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第75話「脆弱な男は無価値!琴音vs怒猿」
しおりを挟む2023年 8月2日 9:45分 想武島 中央区域
想武島に突如として現れた謎の侵入者達。彼らの正体は各地でアイドル活動を行う地下アイドル達だった。
地下アイドル達は憎愚の力を自在に扱い奏者達に牙を向け始める。
各奏者が地下アイドルと交戦を開始する中、負傷する和斗と未萌奈を看病する星空駆の元へ関西を主な活動現場としてメンズ地下アイドルを務めるドッキュンモンキーズのメンバー。崖尻怒猿が襲来。
駆は身に宿るアイドル因子の少女。綺羅琴音を完全顕現させ怒猿との戦闘が始まる。
――――――――――
「せやっ!!」
渾身の力を込めた右足による飛び蹴りが怒猿の顔面へと直撃する。
「……なんだぁこりゃあ?欠片も響かねぇ!」
「っ!?」
琴音の蹴りにも全く微動だにしない怒猿は頬に触れる華奢な右脛を豪快に握り締め地面へと叩きつける。
その衝撃から琴音の全身が悲鳴を上げるも琴音は怒猿の手を左脚を巧みに使い振り解き距離を取る。
「完全顕現でこの程度……お前らさては共信が済んでいないな。よく今日まで生き延びれたもんだ。ザコ狩り専門家か何かなのか?」
「そんなわけないでしょ。ちゃんと前線で戦ってますよーだ」
琴音は怒猿に対し片方の手であっかんべーを向け怒猿の煽りに対して反発する。
だが怒猿は全く意に介さずに駆の脆弱さを指摘する。
「お前がだろう?肝心の宿主は危なくなったらそそくさと引っ込んでこんな痛いけな女の子に任せっきり。挙げ句の果てにはパートナーの名前すら把握してねぇ……論外だ」
「黙れ!!駆さんの事何も知らない癖に知ったような事言うな!!」
「悪いが語るに足らん。その男は余りにも脆弱で愚かで無価値すぎる。そんな脆弱な男を庇うお前もまた……」
怒猿の下半身。主に尻部へ憎力が沸々と集中していく。
「無価値だ!!!!」
ブオオォォォッ!!!
怒猿は勢いよく放屁。黄土色の煙が辺り一面を染め上げながら瞬く間に怒猿の拳が琴音の顔面寸前へと迫り握り締めていた右手を解き放つ。
「握放出屁!!」
琴音の目の前に強烈な悪臭が広がる。余りの咄嗟の出来事により対処が遅れてしまい大量の毒屁を吸ってしまい琴音は余りの悪臭の前にもがき苦しむ。
「へっへっ強烈だろ?俺様の放屁はよ。鼻の穴なんて完全には防ぎようがねぇからなぁ」
(く、臭すぎっ!!……い、息が出来ない……っ!)
あまりの苦しさに立っている事すら限界が訪れ琴音は片膝を地面に突き必死に症状を抑え込まんとするも怒猿は容赦無く次の一手を加える。
「物叩屁ぇ!!」
ドゴォォォ!!!
手に持つ棍棒を豪快に振り抜く。オナラによって振り抜く勢いが増加した強力な一撃が琴音へとクリーンヒットする。
琴音は口から血を吐きながら遥か後方まで殴り飛ばされそのままなんとか意識を保ったまま地面に突っ伏す。
「スペックは悪くない。未共信にも関わらず速さに置いてはこの俺を一瞬だけでも上回れるだけのポテンシャルを秘めている。それだけに不憫でならん。そんな男の風上にも置けないようなやつに宿ってしまったお前が」
「ぐっ……」
駆をこれでもかと言うほどこき下ろす怒猿に対して先ほどのように反論したい琴音だが声高に叫ぶ事すら困難。
なんとか立ちあがろうと必死に全身を奮い立たせようと躍起するも立ち上がれるだけの余力すら残されていなかった。
「これだけ目の前で女の子が傷つけられてるってのに奴はこれっぽっちもは変わろうとしねぇ。お前の宿主は薄情で薄汚い臆病者だ!」
「か、駆さんの悪口言うな……!」
「何故そこまでその男を庇う?頭の悪い女は嫌いだぜ俺は」
「……ずっと昔から見てきた。駆さんは思いやりのある優しい人……」
「矛盾極まりねぇな。目の前で女がボコられてるのを黙って見てる男のどこか優しい人だってんだ!?」
琴音へ向けて怒猿の拳が勢い良く向けられる。過剰なまでの激情の先に向けられた拳の行先は顔面。
琴音に抵抗出来るだけの気力は一切ない。怒猿の拳が容赦無く直撃しようとしたその時駆は無理やり完全顕現を解除し怒猿の拳を自らの顔面で受け止める。
「ぶはぁっ!!」
その勢いのままに駆は鼻血を流血させながら殴り飛ばされる。その身に余るほどの激痛に耐えきれず自然と涙もこぼれ落ちる。
「ようやくやる気になったか弱虫野郎が。どこからでもかかってこい。俺は逃げも隠れもせんぞ」
満を持して戦う気になったかと出てきた駆へ対して好戦的な態度を示す怒猿。だがそんな怒猿の期待を裏切るかの如く駆はゆっくりと跪き額が地面に付く程にまで下げられる。
「なんのつもりだ」
「お願いします。どうか見逃してください。あなたのいう通り俺は臆病で脆弱で価値のない人間です。でもこの子に罪はありません。これ以上彼女を痛ぶらないであげてください」
駆は誠心誠意を込め土下座をしながら必死に許しを乞う。
勝機がないと判断しての土下座。その滑稽な姿に怒猿の堪忍袋の尾が切れる。
「そういう事じゃねぇんだよガキぃ……」
怒猿は駆の髪の毛を掴み上げ自分の顔の目前まで力強く近づけ訴える。
「そういう所が気に食わないんだよ。謝りゃ事が済むと思ってんのか?プライド捨てて必死こいて見苦しく土下座すりゃ見逃してもらえると思ってんだろ?お前の罪深さはそういう所だ。まず怒り狂えよ。大切な女が傷つけられた事によぉ!!」
怒猿は燃え上がる怒りのままに駆へ容赦なく頭突きを喰らわす。どさっと土煙を上げながら駆は地面に倒れ込む。
「お前のようなゴミをこれ以上痛ぶっても俺の拳が汚れるだけだ。そこで哀れすぎて殺す気も失せた」
怒猿は駆に興醒めし見切りをつけ当初の目的である姫村和斗を回収すべく和斗と未萌奈が倒れる木陰の方へ歩み寄っていく。
ガシッ
怒猿の歩みが止まる。目線を下すとそこにいたのは散々痛めつけて戦意すら失ったと思われていた駆であり震えながらも怒猿の足首を力強く掴んでいた。
「何をしてる」
「その人達も怪我してて……安静にしとかないといけなくて……だから……」
「ちっ……!悉く俺をイラつかせるなこのゴミクズはよぉ!!」
ドゴッ!!
ドガッ!!
ズゴッ!!
何度も何度も駆の手を振り払おうと駆の全身を何度も一切の慈悲なく蹴り付け続ける。少しずつ駆の意識が遠のいていく。
(……俺このまま死ぬのかな……でもいいか。こいつの言う通りだよ。こんな弱虫で臆病者はさっさと死んで逞しくて勇ましくてみんなから慕われるような格好いい男に生まれ変わった方がいいのかもしれない。こんな女の子一人守れない。心を開く事すらできない奴は死んだ方がいいんだ……)
本能が察する。全身で理解する。死の間際とはこういう事なのだと。全身を包む無力感がより一層そう感じさせる。
そして死を目前にして駆に走馬灯がよぎる。浮かび上がるのは思い出したくもない今から3年前の中学生時代の記憶。
駆が女性不信となるきっかけを作ったとある出来事。端的にいうといじめである。その実態は余りにも馬鹿げていて幼稚な物で一見人生を狂わせるような物とは思えない物。
だがその軽薄で浅ましい悪意は思春期の初心な少年の心を存分にえぐり殺す事となる。
―――― to be continued ――――
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