ヅァルトラント

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6章ー異世界ー

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1

 シュラフトを探して王都を歩き回りながらも、やはりあの事を考えていた。彼らは、この世界に在るキャラクターたちは、命を以て生きているのではないか。この世界は、本当にゲームなのか。
「仮に、そうだったとしても今やることは変わらない訳だけど」
 シュラフトとしっかり話して、必要とあらば力を貸したい。そう思っている。
「しっかし、まぁ~見つからんわな」
 簡単に見つかればよかったが、そう容易ではない。思い当たるところは全て確認しに行かねば。そのために、人手も必要だ。あれこれ考えていたら、自然とあの店へ足が進んだ。

ーチリンチリンっ

 扉の鈴の音が柔らかい。奥から、いらっしゃいませ、と低く落ち着いた声が語りかけてきた。こちらも挨拶をして顔を合わせる。
「お久しぶりですね」
「はい」
「元気がないように見えますが」
「それが、シュラフトが行方不明でして」
 そう言うと、彼は意外だという風な顔をした。
「シュラフト…さんですか。彼ならうちでバイトを始めたのですが…。聞いてなかったのですね」
「…え。マジですか」
「ええ。マジですよ。マジマジ」
 あの態度。あの余裕のない顔…。しっかりと覚えている。縁起でもないが、てっきり失踪したものと思っていた。
「それで、シュラフトは今ここにいまs」
「それよりカナタさん。君の大剣をもう一度見せていただけると嬉しいのですが…。差し支えないでしょうか」
「えーと。良いですけど」
 イェネーファさんは俺の剣を受け取ると奥へ引っ込んでいった。…で?それで?俺の剣は?ど、どうなんの?
「ひとまず。カナタさんはそろそろお帰りになってください」
「え、でも俺の剣…」
「少し調整が必要なんです。一ヶ月…いえ、二ヶ月強は待っていただきたいのです」
「いやいやいや、困りますって!」
 割と洒落にならん。いや。ほんとに。
「安心してください。代わりにこれをお貸しします。定期的に交換するので、二週間おきに交換しに来てください」
「ひゃい…」
 何を考えてるのかさっぱり分からなかったが、彼の表情を見るに何か企んでいるのは確かだ。それから仕方なくもらった剣を使っていたが、意外にもその大剣は今まで使っていたのと比べて、上物のようだった。2週間が経つ頃にはすっかり手に馴染んでいた。



2

ーチリンチリンっ

「いらっしゃいませ。カナタさん」
「こんにちは。あの、正直この剣まだ使ってたいんですけど…」
「気に入ってもらえたようで良かったです。しかし、約束は約束です」
 そう言って彼は、これまた出来の良さそうな剣を差し出してきた。渋々交換すると、奥から声が聞こえてきた。
「ジュニタ~!カナタの剣は!?」
「今持っていくよー」
 ちょっと待て。ハインの声だ。もしかしてこの剣、あいつが打ってるのか?確かにイネェーファさんは店主とだけ名乗っていたし、ここに腕のいい職人がいるという話もある。シュラフトはバイト…。
「こいつらグルか」
「何か?」
「あ、えと…」
「何か??」
「い、いやなにも」
 彼のとてつもない圧に、剣を受け取ってそのまま退散した。それからというもの、剣を交換する度にどんどん俺専用になってきているように感じる。
 そうして最終日に最後の受け取りをしに行くと、そこにいたのはハインとシュラフトだった。
「二人とも仕事中じゃ…今大丈夫なの?」
 そう尋ねると、ハインがニカっと笑って口を開いた。
「何言ってんだよっ。それよりな、無事に帰って来たのに音沙汰無しってのはどうなんだ?」
「ごめん」
「そうじゃなくて!オメーなんか大事なこと忘れてないか?」
 思い当たる節がない。首を傾げて考え込んでいると、今度はシュラフトが口を開く。
「ハッピーバースデー、カナタ」
「あっ!!そうだった!!!」
「それと!君ってやつは、本当にもう!俺にも誕生日は言っとけよ!」
「ごめんよぉ。色々あり過ぎて忘れてたんだよぉ」
 さて、と一呼吸置いてから二人は後ろから大きな剣を取り出して、こちらに差し出す。
「これは」
「俺とハイネケンさん、イネェーファさんからのプレゼントだよ」
「そうだぞ~、俺とシュラフトでバイト掛け持ちして頑張ったんだからなっ」
「二人とも、イネェーファさんも。ほんっとうにありがとう!」
 話を聞くと、今まで僕に支給されていたのは試作品だったらしい。なんでも、イネェーファさんが少し前に雇って働いてもらっていた、ドワーフの職人さんに頼んだのだとか。彼にもお礼を言うと、仕事をしただけだと言われてしまったが、値段については出世払いだと少しおまけしてくれたみたいだ。
「いよぉ~しっ!誕生日パーティーするぞー!」
「おーぅ!!!」
 最後にいい思い出ができてとても嬉しい。予定通りであれば、明日の朝起きる時にはダイブスリープから起きる事になるだろう。ベータテストも今日で終了する事実に寂しさを感じる。でも、だからこそ今この瞬間を全力で楽しもうと思った。



3

ーチュンチュンッー
「んあ?ああ、もう朝か。え、てかダイビングケースの近くにもスズメみたいな鳥いるんだな」
 …。え、またコイツ?…、まだログアウトしてないじゃんか!!
「どうなってんだよこれ!!!!」
 嘘だ、こんな事があっちゃいけないはずだ!ベータテストのログインからリアルに戻れなくなるなんて…。いや、対応が少し遅れているだけかも。戻ったら絶対に訴えて…や、る…。
「そういえば…。参加規約書…。終わった…」
 確か規約書の内容に記載があった。

 ーテスト段階のシステムであるため、最大限に安全を確保したうえで、一定期間リアルに戻って来れなくなる可能性も十分に考えられる。また、問題が発生した場合は、主催側の判断で任意の期間ログアウトを保留する。

 サインする時は流してしまったが、普通に考えてそれはあり得ない。これは、一般家庭に普及しているフルダイブシステムを採用したゲームのベータテストだ。そのはずだ。それなのに、テスト段階のシステム?
「あり得ない…」
 そう口にしつつも、否定できずにいる自分が恐ろしかった。そもそも、ゲームであること自体を疑い始めていたからだ。公の情報が正しければ、フルダイブシステムの開発、改善はほぼ完成しており、これ以上いじる部分は一つを除けば無いと言っていい。重要なのは、その一つが何なのか。それは、《異空間転送システム》。
 もし仮に、肉体ごと異空間に転送されていたと仮定した場合、全ての辻褄が合う。表示されないステータスやユーザーアイコン、HPゲージ…。ゲームではなく異空間…。それも、国や文化、人までもがいる空間…。

 ー異世界…

 そんな言葉が頭をよぎった。
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