【第二部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
12 / 31
―治療のために―

397話 集いし魔神達②

しおりを挟む


「そう、それで…聞きたいことがあるんだ」


フリムスカの一件がひと段落したのを見計らい、竜崎は切り出す。勢揃いする魔神達全員をしっかり見やりながらの言葉ではあったが…何故か、どことなく言葉に詰まっている様子。


言い出しにくいが、絶対に聞かねばならない―。まさにそう言うべき葛藤の中、彼はゆっくりと口を開いた。


「その…『神具の鏡』について…なんだけど…」





その一言に、離れていたさくらも息を詰まらせる。……なにせそれを奪われた原因は、彼女のようなものなのだから。


『なんでも弾き返す』と謳われる謎の秘宝、『神具の鏡』。さくらはそれをテニスラケット状に改造してもらい、自分の武器とさせてもらっていた。


しかしそれも、先の戦いまで。くだんの魔術士の…ナナシの奇策によって隙を生んでしまい、彼に奪われ、敗北へのトリガーとなってしまった。


幾ら竜崎に赦されても、誰からも責められなくとも、その事実はさくらの心を絞めつけていた。だから、竜崎の口からその単語が出ただけで、心中穏やかではなかったのである。




そんなさくらの、そしてやられたフリムスカの、奪い返せなかった自分と勇者一行の心の内を慮るように言葉を探る竜崎。…と。



―……その神具の鏡を使って、連中ナナシ達はお前達にちょっかいをかけに来てないか? 昔の私達みたいにな―



全ての煩悶を振り払うように、ニアロンが彼を代弁して問いかけた。








竜崎がその言葉を言い淀んだのには、大きな理由がある。それは、その神具の鏡が『高位精霊達を倒す大きな鍵となった』という事実。


かつての戦時、彼ら勇者一行は高位精霊達の助力を得ようとし、対する高位精霊達は、自らを打ち倒すことで協力を約束したらしい。


そして、戦闘と相成り…結果は今目の前の通り。なんとか全員に力を示し、『友』として認められたのである。



――しかしその闘いに置いて、無くてはならなかった物がある。それが今も勇者アリシャが持つ『絶対に壊れない』とされる『神具の剣』と、その神具の鏡であった。


その二つにより―。鏡で高位精霊の攻撃を受けきり、剣で勇猛なる一撃を見せたことにより、高位精霊達と契約を結べたのである。





……ということは、転じればどういうことか―。 そう、奪われた鏡は、魔神達を危険な道具ということ。



もしそれが用いられ、魔神達に被害が及べば―、間違いなく世界が揺らぐ。だから、彼らの身が現状どうなっているかを聞かなければならない。



しかし…事情が事情とはいえ、奪われてしまったのは自分達の不手際。そんな身でありながらその問いかけをするにはあまりにも恥知らず。故に、上手く切り出せなかった…。






……竜崎の内情を説明するとすれば、そんなところか。ニアロンに代わってもらい、彼も幾分か救われた表情を浮かべていた。



―が…。それを聞いた魔神面々は――。


「フン…! 何を言い出すかと思えば―!」



イブリートの鼻息に揃えるように、7柱が一様に、竜崎をジッと睥睨したではないか…!









そのあまりの威圧に、さくら、マーサ、シベルの三人は身を慄かせる。特にさくらの心は、動悸で張り裂けそうであった。


「大丈夫よ~さっちゃん」


―ふと、そんな彼女を軽く抱き、頭をよしよしと撫でてきたのは…残る1柱の魔神、聖なる魔神メサイア。おかげでさくらも少し楽にはなった。



だが…どこからどう見ても大丈夫ではない。部屋を…否、塔全体を震わせるかのような気迫を発する魔神達の様子は、まるで地獄の審問会。


そしてそれを受けているのは…命の恩人である竜崎とニアロン。責任を感じているさくらとしては、とても平静を保てるものではなかった。


やっぱり、『悪いのは自分』と名乗り出るべき…。 そう考えだしてしまうさくらであったが…それよりも先にイブリートは恐ろしき牙と火炎湛える口を開き―。



「我らを見くびるのも、大概にしておけ」



――と、台詞の内容こそ圧のある代物だが…。存外優しい口調でそう叱った…?







そのちょっと調子はずれな回答に、さくら達はポカン。勇者一行は、わかっていたかのように平然と。

ただアリシャは竜崎をちょっと心配している様子ではあるが…。どちらかというと竜崎が倒れないかを気にしている雰囲気。魔神達にはほぼ目をくれていない。



一体どういうこと…? さくらが眉を潜めていると、サレンディールが竜崎達へ、軽い溜息交じりで答えた。



「イブリートの戯言は一旦置いといて…。 アンタたちの問いに対する答えは、『一切来てない』、よ。 当人たちはおろか、その仲間らしい連中すらもね」


「左様。 メサイアヲ通ジ、ミルスパールヘ伝エタ通リ。我ラノ地デ、彼奴等きゃつらノ活動ノ形跡無シ」


「わらわの『竜の生くる地』でも、メサイアの見守るこの『神聖国家メサイア』でも、目に見えた活動はしておらぬな」



更にアスグラドとニルザルルも続く。賢者の報告通り、かの一味は動きを見せていないようである。 それを聞いた竜崎は、深い安堵の息を吐いた。






しかし…さくらの内心はやはり不可解に支配されたままであった。 サレンディール達の口調も、一切怒っている様子もない。


ならば…先程の威圧の、そしてイブリートの言葉の真意とは…? ……まあ、イブリートに関してはサレンディールが思いっきり跳ね飛ばしてはいるのだが…。



彼女がそう考えていると―。エーリエルが歌い…もとい、いつも通りの調子で口を開いた。



「あらあらうふふ あらうふふ。 アスグラド達の言う通り。 安心してね、リュウザキちゃん」


風の傘をクルクル回しながら、竜崎を宥める彼女。…すると、突然に口の前に指を立て…。


「けれども気掛かり 別にあり。 心配なのは 他のこと。 リュウザキちゃんの憂い事――。」


そう、どこか妖しく口ずさみながら竜崎を見つめ…。口に当てていた手で促した。


「それはずばりに即ちに。 『私達が連中に 力を貸すかどうなのか』。 ――当たっているか どうかしら?」




エーリエルの心得たかのような、魔神一同を代表するかのような問いかけに、さくらは息を呑む。そして一方のリュウザキは…。


「――あぁ…。 その通りだよ」


降参するが如く、頷いたのであった。








かつて竜崎達は神具の鏡を用い、高位精霊達を倒し味方につけた。そしてその鏡が奪われた今、危険な状況になってしまっている―。


そこまでは語った通り。 だが、竜崎の憂い事はその奥にもあった。それこそが、エーリエルの口にした内容。



……神具の鏡を下手に活用されてしまえば、あの魔術士ナナシ達と高位精霊達が契約を結んでしまう友となってしまうということもあり得る。


つまり竜崎は―。魔神達が打ち倒され、ナナシ側についてしまわないかを懸念しているのである。






勿論ただの力自慢程度では、最強武器を手にしていたところで打ち倒せる存在ではない。だが今回は、奪った相手が相手なのだ。


あの異形の獣人…ビルグドアは、勇者アリシャと互角の力を有していた。もし彼がナナシ達のバックアップを受け、神具の鏡を手にして高位精霊達へ挑んだとするなら――。事は怪しくなってしまう。




それを不安視しての、竜崎達の問いかけ。 すると、再度イブリートが…。


「―ならば、繰り返そう」


そう息を吐き……―。



「「「「「「「我らを見くびるのも、大概にしておけ」」」」」」」



――なんと…今度は7柱揃って、その台詞を繰り返したではないか…!?








そのまさかの返しに、一旦置かれていた戯言のひき戻しに、竜崎は黙らせられる。離れているさくら達も、当惑。


「そりゃそう言われるじゃろうのぅ」

「心配も行き過ぎるとアレねぇ…」


しかしミルスパールとソフィアは、何故か呆れた様子。アリシャとメサイアも、驚くことすらしなかった。





と、そんな中、最初に口を切ったのはアスグラド。…最も彼の土偶な口元は鍾乳石と植物の根製の髭に覆わているため、本当に口らしき可動部があるかは不明なのだが。


「心外。 リュウザキ、我ラヲ何ト心得ル」


「――それは―。属性を統べる『高位精霊』であり、偉大なる『魔神』で…」


楕円の糸目を光らせる彼をまっすぐに見つめながら、そう答える竜崎。しかしその横から、サレンディールのちょっと怒ったような声が飛んできた。


「ちーがーうでしょ! それよりも私達は、『アンタたちの友』なんだから!」





「っ……!」


その一言に、竜崎は言葉を呑む。 そこへ優しく告げたのはフリムスカ。


「ワタクシ達はあなた方に打ち倒されたから契約を結んだのではありませんわ。あなた方勇者一行の正義の志に胸打たれ、契約を結んだのです」


「然り。例え幾度打ち負かされようとも、『礼』を失するような者に協力なぞするか!」


イブリートも鼻息荒く同意を。 それに続き、エナリアスが茶化した。


「そもそも…聞く話だけだとその連中、精霊術まともに使えなさそうだし…。契約しても、意味なさそうね」



それにフッと笑いを見せたのは、ニルザルル。彼女は竜崎の元にぐぐいと首を伸ばし、軽く牙を見せ宣言した。


「わらわも高位精霊達と同意見だ。無論、メサイアもであろう? わらわの友を殺めかけた連中なぞ、顔を見せた瞬間、頭から齧りとってやるわ」


「ママとしては、反省して改心してもらうのが一番なんだけどぉ~…」


神竜の危険な台詞にちょっと頬を膨らませはしたが、メサイアもまた『ナナシ達に協力なんてしない』と言い切ったに等しい。




つまりは魔神全員が『竜崎の友』として、彼の側についたということ。 心の底から嬉しそうに感謝する竜崎を、そしてそれを受け『全く…』と言いたげな魔神達を見て、さくらはようやく悟った。



先程魔神達が竜崎を睨みつけた理由。それは恐らく…『完全なる信頼をしてくれていない大切な友人に、ちょっとムッとした』と言うべきものなのであろう――。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...