【改稿版】この世界の主人公が役にたたないのでモブの私がなんとかしないといけないようです。

鳳城伊織

文字の大きさ
8 / 72

8話 無自覚。

しおりを挟む








私が【ツバサ・ブラウン】としてこの世界に生まれ変わって初めて喋った言葉はじいじだった。その日もおじいさんは私を抱っこしてくれて、そして庭を散歩していた。言葉は少なかったが抱きしめてくれる手は優しくて、前世の家族からも感じたことの無い愛情を感じて私はおじいさんが大好きになった。おじいさんは庭の大きな木の下に行くといつもその木を見上げていた。腕の中からその顔を見上げていた私は何故だがおじいさんが泣きそうに見えてそして泣かせたく無いと思った。そしたら口から言葉が出てきた。

「じぃじ」

その言葉に弾かれたようにこちらをみたおじいさんに、何故だが嬉しくなって何度も何度もじぃじと口にした。その後はおじいさんにきつく抱きしめられて顔は見えなかったが震えているのが伝わってきた。暫くすると、おじいさんは顔をこちらに向けた。泣いているかと思ったが、とても優しく笑っていた。また嬉しくなった、じぃじと呼びかけると笑ってくれるようになってからは何度も何度も呼びかけた。そのうち私は少し大きくなり歩けるようになった。そして、『私』は『僕』になった。この頃から少しずつツバサと言う自分に馴染んできたように思う。この時僕は多分4歳くらいだった。じぃじと呼ぶようになってからは、常に側におじいさんが付いていてくれた。メイドの和子さんが呆れるくらいに玩具や色々な物をプレゼントしてくれた。誕生日だって毎年すごく豪勢に祝ってくれて前の人生では一度も貰えなかった愛情をいっぱいいっぱい貰った。

「じぃじこっちー」

おじいさんの手を引いて大きな木の下に来た。ここは僕の大好きな場所になった。二人で並んで木を見上げているとおじいさんはポツリとポツリと語りだした。

「ツバサ。この木はお前のお祖母様と一緒に植えたんだ。とても大切な木だった。でもね私は彼女を失ってからこの木が大嫌いになった」

そうおじいさんは話出す。

「あの日はこの木を伐採しようか悩んでいたんだ。お前は覚えていないだろうけど、ツバサがここで初めてじぃじと呼んでくれたあの日にね」

眩しいものを見るようにおじいさんは目を細める。

「あの日から、またこの木が大切になったよ、あの時切らなくて良かったなぁ」

声が微かに震えている気がした。

「ありがとうツバサ。」

そう言って僕を抱き上げてあの日みたいにまたきつく抱きしめられた。

「ごめんなツバサ」

小さくつぶやかれた言葉は良く聞こえなかった。その後、僕が6歳になった時に友達との木登りで頭から落ちて怪我をしたときは、今まで見たことないくらいおじいさんは慌てていた。怪我をしたのは僕なのにおじいさんの方が死んでしまいそうな顔をしていて、危ないことはもうしないでおこうと強く思った。その時の友達ともそれっきりになった。その後も過保護なくらい大事にされて。屋敷の人達からも愛してもらって。僕は幸せだった。

ただ過保護過ぎてなかなか友達が出来なかったのは如何なものか。

学校にも行くこと無く勉強は家庭教師の先生に教わった。そして15歳の冬、国から手紙が届いた。

「お祖父様、お呼びですか?」

「ツー君二人のときはじぃじと呼んどくれ」

デレデレと目尻を下げてお祖父様は僕を手招きする。

「おほん、大旦那様?」

後ろに居た和子さんが咳払いをすると、お祖父様は慌てて真面目な顔を作る。

「うむ、こほん、………ツバサよ、お前を呼んだのは国からこれが届いたからだ」

「手紙ですか?僕宛?」

そこには魔法適正有り、春より軍学校へと入学するようにと書いてあった。

「お祖父様これは?」

「すまんな、ツバサよ、魔法適正があった者は必ず軍学校へと3年間は通わねばならんのだ」

「はい、それは知っております。ですが、僕は戦いなんて全く出来ません。大丈夫でしょうか?」

「うむ、なに、3年間のんびりと過ごして来れば良い。全ての者がそのまま軍人になるわけでは無い。適正有りが集められてはいるが、その後は普通の職につく事の方が多い。それに3年経ったらお前は帰って来れば良いのだ。」

何も心配はいらんぞと背中を叩かれる。

「お前は優しい子だからな、野蛮な事は何にもせんで良い。学校でも頑張らんで良い。適当に遊んで過ごしていればそれでいいのだ」

「大旦那様、それは甘やかし過ぎですわよ?」

和子さんが鋭い目線を向けるがお祖父様はどこ吹く風だ。

「学校かぁ………えへへ。」

友達が出来るかもと少しドキドキした。それから数カ月経ち、春になって僕は軍学校へ行くことになった。

「ぅう………、ツー君、辛くなったら何時でも帰って来て良いんだぞ?じぃじは寂しいぞ~!!」

泣きながら見送るお祖父様に苦笑しつつ、僕は軍学校へと向かうのだった。


僕がお祖父様の事を話終えると、園田さんがジト目でこちらを見ていた。

「なるほど、無自覚におじいさんを落としているとは、侮れんなイチロー……」

「え?何いきなり、なんでそんな目で見るのさ?」

「ううん、何でもないよ?あー、でも話聞いてツバサ君がよわよわな理由がわかったわ。」

「よわよわって…………」










しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

異世界に転生したら溺愛されてるけど、私が私を好きでいるために努力はやめません!

具なっしー
恋愛
異世界に転生したら、まさかの超貴重種レッサーパンダ獣人の女の子「リア」になっていた元日本の女子高生・星野陽菜(ほしの ひな)。 女性の数が男性の1/50という極端な男女比のため、この世界では女性は「わがままで横暴、太っている」のが当然とされ、一妻多夫制が敷かれています。しかし、日本の常識を持つリアは「このままじゃダメになる!」と危機感を抱き、溺愛されても流されず、努力することを誓います。 容姿端麗なリアは、転生前の知識を活かし、持ち前の努力家精神でマナー、美術、音楽、座学、裁縫といったあらゆるスキルを磨き上げます。唯一どうにもならないのは、運動神経!! 家族にも、そしてイケメン夫候補たちにも、そのひたむきな努力家な面に心惹かれ、超絶溺愛されるリア。 しかし、彼女の夢は、この魔法と様々な種族が存在する世界で冒険すること! 溺愛と束縛から逃れ、自分の力で夢を叶えたいリアと、彼女を溺愛し、どこまでも守ろうとする最強のイケメン夫候補たちとの、甘くも波乱に満ちた異世界溺愛ファンタジー、開幕! ※画像はAIです

処理中です...