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―閑話―
40話 竜崎の助手 ナディ
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コンコンとノックの音がする。さくらは寝ぼけ眼を擦り扉を開けに向かう。
待っていたのはまたもや工房の娘マリア…ではなく、眼鏡の女性。竜崎の助手を務めているナディだった。
「おはようございますさくらさん。ごめんなさい起こしてしまって」
「リュウザキ先生が帰ってきたと聞きまして細かなご報告をしたかったんですけど…。いくらノックしても起きないんです」
隣の部屋とチラリと見ながら訴えるナディ。どうやら竜崎は完全な爆睡らしい。教師としては不出来なのだろうが、仕方ないのだろう。
さくらは彼の代わりに昨日までの顛末を簡単に伝える。それで通じたのか、ナディは頷いた。
「わかりました。今日と明日、代理の先生にお願いしておきますね」
随分と簡単に話が進む。さくらは流石にちょっと不安になった。
「そんなに代理の先生に頼んで大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。リュウザキ先生はお忙しい方ですから、腕利きな精霊術士の先生に専属代理をお願いしているんです」
勿論お給金も他先生より多めに、と彼女は付け加えた。
ナディが代理の先生へ依頼しにいっている間にも竜崎は起きなかった。学園に勝手に行っていいものか、悩みながら着替えて待っていたさくらだったが、答えを出すよりも先に結局ナディが帰ってきてしまった。
「お願いしてきました。さくらさんは今日どうします?」
「どうしますって…」
彼女の口ぶりから『行かない』という選択肢があることはわかった。だがそれを選んでいいものか…。竜崎とナディは一応教員である。そんなことを言ったらどう怒られるかわからない。
慎重に言葉を探していると、思わぬところから助け船が来た。
―休んでいいんだぞ、さくら。明日は観測者達のところに行かなければならないしな―
なんと、窓からひょっこりとニアロンが顔を覗かせていた。
窓越しに話すのもなんだ、とナディとさくらは竜崎の部屋に招待された。
「お邪魔しまーす」
竜崎の返事はない。それもそのはず、彼は未だ眠りこけていた。枕を抱いてぐっすりと寝ている彼を起こさないように抜き足差し足、2人は椅子に腰かけた。
―さて、どこから話したものかな―
ニアロンは文字通り竜崎を尻に敷き、足を組み腕を組み語り口を探す。
―王に呼び出されたところから順にいこうか―
「すごいです!さくらさんウルディーネと契約を結べたんですね!」
ニアロンから顛末を聞いたナディはさくらを褒めちぎる。大きな拍手を送られ、さくらは照れくさくなってしまう。
「メストさんは惜しかったですね…」
―あぁ。時間の都合上再戦させてあげられなかったのは残念だった。なに、あの子の実力だ。次は勝てるさ―
そう談話するナディ達。丁度いい機会だと、さくらは先程から胸をちくちく刺しているあのことを質問した。
「学校、本当に休んじゃっていいんですか?」
―ん? 別に構わないぞ。試験で良い点とれれば問題ない―
ニアロンの回答にさくらは眉を潜める。そんな雑でいいのだろうか、俄かに信じがたい。
「それで卒業できるんですか?」
―毎年行われる卒業試験を合格すればいいんだ。実力主義だからな、一年で卒業する英才もいる。長いやつは10年は…いやあいつは例外か。というかさくら、お前は事情ありきの特別扱いだ。そもそも行かなくても構わないんだぞ?―
「さて。お腹空きましたし、さくらさんご飯食べに行きません?」
お腹を軽く押さえながら、誘ってくれるナディ。さくらは一応聞いてみた。
「ナディさんはお仕事に行かなくていいんですか?」
「代理の先生は私も休んで良いと。お言葉に甘えちゃいます。そうだ!ついでですし服とかお買い物に行きませんか?」
「はい!是非!」
二度寝してもよかったが、丁度お腹がなりそうだった。街の散策もあまりしていないし、絶好の機会だとさくらはその提案に飛び乗ることにした。
―私はもうひと眠りする。さくらもあまり無理をするなよ―
体を伸ばし、竜崎の体に引っ込むニアロン。それに伴い彼は寝がえりを打ったが、やっぱり起きなかった。
本日もまたアリシャバージルは晴天、街中活気づいている。2人は腹ごしらえを済まし色んな店を巡った。
服屋、小物店、道具屋、薬屋、カフェ…どこに行っても客は盛況。魔族や獣人、エルフ達が楽しく買い物をしている。さくらはそんなファンタジー世界の住人になっているということが楽しくて仕方がなかった。
1つ、驚いたことがある。どの店に行ってもナディの顔が知られていたのだ。例えば、とある精霊石店に入った際の会話である。
「あらナディちゃん!今日は先生と一緒じゃないの?」
「おはようございます、おかみさん。はい、先生はお疲れのようで…」
「また無茶したのかね、若くないんだから適度に休んで欲しいものだけどねぇ。そうそう!ゴスタリアから良い精霊石が入ってきたのよ。ここ数年なんか質がおかしいように見えたけどあんな事件があったとはねぇ。でももう安心ね!」
完全に「竜崎の助手」として覚えられているらしい。どこに寄ろうとも似たことを聞かれる。彼女もそれを面倒がることなく答えていった。
さらにさらに。街中を歩いていても、挨拶をしてくる人や絡んでくる子供が結構いる。
「ナディ先生ー!リュウザキ先生は?」
「今日はお休みなんです。どうしましたか?」
「あのね、うまく魔術が出ないの」
「見せてください。あぁ、ここが失敗しちゃってますね。ここはこうやって…」
慕われもしているらしい。子供に丁寧に教える彼女の姿は一端の先生だった。
幾つもの店を巡り、ショッピングを楽しんださくら達。2人の手には服や小物が詰まった袋が幾つも。
「さくらさんお付き合いありがとうございます! もう一件だけいいですか?」
ナディの頼みを快諾し、さくら達は最後の店に到着する。そこはソフィアとマリアの工房だった。
「おやナディちゃんいらっしゃい!出来てるよ!」
何かを作ってもらっていたらしい。職人と出来栄えを確認しているナディを少し離れて見ているさくら。と、そこに駆けてくる子が一人。
「さくらさーん!丁度良かった!例の杖、試作が出来たんですよ!試していきません?」
登場と同時にそう声を弾ませたのはマリアだった。
「はい、これです!」
工房併設の試験広場に連れてこられたさくらは杖を手渡される。だがそれはおよそ魔法少女の杖とは遠い、中の構造丸出しな試作品だった。
「これが…?」
「まだ仮組ですから見た目は許してください!短杖としての機能は問題ないです!」
マリアの言葉を信じ、さくらは詠唱しながら杖を振ってみる。支障なく水魔術が飛び出し、離れた位置にある的を濡らした。
「おぉー!」
遅れて様子を見に来たナディも拍手をしてくれる。これだけでも結構楽しい。
ひとしきり性能を確かめた(遊んだ)後。マリアはふっふっふ…!と笑い始めた。
「さくらさん待望の衣装替え機能、これまた仮組ですがつけてみました。是非お試しください!」
マリアの指示に従い、ボタンを押しながら魔力を注ぎ込むさくら。と、杖上の謎機構が回転し始めた。これで準備万端らしい。
「これを振れば?」
「はい!それで変身できるはずです!」
えっへんと胸をはるマリア。と、横で見ていたナディは首を傾げた。どうやら若干の引っかかりを感じたらしい。
「はず って、大丈夫なんですか?」
「私で試したときは成功しましたから多分!」
少し怪しさが残る回答。ナディが止めませんか、と声をかけようとしたが、遅かった。
「へ、へんしーん!」
既にさくらは杖を振っていたのだ。
キュイイイと回転音を高める杖、そして次の瞬間―。
ボンッ!
「きゃっ!」
謎の爆発音。思わず目を瞑ってしまうさくらだったが体に痛みはなかった。恐る恐る目を開けてみると…自らが纏っていた服が無かった。全て爆散していたのだ。
「えっ…きゃああああああああ!」
野外で全裸になっていることに遅れて気づき、思わず手で隠ししゃがみ込む。慌ててナディ達に匿われた。
さっき服を買っていてよかった。混乱するさくらの頭にはそんなことだけ浮かんでいた。
待っていたのはまたもや工房の娘マリア…ではなく、眼鏡の女性。竜崎の助手を務めているナディだった。
「おはようございますさくらさん。ごめんなさい起こしてしまって」
「リュウザキ先生が帰ってきたと聞きまして細かなご報告をしたかったんですけど…。いくらノックしても起きないんです」
隣の部屋とチラリと見ながら訴えるナディ。どうやら竜崎は完全な爆睡らしい。教師としては不出来なのだろうが、仕方ないのだろう。
さくらは彼の代わりに昨日までの顛末を簡単に伝える。それで通じたのか、ナディは頷いた。
「わかりました。今日と明日、代理の先生にお願いしておきますね」
随分と簡単に話が進む。さくらは流石にちょっと不安になった。
「そんなに代理の先生に頼んで大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。リュウザキ先生はお忙しい方ですから、腕利きな精霊術士の先生に専属代理をお願いしているんです」
勿論お給金も他先生より多めに、と彼女は付け加えた。
ナディが代理の先生へ依頼しにいっている間にも竜崎は起きなかった。学園に勝手に行っていいものか、悩みながら着替えて待っていたさくらだったが、答えを出すよりも先に結局ナディが帰ってきてしまった。
「お願いしてきました。さくらさんは今日どうします?」
「どうしますって…」
彼女の口ぶりから『行かない』という選択肢があることはわかった。だがそれを選んでいいものか…。竜崎とナディは一応教員である。そんなことを言ったらどう怒られるかわからない。
慎重に言葉を探していると、思わぬところから助け船が来た。
―休んでいいんだぞ、さくら。明日は観測者達のところに行かなければならないしな―
なんと、窓からひょっこりとニアロンが顔を覗かせていた。
窓越しに話すのもなんだ、とナディとさくらは竜崎の部屋に招待された。
「お邪魔しまーす」
竜崎の返事はない。それもそのはず、彼は未だ眠りこけていた。枕を抱いてぐっすりと寝ている彼を起こさないように抜き足差し足、2人は椅子に腰かけた。
―さて、どこから話したものかな―
ニアロンは文字通り竜崎を尻に敷き、足を組み腕を組み語り口を探す。
―王に呼び出されたところから順にいこうか―
「すごいです!さくらさんウルディーネと契約を結べたんですね!」
ニアロンから顛末を聞いたナディはさくらを褒めちぎる。大きな拍手を送られ、さくらは照れくさくなってしまう。
「メストさんは惜しかったですね…」
―あぁ。時間の都合上再戦させてあげられなかったのは残念だった。なに、あの子の実力だ。次は勝てるさ―
そう談話するナディ達。丁度いい機会だと、さくらは先程から胸をちくちく刺しているあのことを質問した。
「学校、本当に休んじゃっていいんですか?」
―ん? 別に構わないぞ。試験で良い点とれれば問題ない―
ニアロンの回答にさくらは眉を潜める。そんな雑でいいのだろうか、俄かに信じがたい。
「それで卒業できるんですか?」
―毎年行われる卒業試験を合格すればいいんだ。実力主義だからな、一年で卒業する英才もいる。長いやつは10年は…いやあいつは例外か。というかさくら、お前は事情ありきの特別扱いだ。そもそも行かなくても構わないんだぞ?―
「さて。お腹空きましたし、さくらさんご飯食べに行きません?」
お腹を軽く押さえながら、誘ってくれるナディ。さくらは一応聞いてみた。
「ナディさんはお仕事に行かなくていいんですか?」
「代理の先生は私も休んで良いと。お言葉に甘えちゃいます。そうだ!ついでですし服とかお買い物に行きませんか?」
「はい!是非!」
二度寝してもよかったが、丁度お腹がなりそうだった。街の散策もあまりしていないし、絶好の機会だとさくらはその提案に飛び乗ることにした。
―私はもうひと眠りする。さくらもあまり無理をするなよ―
体を伸ばし、竜崎の体に引っ込むニアロン。それに伴い彼は寝がえりを打ったが、やっぱり起きなかった。
本日もまたアリシャバージルは晴天、街中活気づいている。2人は腹ごしらえを済まし色んな店を巡った。
服屋、小物店、道具屋、薬屋、カフェ…どこに行っても客は盛況。魔族や獣人、エルフ達が楽しく買い物をしている。さくらはそんなファンタジー世界の住人になっているということが楽しくて仕方がなかった。
1つ、驚いたことがある。どの店に行ってもナディの顔が知られていたのだ。例えば、とある精霊石店に入った際の会話である。
「あらナディちゃん!今日は先生と一緒じゃないの?」
「おはようございます、おかみさん。はい、先生はお疲れのようで…」
「また無茶したのかね、若くないんだから適度に休んで欲しいものだけどねぇ。そうそう!ゴスタリアから良い精霊石が入ってきたのよ。ここ数年なんか質がおかしいように見えたけどあんな事件があったとはねぇ。でももう安心ね!」
完全に「竜崎の助手」として覚えられているらしい。どこに寄ろうとも似たことを聞かれる。彼女もそれを面倒がることなく答えていった。
さらにさらに。街中を歩いていても、挨拶をしてくる人や絡んでくる子供が結構いる。
「ナディ先生ー!リュウザキ先生は?」
「今日はお休みなんです。どうしましたか?」
「あのね、うまく魔術が出ないの」
「見せてください。あぁ、ここが失敗しちゃってますね。ここはこうやって…」
慕われもしているらしい。子供に丁寧に教える彼女の姿は一端の先生だった。
幾つもの店を巡り、ショッピングを楽しんださくら達。2人の手には服や小物が詰まった袋が幾つも。
「さくらさんお付き合いありがとうございます! もう一件だけいいですか?」
ナディの頼みを快諾し、さくら達は最後の店に到着する。そこはソフィアとマリアの工房だった。
「おやナディちゃんいらっしゃい!出来てるよ!」
何かを作ってもらっていたらしい。職人と出来栄えを確認しているナディを少し離れて見ているさくら。と、そこに駆けてくる子が一人。
「さくらさーん!丁度良かった!例の杖、試作が出来たんですよ!試していきません?」
登場と同時にそう声を弾ませたのはマリアだった。
「はい、これです!」
工房併設の試験広場に連れてこられたさくらは杖を手渡される。だがそれはおよそ魔法少女の杖とは遠い、中の構造丸出しな試作品だった。
「これが…?」
「まだ仮組ですから見た目は許してください!短杖としての機能は問題ないです!」
マリアの言葉を信じ、さくらは詠唱しながら杖を振ってみる。支障なく水魔術が飛び出し、離れた位置にある的を濡らした。
「おぉー!」
遅れて様子を見に来たナディも拍手をしてくれる。これだけでも結構楽しい。
ひとしきり性能を確かめた(遊んだ)後。マリアはふっふっふ…!と笑い始めた。
「さくらさん待望の衣装替え機能、これまた仮組ですがつけてみました。是非お試しください!」
マリアの指示に従い、ボタンを押しながら魔力を注ぎ込むさくら。と、杖上の謎機構が回転し始めた。これで準備万端らしい。
「これを振れば?」
「はい!それで変身できるはずです!」
えっへんと胸をはるマリア。と、横で見ていたナディは首を傾げた。どうやら若干の引っかかりを感じたらしい。
「はず って、大丈夫なんですか?」
「私で試したときは成功しましたから多分!」
少し怪しさが残る回答。ナディが止めませんか、と声をかけようとしたが、遅かった。
「へ、へんしーん!」
既にさくらは杖を振っていたのだ。
キュイイイと回転音を高める杖、そして次の瞬間―。
ボンッ!
「きゃっ!」
謎の爆発音。思わず目を瞑ってしまうさくらだったが体に痛みはなかった。恐る恐る目を開けてみると…自らが纏っていた服が無かった。全て爆散していたのだ。
「えっ…きゃああああああああ!」
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