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第27話「ドルオタとしての信念!ぶち込め新必殺技!」

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 タイムリミットが迫る中間一髪。達樹と卓夫が静葉の元へ駆けつける。

「た、卓夫君……」

「静葉ちゃん!!先ほどは大変なご無礼を!!……拙者……自分が本当に情けな゙い゙!!」

「えっ……?」

 静葉捜索のためそこら中を走り回った二人。卓夫は特に息切れが激しかった。
 言葉が途切れ途切れになりながらも沸々と込み上げてくるのは愛する推しへ罵倒してしまった自分への怒り。正体を見抜けなかった自分の情けなさ。
 何より推しを追い込み心底傷つけてしまった罪悪感を吐き出すように卓夫は自分の気持ちを吐露し続ける。

「事情は把握してるでござる。静葉ちゃんがその……拙者で構わないのであれば……い、いつでも問題ナッシングでござる!!」
 
「だ、大丈夫だよ……!」

 ごくりと生唾を飲む。卓夫は静葉の肩に手を置き、少しずつ両者の唇の距離は縮まっていく。
 両者瞳を閉じたその時。

「キャッチングサライバ!」

「なっ!?」

 達樹に向けて粘り気のあるエネルギー体が射出される。放たれた勢いのまま達樹は後方の樹木へ口元と身体全体を拘束される。

 (しまった!?最後の最後で油断した……!!)

「こんばんは~☆寺田卓夫君っ」

「……!!」

 そこに現れたのは笹倉静葉のガワを被った憎愚。
 初めて目の当たりにした寸分違わない見た目をした自分の前に静葉は鳥肌が立つ。
 哀憐により付与された粘着能力を駆使して達樹の動きを封じた彼女は舌なめずりをしながら徐々に卓夫へ迫っていく。

「し、静葉ちゃんにち、近づくな!!」

 かざしていた手を静葉の前に差し出し、静葉を庇うように前に出る。

「えぇ?卓夫君何言ってるの?私が笹倉静葉だよ?」

「違う!!拙者の推しである笹倉静葉は今拙者の隣にいるこの!」
「そ、そうよ!化物!早く私の身体返して!!」

「はぁ……まぁ流石にバレるか」

「そう。私はそこの女のガワを被った紛い物よ。物の数分で完全に私の物になるけどね」

「そんな事はさせない!!」

 卓夫は再度静葉の肩に手を置きキスの態勢に入る。

「本当にそれでいいの?」

「なっなに……?」

「このまま日を跨げばこの見た目は完全に私の物になる。そうなれば私が正真正銘の笹倉静葉。そうなったら私、卓夫君に何でもしてあげる。どんな事だって」
 
「……っ!?」

 少しずつ卓夫を誘惑するように胸元のボタンを外していき徐々に胸元が顕になっていく。
 それは卓夫にとって甘美なる誘惑だった。ろくに女性経験を詰んでいない土壇場の卓夫を惑わせるには十分すぎる威力があった。

「ちょっ……卓夫君っ!?」

(くそっ……あいつまさかまんまと乗せられやしねぇだろうな!?)

 静葉の魅惑の身体が卓夫の眼前に迫る。
 目前に迫るどこからどう見ても推しの見た目をした意中の女体。彼女は余裕の表情で続け卓夫をぎゅっと抱きしめる。

「私ずっと前から卓夫君の事好きだったの♡アイドルなんかさっさと辞めたかったの。あんな媚び売るだけの気色悪い仕事。
 ずっと卓夫君と繋がってデートしたりしてイチャイチャしたかった♡だからそんなゴミは粗大ゴミにでも捨てて二人っきりでいっぱい楽しい事しよっ」

 沈黙が走る。意外にも卓夫から返答がない事を不思議がる彼女を卓夫は強く跳ね除ける。

「……た、卓夫君?どうしたの?」

「静葉ちゃん。目を瞑ってください」

「う……うんっ!」

 二人の唇が重なる。わずか一瞬の出来事だった。
 唇を離すと瞬く間に両者の姿は一変。静葉の化けの皮が剥がれた憎愚は二足歩行の醜いチョウチンアンコウの様な見た目へ。
 そして目の前に立っていたのは正真正銘の清純で美しい自らの推し。笹倉静葉が涙と安堵の表情を浮かべ立っていた。

「お前ぇ!後一歩の所でぶふぉぉ!!?」

 キスを終えた直後。渾身の力を込めて卓夫は湧き上がる怒りのまま憎愚を殴り飛ばす。

「何しやがるこのキモメガネ!!俺様の皇貴な顔にぃ……」

「拙者の推し。笹倉静葉はとびきり可愛くて、優しくて、仲間思いで、ファン思いで、辛い時も弱音も見せずにひたむきに頑張ってて……いつも拙者達ファンに元気をくれる女神のような存在……
 それを拙者の事が前から好きだった?媚び売るだけの気色悪い仕事?
 そんな腑抜けた事を!拙者の愛する推しが言うはずがないだろう!!アイドル笹倉静葉をバカにするなぁ!!」

 卓夫の怒りの叫びが轟く。

「ちっ……一丁前に説教しやがって。ムカつくなぁ。殺しちまうかぁ?」

「うっ……」

 後退りする卓夫。
 憎愚の拳を粘着性の付与された増力が固形化され包み込む。

「てめぇは俺様の『ネンチャックナックル』で顔面変形するくらいボコボコにしてやんぜ。覚悟しろやぁ!!」

 卓夫に憎愚の拳が迫る。
 直撃するかに見えたその瞬間。

「ぶぼばぁっ!!?」
 
 強烈な打撃音と共に憎愚が蹴り飛ばされる。

「た、達樹殿!」

「最高に格好よかったぜ卓夫……こっからはバトンタッチだ。あのクズ野郎は俺の新必殺技でぶちのめしてやる」

 ――――――――――
 
 一方……秋葉原上空。慈堕落した哀憐と恋による激しい攻防戦が繰り広げられていた。

 「溺哀できあいバブル!!」

 無数の毒素を浴びた泡が恋へ襲いかかる。
 その無数の泡を蒼炎を宿した右腕を振り払い一掃する。
 弾ける中から現れたのは鋭い牙を生やした稚魚。
 数多の稚魚はとめど無く恋へ襲いかかる。

「その小魚達には表面内面全てに強烈な酸が込められている!触れれば一発アウト!一滴でも触れればあなたの肉体は一瞬にして溶け落ちるわ!」

 恋の封炎眼が荒々しく燃え上がる。
 自らの技のレパートリーの内。最善手となる技を瞬時に分析、選択する。

闇渦込締ダークホール

 恋は掌に闇の力を宿した小さな渦を作り出し、稚魚全てを亜空間へ送り込んだ。

「……相変わらずこざかしい真似を」

「ある物は使ってかないとね」

 (10分以上は経ったかしら……そろそろばてて来たわね……に対してあいつのまだまだ元気ピンピンって顔!わかっててもイラついちゃうわ……長期戦は圧倒的に不利。ここで畳み掛けるしかないわね)

 哀憐の身体中に強靭な鱗が浮き出る。その姿は最早とはとうてい呼べない物と化している。
 更に両腕のヒレはより鋭利な物になり、憎力を最大限込める事でその鋭さは全てを切り裂かんとする領域に達し、更に続けて憎力と毒素を練り合わせ巨大な鮫。虚鮫ヴォイドシャークを顕現させる。

「骨すら残らないと思いなさい!最愛恋!!」

 虚鮫がもがき苦しみならも高らかに唸り声を上げる。
 哀憐も低姿勢を取り獲物を喰らう猛獣の如き殺気を込め身構える。
 だがその刹那。虚鮫は一瞬にして間合いに入った恋により血飛沫を上げ破壊された。
 そのまま目の前の哀憐の顔を鷲掴みにし、電流を身体に流し込ませ身動きを封じる。

「あっ……貴方……!!真っ向勝負を避けるって言うの!?」

「渾身の力のぶつかり合いなんて展開は俺も好きだけど……今日はそういう気分じゃないんだ」

 恋の右腕を黒闇が包み込む。
 恋の右腕は見た者全てを死の恐怖へ駆り立てる凶悪な見た目をした魔を宿す腕へと変化する。

「消え失せろ。邪焔滅礁撃!!」

 恋の右腕から発せられた黒闇の炎が爆風と共に哀憐の全てを包み込む。
 その後激しい土煙の中に立っていたのは最愛恋ただ一人。

「……ふぅ」
『ねーえ?また私出番なかったんですけどぉ?』
「まぁそんな日もあんだろ」
『そんな日ばっかだから言ってるの!もぉ!」

 (さて……達樹達は大丈夫かな……)

 ――――――――
 
 都心部から離れた公園にて達樹とアンコウ型憎愚の激しい戦闘が始まっていた。
 この憎愚は予め哀憐により憎力を付与された事で通常の憎愚よりもスペックが向上している。にも関わらず以前優勢なのは輝世達樹であった。

 (な、何なんだこいつぁ……!とめど無く想力が溢れ出て来てやがる……!!何がこいつをここまで駆り立ててやがんだ!?)

 達樹の肘打ちが憎愚のみぞおちを捉える。直怯む憎愚に対して蹴り技も加えた連撃を加えてぶっ飛ばす。

「必死に誰かの為に頑張って努力してる奴の人生めちゃくちゃにしやがって、挙げ句の果てに俺の友達まで傷付けたとなっちゃあタダで済ますわけねぇだろうが……!」

「ちぃ……調子に乗ってんじゃねぇぞクソがぁ!!」

 憎愚は額に釣り下がる誘因突起を輝かせ達樹の視界を濁らせる。その隙に駆け寄り憎力を込めた回し蹴りをかます。

 左横腹に多大なダメージを負いつつヒットした憎愚の足を片手で押さえ込む。一歩も逃げられないようホールドする。

「ぶっ倒される準備は出来たか?」

 激しく霞む眼を無理やりこじ開け、眼球が充血しつつも目一杯開き憎愚を視界ではっきりと捉える。

「は、離せっカス野郎!!」

「終わりだ!!デストヴィアインパクト!!」

「ぐごべがぁ!!!!」

 達樹の宿る想力をありったけ込めた渾身の右ストレートが憎愚を捉える。
 強烈な破壊力を秘めたその一撃の前に憎愚は大きくぶっ飛ばされた後に消滅した。

「達樹殿……今のはただの腹パンなのでは?」

「うるせぇ。こういうのはノリなんだよ」

 ――――to be continued――――

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