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召喚魔法とリオはこれが自分の創作小説であることに気づく

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第1巻第1章

教室はヒステリックな叫び声と悲鳴で満たされ、突如パニックの渦と化した。空気が異様なエネルギーに震え、木の床から、複雑なルーン文字が刻まれた円が浮かび上がり、まばゆいばかりの金色の光を放っていた。朝倉リオの体は軽く、まるで床が消えたかのようだった。

「助けて!家に帰りたい!」
「ママ…!」
「これはテロ?!」

叫び声と駆け寄る足音が混沌のシンフォニーを巻き起こした。しかし、リオは動かなかった。普段はぼんやりと絶望に沈んでいる彼女の目は、今、大きく見開かれていた。恐怖からではなく、鋭い認識からだった。

この魔法陣…そのデザインは、彼女が何年も前に思い描いていた通りだった。中央のルーン文字は竜の目のように、螺旋状の模様は特定の方向にねじれ、かすかに魔力の振動音まで、すべてが一致していた。

彼女の視線は窓へと移った。いつもの東京の景色ではなく、紫と銀色の二つの月が、見慣れない星座が点在する空に浮かんでいた。彼の脳裏に、ある名前が浮かんだ。モグ。

まさか…、彼の心は震えた。

景色は一瞬にして一変した。床が消えていくような感覚は、草地に叩きつけられる激しい衝撃とともに消えた。新鮮な空気と奇妙な花の香りが彼の感覚を満たした。彼らは今、壮麗なヨーロッパ風の城の中庭にいた。鎧をまとい、抜刀した騎士たちに囲まれていた。彼らの前には、豪華なローブをまとった一団が立ち、金の冠を戴いた白髭の老人が率いていた。

「ようこそ、異界の英雄たちよ!」老人は威厳に満ちた声で叫んだ。「私はコルル王国第73代国王。王国は深刻な危機に瀕しており、伝説の英雄召喚魔法であなたたちを召喚し、助けを求めたのだ!」

リオは耳を貸さなかった。周囲の景色をじっと眺めた。そびえ立つ塔を持つ城、翼を持つ獅子の紋章を掲げた旗、足元に生える紫色の草。それらはすべて、かつて忘れ去られたノートに走り書きした細部だった。

「ここ…コルル王国」心臓が激しく鼓動する中、リオはかすかに呟いた。「そして…フェルディナンド三世」

思い出した。全てを思い出した。

何年も前、中学生の頃、リオは孤独といじめから逃れるため、「モグ」と呼ばれる精巧なファンタジー世界を創造した。地理、歴史、政治体制、種族、そして独特の因果律まで、何ヶ月もかけてデザインした。登場人物、プロット、そして対立を創造した。コルル王国、勇者召喚、フェルディナンド三世――全ては彼の創造物だった。

しかし、彼は最終的にその計画を放棄し、子供っぽい夢を心の奥底に押し込め、静かで目に見えない高校生として生きることを選んだ。

今、彼は自らの創造物の中に立っていた。

「あらまあ!ここはどこ?何が起こっているの?」体育教師の安西先生が、ヒステリックな生徒たちを落ち着かせようと顔面蒼白で叫んだ。

王の隣にいた貴族の一人、鋭い顔に青いローブをまとった男が前に出た。「落ち着いてください、異世界からのお客様。大魔法師リオルンが説明いたします。」

リオルン。リオは静かに頷いた。脇役の敵。南の闇の帝国と密かに共謀している、強欲な策略家。

「我らの王国は、モルドールの闇の帝国のモンスター軍団に襲われています」リオルンは大げさな声で続けた。 「選ばれし勇者、あなたたちだけが、この世界の特異な力を使いこなし、魔の脅威を打ち破る可能性を秘めている!」

他の生徒たちも耳を傾け始めた。好奇心が恐怖を上回り始めた。中には興奮した表情の者もいた。まるで読んだゲームや小説のワンシーンのようだった。

突然、生徒の一人、人気アスリートのケンジが叫んだ。彼の手には、突如目の前に現れた輝く短剣が握られていた。「見て!武器を召喚できる!」

他の生徒たちもそれに続いた。ユキは青い光を放つ水晶の杖を手にしていた。タケシはエネルギーシールドに包まれていた。

「すごい!【鑑定】スキルを持っている!」と別の生徒が叫んだ。

パニックは歓喜の叫びに変わった。彼らは選ばれし勇者であり、特異な力を与えられたのだ。

フェルディナンド王は安堵の笑みを浮かべた。 「よし!世界の力は君を選んだ。それぞれの英雄には固有の才能がある。その力が王国を救うだろう。」

リオは黙ったままだった。仲間たちが新しい力を試すのに忙しくしているのを見ていた。何も感じなかった。武器は現れず、視界にステータスウィンドウは現れず、神の声が囁くこともなかった。

ふと思いついて透明なステータスウィンドウを閉じた。クラスメイトたちの興奮と称賛の声が、突然、まるで別世界からのささやきのように遠く感じられた。そして実際、その通りだった。彼らは舞台に閉じ込められた役者であり、彼は到着したばかりの演出家なのだ。

「陛下、ご心配なく」リオを取り囲む気まずい沈黙を破り、リオルネ教官が言った。彼の声には、かすかに見下したような響きがあった。「神器が発現するまでには時間がかかることもある。あるいは…もしかしたら、彼はただ力に恵まれていなかったのかもしれない」

リオは何も答えなかった。ただ教官を見つめていた。すると、一瞬にして情報が脳裏を駆け巡った。彼はこの人物について、あらゆることを思い出した。邪悪な野望、ダーク・エンパイアとの共謀、そして若い頃の戦いで左背中に残った傷といった些細なことまで。この知識は、ファイルを読むというより、昔の記憶を呼び起こすような感覚だった。

「わかった」フェルディナンド王は、少しがっかりしながらも、楽観的な口調で言った。「英雄たちを宿舎へ連れて行き、休ませて新しい力に慣れさせよう。」

彼らは城内の壮麗な兵舎へと案内された。生徒たちは興奮冷めやらぬ様子で、それぞれの能力を披露した。指先から小さな炎を召喚する者もいれば、異様な速さで走る者もいた。ケンジは短剣を振りかざし、自信満々に石畳を一刀両断した。

「アサクラ、見たか?」ケンジは、兵舎のベッドに一人で座るリオにニヤリと笑いながら言った。「もしかしたら、ここでの仕事は荷造りか何かなのかもね。」

他の生徒たちからくすくす笑いが上がったが、リオはそれを無視した。彼は何かの実験に集中していた。

彼は集中して手を差し出した。武器を召喚したり、元素を操ろうとしていたのではない。彼は世界の最も根源的な因果構造を想像していたのだ。彼はリンゴを想像した。

音も閃光もなかった。冷たくジューシーな、完璧な赤いリンゴが突然彼の手に現れた。かぶりつくと甘く、シャキシャキとした食感だった。幻影などではなかった。現実のコードそのものを操ることで、何もないところから創造された、本物のリンゴだった。

彼の力は、他の者たちが示してきた魔法とは異なっていた。彼らの魔法は既存のエネルギーを借り、確立された法則に従う。彼らの力は、その法則を書き記すことなのだ。

翌日、訓練が始まった。厳格な騎士団長が「英雄」たちに戦闘の基本を教えようとした。リオは無関心に指示に従い、動きはぎこちなく、やる気もなかった。訓練用のダミーを攻撃するように指示されても、彼の攻撃はほとんど効かなかった。

「全く才能がない!」団長は唸った。「もっと頑張らなきゃならねえぞ、坊主!」

リオはただ頷き、無表情だった。彼は水晶の杖を持つ少女、ユキがエネルギーシールドを維持するのに苦労しているのを見ていた。光は不安定に明滅した。リオは何がおかしいのかすぐに分かった。この魔法システムを設計したのは彼だ。光の盾の安定性は、使用者のマナ核とモグの大気中の光粒子との正確な共鳴にかかっていることを知っていた。

リオはユキに歩み寄った。

「マナの流れを世界の磁軸から南に0.3度だけ集中させてみて」リオはユキにかすかな声で囁いた。

ユキは驚いて彼を見つめた。「何だって?どうやって…」

「試してみて」リオは平坦な声で言った。

ユキは混乱し、必死で彼のアドバイスに従った。瞬時に、彼女のエネルギーシールドは安定し、明るく安定した青い光を放ち始めた。彼女は目を見開いた。

「ねえ!どうやってやったの?」彼女は驚き、尋ねた。

リオは既に踵を返し、ユキを困惑させたまま去っていった。

この小さな出来事が、リオルネ師の注意を引いた。訓練が終わると、彼は疑わしげに目を細め、リオに近づいた。

「若造、そんな高度な魔法の原理をどうやって学んだんだ?」彼は親しみを込めた口調で尋ねたが、疑念は隠せなかった。

リオは彼をまっすぐに見つめた。普段は無表情な彼の視線は、今や鋭く、まるでリオネの魂を見透かしているかのようだった。

「原理は至って単純です、先生」リオは落ち着いた声で言った。「たとえ王の顧問であっても、闇の帝国と共謀する者がいるのと同じくらい単純です。」

リオネの顔は一瞬にして青ざめた。唇は震えたが、声は出なかった。彼女は平手打ちされたかのように一歩よろめいた。誰も知らない、彼女の最も暗い秘密が、彼女が無力だと思っていた異世界の青年によって、たった今口にされたのだ。

「あなた…あなた…」リオネは嗄れた声で呟いた。

「心配するな」リオは落ち着いた声で言った。「お前の秘密は俺が守る。今のところはな」

リオは、恐怖と混乱で体が震える、震える魔術師を一人残して去った。リオは城の廊下を歩きながら、何年も前に心の中で作り上げた石の冷たい感触を感じた。見上げると、ステンドグラス越しに二つのモグの月が輝いていた。

彼は作者だった。そして、この物語の一部を書き直す時が来たと悟った。

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