アイドル・インシデント〜偶像慈変〜

朱鷺羽処理

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第18話「雷鳴が轟く!市導光也覚醒の時!」

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(ナんデだ……なんデコイツ……トマラネェど!?)

 光也が戦線から離脱し、達樹は汚穢と一対一の戦いとなる。戦況は依然として劣勢。数多の攻撃をくらい毒も身体を侵食し続けている。それでも尚、闘志を燃やし獣の如く喰らいつく。

(で、デモムダダど……ドンだけ打ち込んだとシテもオマエのパンチなんかオラにはキカネエんだド…)

 怒涛の猛攻にて隙ができた次の瞬間。達樹は両手で汚穢のたるみに弛んだ贅肉を力強く鷲掴みにする。

「?……ナニスルき

ブシャアアアァァァァァァァァ!!!

「ギヤああァァァぁぁぁぁ!!?」

 血しぶきが舞う。達樹の両手には汚穢の贅肉が握りしめられていた。周囲は汚穢の大量の血で染め上げられる。
 
「はっ……ようやくまともに効いたみてぇで嬉しいよ」

「オメエわかってンノカ?オラのフフドクは触れたダケデモウドク……それをコンナ……アタマおかしいド!」

「頭おかしくでもしねぇと……お前には勝てそうにねぇからよ」

 直接の接触を複数回に加え。先ほどの鷲掴みは汚穢の毒素をより身体中に行きわたらせる事になる。
 汚穢の毒素は体内に巡る血液が主成分となる。その血をも先ほど達樹は浴びてしまっている。

「オデの毒はジカンがタツとどんどんツヨクナッテく!モウすぐオマエハ絶対にシヌ!!」

「じゃあその前にてめぇの肉全部引きちぎってミンチにしてやるよ!!」

 再び達樹と汚穢は戦い始める。達樹の身体は既に限界を超えている。最早彼の身体を動かすのは根気のみであった。

----------
「はぁ……はぁ……!」

 あれからどれだけ走ったか。光也は息を上げながら周りを見渡すとこれまでの日常となんら変わらない平穏な情景が広がっていた。
 楽し気に遊ぶ子どもたちの姿やランニング中の男性。のんびりと散歩をしている人間もいる。
 先ほどまで死線に立っていたとは思えないほど辺りは穏やかだった。

(このまま……病院へ向かおう。お袋達のそばにいてやらねぇと……)

 病院へと歩き始める。だがどうしてもちらついてしまう。数分前までいた戦場の事を。

(考えるな……何ができるってんだよ俺に。わざわざ死にに行くようなもんだろうが……)

 全部昨日からの事は忘れよう。そもそも俺には関係ないことだ。俺はわけわかんねぇ異世界転生女の自分勝手に巻き込まれてる被害者だ。そう言い聞かせる。
 さっきの化け物も誰かがきっと倒してくれる。それで瑠璃華も俺から分離して。そうしたらお袋も美乃梨もこれまで通り平和に過ごしていける。そう強く言い聞かせようとするもよぎってしまう。彼ら彼女らの存在が。

(くそっ……!!俺は死ぬわけにはいかないんだよ……!絶対に……!!)

『素晴らしい家族愛だこと』

「あぁ?」

 沈んでいた瑠璃華の意識が顔を出す。

『あんたの過去は聞いてたわ。家族思いだってのもわかった。母親に守ってもらった命を粗末にできない。だから戦えないって事でしょ?』

 あながち間違っていないため光也は「まぁ、そうだな」と肯定する。

『さっき別の人間に転移できるって言ったけどごめん。あれ嘘なの』

「なっ……」

『あんたから離れたら私はどうなるかわからない。最悪死ぬかもしれない』

 なんで嘘ついてたんだよ。なんて口にはできなかった。瑠璃華の心情は聞くまでもなく理解できた。

『お互いの譲歩できるラインをずっと考えてた……るりは死にたくない。死ぬ訳にはいかない。だからこうしましょ。瑠璃華があんたを絶対死なせない。あんたの家族も守る。その上でるりはあいつらと闘う。元居た世界へ帰るために』

「随分な物言いじゃねぇか」

『だからとっととさっきの憎愚の所へ戻るわよ……るりが本気出せばあんな奴瞬殺なんだから……っ!』

 力強く意気込む瑠璃華だったが言葉の節々からは先ほどの戦闘ダメージが見て取れた。その姿にため息をこぼす。

(どいつもこいつも簡単に守ってやるだの言ってすぐ身体張りやがって。てめぇの命なんか二の次にしてよ……)

「死にたくねぇ死にたくねぇほざいてる俺がバカみてぇだろうが……」

 光也の目線はハッキリと戦場を見据えていた。曇りなくまっすぐに。

「怪我人は引っ込んでろ。俺がやる」

 無茶だと断りを入れたかったが瑠璃華自身も強がりな部分があることは自覚していた。
 それ以上に伝わってきた。光也の戦いへの意思が。故に否定はしない。

『今までるり達が弱かったのはあんたに戦う意思がなかった事とるり達が心を通わせてなかったからよ。でも今は違う。るりの中の戦闘イメージを教える。あんたはただ信じて受け入れなさい。そしたらあいつにだって……絶対勝てるわ!』

「あぁ……そうでなきゃ困る」

 心を通わせる。自分の運命を受け入れる。
 光也自身が瑠璃華を受け入れた事でその秘められた力は現世にて華々しく顕現する。

 ――――――――――
「がぁっ!!」

 汚穢の剛腕による打撃が達樹へとクリーンヒット。そのままの勢いで風10m先の壁へと殴り飛ばされそのまま地面へ突っ伏す。

「ブハハハ!もうゲンカイだど!これ以上ヤッテモシヌのが早くなるダケだど!」

(ま……全くうごかねぇ…………)

 身体のどの部位も微動だにしない。根気で乗り切る事が困難なほどに毒が行き渡ってしまっていた。

(肉も再生しちまってる……クソが……いい作戦だと思ったのによ)

 達樹へ迫り来る汚穢。抵抗する気力は微かにも残されていない。そのまま首根っこを掴まれてしまう。

「あがっ……!!」
 
「コノママくびへし折って、ホネまで残さずクッテやるド!」

 今際の際でも勝つ事への執着は絶やさない。必死に死への連想を拒もうと足掻くが響き渡る全身の悲鳴と迫り来る死への恐怖が邪魔をする。

 (し……死ぬ…………)

 死を悟りかけた次の瞬間。達樹の首元を掴む右腕は刹那の一瞬で切り刻まれた。
 汚穢は硬直する。余りの唐突な出来事に頭がついていかない。続け様に衝撃波により汚穢は吹き飛ばされる。
 達樹の窮地に現れたのは黒髪ツインテールを靡かせ凛々しく双剣を構えてたたずむ見慣れた男。アイドル因子の力を宿した市導光也だった。

「こ、光也……」

「そこで休んでろ。こっからは俺がやる」

「……やれんのか」

「少なからず……負けるとは思ってねぇな」

「ウゥ……またフイウチかぁ?でもモウクラワナイどぉ!」

 汚穢が再び襲いかかってくる。直線上に突進。余りにも杜撰な攻撃であった。

「オマエラがどうカワロウがザゴはザゴだど!!このままヒキコろしてやるドぉ!!」

 敵を見据えて刃を構える。斬るべき対象を捉え、迫り来る標的に向けて迷いなく二刀の刃を振り切る。
 結果汚穢の攻撃はヒットする事なく、すれ違い様に腹部へ鋭い斬撃が刻まれる。

「イッテエエェェェ!!!」

 余りの痛みに悲鳴をあげのたうち回る。

(効いてはいる……やっぱ斬撃があいつの弱点なんだ。だが奴を落とせるところまで届いてねぇ。もっと深いとこまでぶった斬らねぇとあいつは倒せない……!)

 戦況は光也をベースに動いている。確実に優位に立ち回れてはいるものの決定打に欠けてしまっている。

『あのだるんだるんの汚ったない脂肪が邪魔ね。奴の根幹まで届かない』
「脂肪を取り除いた後にどでかいのをぶち込む二段構えじゃなきゃダメって事だな」

 光也には幻身時間が限られている。初めての幻身は想力の扱いが未熟なため想力を無駄に浪費してしまいがちであり今回もそれに該当する。故に残り時間はおおよそ1分弱。

 (一瞬でも気を抜いたら死ぬ。一油断すんなよ俺……!)

 短期決戦。想力を駆使して無数の斬撃を汚穢へと加える。汚穢の攻撃を巧みに避け続け絶え間なく斬撃を浴びせていく。
 油断は一切ない。だが徐々に肉体を削られていき死に物狂いのとなった汚穢は舌を二分化させ光也の両手を拘束する。

「!?……しまった……っ!」

「ブババババ!!ザンネンだったナ!もうオジマイダド!」

 光也の残り幻身時間が迫る中の拘束。絶望の状況下。光也をこのまま殴り殺そうとする。だが再度汚穢は腹部に違和感を感じる。目線を下に向けるとそこにいたのはふらふらになりながらも汚穢の贅肉を鷲掴みにする達樹がいた。

「ミンチにしてやるっつったろうが!!」

「おっ……オマっ!!」

ブチィィィ!!!!!

 渾身の力を込めて汚穢の贅肉を引きちぎる。
 激痛に耐えられず汚穢は光也の拘束を解く。

「今だ!!ぶち込め!!光也!!」

「あぁ!!」

 拘束が解かれた上空。光也の持つ双剣。名は【葬刀そうとう】に桐咲瑠璃華の持つ強さのイメージ。【雷】が宿る。轟雷が響き渡り葬刀の鋒が深部を露呈した腹部へと向けられる。

慄葬繚斬りそうりょうだん・烈雷!!」

 雷を纏った電光石火の一撃。刹那の一瞬。汚穢の身体は腹部を中心に真っ二つに両断される。

「こ、コノオデがあァァ……!」

 断末魔の叫びを上げながら汚穢の肉体は朽ち果てた。
 両者は激闘の末力を使い果たし脱力のまま地面へ倒れ込んだ。
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