それぞれの空

藤原葉月

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突きつけられた真実

15 最終話

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「見ていて?西田君、みんな、いままでありがとう。
・・そして、僕のかわりに伝えていってほしいんだ。
どんな障害をもっていたとしても、僕らと変わらない人間であること。どんなに冷たい人間でも、一人になるのはいやだってこと。これから会う、いろんな人に生きる希望を与えてあげてほしいんだ。」

そう言いながら、演技を続ける宏人は、誰よりもかっこ良かった。

「宏人・・・ありがとう・・・
俺も、その一人だ・・・お前が俺に、生きる希望を与えてくれた・・・。ありがとう。
お前と過ごした日々・・・俺は、忘れない・・・絶対忘れないから・・・」

宏人の演技を見ながら涙を流すメンバーたち。
そして、俺も涙が止まらなかった。
東條の演技は、いままで以上にすごかったから・・・
それと・・・
この演技を、もう二度と見られないのではないかと、感じていたから・・・・。

そして、音楽が止まり、演技を終えた宏人は、満足そうな笑顔を浮かべ・・・・
その直後・・・・
彼の体は崩れて静かに倒れた・・・・!!!

「宏人!!」
「宏人さん!!」

みんなは、舞台に駆け上がる。

「宏人!しっかりしろ!いま、病院に連れていってやるから!父さんに連絡するから・・・・」
けど、宏人は、電話しようとする俺の手を止めて首を振った。
「・・・・西田君・・・ありがとう・・・・」
「何言ってるんだよ!もう、充分だろ?満足しただろ?」
「・・・みんなもありがとう・・・僕のわがまま聞いてくれて・・・・・」
「宏人、もういいから・・・そんなにしゃべるな・・・・」
俺は、彼を抱き締めた。
だけど、彼はそれきりしゃべらなくなってしまった。

彼の最期の言葉は・・・・・

「ありがとう」

だった。

「宏人!目を覚ませよ!まだ、やることあるじゃないか!!大学祭まで頑張るんじゃなかったのかよ!宏人!!宏人!!」

俺の声が、小屋中に響き渡った。

彼は、それきり目を開けることはなかった。
彼は、やっぱり、舞台の上で人生を終えた。
俺達は、しばらくそこから動くことができずに、ただ、静かに泣いていたんだ。

ただ、静かに俺達の泣き声が響いていた。


あれから、半年の月日が経っていた。

東條が、亡くなってからもう半年・・・・

俺はというと、来年の卒業に向けてのレポートをする毎日で忙しかった。
もちろん、いまでも「ひまわり会」のみんなとの付き合いはある。
ただ、ひとつ残念なことがあった。

「西田さん、お久しぶりです。」
忙しくなってしばらく使わずにいたら、取り壊しが決まってしまったんだ。
俺達の活動する唯一の場所がなくなってしまう。

「東さん・・・来ていたんですね・・・・」
「この小屋が、取り壊されるって聞いたから・・・」
「あれから、東さん、ダンス教室に通い始めたんですよね?すごく上達が早いって。
女の子達がうわさしてたよ。
「そ、それはどうも」
「あはは。照れてる」
「それほどでも・・・・」
「それに、角膜が見つかったんですって?手術を、近いうちに、海外に受けに行くってききました。父さんからね。」
「はい。さすが医者の息子さんですね。情報が早いです。」
「良かったですね。見えるようになるんですね。」
「・・・・角膜を、提供してくれる人は誰かわかりませんが・・・、東條さんだったら、いいな。」
「それは、教えられないみたいだね。でも、そう思っとくか?」
「・・・東條さんは、言ってくれてました。ドナー登録をしてくれていて・・
目だけはいいから、安心してって。」
「そっか・・・」
「もしも、東條さんの一部が入らないとしても・・・諦めるわけにはいきません。だって、角膜には提供してくれた人の記憶が入るって聞きますから・・・・」
「もしも入らなくても、俺達のなかで東條は、生きている。そう、思えばいい。世界を目指して頑張ってください。応援してます。」
「西田さんも・・・カウンセリングの教室を開くための資格を取るんですって?」
「お互い、頑張ろうな。そのうち、他のメンバーも集めて、最後ににこの小屋に挨拶しなきゃな。」
「そうですね。」

俺達二人は、小屋を見上げた。
「ラッキー、お前はご主人様についていくんだよな?」
角膜の手術は、海外で行われるから・・・・

俺は、ラッキーの頭を撫でながら、寂しさを隠そうとした。

なぁ、東條?

みんな、自分のちからで自分の夢に向かって歩き出しているよ。

こんな俺でもやりたいことを見つけたから・・・・。

お前のお陰でな。

二人のシンガーは・・・

あれから、人付き合いが少しずつ慣れてきたようで・・・・・

なんと、音楽プロデューサーからスカウトされたんだ。



彼ら歌声を偶然、聴いていたみたいだ。

CDを、出すらしい。

取り壊しの前日。
みんなを集めて近況報告。

「西田さん、東さん、榊さん・・・ありがとう」
正也さんと斎藤さんは嬉しそうに笑い、そして楽しそうに歌った。

この歌声をみんなに聞いてもらえるなんてすごくうれしいことだ。


「榊さんは?どんな仕事をされてるんですか?」
「《僕はね・・・・》」
彼は、耳の聞こえない子供たちを集めて手話教室を開き、ギターを教えたり、ピアノを教えたりしているらしい。

「《彼らにとっては、僕もそうですが、音のない世界だけど・・・心で感じてほしくて。
それを、教えることができるのは、君しかいないと・・・東條さんに言われていて・・・思いきって始めてみました。
僕の夢だったから・・・・・。そしたら、たくさんの子供たちが。集まってくれて・・・・毎日がとても楽しいです。東條さんのお陰で、音が聞こえているかのように楽しいです」
「《榊さんの、優しい気持ちが子供たちに届いたからでも、あるんですよ?
俺もちゃんと手話を覚えたいです》」
「《西田さん、もう十分話せてますよ》」
そう言って榊さんは、笑った。
みんな、動き出しているんだ。

そして俺は・・・
今、1番会いたい人のもとへと向かった。
そこにはヒマワリの花が供えられている。
俺は今、里子に、報告してきたんだ。

守りたい人がいると・・・

守りたい人が出来たと・・・・

「宏人・・・あなたのお陰でみんなが自分の力で夢を見つけたのよ。あなたが言ってた“それぞれの空”を、見つけたわよ。報告遅くなってごめんなさい。」
「理子さん・・・」
「西田さん。同じ大学にいるのになんか久しぶりだね。しかも、同級生なのにさん付けだし。」
「理子さんこそ。お互い様だよ。
学部違うし・・。なんか忙しくてさ・・」
「・・・宏人はね、最期まであなたをずっと心配してたわ。自分のからだのことなんか忘れて、あなたをずっと心配してた。」
「理子さん遅いから迎えに来たんです。まだ、この時期寒いし。でも、きっとここだと思ったよ。」
「・・・・」
理子さんは微笑み、
「西田さん、わたしね・・・宏人に言われていたの。
あなたに幸せにしてもらえって」
「えっ?」
「桜が咲いたら、逆プロポーズしなよって。西田君きっと、腰抜かすからって(笑)」
「逆プロポーズ・・・誰が誰に?」
「幸せにしてくれますか?」
そう言ってキスができそうなくらい近づく理子さん。
「へっ?」
いきなりすぎて、頭が整理できない。
声にならないくらい驚いている俺に・・・
「ここに、宏人がいるような気がするの。ほら、言うなら今だよって。」
「えっ?まさか、理子さん・・・・」
「3ヶ月ですって・・・宏人に、報告できずにいたから・・」
「そっかぁ~」
「あの・・・幸せにしてくれますか?」
「もちろんだ。幸せにする。東條ができなかったこと、代わりに守るよ。俺も、東條と約束したから。」

東條の代わりに理子さんを守ると。
そして、里子にも、「守りたい人ができた。その人は里子と同じ名前だということ、ちゃんと愛していくこと。」
誓ったばかりだから。
まさか、逆プロポーズを、されるなんて思わなかったけど・・・・(笑)

俺たちは、静かに抱き合った。

「見て・・・西田さん・・・桜がきれい」
桜が、雪のように風に乗って散っていった。
祝福してくれているようだ。
「さぁ、行こうよ。みんな、待ってるから」
俺は、理子さんの手を握った。
もう、なくしたくない・・・離したくないと思った。


彼がくれた、自分の空を・・・・。
彼が教えてくれた自分自身の空をもう二度となくさないように・・・
俺と、理子さんは向かっていた。
大事な仲間の待つ場所へ・・・・・!




エピローグ

数年後・・・・
宏人に、よく似た男の子が、元気に走り回っている。
名前を“宏人”と、名付けた。
男の子が、生まれたら絶対宏人と、名付けようと、決めていたから。

彼は、宏人の生まれ代わりだと信じてつけたんだ。

「理子、彼は宏人そっくりだな(笑)」
俺が漏らした一言に、
「そうね、目がそっくりだわ。
名前が一緒だからかしら?」
理子は、そう言って笑った。
「そうだな。きっと会いに来てくれたんだよ」
「そうかもね」
「幸せだからいいか」
「ふふふ。そうね。
あっ、そろそろみんな、来る頃よ
宏人、お手伝いよろしくね」
「了解!」
宏人そっくりの笑顔を見せてくれた宏人は、せっせと準備をしてくれていた。、

今も変わらず《ひまわり会》の週1回の集まりが何より楽しみだ。

「宏人、ありがとう!俺は、幸せだ。」
そう、空に向かって言うと・・・
「僕がなに?」
宏人にそういわれて・・・・
俺は、宏人の頭に手をおき、


「父さんに大切なことを、教えてくれた人の名前も、宏人って言うんだよ。お前はその人の名前をもらったんだ」
「ふぅ~ん。父さんと、母さんの大切な友達なの?」
「そうだよ。親友なんだ。宏人も、そういう人、作れよ?」
「うん!がんばる」
俺は、宏人と、理子と、3人一緒に空を見上げた。
《ひまわり会》のみんなが来るのを待ちながら・・・・・・。


おわり






    
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