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第26話「強者同士の激突!迫るタイムリミット」
しおりを挟む恋と哀憐による戦闘が開始される。だが繰り広げられるのは両者並びに近接戦。
恋は拳に蒼炎を宿し哀憐も達樹戦同様身体の部位に憎力を宿し斬撃、打撃を繰り出す力の初歩的運用のみで留まり、固有能力の使用を出し惜しみしていた。
その様子に見かねた恋は哀憐の手刀による刃を片手で受け止める。
「そろそろ前哨戦は終わりにしようか」
恋がそう言い片手を上空へと翳す。瞬く間に雷で形成された三本の槍が顕現され鉄槌を与えるべく哀憐へ襲い掛かる。
哀憐は多大なダメージを想定し即座に距離を取る。
だが回避したのも束の間。哀憐の腹部へ強烈な前蹴りが炸裂しぶっ飛ばされ哀憐の血反吐が宙を舞う。
「楽しみたいって言ってる割には舐めプなんだ。こっちが興醒めしちゃうよ」
「……幾千技の異名を持つあなたの前では迂闊に能力を開示する事は後々に尾を引きかねない」
「上級さんならこのくらい看破して欲しいもんだけどな」
恋の右眼に蒼炎が宿る。
『封炎眼』
想力を凝縮した蒼炎を瞳に宿す事で対象が繰り出した技の特性を瞬時に自己解析しその技を独自解釈で模倣し昇華させた上で自らの技とする。
故に技の完全コピーとは異なる。恋による解釈での再現となり似て非なる物だと言える。
この眼の前では敵は自らの手の内を迂闊に明かすことも出来ず切り札を封じられている状態に等しい。
「……貴方の言う通りね。切羽詰まった生き死にのやり取りもまた、私に刺激と興奮を与えてくれる……少しは本気を見せないと野望という物ね」
哀憐の周囲を漆黒の憎力が纏う。
「慈堕落」
哀憐がそう呟くと豪大な憎力が渦巻き、大気が震え、大地と自然は全てを破壊せんとする殺圧に悲鳴を上げる。
「痢這哀酸」
哀憐の身体外観、憎力が大幅に上昇する。
見た目から人らしさは大幅に無くなり強靭な牙。両腕両足には毒々しく鋭いヒレ。禍々しく滲む呪印が頭部と胸部に浮き出る。
「貴方の全てを喰ってあげるわ。中の雌諸共ね!!」
――――――――――
一方その頃達樹と卓夫は先ほど走り去った静葉の行方を追っていた。
「ではさっきの整形失敗人間が拙者の敬愛する笹倉静葉ちゃんだと言うのでござるか!?!」
「あぁ……信じられねぇだろうけど間違いない」
「そんな……であるならば拙者余りにも酷い事を……」
卓夫は後悔と怒りに満ちた心苦しそうな表情を浮かべながらも必死にその思いを噛み締める。
唐突すぎる怒涛の非現実的な展開。だが友人輝世達樹の発する言葉は真剣な物で嘘偽りは全く感じられなかった。
卓夫は達樹に言動をそのまま飲み込みひたすらに走る。
「クソ……結構走ったけど見当たんねぇ……」
卓夫の体力も限界が近く一旦休息の意味も込めて立ち止まる。
その上で思考する。これまで彼女の行動、言動から行先を予測、或いは絞る事が出来ないか。
(……確か卓夫にキスをせがんだ時あなたなら元に戻せるって言ってたよな……つまりあいつは元に戻る方法は知ってるって事だ)
元の人間の姿に戻る条件は二つ。
成り代わっている憎愚を撃破するか自分に好意を抱いている人間からキスをされるか。
(リスクや勝算を考えると前者は考えにくい……となると何としてでも自分のファンを探す事に躍起するはず)
「卓夫!静葉ちゃんのファンが集まりそうな所しらねぇか!?」
「!……えぇっと、であれば同メンバーの那加町ぴかるちゃんが働いてる『ベイビークライシス』というコンカフェによくファンの同志がよく集まっておりまする!!」
達樹達は卓夫の情報を頼りに足腰に限界が来ながらも踏ん張る卓夫を先導にベイビークライシスへと向かう。
――――――――――
2023年 5月30日 23:15分
秋葉原にてナイト営業中のコンセプトカフェ『ベイビークライシス』
店は大勢の客で活気付いておりその中には当然『キミラブホスピタル』のファンの人間も大勢いる。
そんな中一人の来訪者が鬼気迫る形相で扉を開けて入って来た。
その人間は笹倉静葉。刻一刻とタイムリミットが迫る中で彼女が訪れた先は最後の頼みの綱である同僚が働く職場だった。
「いらっしゃいませ……ってきゃあああぁぁぁぁぁぁ!!」
一人の従業員の女の子が悲鳴を上げる。その人間とは思えない見た目の前ではまともな接客など不可能だった。
静葉の余りの人離れした見た目にざわつく店内。
だがそんな様子には一歳気に留めず静葉は店内を見渡し自分の事を把握している人間を探す。
「ぽっちょん!!」
最近ファンになってくれた男性を見つけて駆け寄る。
「え……なんで俺の名前知ってるんですか?」
頻繁にライブやチェキ会にも参加してくれる害悪行為も特にしない優良なファンと言える存在である彼に最後の望みを託す。
「私笹倉静葉なの!!悪いやつにこんな見た目にされちゃって困ってるの!!元に戻るには私の事好いてくれてる人とキスするしかなくって……だからお願い!!」
プライドをかなぐり捨て必死に彼に懇願する。
だがその不潔感漂う醜悪なる見た目、非現実的すぎる内容。口からとめど無く溢れ出る悪臭の前に男は鼻をつまみながら静葉を突き放す。
「お前が静葉ちゃんなわけないだろ!!化け物!!くせぇしキモいしどっか行けよ!!店にも迷惑なんだよ!!」
「……ぅぅ」
最後の望みにすらハッキリと拒絶された事。周囲の突き刺さるような冷たい視線に耐えられなくなり静葉は店を出てそのまま夜の秋葉原を駆ける。
「うぉっ!なんだあれ!?人間か!?」
「キモすぎでしょまじで」
「えぐすぎるって!リンスタに晒そ!」
周囲の心無い言葉が横切るたびに聞こえてくる。必死に涙を堪えながら走り続けるも静葉の心は最早折れる寸前だった。
(なんで……なんで私がこんな目に……私が何したって言うのよ……)
街の街頭もまばらとなり人気もほぼない。気がつけば繁華街からは離れた公園まで足を運んでいた。
心身共に疲弊し切った静葉はベンチへ腰掛ける。
自分を好いてくれていた人間から悉く拒絶され道行く人間には汚物を見るようなまだ見られ罵詈雑言を浴びせられる。
残り時間は15分を切っていたが彼女を奮い立たせる物は最早何一つ残されていなかった。
必死に下唇を血が出るほど噛み締めながら何もする事が出来ない自分に嫌気がさす。
(ようやくこれからだって時だったのに……みんなに申し訳ないな)
これまでアイドルとして駆け上がる為に尽くして来た時間、努力、交流、それらが一瞬にして無に消えてしまった。
余りの理不尽。だが怒る気力すら湧いてこない。
「本当に時間ないな……戻れなくなったらどうしたらいいんだろ……死ねばいいのかな」
親の元へ帰ることもできない。親にすら存在を否定されたら本当に立ち直れそうもなかったから。
必死に抑えていた感情が爆発する。どうしようもない現実に抗うことのできない悔しさに静葉はひたすら泣き喚く。
「嫌だよぉ……死にたくないよぉ……!!」
誰もいない公園に静葉の悲嘆の叫びが鳴り響く。
時刻は23時50分。公園に二人駆けつけたのは達樹と卓夫であった。卓夫は声を荒げて推しの名を呼ぶ。
「静葉ちゃん!!」
「!……た、卓夫君……」
――――to be continued――――
【ちょっとした補足的あとがき】
『憎力』とは奏者に宿る想力と似たような物であり、想力同様憎愚からすればマジックポイントのような物である。
『慈堕落』は憎愚の真の姿を解放した姿。その戦闘力は変身前とは比にならない。
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