灰色の冒険者

水室二人

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第8章 一年目の終わり 

黒い月 その3

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未知との遭遇。

 初手を間違えると、お互いに破滅が待っている可能性があります。

 話し合う予定だったのに、手順を間違えたために、戦争に突入。

 その結果、世界が終ったと言う恐ろしい作品もあります。

 文化の違いで低い扱いを受けたといって激怒して、関係が悪くなった話も聞きます。

 相手が、明らかに敵だったら、先に動くべきですが、今は様子を見ます。

 探査球の、カオス・ブリンガー版を射出して、情報を集めます。

 私が見つけたのは、巨大な宇宙船でした。

 数は、一隻。相手は、こちらを認識しているようです。

「攻撃の意思は無さそうですね・・・」

 慎重に、相手との距離をつめていきます。

 相手は、こちらよりは小型です。それでも全長1キロはある宇宙船です。

「ん?」

 相手から、何かの電波を受信しました。

「解析出来るかな?」

 その電波を、解析機にかけてみます。

「これは、面白いですね」

 その電波には、色々な情報が含まれていました。主なのは、言語に関する事。

 複数のパターンで、こちらに呼びかけているみたいです。

「まさか、機神の仲間とは・・・」

 あの船は、、機神側の文明に属していた艦隊の生き残りのようです。




「お願いします。助けてください」




 言葉がわかるなら、会話をするべきです。こちらから、敵対する意思が無いと伝えて、回線を開くと、最初に言われたのはこれでした。

 モニターには、1人の女の子が写っています。外見は、10代半ばぐらいでしょう。とても可愛らしい外見ですが、色々とおかしい所もあります。

「助けてとは、何からでしょう?」

「私は、この船の管理コンピューターです。現在、この船は大部分の機能が壊れています。

「コンピューターでしたか、後ろが透けて見えるので、幽霊かと思いました」

「幽霊ではないです。怖い事を言わないでください」

「・・・」

 変わった反応をするコンピューターです。

「とにかく、助けてください」

 壊れているのは、このコンピューターも壊れているのでしょう。同じ事を繰り返しています。

「助けるには、どうすればいいのですか?」




「死んでください・・・」




 次の瞬間、モニターの画面が消え、宇宙船が爆発しました。

「えz?」

「カオス・ブリンガー、出力全開。戦闘系隊に移行!」

 必要はありませんが、声を出します。

「これはいったい?」

「前に注意を集めて、後ろから攻撃する。よくある手段ですよ」

 先程の宇宙船と反対の方角に、巨大な何かが、転移してきます。

「あれも、宇宙船でしょうか?」

「流石に、これは予想できませんでした・・・」

 そこには、巨大な人がいました。ロボットの様で、ロボットではないと感じさせる何かがあります。

 探査球の観測結果では、それは1キロの巨人です。

「我よりも、巨大な人など、まさか存在するとは・・・」

 それは、変形したカオス・ブリンガーを見て驚いているみたいでした。

 巨大な洋裁は変形して、人型のロボットとなっています。

「見とれていると、死にますよ!」

 相手は、こちらに死んでくれといいました。つまり敵です。

「我を滅ぼす事など、出来ぬ」

「そうですか」

 ならば、手加減する必要はありません。

「魔導砲、発射!」

 カオス・ブリンガーの腹部の装甲が展開して、巨大なエネルギーが発射されました。

「無駄である!」

 巨人は、余裕でそれを受け止めようとします。




「・・・」




 その結果は、あっけないものでした。

「いったい、何だったのですか?」

「宇宙の、幽霊かな?」

 魔導砲に触れた瞬間、巨人は消えてしまいました。

「それで、まだ私達に死ねと言うのかな?」

「申し訳ありませんでした・・・」

 こちらから問いかけると、先程のコンピューターと名乗った少女の声が、直ぐ隣から聞こえてきました。

「宇宙幽霊と言うのかな?」

「うぅ、私はまだ死んでいませんよ・・・」

「名前は?」

「エルと言います」

 そう名乗った彼女は、体が透けている、謎の生き物でした。

 彼女の話を聞いてみると、色々と不思議な存在でした。

 元々、機神のいた星の、脱出艦隊の一つの管理コンピューターとの事です。

 艦隊は、先程の船を残し全滅。相手は、巨人の異星人でした。

 ギルドのデーターベースを調べた結果、宇宙に巨人の存在を確認しました。

 巨人と言っても、集合意識の集まりと言う分析結果があります。

 複数存在が確認されていて、敵対していた固体もあったそうです。

 宇宙船は、その巨人の一つにのっとられ、彼女も支配されていました。

 先程、データ通信で、その本体をこちらに逃す事で、延命を図ったのです。

 彼女には使命があり、死ぬことを極度に恐れるようにプログラムされています。

 あの巨人は、まだ若い固体で、艦隊と接触したとき、対応を間違え、戦闘になったと、彼女は言いました。

「この要塞を見つけて、あの巨人はこれを家にすると言っていました」

 偶然私達を見つけて、襲ってきたそうです。

 結果的に、良かったのかもしれません。私達が今ここにいなければ、星の方を襲ってきた可能性が高いです。

 現在、色々と準備中だったので、それを壊された恐れがあります。

「異世界に続いて、宇宙人に巨人・・・。想像以上に、世界は無茶苦茶だったのですね」

 日本にいたときは、人生に正直諦めていました。むなしさしかない生活でした。

 異世界に来て、力を入れて、正直浮かれていますが、まだまだ世界は広いみたいです。

「うーー、システムを掌握できません・・・」

 エルが、そう言いながら、体をカオス・ブリンガーに溶け込ませようとしています。

「あなたは、何をしているのですか?」

「巨人を一撃で消し去る凄い要塞です。私の体になるのがふさわしいです」

「乗っ取るつもりですか?」

「人聞きが悪いです。私は、戦略コンピューターです。どんな手段を使っても生きのびて、私を作ってくれた博士を、勝利させるために存在しています」

「その博士は?」

「もう直ぐここに、やってきます。それまでに、巨人の支配から抜け出せてよかったです」

「その恩人の船を、乗っ取るのですか?」

「それは否定します。このシステムに恥部に、私の居場所を作るだけです。お礼なら、ちゃんとしますよ。どうです?」

「お礼?」

「博士の秘密の画像の詰め合わせ。私の姿は、博士と同じなので、私が好みと言うなら、お礼になりますよ」

「そんなものは、いらない」

「我侭な人ですね。母星では、博士はトップアイドルですよ。そのプライベート映像ですよ」

 このエルという存在、かなりふざけていますが、物凄く恐ろしい存在でした。

 博士と言うのが作ったみたいですが、プログラムと言うより、擬似生命と呼べるほどの情報を持っています。

「大体、あの巨人を一撃で消滅させるなんて、どれだけふざけた存在ですか、これは!」

「ふざけているのは、君の存在でしょう。ですが、試してみたいこともあります」

 データで構成された存在。これは、魂と呼べるのかもしれません。

 そう思った時、恐ろしい事を考えてしまいました。

「十色、協力してくれますか?」

「この子じゃなければ、喜んで協力したいけど・・・」

「お願いします」

「仕方ないね。でも、成功したら、どうするの?」

「後の歴史で、悪魔と呼ばれることを、やるかもしれませんね」

 十色には、こっそりと何をするかを伝えてあります。

「神様って、言われるかもよ」

「それは、辞退します」

 エルに気づかれないように、カオス・ブリンガーを移動させます。

 人型から、要塞モードへ変形させ、惑星の衛星軌道に配置します。

「う~、私の完全な敗北だにゃ」

 精霊猫と同化した十色が、両手を上げて降参します。

「私も、色々と思う所があるから、それに関しては何も言いません」

「にゃ」

「ですが、これからやる事を、手伝ってもらいます」

「にゃーーー」

 私が持っている大量の遺体。どう処理していいのか、現在も悩んでいます。

 その中から、比較的若い女性の遺体を、呼び出します。

 これは、悪魔の所業です。

「猫に、なるにゃ!!」

 十色の肉球魔法が炸裂します。

 光は、エルを包み込み、その遺体に溶け込みます。

 そして、不思議な光がそこから溢れ、それが消えた時、そこには一匹の猫がいました。

「何をしてくれるのですか!これでは、博士の所にいけません!」

 その猫は、人の言葉を話しました。エルは、聖例猫へと生まれ変わったのです。

「最初から、行けなかったと思いますよ」

「知っています。巨大なシステムに飲み込まれれば、消滅できたのに、博士の所にいけたのに、こんな姿になったら、行けないよ・・・」

 機神の情報は、色々と入手しています。博士と言う人物に関しての情報もありました。

 あの世界のトップアイドルと言われるほど、人気のあった人物です。

 その生まれから、亡くなる時まで、情報は伝わっていました。

「私のテストで、そんな風にしたのです。望むなら、博士の所に送りましょうか?」

「それは駄目。今になって、博士の遺言が聞こえた。私が、もし肉体と手に入れられたら、その原因を作った人の仕えなさいって」

「どうします?」

「貴方に仕えます」

 そう言って、エルは、猫から人の姿へと形を変えました。三姉妹と同じようなサイズの、猫人です。

「私を、こんな風に出来るなんて、マスターは凄いですね」

「自分でも、驚いていますよ」




 遺体を使って、聖例猫を作り上げる。悪魔の所業だと自分でも思います。

 魂さえあれば、他にも再現可能なのです。

 そして、その魂を持った存在がもうすぐやって来る。

 そう考えてしまう自分が、恐ろしいです。背徳行為ではありますが、実行したいと言う欲望が芽生えます。

 今まで、御魂に吸収した魂を、使おうかと思いましたが、何か条件が足りていないみたいで、出来ませんでした。




 後の歴史て、黒い月から、大量の猫人が地上に降り立ったと伝わっています。

 その最初の存在が、ここに誕生したのです。






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 小説家になろうでも投稿中。
 3日に1度ぐらいのペースで更新予定です。


 


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