥーーー』
告白に歓声が上がる。梅森さんは困惑した顔で、コップを耳から離し、口に当てた。
「では、梅森さん、お答えを」
「ごめんなさい、私、アナタのこと全く存じ上げなくて」
『あぁーーー』
返答に観客はうなだれたような声を上げる。
「残念でしたねぇ」
鶴太郎さんが言った。なかなかその言葉はキツい。それに反応し、観客も笑う。と、その時、
「ふざけんなぁああああああああああああああああああああ」
突然、峰田さんの声が響いた。
「お、俺は、アンタをいつも見ていたんだ、どんなときも、毎日、家まで送って」
「え!?」
梅森さんは驚いている。
「こ、殺してやる!!!!!」
「な、ナイフを持っているぞ、コイツ」
「キャー」
音響機器を通して、悲鳴が聞こえる。その声に、観客はみんな散り散りに逃げていった。
「青年! あいつを止めるぞ」
そう言って、鶴太郎さんは川の中へ入っていった。そのまま、対岸に向かうようだ。
「梅森さん、ここに居てくださいね」
恐怖で立ち尽くす梅森さんにそう言って、俺は鶴太郎さんの後を追った。
対岸に着くと、佐藤さんが倒れていた。そこから少し離れたところで、峰田がナイフを手に立っている。その目は狂気に満ちている。
「佐藤さん!!」
俺は佐藤さんのところに走り寄る。服の至る所に血がにじみ、穴が開いている。
「だ、大丈夫……。と、特殊天界桃を食べたから」
「青年!」
鶴太郎さんの声で佐藤さんから目を離す。峰田が俺の方に走ってきていた。
「ヤバい」
「死ね!」
『グサッ』
「う、う、」
血が滴る。俺の前に現れたのはニケだった。
「ニケくん!」
「ニケ!!」
「な、なんだ、コイツ、ナイフが抜けない」
峰田はナイフを抜こうとしているのか、何度も力を入れている。その度に、ニケが苦しそうな声を出す。
「なんなんだ、お前は!」
『パンッ』
「は?」
ニケは峰田の頬をぶっていた。
「アンタがしていることは犯罪だ! そして、女の子の気持ちを何もわかっていない!」
「お前に何が分かる!」
峰田は激情する。
「好きなんだ、好きだから!!」
「ふざけんなっ! 自分の好きを相手に押し付けるな! アンタは何もわかっていない!」
ニケは怒っていた。こんなニケは初めてだ。
「好きになっちゃいけないのか!」
「そういうことじゃない! アンタはね、距離感を全然考えていないんだよ、好きな気持ちをぶつけるんじゃなくて、相手に好きになってもらうためにはどうするかを考えなきゃ……ぐふっ」
「わかんねぇよ」
「恋愛はひとりでしてもいい、でも、その次に進むための『愛』は2人で作らなきゃ」
そう言い終えたニケはそのまま倒れそうになる。俺はニケを支えるために走り寄った。
「なにを言っているんだ、コイツは」
困惑する峰田の腕を鶴太郎さんが押さえる。
「それが分からない間は、お前を愛してくれる女性は現れないだろう。お前を警察に連れていく」
鶴太郎さんがそう言いながら、峰田を連れて行った。
「これを早く食べさせてあげて!!」
俺とニケの傍に佐藤さんが走ってきた。佐藤さんの方は完全に回復したみたいだ。
「ニケ、食べられるか? おい! ニケ!」
俺の呼びかけにニケは少しだけ頷くだけだ。俺は、貰った『特殊天界桃・再生』を自分の口に含み、少しかみ砕き、ニケに口移しをした。
「……ご、ごほっ」
「ニケ!」
「ニケちゃん!」
「拓真くん……、ありが……と……」
「まだ喋らない方がいい」
傷は思ったより深いようで、血がドバドバ出ている。
「ゴメンね……。『魔人』じゃないから役に立てなくて、迷惑かけて」
ニケは泣いていた。その言葉は俺が昨日言ったことだ。
「ひどいこと言ってゴメンな、ニケ……」
そんな姿を見て、俺は後悔とニケの言葉に胸を打たれた。
「わ、私のせいですの?」
佐藤さんが対岸に居た梅森さんを連れてきた。ニケの様子を見て、梅森さんは唖然としていた。
「梅森は何も悪くないよ」
顔を両手で覆う梅森さんの背中を佐藤さんはゆっくりとさすっていた。
こうして、『鴨川糸電話大作戦』は最悪の幕引きとなった。今回のイベントをめちゃくちゃにした峰田は警察で事情聴取を受けていたのだが、突如失踪したという。梅森さんには、峰田が捕まるまでの間、俺たちの誰かが絶対につくことになった。
結局、俺の『AP』は貯まることなく、また、依頼も失敗し、全てが上手くいかない現実に俺はやるせなさを感じることとなった。
何を言っているんだ。そんなことあるはずがない。
「で、でも、あれは絶対に」
「気のせいだろ! 俺と田中は友だちだぞ、そんなことするわけない!」
「た、拓真くん……」
「だいたい、もうお前には『魔人』としての能力はないんだろ、そんなことわかるわけないじゃないか」
「……」
にけは黙っている。何かを言いたそうに口を動かそうとしたが、なにを言っても聞かない俺に愛想をつかしたのか、後ろを振り返り、歩き出した。
「アイツがそんなことするわけないんだ、絶対に、俺は信じてる」
『俺は神くんを信じるよ』
昔、田中が言ってくれた言葉だ。あの言葉に俺は救われた。田中はそれ以降も俺を信じてくれている。そんな田中を俺は疑うわけにはいかない。
「おい! ニケ! どこ行くんだ!」
田中のことを考えている間に、ニケとの距離はずいぶんと開いていた。俺の声が聞こえないのか、ニケは反応しなかった。
「なんだ、アイツ」
普通はここで追いかける必要があるのかもしれないが、俺は追いかけることをしなかった。
この夜、俺はニケが帰ってくると思い、玄関の鍵を開け、待っていたが、ニケが帰ってくることはなかった。
「朝か」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。誰もいない。静かな朝だ。つい最近までそれが当たり前だった。だが、今はなんだか寂しい気持ちになる。
「ニケ、どこいったんだよ」
こうして、ニケが居ないまま、予選三日目が幕をあけた。今日は『鴨川糸電話大作戦』が行われる。峰田さんから『ありがとう』というお礼を貰えば、『AP』は獲得出来るはずだ。だが、それでどれほどの『AP』が貯まるのだろうか。本当に俺は勝ち抜くことが出来るのだろうか。
「ダメだ。一人でいると色々考えてしまう。大学へ行こう」
大学は朝8時頃にはもう開いている。もちろん、24時間、自由に出入りが可能な大学もあるのだが、俺の通う大学はそうではない。
「そうだ、テスト期間は通常の授業日と開始時間が違うんだった……」
何やってんだ、俺は。誰もいない教室を前に俺は気づいた。開始まで時間がある。仕方なく、教室の外に置いてある長椅子に腰かけ、俺は一息ついた。
「あ、神さん!」
そう呼ばれ、振り向くと、そこには峰田さんが立っていた。
「峰田さん、おはようございます」
「どうしたんですか!? 元気ないですねぇ!」
峰田さんは初めて会った時の印象とは違い、テンションが高い。今の俺からすると、少し面倒に感じてしまう。峰田さんは俺の横に座った。
「いや、まぁ、朝だからですよ」
「そんなことより、いよいよ今日ですねぇ、『鴨川糸電話大作戦』!」
そんなことって。まぁいいか。顔を合わせず、お互い前を向いて話しているが、声のトーンからおそらくにこやかなのだろうと俺は思った。
「彼女のこと呼んでくれました?」
「はい。昨日、来てくれるようにお願いしておきました」
梅森さんはなんだか勘違いしているようだったことは言わないでおこう。
「いやぁ、実は昨日も彼女を家まで送っていましてね」
「?」
「彼女と一緒に歩く男がいましてね……」
峰田さんの声のトーンが低くなる。俺は直感で身の危険を感じた。昨日、梅森さんと一緒に歩いていたのは……
「アナタに似ていたんですよぇ、拓真くん」
俺は峰田さんと距離を置こうと離れようとした……。が、峰田さんは俺の肩に手をまわし、自分の体の方に俺を寄せた。
「どういう関係なんですか?」
「……」
「おい」
俺は峰田さんの手を取り、優しく俺の肩から手を下ろさせた。
「何もないですよ、安心してください。峰田さんを応援していますので」
「本当か?」
「はい」
俺の返事に、峰田さんの表情は一転し、笑顔になった。立ち上がり、こちらを振り向く。
「じゃあ、今日、また19時に!! ばいばーい」
そう言って、峰田さんは去っていった。
「アイツはヤバい」
俺は声に出して言った。俺は峰田さんの心を視た。あの人の思考は、『狂って』いた。全てを視ることは出来なかったが、少なくとも、あの人と梅森さんがくっつくなんてことがあれば、梅森さんは……。俺は身震いした。
その後、俺はテストを受けた。田中と同じ授業もあったが、いずれも田中は出席していなかった。熱血先生の授業は、『ビクトリア戦』の一件で巻き込まれた学生たちが病院もしくは自宅療養しているため、学生数は少なく、熱血先生は少し寂しそうだった。
そして、いよいよ『鴨川糸電話大作戦』開催の時間がやってきた。さっそく鴨川に向かう。
「青年! 来たか! これを見たまえ!」
鴨川の北大路橋の上で鶴太郎さんが言う。俺は下を見た。
「!?」
そこには、50人ほどの人たちが集まっていた。
「向こうにもいるからな」
鶴太郎さんが指さす方に目を向ける。そこにも同じくらい人がいた。
「すごいですね」
「まぁ、主催者の力ってわけだな」
どんなもんだと胸を張る。
「では、始めるか!」
そう言うと、鶴太郎さんは橋から下へ、下へ!? 飛び降りた!? 俺は身を乗り出して、下を見る。鶴太郎さんの登場で『ワァ~』と歓声が上がった。
「皆さん、本日はお集り頂き誠にありがとうございます!」
同じように、向こうでも歓声が聞こえる。向こうには、佐藤さんがいるようだ。こうして、『鴨川糸電話大作戦』が始まった。
「ちえみ~、いつもありがと~~~!」
「私こそ、大好きだよ~~~!!」
口にコップを当てて、言葉を発し、耳にコップを当てて、それを聞く。どういう構造なのか分からないが、会場には、音響設備が完備しており、参加者の言葉が他の人にも聞こえる。
その言葉の一つ一つに『ワァ~』と歓声が上がる。
「愛の告白が多いですわね」
そう言われ、いや、ひとり言かもしれないが……。振り向くと、梅森さんがいた。
「来てくださったんですね、ありがとうございます!」
「それは……来ますわよ……」
頬を赤らめ、俺を見る。ゴメンなさい、俺じゃないんです。
「では、次、学生の峰田さん!」
対岸に居る佐藤さんの声が音響機器から聞こえる。
「そして、お相手は、これまた学生……梅森さん!」
鶴太郎さんの呼びかけで、梅森さんにスポットライトが当たった。ちなみにだが、この様々な設備は、全て、鶴太郎さんの創造で作ったらしい。
「え!? 私ですの?」
自分の名前を呼ばれ、困惑する梅森さんを俺は背中を押しながら、糸電話が設置されている場所まで連れて行った。
「ごめんなさい、騙すような誘い方をしてしまって」
「それはそうと、あの方は一体……」
怒ってはいないようだが、梅森さんからしたらその反応になるのは当然だろう。
「では、峰田さん、どうぞ」
梅森さんはコップを耳に当てた。
「す、好きです! 付き合ってください!!」
「!?」
『フゥーーー』
告白に歓声が上がる。梅森さんは困惑した顔で、コップを耳から離し、口に当てた。
「では、梅森さん、お答えを」
「ごめんなさい、私、アナタのこと全く存じ上げなくて」
『あぁーーー』
返答に観客はうなだれたような声を上げる。
「残念でしたねぇ」
鶴太郎さんが言った。なかなかその言葉はキツい。それに反応し、観客も笑う。と、その時、
「ふざけんなぁああああああああああああああああああああ」
突然、峰田さんの声が響いた。
「お、俺は、アンタをいつも見ていたんだ、どんなときも、毎日、家まで送って」
「え!?」
梅森さんは驚いている。
「こ、殺してやる!!!!!」
「な、ナイフを持っているぞ、コイツ」
「キャー」
音響機器を通して、悲鳴が聞こえる。その声に、観客はみんな散り散りに逃げていった。
「青年! あいつを止めるぞ」
そう言って、鶴太郎さんは川の中へ入っていった。そのまま、対岸に向かうようだ。
「梅森さん、ここに居てくださいね」
恐怖で立ち尽くす梅森さんにそう言って、俺は鶴太郎さんの後を追った。
対岸に着くと、佐藤さんが倒れていた。そこから少し離れたところで、峰田がナイフを手に立っている。その目は狂気に満ちている。
「佐藤さん!!」
俺は佐藤さんのところに走り寄る。服の至る所に血がにじみ、穴が開いている。
「だ、大丈夫……。と、特殊天界桃を食べたから」
「青年!」
鶴太郎さんの声で佐藤さんから目を離す。峰田が俺の方に走ってきていた。
「ヤバい」
「死ね!」
『グサッ』
「う、う、」
血が滴る。俺の前に現れたのはニケだった。
「ニケくん!」
「ニケ!!」
「な、なんだ、コイツ、ナイフが抜けない」
峰田はナイフを抜こうとしているのか、何度も力を入れている。その度に、ニケが苦しそうな声を出す。
「なんなんだ、お前は!」
『パンッ』
「は?」
ニケは峰田の頬をぶっていた。
「アンタがしていることは犯罪だ! そして、女の子の気持ちを何もわかっていない!」
「お前に何が分かる!」
峰田は激情する。
「好きなんだ、好きだから!!」
「ふざけんなっ! 自分の好きを相手に押し付けるな! アンタは何もわかっていない!」
ニケは怒っていた。こんなニケは初めてだ。
「好きになっちゃいけないのか!」
「そういうことじゃない! アンタはね、距離感を全然考えていないんだよ、好きな気持ちをぶつけるんじゃなくて、相手に好きになってもらうためにはどうするかを考えなきゃ……ぐふっ」
「わかんねぇよ」
「恋愛はひとりでしてもいい、でも、その次に進むための『愛』は2人で作らなきゃ」
そう言い終えたニケはそのまま倒れそうになる。俺はニケを支えるために走り寄った。
「なにを言っているんだ、コイツは」
困惑する峰田の腕を鶴太郎さんが押さえる。
「それが分からない間は、お前を愛してくれる女性は現れないだろう。お前を警察に連れていく」
鶴太郎さんがそう言いながら、峰田を連れて行った。
「これを早く食べさせてあげて!!」
俺とニケの傍に佐藤さんが走ってきた。佐藤さんの方は完全に回復したみたいだ。
「ニケ、食べられるか? おい! ニケ!」
俺の呼びかけにニケは少しだけ頷くだけだ。俺は、貰った『特殊天界桃・再生』を自分の口に含み、少しかみ砕き、ニケに口移しをした。
「……ご、ごほっ」
「ニケ!」
「ニケちゃん!」
「拓真くん……、ありが……と……」
「まだ喋らない方がいい」
傷は思ったより深いようで、血がドバドバ出ている。
「ゴメンね……。『魔人』じゃないから役に立てなくて、迷惑かけて」
ニケは泣いていた。その言葉は俺が昨日言ったことだ。
「ひどいこと言ってゴメンな、ニケ……」
そんな姿を見て、俺は後悔とニケの言葉に胸を打たれた。
「わ、私のせいですの?」
佐藤さんが対岸に居た梅森さんを連れてきた。ニケの様子を見て、梅森さんは唖然としていた。
「梅森は何も悪くないよ」
顔を両手で覆う梅森さんの背中を佐藤さんはゆっくりとさすっていた。
こうして、『鴨川糸電話大作戦』は最悪の幕引きとなった。今回のイベントをめちゃくちゃにした峰田は警察で事情聴取を受けていたのだが、突如失踪したという。梅森さんには、峰田が捕まるまでの間、俺たちの誰かが絶対につくことになった。
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