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神決め大会 予選八日~
拓真と巫女さんⅠ
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『鴨川糸電話大作戦』から5日が経った。大学はテスト期間が終わり、夏期休暇に突入した。去年までの俺なら長期休暇に何をしようかと気持ちも高揚するのだが、今年は違う。神を決める大会なるものに巻き込まれているからだ。
予選が始まってから、約1週間。予選突破に必要なAPは『100万』。途方もない数字だ。『鴨川糸電話大作戦』が失敗に終わった俺は、やるせなさを感じながらも、お助け部に来る依頼を解決し続けていた。
だが、俺の現時点のAPはたったの『20』だ。焦る。焦っても何も変わらないことは分かっている。でも、俺は焦っていた。そして、もう一つ、俺には気になっていることがある。
「田中、どこいっちまったんだ」
俺は、田中との『LINE』のトーク画面を開いていた。田中からの返信はおろか、既読もついていない。結局、あの日、俺と二ヶの前に現れて以来、田中を見かけていない。
「お待たせいたしました、『A定食』です」
「あ、ありがとうございます」
俺は今、大学の近くにある定食屋に来ている。ここはよく田中と来ていた店だ。
「伝票、置いときますね」
愛想のいいおかみさんがほほえみながらそう言った。
「はい、ありがとうございます」
お昼時だが、店内は空席が目立つ。あんまり混雑しているのが好きではない俺にとっては居心地がよい。
『続いてのニュースです。全国で、謎の集団死が相次いでいる事件です』
「……」
店内にあるラジオからニュースが聞こえる。集団死……。物騒な世の中だ。
『遺体はいずれも外傷がなく、死因は不明。警察は事件と事故の両方で捜査をしているとのことです』
ビクトリアの一件、大学は警察に被害届を出したそうだが、それほど大きく取り上げられることはなかった。
『それでは、続いてのニュースです。八月に入り、夏の暑さもいよいよ本番! そんな日にぴったりなスイーツがあるそうです……』
『ブブッ』
『LINE』だ。
「青年! 依頼がきたぞ、昼から部室にきてくれるか」
鶴太郎さんだ。俺は『A定食』を平らげ、お助け部の部室に向かった。
最近の俺はニケとは別行動をする事が多い。あの鴨川での一件、峰田が俺を刺そうとした時、ニケは俺を守ってくれた。だが、それと同時に、俺は自分の情けなさに嫌気がさした。
俺はもっと強くならなくては。俺でも出来る。そんな思いからかニケと前みたいに向き合って話すことが出来なくなった。俺の様子をニケは心配しているようだったが、気を遣ってか、ニケも必要以上に話しかけてこなくなった。
『魔人が稼いだAPを貰う』ことが出来る。それを知った俺たちは、それを口実に別行動が当たり前となっていた。
商店街のアーケードを通り、横断歩道を渡る。長期休暇のため、学生は少ない。部室棟も静まり返っている。部室棟の一階、長い廊下の一番奥が、お助け部へと続く男子トイレがある。ここは昼間でも薄暗い。
「ん?」
一階の男子トイレの扉の前で誰かが立っている。トイレの前は茶道部の部室だ。とすると、茶道部の部員だろうか。異様にキョロキョロとしているのは気になるが……。というか、よく見ると巫女さんが着るような服を身に纏っている。女性のようだ。
「……ここかな? でも、もし違ったら……。でも、視みえたのは確かにここのはず……でも」
俺が近づいても彼女は気づかない。扉の前でぶつぶつと言っている姿は誰が見ても不審者だ。声をかけるべきか。
「あのー」
「ひよおおおおおん」
彼女は独特な悲鳴を上げて尻もちをついた。
「大丈夫ですか?」
そう言いながら、俺は手を差し伸ばす。
「は、はい……ありがとうございます」
俺の手を取りながら、彼女は俺の前に立った。同じくらいの身長で、黒髪ボブカット。左目は前髪で隠れている。右目は……瞳が白だ。
「えっと、あのー……。あっ、トイレ使いますよね? すいません!」
そう言うと彼女は俺の前から離れた。なにやらブツブツと言っている。
「あ、まぁ、ありがとうございます」
俺は会釈してドアを開き、中に入る。……だが、どうにも気になる。俺はトイレの外にいる彼女に声をかけることにした。後ろを向き、再びドアを開く。
「どひゃああああああ」
そう言いながら彼女はまた尻もちをついていた。トイレの入り口にいたらしい。
「あの、もしかして、お助け部に依頼ですか?」
俺がそう言いかけると、目をウルウルさせながら、ブンブンと首を縦に振った。
お助け部の部室にそのまま行ってもよかったのだが、俺と彼女は、今大学のカフェにいる。俺の力だけで解決したかったからだ。鶴太郎さんには『急用が入りました』と連絡をしておいた。
「えっと、俺の名前は、神じん 拓真たくまです。アナタのお名前は?」
巫女さんのような恰好をしている彼女はかなり目立つ。ここに来るまでも、一緒に歩いていると通行人からジロジロと見られていた。
俺の質問にどぎまぎしながら彼女は言う。
「えっと、私の名前は……シ……」
そう言いかけて、彼女は両手で口を押さえた。
「?」
「あ、『しーちゃん』って呼んでください」
「『しーちゃん』??」
名前ではなく、愛称なのはなぜなのだろうか。一回、視みてみることも出来るが、あまりこの能力を知られてもよくない……と思う。魔人だった頃のニケのように、目を見るだけで視みることが出来ればいいのだが、俺の場合は触れなければ視みることは出来ない。そういう意味でも難しそうだ。
「拓真さん?」
「あ、すいません! 分かりました。では、『しーちゃん』さんはどういったことで困っていらっしゃるんですか?」
しーちゃんさんは下を向いている。そして、ぼそぼそと何かを言った。
「……でいいですよ」
「はい?」
聞き取れず、俺は聞き返す。
「『しーちゃん』でいいです」
顔を赤くして、俺の目を見ながら『しーちゃん』は言った。その表情はなんとも男心にキュンとくる。
「ああ、分かりました。で、どういったことで……」
目をそらしながら俺は返答した。
「実は……お姉ちゃんを探してほしいんです」
「しーちゃんのお姉さんを?」
しーちゃんは頷いた。依頼らしい依頼に俺は内心喜んでいた。
予選が始まってから、約1週間。予選突破に必要なAPは『100万』。途方もない数字だ。『鴨川糸電話大作戦』が失敗に終わった俺は、やるせなさを感じながらも、お助け部に来る依頼を解決し続けていた。
だが、俺の現時点のAPはたったの『20』だ。焦る。焦っても何も変わらないことは分かっている。でも、俺は焦っていた。そして、もう一つ、俺には気になっていることがある。
「田中、どこいっちまったんだ」
俺は、田中との『LINE』のトーク画面を開いていた。田中からの返信はおろか、既読もついていない。結局、あの日、俺と二ヶの前に現れて以来、田中を見かけていない。
「お待たせいたしました、『A定食』です」
「あ、ありがとうございます」
俺は今、大学の近くにある定食屋に来ている。ここはよく田中と来ていた店だ。
「伝票、置いときますね」
愛想のいいおかみさんがほほえみながらそう言った。
「はい、ありがとうございます」
お昼時だが、店内は空席が目立つ。あんまり混雑しているのが好きではない俺にとっては居心地がよい。
『続いてのニュースです。全国で、謎の集団死が相次いでいる事件です』
「……」
店内にあるラジオからニュースが聞こえる。集団死……。物騒な世の中だ。
『遺体はいずれも外傷がなく、死因は不明。警察は事件と事故の両方で捜査をしているとのことです』
ビクトリアの一件、大学は警察に被害届を出したそうだが、それほど大きく取り上げられることはなかった。
『それでは、続いてのニュースです。八月に入り、夏の暑さもいよいよ本番! そんな日にぴったりなスイーツがあるそうです……』
『ブブッ』
『LINE』だ。
「青年! 依頼がきたぞ、昼から部室にきてくれるか」
鶴太郎さんだ。俺は『A定食』を平らげ、お助け部の部室に向かった。
最近の俺はニケとは別行動をする事が多い。あの鴨川での一件、峰田が俺を刺そうとした時、ニケは俺を守ってくれた。だが、それと同時に、俺は自分の情けなさに嫌気がさした。
俺はもっと強くならなくては。俺でも出来る。そんな思いからかニケと前みたいに向き合って話すことが出来なくなった。俺の様子をニケは心配しているようだったが、気を遣ってか、ニケも必要以上に話しかけてこなくなった。
『魔人が稼いだAPを貰う』ことが出来る。それを知った俺たちは、それを口実に別行動が当たり前となっていた。
商店街のアーケードを通り、横断歩道を渡る。長期休暇のため、学生は少ない。部室棟も静まり返っている。部室棟の一階、長い廊下の一番奥が、お助け部へと続く男子トイレがある。ここは昼間でも薄暗い。
「ん?」
一階の男子トイレの扉の前で誰かが立っている。トイレの前は茶道部の部室だ。とすると、茶道部の部員だろうか。異様にキョロキョロとしているのは気になるが……。というか、よく見ると巫女さんが着るような服を身に纏っている。女性のようだ。
「……ここかな? でも、もし違ったら……。でも、視みえたのは確かにここのはず……でも」
俺が近づいても彼女は気づかない。扉の前でぶつぶつと言っている姿は誰が見ても不審者だ。声をかけるべきか。
「あのー」
「ひよおおおおおん」
彼女は独特な悲鳴を上げて尻もちをついた。
「大丈夫ですか?」
そう言いながら、俺は手を差し伸ばす。
「は、はい……ありがとうございます」
俺の手を取りながら、彼女は俺の前に立った。同じくらいの身長で、黒髪ボブカット。左目は前髪で隠れている。右目は……瞳が白だ。
「えっと、あのー……。あっ、トイレ使いますよね? すいません!」
そう言うと彼女は俺の前から離れた。なにやらブツブツと言っている。
「あ、まぁ、ありがとうございます」
俺は会釈してドアを開き、中に入る。……だが、どうにも気になる。俺はトイレの外にいる彼女に声をかけることにした。後ろを向き、再びドアを開く。
「どひゃああああああ」
そう言いながら彼女はまた尻もちをついていた。トイレの入り口にいたらしい。
「あの、もしかして、お助け部に依頼ですか?」
俺がそう言いかけると、目をウルウルさせながら、ブンブンと首を縦に振った。
お助け部の部室にそのまま行ってもよかったのだが、俺と彼女は、今大学のカフェにいる。俺の力だけで解決したかったからだ。鶴太郎さんには『急用が入りました』と連絡をしておいた。
「えっと、俺の名前は、神じん 拓真たくまです。アナタのお名前は?」
巫女さんのような恰好をしている彼女はかなり目立つ。ここに来るまでも、一緒に歩いていると通行人からジロジロと見られていた。
俺の質問にどぎまぎしながら彼女は言う。
「えっと、私の名前は……シ……」
そう言いかけて、彼女は両手で口を押さえた。
「?」
「あ、『しーちゃん』って呼んでください」
「『しーちゃん』??」
名前ではなく、愛称なのはなぜなのだろうか。一回、視みてみることも出来るが、あまりこの能力を知られてもよくない……と思う。魔人だった頃のニケのように、目を見るだけで視みることが出来ればいいのだが、俺の場合は触れなければ視みることは出来ない。そういう意味でも難しそうだ。
「拓真さん?」
「あ、すいません! 分かりました。では、『しーちゃん』さんはどういったことで困っていらっしゃるんですか?」
しーちゃんさんは下を向いている。そして、ぼそぼそと何かを言った。
「……でいいですよ」
「はい?」
聞き取れず、俺は聞き返す。
「『しーちゃん』でいいです」
顔を赤くして、俺の目を見ながら『しーちゃん』は言った。その表情はなんとも男心にキュンとくる。
「ああ、分かりました。で、どういったことで……」
目をそらしながら俺は返答した。
「実は……お姉ちゃんを探してほしいんです」
「しーちゃんのお姉さんを?」
しーちゃんは頷いた。依頼らしい依頼に俺は内心喜んでいた。
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