26 / 36
神決め大会 予選二日目
鴨川糸電話大作戦Ⅵ
しおりを挟む
「田中が? 俺を?」
何を言っているんだ。そんなことあるはずがない。
「で、でも、あれは絶対に」
「気のせいだろ! 俺と田中は友だちだぞ、そんなことするわけない!」
「た、拓真くん……」
「だいたい、もうお前には『魔人』としての能力はないんだろ、そんなことわかるわけないじゃないか」
「……」
にけは黙っている。何かを言いたそうに口を動かそうとしたが、なにを言っても聞かない俺に愛想をつかしたのか、後ろを振り返り、歩き出した。
「アイツがそんなことするわけないんだ、絶対に、俺は信じてる」
『俺は神くんを信じるよ』
昔、田中が言ってくれた言葉だ。あの言葉に俺は救われた。田中はそれ以降も俺を信じてくれている。そんな田中を俺は疑うわけにはいかない。
「おい! ニケ! どこ行くんだ!」
田中のことを考えている間に、ニケとの距離はずいぶんと開いていた。俺の声が聞こえないのか、ニケは反応しなかった。
「なんだ、アイツ」
普通はここで追いかける必要があるのかもしれないが、俺は追いかけることをしなかった。
この夜、俺はニケが帰ってくると思い、玄関の鍵を開け、待っていたが、ニケが帰ってくることはなかった。
「朝か」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。誰もいない。静かな朝だ。つい最近までそれが当たり前だった。だが、今はなんだか寂しい気持ちになる。
「ニケ、どこいったんだよ」
こうして、ニケが居ないまま、予選三日目が幕をあけた。今日は『鴨川糸電話大作戦』が行われる。峰田さんから『ありがとう』というお礼を貰えば、『AP』は獲得出来るはずだ。だが、それでどれほどの『AP』が貯まるのだろうか。本当に俺は勝ち抜くことが出来るのだろうか。
「ダメだ。一人でいると色々考えてしまう。大学へ行こう」
大学は朝8時頃にはもう開いている。もちろん、24時間、自由に出入りが可能な大学もあるのだが、俺の通う大学はそうではない。
「そうだ、テスト期間は通常の授業日と開始時間が違うんだった……」
何やってんだ、俺は。誰もいない教室を前に俺は気づいた。開始まで時間がある。仕方なく、教室の外に置いてある長椅子に腰かけ、俺は一息ついた。
「あ、神さん!」
そう呼ばれ、振り向くと、そこには峰田さんが立っていた。
「峰田さん、おはようございます」
「どうしたんですか!? 元気ないですねぇ!」
峰田さんは初めて会った時の印象とは違い、テンションが高い。今の俺からすると、少し面倒に感じてしまう。峰田さんは俺の横に座った。
「いや、まぁ、朝だからですよ」
「そんなことより、いよいよ今日ですねぇ、『鴨川糸電話大作戦』!」
そんなことって。まぁいいか。顔を合わせず、お互い前を向いて話しているが、声のトーンからおそらくにこやかなのだろうと俺は思った。
「彼女のこと呼んでくれました?」
「はい。昨日、来てくれるようにお願いしておきました」
梅森さんはなんだか勘違いしているようだったことは言わないでおこう。
「いやぁ、実は昨日も彼女を家まで送っていましてね」
「?」
「彼女と一緒に歩く男がいましてね……」
峰田さんの声のトーンが低くなる。俺は直感で身の危険を感じた。昨日、梅森さんと一緒に歩いていたのは……
「アナタに似ていたんですよぇ、拓真くん」
俺は峰田さんと距離を置こうと離れようとした……。が、峰田さんは俺の肩に手をまわし、自分の体の方に俺を寄せた。
「どういう関係なんですか?」
「……」
「おい」
俺は峰田さんの手を取り、優しく俺の肩から手を下ろさせた。
「何もないですよ、安心してください。峰田さんを応援していますので」
「本当か?」
「はい」
俺の返事に、峰田さんの表情は一転し、笑顔になった。立ち上がり、こちらを振り向く。
「じゃあ、今日、また19時に!! ばいばーい」
そう言って、峰田さんは去っていった。
「アイツはヤバい」
俺は声に出して言った。俺は峰田さんの心を視た。あの人の思考は、『狂って』いた。全てを視ることは出来なかったが、少なくとも、あの人と梅森さんがくっつくなんてことがあれば、梅森さんは……。俺は身震いした。
その後、俺はテストを受けた。田中と同じ授業もあったが、いずれも田中は出席していなかった。熱血先生の授業は、『ビクトリア戦』の一件で巻き込まれた学生たちが病院もしくは自宅療養しているため、学生数は少なく、熱血先生は少し寂しそうだった。
そして、いよいよ『鴨川糸電話大作戦』開催の時間がやってきた。さっそく鴨川に向かう。
「青年! 来たか! これを見たまえ!」
鴨川の北大路橋の上で鶴太郎さんが言う。俺は下を見た。
「!?」
そこには、50人ほどの人たちが集まっていた。
「向こうにもいるからな」
鶴太郎さんが指さす方に目を向ける。そこにも同じくらい人がいた。
「すごいですね」
「まぁ、主催者の力ってわけだな」
どんなもんだと胸を張る。
「では、始めるか!」
そう言うと、鶴太郎さんは橋から下へ、下へ!? 飛び降りた!? 俺は身を乗り出して、下を見る。鶴太郎さんの登場で『ワァ~』と歓声が上がった。
「皆さん、本日はお集り頂き誠にありがとうございます!」
同じように、向こうでも歓声が聞こえる。向こうには、佐藤さんがいるようだ。こうして、『鴨川糸電話大作戦』が始まった。
「ちえみ~、いつもありがと~~~!」
「私こそ、大好きだよ~~~!!」
口にコップを当てて、言葉を発し、耳にコップを当てて、それを聞く。どういう構造なのか分からないが、会場には、音響設備が完備しており、参加者の言葉が他の人にも聞こえる。
その言葉の一つ一つに『ワァ~』と歓声が上がる。
「愛の告白が多いですわね」
そう言われ、いや、ひとり言かもしれないが……。振り向くと、梅森さんがいた。
「来てくださったんですね、ありがとうございます!」
「それは……来ますわよ……」
頬を赤らめ、俺を見る。ゴメンなさい、俺じゃないんです。
「では、次、学生の峰田さん!」
対岸に居る佐藤さんの声が音響機器から聞こえる。
「そして、お相手は、これまた学生……梅森さん!」
鶴太郎さんの呼びかけで、梅森さんにスポットライトが当たった。ちなみにだが、この様々な設備は、全て、鶴太郎さんの創造で作ったらしい。
「え!? 私ですの?」
自分の名前を呼ばれ、困惑する梅森さんを俺は背中を押しながら、糸電話が設置されている場所まで連れて行った。
「ごめんなさい、騙すような誘い方をしてしまって」
「それはそうと、あの方は一体……」
怒ってはいないようだが、梅森さんからしたらその反応になるのは当然だろう。
「では、峰田さん、どうぞ」
梅森さんはコップを耳に当てた。
「す、好きです! 付き合ってください!!」
「!?」
『フゥーーー』
告白に歓声が上がる。梅森さんは困惑した顔で、コップを耳から離し、口に当てた。
「では、梅森さん、お答えを」
「ごめんなさい、私、アナタのこと全く存じ上げなくて」
『あぁーーー』
返答に観客はうなだれたような声を上げる。
「残念でしたねぇ」
鶴太郎さんが言った。なかなかその言葉はキツい。それに反応し、観客も笑う。と、その時、
「ふざけんなぁああああああああああああああああああああ」
突然、峰田さんの声が響いた。
「お、俺は、アンタをいつも見ていたんだ、どんなときも、毎日、家まで送って」
「え!?」
梅森さんは驚いている。
「こ、殺してやる!!!!!」
「な、ナイフを持っているぞ、コイツ」
「キャー」
音響機器を通して、悲鳴が聞こえる。その声に、観客はみんな散り散りに逃げていった。
「青年! あいつを止めるぞ」
そう言って、鶴太郎さんは川の中へ入っていった。そのまま、対岸に向かうようだ。
「梅森さん、ここに居てくださいね」
恐怖で立ち尽くす梅森さんにそう言って、俺は鶴太郎さんの後を追った。
対岸に着くと、佐藤さんが倒れていた。そこから少し離れたところで、峰田がナイフを手に立っている。その目は狂気に満ちている。
「佐藤さん!!」
俺は佐藤さんのところに走り寄る。服の至る所に血がにじみ、穴が開いている。
「だ、大丈夫……。と、特殊天界桃を食べたから」
「青年!」
鶴太郎さんの声で佐藤さんから目を離す。峰田が俺の方に走ってきていた。
「ヤバい」
「死ね!」
『グサッ』
「う、う、」
血が滴る。俺の前に現れたのはニケだった。
「ニケくん!」
「ニケ!!」
「な、なんだ、コイツ、ナイフが抜けない」
峰田はナイフを抜こうとしているのか、何度も力を入れている。その度に、ニケが苦しそうな声を出す。
「なんなんだ、お前は!」
『パンッ』
「は?」
ニケは峰田の頬をぶっていた。
「アンタがしていることは犯罪だ! そして、女の子の気持ちを何もわかっていない!」
「お前に何が分かる!」
峰田は激情する。
「好きなんだ、好きだから!!」
「ふざけんなっ! 自分の好きを相手に押し付けるな! アンタは何もわかっていない!」
ニケは怒っていた。こんなニケは初めてだ。
「好きになっちゃいけないのか!」
「そういうことじゃない! アンタはね、距離感を全然考えていないんだよ、好きな気持ちをぶつけるんじゃなくて、相手に好きになってもらうためにはどうするかを考えなきゃ……ぐふっ」
「わかんねぇよ」
「恋愛はひとりでしてもいい、でも、その次に進むための『愛』は2人で作らなきゃ」
そう言い終えたニケはそのまま倒れそうになる。俺はニケを支えるために走り寄った。
「なにを言っているんだ、コイツは」
困惑する峰田の腕を鶴太郎さんが押さえる。
「それが分からない間は、お前を愛してくれる女性は現れないだろう。お前を警察に連れていく」
鶴太郎さんがそう言いながら、峰田を連れて行った。
「これを早く食べさせてあげて!!」
俺とニケの傍に佐藤さんが走ってきた。佐藤さんの方は完全に回復したみたいだ。
「ニケ、食べられるか? おい! ニケ!」
俺の呼びかけにニケは少しだけ頷くだけだ。俺は、貰った『特殊天界桃・再生』を自分の口に含み、少しかみ砕き、ニケに口移しをした。
「……ご、ごほっ」
「ニケ!」
「ニケちゃん!」
「拓真くん……、ありが……と……」
「まだ喋らない方がいい」
傷は思ったより深いようで、血がドバドバ出ている。
「ゴメンね……。『魔人』じゃないから役に立てなくて、迷惑かけて」
ニケは泣いていた。その言葉は俺が昨日言ったことだ。
「ひどいこと言ってゴメンな、ニケ……」
そんな姿を見て、俺は後悔とニケの言葉に胸を打たれた。
「わ、私のせいですの?」
佐藤さんが対岸に居た梅森さんを連れてきた。ニケの様子を見て、梅森さんは唖然としていた。
「梅森は何も悪くないよ」
顔を両手で覆う梅森さんの背中を佐藤さんはゆっくりとさすっていた。
こうして、『鴨川糸電話大作戦』は最悪の幕引きとなった。今回のイベントをめちゃくちゃにした峰田は警察で事情聴取を受けていたのだが、突如失踪したという。梅森さんには、峰田が捕まるまでの間、俺たちの誰かが絶対につくことになった。
結局、俺の『AP』は貯まることなく、また、依頼も失敗し、全てが上手くいかない現実に俺はやるせなさを感じることとなった。
何を言っているんだ。そんなことあるはずがない。
「で、でも、あれは絶対に」
「気のせいだろ! 俺と田中は友だちだぞ、そんなことするわけない!」
「た、拓真くん……」
「だいたい、もうお前には『魔人』としての能力はないんだろ、そんなことわかるわけないじゃないか」
「……」
にけは黙っている。何かを言いたそうに口を動かそうとしたが、なにを言っても聞かない俺に愛想をつかしたのか、後ろを振り返り、歩き出した。
「アイツがそんなことするわけないんだ、絶対に、俺は信じてる」
『俺は神くんを信じるよ』
昔、田中が言ってくれた言葉だ。あの言葉に俺は救われた。田中はそれ以降も俺を信じてくれている。そんな田中を俺は疑うわけにはいかない。
「おい! ニケ! どこ行くんだ!」
田中のことを考えている間に、ニケとの距離はずいぶんと開いていた。俺の声が聞こえないのか、ニケは反応しなかった。
「なんだ、アイツ」
普通はここで追いかける必要があるのかもしれないが、俺は追いかけることをしなかった。
この夜、俺はニケが帰ってくると思い、玄関の鍵を開け、待っていたが、ニケが帰ってくることはなかった。
「朝か」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。誰もいない。静かな朝だ。つい最近までそれが当たり前だった。だが、今はなんだか寂しい気持ちになる。
「ニケ、どこいったんだよ」
こうして、ニケが居ないまま、予選三日目が幕をあけた。今日は『鴨川糸電話大作戦』が行われる。峰田さんから『ありがとう』というお礼を貰えば、『AP』は獲得出来るはずだ。だが、それでどれほどの『AP』が貯まるのだろうか。本当に俺は勝ち抜くことが出来るのだろうか。
「ダメだ。一人でいると色々考えてしまう。大学へ行こう」
大学は朝8時頃にはもう開いている。もちろん、24時間、自由に出入りが可能な大学もあるのだが、俺の通う大学はそうではない。
「そうだ、テスト期間は通常の授業日と開始時間が違うんだった……」
何やってんだ、俺は。誰もいない教室を前に俺は気づいた。開始まで時間がある。仕方なく、教室の外に置いてある長椅子に腰かけ、俺は一息ついた。
「あ、神さん!」
そう呼ばれ、振り向くと、そこには峰田さんが立っていた。
「峰田さん、おはようございます」
「どうしたんですか!? 元気ないですねぇ!」
峰田さんは初めて会った時の印象とは違い、テンションが高い。今の俺からすると、少し面倒に感じてしまう。峰田さんは俺の横に座った。
「いや、まぁ、朝だからですよ」
「そんなことより、いよいよ今日ですねぇ、『鴨川糸電話大作戦』!」
そんなことって。まぁいいか。顔を合わせず、お互い前を向いて話しているが、声のトーンからおそらくにこやかなのだろうと俺は思った。
「彼女のこと呼んでくれました?」
「はい。昨日、来てくれるようにお願いしておきました」
梅森さんはなんだか勘違いしているようだったことは言わないでおこう。
「いやぁ、実は昨日も彼女を家まで送っていましてね」
「?」
「彼女と一緒に歩く男がいましてね……」
峰田さんの声のトーンが低くなる。俺は直感で身の危険を感じた。昨日、梅森さんと一緒に歩いていたのは……
「アナタに似ていたんですよぇ、拓真くん」
俺は峰田さんと距離を置こうと離れようとした……。が、峰田さんは俺の肩に手をまわし、自分の体の方に俺を寄せた。
「どういう関係なんですか?」
「……」
「おい」
俺は峰田さんの手を取り、優しく俺の肩から手を下ろさせた。
「何もないですよ、安心してください。峰田さんを応援していますので」
「本当か?」
「はい」
俺の返事に、峰田さんの表情は一転し、笑顔になった。立ち上がり、こちらを振り向く。
「じゃあ、今日、また19時に!! ばいばーい」
そう言って、峰田さんは去っていった。
「アイツはヤバい」
俺は声に出して言った。俺は峰田さんの心を視た。あの人の思考は、『狂って』いた。全てを視ることは出来なかったが、少なくとも、あの人と梅森さんがくっつくなんてことがあれば、梅森さんは……。俺は身震いした。
その後、俺はテストを受けた。田中と同じ授業もあったが、いずれも田中は出席していなかった。熱血先生の授業は、『ビクトリア戦』の一件で巻き込まれた学生たちが病院もしくは自宅療養しているため、学生数は少なく、熱血先生は少し寂しそうだった。
そして、いよいよ『鴨川糸電話大作戦』開催の時間がやってきた。さっそく鴨川に向かう。
「青年! 来たか! これを見たまえ!」
鴨川の北大路橋の上で鶴太郎さんが言う。俺は下を見た。
「!?」
そこには、50人ほどの人たちが集まっていた。
「向こうにもいるからな」
鶴太郎さんが指さす方に目を向ける。そこにも同じくらい人がいた。
「すごいですね」
「まぁ、主催者の力ってわけだな」
どんなもんだと胸を張る。
「では、始めるか!」
そう言うと、鶴太郎さんは橋から下へ、下へ!? 飛び降りた!? 俺は身を乗り出して、下を見る。鶴太郎さんの登場で『ワァ~』と歓声が上がった。
「皆さん、本日はお集り頂き誠にありがとうございます!」
同じように、向こうでも歓声が聞こえる。向こうには、佐藤さんがいるようだ。こうして、『鴨川糸電話大作戦』が始まった。
「ちえみ~、いつもありがと~~~!」
「私こそ、大好きだよ~~~!!」
口にコップを当てて、言葉を発し、耳にコップを当てて、それを聞く。どういう構造なのか分からないが、会場には、音響設備が完備しており、参加者の言葉が他の人にも聞こえる。
その言葉の一つ一つに『ワァ~』と歓声が上がる。
「愛の告白が多いですわね」
そう言われ、いや、ひとり言かもしれないが……。振り向くと、梅森さんがいた。
「来てくださったんですね、ありがとうございます!」
「それは……来ますわよ……」
頬を赤らめ、俺を見る。ゴメンなさい、俺じゃないんです。
「では、次、学生の峰田さん!」
対岸に居る佐藤さんの声が音響機器から聞こえる。
「そして、お相手は、これまた学生……梅森さん!」
鶴太郎さんの呼びかけで、梅森さんにスポットライトが当たった。ちなみにだが、この様々な設備は、全て、鶴太郎さんの創造で作ったらしい。
「え!? 私ですの?」
自分の名前を呼ばれ、困惑する梅森さんを俺は背中を押しながら、糸電話が設置されている場所まで連れて行った。
「ごめんなさい、騙すような誘い方をしてしまって」
「それはそうと、あの方は一体……」
怒ってはいないようだが、梅森さんからしたらその反応になるのは当然だろう。
「では、峰田さん、どうぞ」
梅森さんはコップを耳に当てた。
「す、好きです! 付き合ってください!!」
「!?」
『フゥーーー』
告白に歓声が上がる。梅森さんは困惑した顔で、コップを耳から離し、口に当てた。
「では、梅森さん、お答えを」
「ごめんなさい、私、アナタのこと全く存じ上げなくて」
『あぁーーー』
返答に観客はうなだれたような声を上げる。
「残念でしたねぇ」
鶴太郎さんが言った。なかなかその言葉はキツい。それに反応し、観客も笑う。と、その時、
「ふざけんなぁああああああああああああああああああああ」
突然、峰田さんの声が響いた。
「お、俺は、アンタをいつも見ていたんだ、どんなときも、毎日、家まで送って」
「え!?」
梅森さんは驚いている。
「こ、殺してやる!!!!!」
「な、ナイフを持っているぞ、コイツ」
「キャー」
音響機器を通して、悲鳴が聞こえる。その声に、観客はみんな散り散りに逃げていった。
「青年! あいつを止めるぞ」
そう言って、鶴太郎さんは川の中へ入っていった。そのまま、対岸に向かうようだ。
「梅森さん、ここに居てくださいね」
恐怖で立ち尽くす梅森さんにそう言って、俺は鶴太郎さんの後を追った。
対岸に着くと、佐藤さんが倒れていた。そこから少し離れたところで、峰田がナイフを手に立っている。その目は狂気に満ちている。
「佐藤さん!!」
俺は佐藤さんのところに走り寄る。服の至る所に血がにじみ、穴が開いている。
「だ、大丈夫……。と、特殊天界桃を食べたから」
「青年!」
鶴太郎さんの声で佐藤さんから目を離す。峰田が俺の方に走ってきていた。
「ヤバい」
「死ね!」
『グサッ』
「う、う、」
血が滴る。俺の前に現れたのはニケだった。
「ニケくん!」
「ニケ!!」
「な、なんだ、コイツ、ナイフが抜けない」
峰田はナイフを抜こうとしているのか、何度も力を入れている。その度に、ニケが苦しそうな声を出す。
「なんなんだ、お前は!」
『パンッ』
「は?」
ニケは峰田の頬をぶっていた。
「アンタがしていることは犯罪だ! そして、女の子の気持ちを何もわかっていない!」
「お前に何が分かる!」
峰田は激情する。
「好きなんだ、好きだから!!」
「ふざけんなっ! 自分の好きを相手に押し付けるな! アンタは何もわかっていない!」
ニケは怒っていた。こんなニケは初めてだ。
「好きになっちゃいけないのか!」
「そういうことじゃない! アンタはね、距離感を全然考えていないんだよ、好きな気持ちをぶつけるんじゃなくて、相手に好きになってもらうためにはどうするかを考えなきゃ……ぐふっ」
「わかんねぇよ」
「恋愛はひとりでしてもいい、でも、その次に進むための『愛』は2人で作らなきゃ」
そう言い終えたニケはそのまま倒れそうになる。俺はニケを支えるために走り寄った。
「なにを言っているんだ、コイツは」
困惑する峰田の腕を鶴太郎さんが押さえる。
「それが分からない間は、お前を愛してくれる女性は現れないだろう。お前を警察に連れていく」
鶴太郎さんがそう言いながら、峰田を連れて行った。
「これを早く食べさせてあげて!!」
俺とニケの傍に佐藤さんが走ってきた。佐藤さんの方は完全に回復したみたいだ。
「ニケ、食べられるか? おい! ニケ!」
俺の呼びかけにニケは少しだけ頷くだけだ。俺は、貰った『特殊天界桃・再生』を自分の口に含み、少しかみ砕き、ニケに口移しをした。
「……ご、ごほっ」
「ニケ!」
「ニケちゃん!」
「拓真くん……、ありが……と……」
「まだ喋らない方がいい」
傷は思ったより深いようで、血がドバドバ出ている。
「ゴメンね……。『魔人』じゃないから役に立てなくて、迷惑かけて」
ニケは泣いていた。その言葉は俺が昨日言ったことだ。
「ひどいこと言ってゴメンな、ニケ……」
そんな姿を見て、俺は後悔とニケの言葉に胸を打たれた。
「わ、私のせいですの?」
佐藤さんが対岸に居た梅森さんを連れてきた。ニケの様子を見て、梅森さんは唖然としていた。
「梅森は何も悪くないよ」
顔を両手で覆う梅森さんの背中を佐藤さんはゆっくりとさすっていた。
こうして、『鴨川糸電話大作戦』は最悪の幕引きとなった。今回のイベントをめちゃくちゃにした峰田は警察で事情聴取を受けていたのだが、突如失踪したという。梅森さんには、峰田が捕まるまでの間、俺たちの誰かが絶対につくことになった。
結局、俺の『AP』は貯まることなく、また、依頼も失敗し、全てが上手くいかない現実に俺はやるせなさを感じることとなった。
0
あなたにおすすめの小説
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる