アイドル・インシデント〜偶像慈変〜

朱鷺羽処理

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第61話「無心の末」

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「ひ、必勝法……?」

「お前も既に違和感を感じてたはずだ。俺とやり合ってる際に何度も俺たちは地に足を付かずに想力を使ってる。にも関わずあのおばはんは一度も現れる事はなかった。さっきの十番隊の奴の説明は言葉足らずで全ての想力に反応する訳じゃ無いって事だ」

 移動の際に想力を使用しての脚力増強による速度の底上げは可能である。
 だが急ごうと勢い余って過剰に想力を練りだすと先ほどのおばちゃんアンドロイドに捕縛の後投げ飛ばされ大幅に進んできた道のりを瞬く間に戻されてしまう。
 故に達樹はこのマラソンはおばちゃんに感知される事のないギリギリの想力を常時運用して如何にして捕縛される事なくゴールに辿り着けるかという想力のコントロールに重きを置いた訓練なのだと勝手に思い込んでいた。

「お前のやろうとしてるやり方は無理がありすぎる。速度も劇的に変わりはしないし一回のミスが致命的になる。
 制限時間ギリギリの築き上げて来たドミノを後少しってとこで集中力が途切れちまったがばかりに倒れ始めたところを想像してみろ。絶対立ち直れねぇぜ」

「じゃ、じゃあどうすんだよ」

「そんなもん決まってる……構えろ。第二ラウンドだ」

「はぁ!?」

 ――――――――――
同日 想武島 本部 集いの間
 
「ぼちぼちみんな気づき始めたようだね。このマラソンの突破口に」

 各々の隊長が集う中、各所に設置された小型探索機からの映像をモニター越しに写される奏者達を見て昇斗がにやり顔で口を開く。

「気づいた上でもそれを実行するのは相当な集中力と精神力が必要ですけどね」

 そう語るのは茶髪のお団子ヘアに横髪にウェーブをかけたおっとりとした佇まいを彷彿とさせるゆるふわな見た目の青年女性。
『対憎愚特化戦力部隊 関東管轄 四番隊隊長 小鳥遊舞たかなしまい

「別に最低限の想力を用いての走行でも時間内での攻略は不可能じゃないけど……正攻法でクリア出来るのは全体の1割もいないだろうね」

「それだけの体力と精神力を持ち得てる人間は……少なくとも俺の隊にはおらんなぁ」

 とため息をつきながらやや呆れ気味に静観する長身の男。
『対憎愚特化戦力部隊 関西管轄八番隊隊長 巽健吾たつみけんご

「なんにせよここから楽しくなってくるさ。さぁて……何人クリア出来るかな」

 ――――――――――
 同日 想武島 浜辺ランニングコース 22時 80km地点

 ゴール目前となる90km地点。先陣を切りゴール目掛けて駆けているのは一番隊の2名。
 奏者歴1年半の三宅力虎は同じく一番隊の金髪糸目のシスター。セレナ・リデュアンヌ。
 彼らは互いの想力を解放し己の力をぶつけ合いながらゴールへ目掛けて疾走していた。

「そろそろしんどいんじゃない?休憩する?」

「いえ体力不足が私の最も改善しなければいけない課題ですので……」

「充分必要以上に走れてるって。基礎トレの成果が出てる。それにただ走ってる訳じゃないし一息着くタイミングをどっかで作らないと絶対どこかでしくる」

「で、ですが……」

「じゃあ俺がしんどいから水分補給のため3分間休憩。これならいいだろ」

「……すみません。お気遣い感謝します」

 必要以上に自分を追い詰めようとするセレナであったが力也の包み込むような気遣いを受け止め足を止める。
 各々水筒の水を水に飢えた身体に流し込む中力也とセレナは後方から迫り来る気配を感知、加えて鳴り響く爆音。

「なんか物騒なのが来てんな。セレナは先行っとけ。ここまで進めば普通に走ってりゃ一人でも辿り着ける」

「わかりましたわ。お気をつけて!」

 セレナは後方からの刺客を力虎へ託して一人進む。
 力也は両拳に想力を込めて戦闘態勢へ入る。
 依然想力の気配は感じるもまだ視界に入る距離にはいない。交戦には今しばし時間がかかる。そう思った瞬間。

 ギギィィ!!

 力虎は目の前に一瞬にして現れた冷ややかな目付きで標的を刈るかの如く襲いかかる黒髪男からの武器による強打を両腕で防ぎ振り払う事でお互いが距離を取る。

「へぇ……少しはやるみたいだ」

 (こいつは例の孤高の聞かん坊問題児……十一番隊の八雲宗治やくもそうじだな。一目散に俺目掛けて撃ち込んで来やがった)
 
 黒髪の少年。宗治は一切戸惑う仕草を見せず真っ直ぐに力虎を見据える。全身を負傷しながらもその目には戦意が十分すぎる程宿っている。

「お前一人か?どうやってここまで来た?」

「中々に愚問だね。走ってきたに決まってる」

「おばちゃんのロボットが邪魔して来たはずだ。バカ真面目に全力疾走なんかした日にゃ格好の餌食になる」

「全て破壊した。一々目障りだったからね。そんな事より……君が一番強いんだろう?」

 宗治は内なる想力を放出させ鬼神の如く殺気を解き放つ。

「ったく誰の入れ知恵だか知んねーけど隊長達抜きにしてって話ならまぁ……そうなるな」

「安心した。さぁ始めようか。君のプライドをズタズタに打ち砕いてあげるよ」

 宗治が力虎に対して琉球古武術にて使用される伝統武器。さいを力強く握り締め想力を込めた攻撃が衝突し合い火花が飛び散る。

 ――――――――――

 このマラソンを踏破するには想力による爆発的な加速を持ってして攻略するのが最もシンプルでわかりやすい突破口であり生半可なスピードアップでは時間内のゴールはほぼ不可能。
 進行速度を上げるため過度な想力を捻出しようとするとムキムキマッチョおばちゃん投型により即座に捕縛され大幅に進んできた道のりを戻されてしまう。

 一方各所で起こっている戦闘に使用された莫大な想力にはムキムキマッチョおばちゃんは一切反応していない。
 以上の事からムキムキマッチョおばちゃんが反応する想力には種類があり、反応する想力には何かしらの条件が絡んでると推測する事ができる。

 ――――――――――

同日同刻 想武島 浜辺ランニングコース 50km地点

 達樹と烈矢は再び戦闘を開始していた。烈矢は無我夢中で達樹へ猛攻を仕掛けるが先ほどと違いそこに殺意、敵意は無い。挙げ句の果てに推しへの愛を叫び続けている。
 烈矢の心内も攻撃と共に伝わってくる達樹は烈矢が何がしたいのか理解できなかった。

「おい!今俺達何やってんだよ!後たまにガチで当たって痛ぇんだけど!?」

「うるせぇ!!話しかけんな!!極限集中真っ最中だこっちはぁ!!莉乃たそ可愛い!!莉乃たそ可愛い!!お前は何も考えずにこのまま捌き続けろぉ!!莉乃たそ可愛い!莉乃たそかわいいぃぃぃ!!!」

 烈矢は思考の末答えに辿り着いていた。
 莫大な量の想力をムキムキマッチョおばちゃんに感知されずに使用し移動するための条件。それは『移動しようとする意思を乗せずに想力を使用する事』。
 
 敵を攻撃するために使われた想力は結果的に敵を吹き飛ばして移動しただけでありゴールへ向けて移動しようとする意思が乗っていない。故に感知されない。
 烈矢は激しい戦いの最中で起こる衝撃による移動でゴールまで突き進もうとしていた。
 だがそれを踏まえた上でもその思惑を一切表に出さずに運用するのは非常に困難である。移動方向もほぼ無意識な故定まらない。
 更に移動の為という意識が表立って出過ぎない為に烈矢は推しへの愛を叫び続ける事で無意識に浮かび上がるゴールに向けて移動するという思考を必死に押さえ込んでいる。
 達樹には詳細を伝えると逆に意識させてしまい作戦成功に大いに関わってくると判断し何も伝えていない。

 (この方法なら間違いなく間に合う!ちんたら走るよりかは何百倍もマシだがその分精神的疲労も何百倍もありやがる!脳が本格的にイカれちまいそうだ!!莉乃たそ可愛い!!)

 進まなければならないのに進もうとする意識を極限に抑え込まなければならないこのプログラム。
 このマラソンは基礎体力の意味合いもあるが各奏者達のを強化する意味合いが強く込められている。
 つまりこのプログラムの主な目的は思考する事なく本能的に身体が自然と最も取るべき最善の行動を取る為の特訓である。

(攻撃の為に想力を使ってたとしても進みたい方向へぶっ放そうとするとそれは移動のための想力として判定される!かと言って何も考えないで闇雲に打っても無駄に消耗するだけだ……初日からクソ程ハードな事させられてんぜおい!!)

 ――――――――――
 各所この突破口に気付き協力し合い、ゴールへ向けて動き出していた。
 だが上手く運用できているのはほんの僅か。それ程彼ら彼女らに求められている技術は非常に困難な事だった。
 だがそんな見に余る苦行であっても昇斗は与えざるおえないと判断した。
 
 (憎愚はこうしてる間にも活性化し勢力を拡大し続けている。今か今かと侵攻の機を狙っている。強くなってくれみんな……私達には時間がないんだ……!)
 
 ―――― to be continued ――――
 
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