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貴族令嬢に転生しました
最後の日
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その日、私は一人で遊びに出掛けた。歩いていると、美しい女性の後ろ姿が見えた。服装も髪型も好みじゃないはずなのに、ドクンと胸が高鳴って、私はそっと追い越し、近くの角を曲がると、顔を見ようと覗いた。
美少女、美人の観察は私の癒しなのだ、ストーカーとか変態とか言わないでくれ。可愛くても、何かをする訳じゃない。可愛いなぁ、綺麗だなぁと眺めるだけだ。まぁ大抵は、顔はそんなに可愛くなかったりする。
なのだが、女性の顔を一目見た瞬間、私は驚愕して目を見開いて、「推しだ……!」と心の中で叫んだ。隠れていたのを忘れて、私の目からポロポロと涙がこぼれた。もう会えない、会えなくても仕方ない、ただずっと想わせてくださいと思っていた彼女が今目の前にいる。
「大丈夫ですか?」
困惑したような顔で、彼女に声をかけられた。色んな感情が混ざりあって、頭がぐちゃぐちゃになって、私は、彼女の名前を呟いた。はっ、と彼女は私を見つめ返した。私は慌てて言った。
「美夜、私、美夜っていいます。ご存知ですか?」
「みや、ちゃん?」
「はい、美しい夜と書いて、みやと読みます。」
私は涙を拭いて、鞄から、いつも持ち歩いているストラップを取り出した。中学校三年生の時、修学旅行のお土産に、彼女に送ったストラップの色違いだ。覚えていなくてもいい、こんな安いストラップ、捨てていても構わない。私のことを覚えていても覚えていなくても、彼女に言いたいことを一つだけ言って去ろうと思った。
「あっ」
彼女が驚いた声を出す。
「あの、美夜ちゃんね。お花の便箋で、毎月手紙を送ってくれてた美夜ちゃん」
「はいっ……!」
覚えていた、会ったこともないのに、ラストライブも行けなかったのに、覚えてくれていた。これでもう、生きていける。
「私に幸せをくれて、ありがとうございました。どうかお幸せに。あなたの幸せが、私たちファンの幸せです。それをどうか、忘れないでください。そしてもし、やりたいことがあるのなら、何年、何十年経っても、必ずファンは待っています。だから、あなたの進みたい道を進んでください。では、お元気で。会えてよかったです。」
私は頭を下げると、再び流れだした涙を拭って立ち去ろうとした。けれど彼女は私にお礼を言って、道が別れるまで一緒に歩こうと言ってくれた。何てことない世間話や、私のことを話しながら、私たちは一緒に歩いた。
信号を渡っていると、彼女の向こう側から、大きなトラックが近づいて来るのが見えた。それはスピードを落とさずに、真っ直ぐこちらへ向かって走ってくる。私は彼女の手を引いて、彼女を庇うようにトラックに向けて一歩踏み出し、彼女の体を歩道へ向けて押し出した。それからすぐに、体に衝撃を感じ、私は意識を失った。それが私の、風上弥生としての最後の記憶。
美少女、美人の観察は私の癒しなのだ、ストーカーとか変態とか言わないでくれ。可愛くても、何かをする訳じゃない。可愛いなぁ、綺麗だなぁと眺めるだけだ。まぁ大抵は、顔はそんなに可愛くなかったりする。
なのだが、女性の顔を一目見た瞬間、私は驚愕して目を見開いて、「推しだ……!」と心の中で叫んだ。隠れていたのを忘れて、私の目からポロポロと涙がこぼれた。もう会えない、会えなくても仕方ない、ただずっと想わせてくださいと思っていた彼女が今目の前にいる。
「大丈夫ですか?」
困惑したような顔で、彼女に声をかけられた。色んな感情が混ざりあって、頭がぐちゃぐちゃになって、私は、彼女の名前を呟いた。はっ、と彼女は私を見つめ返した。私は慌てて言った。
「美夜、私、美夜っていいます。ご存知ですか?」
「みや、ちゃん?」
「はい、美しい夜と書いて、みやと読みます。」
私は涙を拭いて、鞄から、いつも持ち歩いているストラップを取り出した。中学校三年生の時、修学旅行のお土産に、彼女に送ったストラップの色違いだ。覚えていなくてもいい、こんな安いストラップ、捨てていても構わない。私のことを覚えていても覚えていなくても、彼女に言いたいことを一つだけ言って去ろうと思った。
「あっ」
彼女が驚いた声を出す。
「あの、美夜ちゃんね。お花の便箋で、毎月手紙を送ってくれてた美夜ちゃん」
「はいっ……!」
覚えていた、会ったこともないのに、ラストライブも行けなかったのに、覚えてくれていた。これでもう、生きていける。
「私に幸せをくれて、ありがとうございました。どうかお幸せに。あなたの幸せが、私たちファンの幸せです。それをどうか、忘れないでください。そしてもし、やりたいことがあるのなら、何年、何十年経っても、必ずファンは待っています。だから、あなたの進みたい道を進んでください。では、お元気で。会えてよかったです。」
私は頭を下げると、再び流れだした涙を拭って立ち去ろうとした。けれど彼女は私にお礼を言って、道が別れるまで一緒に歩こうと言ってくれた。何てことない世間話や、私のことを話しながら、私たちは一緒に歩いた。
信号を渡っていると、彼女の向こう側から、大きなトラックが近づいて来るのが見えた。それはスピードを落とさずに、真っ直ぐこちらへ向かって走ってくる。私は彼女の手を引いて、彼女を庇うようにトラックに向けて一歩踏み出し、彼女の体を歩道へ向けて押し出した。それからすぐに、体に衝撃を感じ、私は意識を失った。それが私の、風上弥生としての最後の記憶。
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