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第一話:その名は『ドグォーン』!
しおりを挟む彼はまた、部屋の中心で仰向けに寝そべっていた。
彼の脳裏には、2時間前の出来事が鮮明に浮かんでいた。
―― ああ~、全然景気が良くならないから、悪いけど今日から来なくて良いよ。今までご苦労さんっ! ――
彼は深い溜息をついた。
(……不況は分かるが、それだけでクビって……馬鹿にされてるのか俺……)
だが理不尽な扱いを受けた怒り以上に、必要とされていないと知った絶望が彼の心を支配していた。
彼の名は神崎 真。20歳のフリーター。しかし世間は彼を『ニート』と呼ぶ。
彼の事を簡単に言い表すとすれば、『運の無い男』。決して性格も顔も悪くないのだが、仕事にも女性にも恵まれていない。むしろ、『無職』と言う今の現状が災いして、中には『無職=引篭もり=オタク』扱いする女性もいる位だ。
そんな運も取り得もない彼だが、実は人智を超えた力を手に入れていたのだ。
5日前、落雷の直撃を受けた彼は雷神の力によって一命を取り留めたが、その時の影響により帯電体質になってしまった。それを解決する為、体に帯びた電気をエネルギーとする鎧『雷神鎧』を雷神から託された。
その鎧は持ち主の体に帯びた電気を吸収して帯電を抑えるだけでなく、その力たるや想像を絶する力や速度を持ち主に与え、まさにその持ち主を超人と化す事が可能なのだ。
だが、残念なことにその力が発揮されるような局面は、今の平和日本において有り得なかった。
力が必要だと言って、人前でその鎧を着けてしまったらかえって怪しまれるのが現実である上に、人間の能力を超えた仕事は全て、機械がこなしているのも現実なのだ。
仕事で生かされるようなものでもなければ、倒すべき敵も存在しない。
はっきり言えば、その力は『無駄』以外の何物でもなかった。
話を戻そう。
暫くの間彼は部屋で寝転んでいた。が、ただ寝転んでいるだけでは何も起こらない。
とりあえず、仕事を探さなければ。そう思った真は帰りがけに買った求人情報誌とアンドーナツを手に取り起き上がった。そしてアンドーナツの袋を破りそれを口に運び、畳の上に求人誌を広げた。
どの位眺めたのだろう?
求人誌はグラニュー糖を噛んでいたが、それでも真の目に止まるような記事を与えてくれるわけでもなかった。
それでも彼は、隅から隅まで求人情報誌を眺める。しかも、一度開いたページももう一回眺めると言った徹底振りだ。
だが、彼の目に適う様な仕事は見つからない。
その殆どが人材派遣や風俗、そして資格の必要があるもの、そして何ヶ月も連続して求人を出しているところである。それ以外では営業職と言うのもあるが、不器用な真にとってはそれは自滅行為そのものである事を彼は知っていた。
「はぁ……」
真は思わず溜息を漏らす。だが、溜息をついても仕事が見つかるわけではない。そう思い直すと彼は、三度求人情報誌に目を通す。
だが今度は『バイトやパートでも構わないから、とにかく仕事が欲しい』と言った心境で、だ。
それでも、彼の目に止まるような記事は無かった。
「だめだぁ」
そう彼が求人誌を無造作に投げようとした瞬間である。
ふと、一つの記事が彼の目に止まった。
『この腐れた世間に、あなたは満足してますか?』
何故かその語句は、真の手を止めるに充分であった。彼は情報誌を再び畳に広げ、その記事に目を通す。
『この腐れた世間に、あなたは満足してますか?
今の待遇が気に入らない。
気に入った職業が見つからない。
それはきっと、今の世の中が腐れているとお思いの貴方の力を必要としています。
只今、幹部候補募集中。
経歴不問。実力次第で貴方の世界が変わります。
―― 有限会社 ヘルズサービス ―― 』
「……ヘルズサービス?」
真はその記事を読み終え、紙パックの牛乳を啜る。同時に彼は思考を張り巡らせた。
確かに気に入った仕事は無いし、世間も綺麗かと言うとそうでもない。そして経験不問、実力主義だ。
そして普通の人材派遣にありがちな『正社員登用のチャンス』等と言った曖昧な言葉ではなく、はっきりと『幹部候補』と謳っている。
ただ、気がかりなのは具体的な仕事内容が不明な点と、その名前。
そもそも、『ヘルズ』……って、『地獄』を髣髴させるような名前じゃないか?
次の瞬間、真の脳裏にはこのような言葉が浮かんできた。
(……怪しい……)
だが、彼にはもう余裕など無かった。彼がその記事の連絡先に電話をするまで、さほど時間は掛からなかった。
翌日。
とある倉庫の前には、紺色のスーツに身を包んだ真の姿があった。
いや、そこにいるのは彼だけではない。
約十人程の男が、恐らく彼と同じ理由で今、この場所に集まっていた。だが、誰一人として他人に話しかけようともせず、ただ黙って待っているだけだった。
確かに、『ヘルズサービス』が指定した場所はここであった。だが、一見するとただの古倉庫にも見える。
それが、怪しい雰囲気をより一層醸し出していた。
だが、ここまで来て帰ってしまうのも勿体無い。真はそう思い、黙って時を待った。
やがて倉庫の入り口が開き、一人のスーツ姿の男が真達の前に姿を見せる。
「『ヘルズサービス』入社を希望の皆さん、こちらへどうぞ」
男の案内で、真達は倉庫の中に入っていった。
真は緊張の為か、体に少し震えを感じていた。
入り口を入った先は、通路であった。どうやら倉庫の内部は改装されており、一般的なオフィスのように幾つもの部屋に分かれているようだ。そして建物の内部は、思った以上に明るかった。
ある一室の前で男は止まる
「こちらで、お待ち下さい」
男が案内した部屋は、比較的広い会議室のような部屋であった。真達十数人の『就職希望者』は用意されていたパイプ椅子に腰を下ろした。
暫くの間を置いて、部屋のドアが開く。
入ってきたのは、先ほどの男、そしてなにやら奇妙な格好をした者が二人である。一人は黒い肌を持つやせ細った男で、頭にはターバン、そして目の部分はアイマスク、服装はと言えばインドの修行僧を髣髴させる格好である。そしてもう一人は、服装こそスーツではあるが、その頭にはライオンを髣髴させるような覆面が輝いていた。
怪しい。
その場にいた全員は動揺を隠せなかった。が、ライオン頭の男はそれを意にも介せず、こう語りかけてきた。
「ようこそ『ヘルズサービス』へ。本日は皆様入社希望という事で、早速説明に移りたいと思います」
穏やかで流暢な口調である。だが、格好が格好なだけに怪しさは変わりなかった。
ライオン頭の男は更に続ける。
「本題に入る前に、ここにいる皆様の中には私達のこの姿に驚かれた方もいると思われます」
(いや、全員だろっ)
真はそう思いながら彼の話を聞いていた。
「当社は、本名ではなく通称で呼び合います。始めのうちは社員番号で呼びますが、それは決して社員の個性を奪う事が目的ではありません。
私達はあくまでも、社員の能力そのものを個性として見ています。従って、地位が上がればその人特有の通称と顔が与えられます。
つまりこれは、顔を隠す為の覆面だけでなく、この会社における顔だという事をご理解下さい」
(ますます怪しいんだけど……)
真は半ば呆れていた。良く見ると、他の者も呆れたような表情を浮かべている。
「申し遅れました。私はこの会社の専務という事になっている『ヘルゲイツ』と申します」
ライオン頭の男はそう名乗った。そして隣のインド系覆面男を指し、こう加える。
「そして彼は、人事課長の『ヘルナマステ』」
そう紹介された彼は、合掌しゆっくりと頭を下げた。
やがて二人は椅子に腰掛ける。そして今度はインド系男=ヘルナマステが口を開いた。
「さて、これから我等の『ヘルズサービス』の会社説明を行います」
ゆっくりとした口調にも関わらず、流暢な日本語だった。少なくとも外国人とは思えない程の日本語である。
「現在の世の中は、一見平和なようですがその根底は腐れ切ってます。国のトップたる政府は自分の団体の利権のみを考え、国民不在の水掛け論を続けています。そしてそれを取り巻く大企業は、常に利益のみを考え、粗悪品ばかりを世間に流通させています」
ヘルナマステのその言葉は、真が薄々感じていた事だった。いや、真だけではない。この場にいる入社希望者。もしかすると、日本に住む国民の殆どがそう感じているのではないか。
「我々はそんな腐った社会に鉄槌を下すべく生まれたのです。
我々の業務は世間の表向きは『人材派遣』と『福祉サービス』。それらのサービスを通じ、腐れた企業や団体を地獄に落とし、または同志を集め、やがて近い将来、この腐った社会を混沌に陥れ、迷える国民を先導する事を目的としています」
その時、真は思考を張り巡らせていた。
(……これって、一種の犯罪集団? いや、悪の秘密結社?
だが待てよ、確かに今の世の中は腐っている。むしろ、悪ではなく正義の為の団体じゃないか?
一体俺は、どうするべきなんだ?
入社するべきなのか、否か……?)
他の入社希望者が黙ってヘルナマステの話を聞いている中、真は悩んでいた。
ヘルナマステの話は続く。
「さて、貴方達は我が社の『幹部候補』と言う事ですが、当面の間は一般社員として働いていただきます。そして様々な業務をこなしていただき、独自の能力を鍛え、そしてその実力次第では幹部職への昇格も可能なのです。
この場では一切の試験を行いません。ただ、入社の意思確認をさせていただきます。
勿論、強制ではございません」
その言葉にその場にいる真を含めた全員はどよめいた。そう、入社の意思があるならば、確実に職は手に入るのである。
そんな中、真は未だに悩んでいた。
(……確かに簡単に職に就ける。だが、かなりヤバそうな仕事じゃないか?
でも、これって人々の為……日本の為なんだよな……
しかし、『ヘル』って、その名前が怪しいし……)
その時である。
「是非、働かせてください!」
希望者の一人が立ち上がり、声高にこう告げた。
それを皮切りに、他の希望者も次々と立ち上がり入社の意思を示した。
それを見たヘルナマステは合掌してお辞儀する。そして彼らに隣のヘルゲイツがこう語りかけた。
「それでは、入社を希望される方は、そちらのドアから奥の部屋にお入り下さい」
その言葉に、次々とこの場を去る希望者……いや、もはやヘルズサービス社員と呼んでも良いだろう。
だが、真はまだ動じていなかった。
そしてこの部屋には、真だけが残されていた。
入社の意思が無いわけではない。ただ、悩んでいる間に取り残され、手を上げるタイミングを逃しただけなのだ。
「あなたはどうします?」
そんな彼に、ヘルナマステの声が届いた。
真はまだまだ悩んでいた。
(……なんか、完全に取り残されたし、こんなヤバそうな仕事より、他もあるしな……)
もとい、取り残された恥ずかしさのあまり、もうどうでも良くなっていた。少なくとも、この会社で働く気を無くしていた。
「……あの、すみません。私にはとても勤まりそうもありません」
「そうですか」
それを聞いたヘルナマステの口元に笑みが見えた。真はゆっくりと立ち上がり、この部屋を去ろうとした。
その時、ヘルゲイツの声が響く。
「君の力が欲しかったのですが、強制はしません。ヘルナマステ、案内しなさい」
「はっ」
ヘルナマステに案内され、真はヘルナマステと一緒に部屋を後にした。
やがて真は建物の外へと出る。そこまで、ヘルナマステも一緒だった。
考えてみれば、奇妙な会社だった。だが、ここを出れば関係も無くなる。
真は一刻も早く、この奇妙な会社の事を忘れたかった。
真はヘルナマステの方に向き直り、軽くお辞儀をする。
「今日は御世話になりました」
ヘルナマステはにっこり笑い、こう返す。
「いえいえ、私達は強制はしません。その気になってもらうだけですよ」
「え?」
真はその言葉の意味を咄嗟に理解できなかった。
次の瞬間、ヘルナマステは真の両肩に掴みかかる!
「我々の仕事を知ってしまった以上、このまま帰しませんよ」
真は必死に抵抗するが、細腕の割りにその力は強く、逃れられそうにも無かった。
「はっ……放せ!」
「放せといわれて放す人はいません。
何故なら私、ヘルズサービスの人事課長にして、ヘルズサービス一のヨガの達人!
『ヘルズ七煉獄』の一、『地獄の解脱者』ヘルナマステですから!」
「肩書き長ぇよっ!」
真はこの会社の門をくぐった事を後悔していた。だが、もう手遅れかもしれない。
既に捕まっているのだから!
ヘルナマステの目……と言うよりマスクの目の部分が妖しく光り出す!
「ヨガを極めし私ならば、あなたをこうやって洗脳する事も可能です!」
ヘルナマステが真を見つめる!
やがて真の意識が……
意識が…
…
「で、ヨガをどう極めれば洗脳能力が身に着くのか、分かりやすく説明してもらおうか?」
そう口を開いたのは真であった。
そう、彼の意識は途絶えなかった!
「なんですと? 私のヨガ洗脳が効かないとは!」
うろたえるヘルナマステ。
「その頭悪そうなネーミングは何だ!?」
すかさず真はヘルナマステの腹部に蹴りを入れる!
ヘルナマステの体が『く』の字になって折れ、地面に倒れる!
その隙に、真はその倉庫から全速力で駆け出した!
どのくらい走ったのだろう?
真は路地裏で息を切らせていた。
ここまで来たらもう追いかけてこないだろう。
真は壁に背を預け、再び思考を張り巡らせる。
(……それにしても酷い目にあった……
一体あの会社は……何なんだ?
『ヘル』と言う名前で怪しいと判断すべきだったのか?
それよりあれは、やはり悪の秘密結社なのか?
うん、そうだ。多分……いや、絶対そうだ。悪の秘密結社に違いない。
でなければ、絶対洗脳なんてする訳ないよな?
でも、悪って何だ? それ以前に正義って……何だ?
例え崇高な目的を持っていたとしても、人に危害を加えるのが悪なのか?
それとも、そんな奴等を倒すのが、正義なのか……?)
だがそんな真の思考は、信じがたい光景で遮られる事になる。
「もう逃げられませんぞ」
何と、ヘルナマステの姿がそこにあったのだ。
しかも、合掌しながら空中を浮遊している!
驚き慄く真に、ヘルナマステの笑い声が響く。
「わははははは。ヨガを極めた私にとって、空中浮遊など朝飯前です」
しかし、真は脱兎の如く駆け出した!
「逃がしませんぞ」
追うヘルナマステ!
しかし、その差は広がる一方であった!
「ぬぅ、ヨガの秘術を持ってして追いつけないとはっ!」
「いや、走った方が速いだろ普通!」
真は走りながら叫んでいた。
迫り来る恐怖から走る! 逃げる!
だが恐怖は追撃を止めない!
その時、真の胸からペンダントが飛び出てきた!
「これは!?」
その時、真は思い出した!
そのペンダントこそ、雷神 徹から授けられた『雷神鎧』である事を!
そして、それを纏う時が来た事を!
(そうか! これを使えば良かったんだ! 俺って、なんて賢いんだ!!)
一方、ビルの陰で一部始終を見ていた雷神 徹がこう呟いていた。
「……最初からそうしとけよ……」
意を決してヘルナマステに向き直る真!
笑うヘルナマステ!
「もう観念しましたか!」
だが、真は決意に満ちた表情でヘルナマステにこう吐き捨てる!
「いや、観念するのはお前の方だッ!」
だがその時、真は気付いてしまった!
(……って、どうやって変身するんだよ!?)
そう、徹は真に雷神鎧の着装方法を教えていなかったのだ!
だが非情にも迫るヘルナマステ!
「我々の秘密を知られた上に洗脳も不可能ならば、このヨガの秘術を以て貴方を葬るしかないですね」
「って、今度は火でも吹くのか? それとも手足を伸ばすのか?」
対峙する真とヘルナマステ!
そして、ヘルナマステの目が更に妖しく光る!
「ヨガビィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーームッ!!」
目から迸る怪光線!!
それは真の右頬をかすめ、後方の壁に穴を開けた!
笑うヘルナマステ!
「どうです! ヨガを極めし私にとって、このような芸当は朝飯前なのです!」
「い……いや、どう考えてもそれヨガ関係ねぇだろっ!
それ以前に、全世界に間違ったヨガの知識を広めてねぇかテメェ!」
「問答無用、ヨガビィィィーーーーーーーーーーーーーームッ!」
再び輝く怪光線!
今度は真の左頬をかすめる!
「今度は眉間です! その気になるなら今のうちですよ!」
真には悩んでいる時間はなかった!
(ええい! なるようになれだ!)
瞬間、真は両拳を固め、自分の胸の前で交差するように突き出し叫ぶ!
「轟臨ッ!」
そして拳を固めたまま交差した腕を広げる!
左腕で上を、右腕で下を指すような格好だ!
「爆装ッ!」
そして、右手を広げ勢い良く天に突き出す!
「雷神鎧ィィィ~~~~~~~~~~ッ!!」
そう叫び真は天にかざした指を高く鳴らす!
その瞬間、雷鳴と共に激しい雷が真の体を貫いた!
果たしてその激しい閃光の中で何が起きているのか!?
その胸のペンダントが光り輝く。
今まで真の体から発せられ続けていた電気エネルギーの開放が始まった!
その開放されたエネルギーは、ペンダントに封じられていた『鎧』を構成させるのだ!
最初に黒いタイツのようなものが真の全身を覆う!
それは一種の鎖帷子であり、タイツのようにしなやかでありながらいかなる刃物でも切る事が出来ない剛性を持つ。
次に腕に稲妻が走り、閃光が手甲を形成する!
続けて足、脛、腰、胸と次々と閃光と共に装甲が纏われていく!
最後に頭部全体に、虎をモチーフとしたようなヘルメットが形成される!
一瞬光る両目!
蓄積されたエネルギーが雷神鎧全体に流れる!
拳を突き出すと同時に迸り出る稲妻!
その着装に要した時間、僅か0.05秒!
尚、雷神鎧の着装には多大な電気が流れ激痛が伴う!
帯電体質の持ち主である真はその発せられた電気により死ぬ事は無いが、死ぬほど痛いのだ!
そして、輝く雷神鎧の戦士が遂に、ヘルナマステの前にその雄雄しい姿を現した。
いや、厳密に言えば着装時の激痛の為、呆然と立ち尽くしていただけなのだが。
ヘルナマステは仰天していた。そう、何の変哲も無い青年が目の前で『変身』したのだから。
そして真も仰天していた。
(……で、何で俺は教えてもらってないのに、こうもカッコいいような……それでいて恥ずかしいような掛け声とポーズを決める事が出来たんだ? しかもごく自然に!)
それはいくら考えても判らないことである。その答えは神のみぞ知っているのだから……。
一方その時、一部始終を物陰で見届けていた徹はこう呟いていた。
「雷神鎧の持ち主には、着装方法まで刷り込まれるのさ。だから言っただろ? 御都合主義の塊だとな」
やはり神は知っているようだ!
「ぬぅ、貴方は一体何者なんですか!?」
我に返った真はこう返す。
「俺は……かん……!」
慌てて言葉を止める真。危うく本名を名乗ってしまうところだった。そして真は暫く考え込む。
(……って、ここで本名言ったら問題多そうだ。
でも、なんて名乗ろうか……どうせなら、雷の音の名前にしようかな?
ゴロゴローン……なんかイマイチ
ゴロピカン……ん~、マヌケそうだ)
「……で、なんて名前なんですか?」
「あ、もうちょっと待って」
どうやらヘルナマステは律儀に待っているようだ。
(……それにしてもさっきは激しい音だったよぁ……
ズドドドーン……いや、ドッゴーン……いや、ドグォーン!)
ようやく閃いた真は、ヘルナマステに向き直り構える。
そして、こう名乗った!
「雷と共に現れる!
その名は……ドグォーン!!」
そう、これが生まれ変わった真の姿!
こいつが……こいつが!
こいつが『ドグォーン』だッ!
対峙するドグォーンとヘルナマステ!
「何? 『ドゴーン』ですと?」
「『ドグォーン』だッ! 『ゴ』じゃなく『グォ』だ! 『グォ』!」
傍から聞けばどうでもいい事だが、真=ドグォーンにとってそれは重要な事であった。
不敵に笑うヘルナマステ。
「ドゴーンだかバゴーンだが知りませんが、この私のヨガを以て全力で相手しましょう!」
ヘルナマステの目が再び光る!
「ヨガビィィィィーーーーーーーーーーーーーーム!!」
怪光線が走る!
今度はドグォーンの眉間を狙って、だ!
だが!?
「!?」
それは信じられない光景だった。
光線が放たれた瞬間、ドグォーンが動いた!
そう、まるで瞬間移動したかのように動いて光線を避けていたのだ!
うろたえるヘルナマステ!
「馬鹿な! 光の速さで放たれるヨガビィームを避けるとは!
だが!」
再びドグォーンを狙って放たれる光線!
避けるドグォーン!
更に光線!
回避!
光線! 回避!
光線! 回避!
光線、光線、光線!
回避、回避、回避!
雷の速さで動くドグォーンにとって、その程度の光線を見切ることは容易である!
唇を噛むヘルナマステ。
「こ……このヘルナマステのヨガビィームが効かないとは、なんて非常識な人なんでしょう!?」
「非常識って、お前が言うなッ!」
「ならば、これならどうです!?」
ヘルナマステの目が紫色に妖しく光る。
「ぬははははは、今度こそこのヨガ洗脳で貴方を仲間に引き入れましょうッ!」
まるで別な世界に誘う様なその目の輝き。
それを見たドグォーンの意識が……
意識が…
途切れる訳が無かった!
数回の落雷のショックに耐えた真の精神力は、洗脳にも耐える事が出来るのだから。
「しまった! この人に洗脳は効きませんでした!」
「だから、そんなにヨガが万能ならその頭の悪さどうにかしろっ!」
構えるドグォーン!
「今度はこっちの番だ! いくぞヨガ怪人!」
拳を固め、ヘルナマステに突進するドグォーン!
次の瞬間、ドグォーンの拳が唸る!
「ぐほぁ!」
よろめくヘルナマステ!
更にもう一撃!
そして即頭部に回し蹴り!
「……な、なんて強さです! ますます我が社に欲しくなりました!」
口から血を流しながらヘルナマステが歓喜の声を上げる。
ドグォーンはヘルナマステにこう告げた。
「こっちにも職業選択の自由くらいあるだろっ!」
そして胸の前で腕を交差させるドグォーン!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!」
気合を込めると共にドグォーンの体から電光が輝き始める!
説明せねばなるまいっ!
真が雷神鎧を纏った姿である『ドグォーン』の周囲5m以内は、常に大気の状態が不安定である。
したがって、雷が発生しやすい状態なのだ!
その状態のとき、ドグォーンの体に蓄積された電気を敵に向かって放電する事により、大気中のイオンバランスを更に崩し、更なる落雷を誘発する事が出来る!
それが――
「ドグォーン・サンダータイフゥゥゥゥゥーーーーーーーーーンッ!!」
ドグォーンの手から放たれる電撃!
電撃がヘルナマステを捉える!
そして……
轟音と共に数発の落雷が、ヘルナマステを直撃!!
「ウぎゃぁぁぁぁぁぁぁ嗚呼~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
悲鳴と共にヘルナマステの意識は途絶えた!
これが、『ドグォーン・サンダータイフーン』だ!
ヘルナマステを倒したドグォーンは、その場に立ち尽くしていた。
戦いの痛みよりも、敵に勝った事……その力を示した事の興奮の方が強かった。
(……これが……『雷神鎧』の力……!)
その時である。
ドグォーンは背後に、人の気配を感じた。振り向いたその先には、先ほどのライオン頭の男……ヘルゲイツが立ち尽くしていた。
どうやら、ヘルナマステの戻りが遅かったので、様子を見に来たのであろうか。
だが、そのヘルナマステは、倒されていた。そう、ドグォーンの手によって。
ヘルゲイツが驚きの声を上げる。
「まさか信じられん! 七煉獄の一人がこうまでしてやられるとは……」
そしてドグォーンを睨みつけ、こう叫ぶ。
「貴様、何者だッ!?」
「知らないなら教えてやる! 『ドグォーン』だ!」
「何? 『ドゴーン』だと!?」
「ああっ! どいつもこいつも!」
睨みあうドグォーンとヘルゲイツ!
いまにも衝突と言う、その瞬間である。
「……その辺にしておけ、ヘルゲイツ」
突如響き渡るその声に、ヘルゲイツは声の方を振り向き、跪く。
その方向に声の主の姿があった。
全身を黒いプロテクターのような物で固め、その背中には漆黒のマントと、環状に連結された筒が見える。そしてその顔の口から上は、鬼のような異形の面で覆われていた。少なくとも、徹より雷神らしく見えた。
男はドグォーンを一瞥し、こう口を開く。
「お前、『ドグォーン』とか言ったな?」
「……誰だお前は!?」
ドグォーンは問い返す。その問いに、男はこう答えた。
「……ヘルズサービス代表にして、闇の王『ヘルダイン』。覚えておくがいい」
その体から発せられる威圧感は、まさしく闇の王を髣髴させるのに充分であった。
ヘルダインは更に続ける。
「まさか私も、お前のような超人が現れるとは思いもしなかった。
だが、我々の仲間……しかも七煉獄の一人を倒したと言う事は、お前は我々を敵に回したと言う事になる。
今日のところは敬意を込めて退いてやろう。だが、お前一人で我々に勝てるのか?」
その時、ドグォーン=真は事の重大さを理解した。
ヘルナマステを倒してしまった事。それは『ヘルズサービス』を敵に回したと言う意味である。
しかも、ヘルナマステのような強者が最低でも6人はいるのは間違いない。
だが、ドグォーンはここで怯えるわけには行かなかった。
確かに、足は震えていた。だが、それに対抗できる力を、彼は持っているのだ!
「……勝ち負け以前に、ここまで来たら戦うしかねぇだろっ!」
ドグォーンは吼えた!
それを聞き、ヘルダインは不敵に笑う。
「良くぞ言った。だが、我々も邪魔者は容赦しない」
そして踵を返し、
「ヘルゲイツ、帰るぞ」
と告げ、悠然とヘルゲイツを引きつれその場を後にした。
その場にはドグォーン一人残されていた。
やがて閃光と共にドグォーンは雷神鎧を解き、本来の真の姿に戻った。
初めての戦いを終え、立ち尽くす真。
彼の胸中では、様々な想いが行きかっていた。
ヘルズサービス、雷神鎧、初めての戦い、七煉獄、ヘルゲイツ……
そして、漆黒の王ヘルダイン。
だが、真の心は決まっていた。
―― ヘルズサービスと戦う! ――
彼らが敵だと言った以上、それ以外に道が無いから。
拳を振り上げてしまった以上、今更それを納めたくは無かったから。
そして敵があってこそ、雷神鎧の力の存在価値が初めて発生するから!
決意に満ちた表情で真が叫ぶ!
「覚悟しろ、ヘルダイン!」
だが、真っ先に覚悟が必要なのは彼自身だと言う事を、真はすっかり棚に上げていた。
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聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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