ランプの魔人ニケちゃん

くじぇ

文字の大きさ
36 / 36
神決め大会 予選九日目

シュガーとメープルⅡ

しおりを挟む
――神様宮殿 神の間

 あの日、私は鶴太郎さんと神の間で翌日のスケジュールの確認をしていた。

「鶴太郎さん、そういえば、昨日の自由時間はどちらへ?」

「自由時間……? そういえば、私は何をしていたかな?」

 聞いたのは私のはずなのに、鶴太郎さんは笑顔で問いかけてきた。

「忘れちゃったんですか?」

「最近、働きすぎかもな」

 笑いながら鶴太郎さんは言った。そんな雑談をしていると、扉を叩く音がした。

「失礼します」

 メープルだった。その顔は険しい。

「神様、一つお尋ねしたいことがあります」

 部屋に入り、私に一瞥もくれることなく、彼女はそう言った。

「メープルか、君は自分の職務はもう終わったのかい?」

 鶴太郎さんが優しく彼女に投げかけた。メープルは、現在、他の魔人を管理する管理職の役目を担っていた。

「神様? なんで私じゃなくて『彼女』を選んだの?」

 鶴太郎さんの投げかけを無視し、彼女は語気を強めてそう言った。

「それはもう何度も君に説明したはずではないか。彼女が私にとって適任だったからだと」

「適任? その子のどこが。能力だって私の方が優れてる」

 メープルがこうやって鶴太郎さんのもとを尋ねてくるのはどうやら初めてではないらしい。私を見下すメープルの目を見て、そこにもう昔のメープルがいないことを改めて感じた。

「確かに、君の方が優れているかもしれない。だけど、それだけで私はシュガーを選んだわけではない」

「なんなのよ……。なんなのよ!!!」

 取り乱すメープルとは対照的に、鶴太郎さんは冷静だ。

「すまない。私はまだやることがあるので。これでいいかな?」

「……あげるわ」

 メープルが何かを言った。その声は小さい。

「ん? なにか言ったかい?」

「神様に私の力をみせてあげるわ」

「!?」

 メープルは体に天界力をまとった。それは目に見えるほどだ。

「はあああああ」

「メープル!! アナタ、何をしようとしてるか分かっているの!!!」

 私は思わず、メープルに叫んだ。その瞬間、メープルの姿が消えた。

『ゴッ』

 鈍い何かがはずれるような音がした。気づけば、鶴太郎さんの目の前にメープルがいる。

「……言っても無駄か」

「うう……」

 殴りかかってきたメープルを鶴太郎さんは片手で止めていた。その反動で、メープルの肩が外れたようだ。苦痛でメープルは顔をゆがめている。

「君がいかに天界力をまとっても、私にはかなわない。なぜなら、私は神だからだ」

「……」

「本来であれば、こんな行為許されることではない。だけど、君が秘書にこだわるのには何か理由があるんだろう。だから、今夜はこれで……」

 鶴太郎さんがそう言うと、メープルは捕まれていた手を振り払った。私たちと距離をとるメープル。その手には、魔法のランプが握られている。

「いつのまに『魔法のランプ』を」

「『いでよ、大魔神』」

「な、なぜ君がその『言葉』を!?」

 その瞬間、魔法のランプは強烈な光を放った。そして、大量の煙が部屋を覆い尽くした。

浄化フェブルオー

 鶴太郎さんの言葉に部屋の煙が晴れた。

「つ、鶴太郎さん、一体なにが」

「シュガー、今から君が見ることは絶対に他言してはいけない」

「え?」

 困惑する私に、鶴太郎さんは前を指さした。その先には、メープルと身長を2メートルを優に越す、『何か』がいた。黄色の髪に、紫の体。今まで見たことがない。

『ふふふ。お前が我を呼びだした魔人か』

 その声は、部屋全体を震わす大きさだ。

「ああ、そうだ! よかった、『あの人』が言ったことは本当だった」

「『あの人』? 一体誰が君に『大魔神の交渉』のことを!?」

「『大魔神の交渉』?」

 初めて聞いた。鶴太郎さんは頭を抱えている。

「なぜ、なぜだ。この情報を知っているのはごくわずかのはず」

『お前の願いを言え! 聞いてやろう!』

 『何か』はメープルに向かって再び声を発した。

「私を神にしなさい!」

「!?」

「つ、鶴太郎さん!」

 私は、何がなんだか分からなかった。だけど、その願いが危険すぎることだけは分かった。

「……『大魔神の交渉』というのは魔人に備わった能力の一つだ」

「そんなものがあったなんて」

「私も信じられない。それは迷信だとばかり思っていたものだから」

 鶴太郎さんは額に汗をかいていた。その汗を拭いながら私にそう言った。

「でも……」

「そうだな、目の前で起きていることは現実だ」

「ごちゃごちゃとうるさいな! というか、魔神! 早く願いを叶えろよ」

 メープルはイライラしながら叫んだ。

「……命を賭けられるか?」

「は?」

「今、『命を』って」

 メープルはあっけにとられている。私は鶴太郎さんの方を見た。

「……」

 鶴太郎さんはその様子をじっと見ている。

「命? ばっかじゃないの? 私は、神になりたいのよ! 命を賭けたら、神になってもしょうがないじゃない!」

「それがお前の答えか? お前も欲にまみれた魔人だったようだな」

「どういうこと?」

 その瞬間、魔神がメープルの前に手をかざした。その瞬間、メープルの体から光が吸いだされていく。

「ま、まずいぞ!」

「え!?」

 鶴太郎さんは、目にも止まらぬスピードで魔神のもとに向かった。魔神に向かって拳を振りかざす。拳は光をまとっていた。本気だ。身体向上パラメータアップで上げたパワーを全て拳に集めたのだろう。

「彼女から離れろ!」

『これは交渉だ。部外者は口を出すな!!』

 メープルに向けていた手を、殴りかかる鶴太郎さんの方に向けた。そして、受け流すように、手を動かす。

「うおっ」

『どごおおおおおおおおおん』

 鶴太郎さんはそのまま壁にぶつかった。その衝撃で壁が崩れ落ちる。

「メープル!」

 私は、その隙をついて、メープルを助けようとした。でも……。

『では、さらばだ』

 魔神はそう言うと、跡形もなく消えていった。力が抜けたように倒れるメープルを私は支えた。

「メープル!! メープル!!! ……嘘でしょ」

 メープルは死んでいた。その姿は、眠っているようにも見えるほど自然だった。

 メープルは、私の友だちだった。もちろん、彼女が間際までそう思っていたかどうかは分からない。でも、私は友だちでいたかった。小さい頃、一緒に通学していたあの頃に戻りたいと何度も思った。

 その後、『大魔神の交渉』は魔人たちの間で知れ渡り、鶴太郎さんからの直々の禁止令が出されるまで、続いた。その度に、魔人は命を落とした。

 恨むべきは、『命』を天秤にかける大魔神。その大魔神の名前は『パパン』というらしい。鶴太郎さんが研究を続けていくうちに、分かった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...