【改稿版】この世界の主人公が役にたたないのでモブの私がなんとかしないといけないようです。

鳳城伊織

文字の大きさ
17 / 72

16話 仲直りと趣味の悪い二人。

しおりを挟む






「うぉぇぇぇ」

激しくえずいているにゃん子の背中をミライは優しく撫でる。

「あー、あの………にゃん子さん?大丈夫ですか?」

「ぅぇぇむりおぼぁ」

にゃん子は暫くは無理そうだ。仕方無く背中をよしよししていると、後ろの方の席のローブのヤツからハァハァとした息遣いが聞こえてくる。

心なしか少しずつこちらに近づいてくるけど、ミライは。気づかないフリをする。関わりたくないのだ。


うぇぇえぇ。ハァハァ。うぇ………おろろろろ………。ハァうぇハァおぇえぇ。汚いセッションをしないで欲しいとミライは思った。

無心でにゃん子の背中を撫でるのに集中する。本気で関わりたくない。

(何であいつこっちに近づいて来るの?………はあ、とりあえず無視無視。)

隣のツバサはグロ映像開始直後から白目を向いて動かなくなったのでそっとしておく。寝不足だったもんね?仕方ない仕方ない。






◇◇◇◇◇◇






「そろそろ、教室に戻ってみいひん?」

ユアンに水を渡しながらライアンはそう尋ねる。

「………ん。ありがとう、ライ。そうだね。そろそろ終わってる時間かな?」

ユアンは水を受け取ると笑顔で答える。その返事を聞いてライアンは少し離れた所に居るエリカに声を掛けた。

「エリカちゃーん‼︎!もうその辺にしといて、こっち戻っておいでぇ」

エリカは訓練用の壁を垂直に登っている。

「うわあ。すごいねぇ、身体強化無しであんなに高くまで登れるなんて、やっぱりエリカちゃんは優秀やわぁ」

ライアンは感心したように息を吐いた。エリカはライアンの声に気づくと壁の上から二人にすぐに行く、のジェスチャーをしていた。

「ふふ、なんだかエリカ張り切ってるね?前より動きが良くなってる」

「恋をすると女の子は強くなるもんなんよー?」

ライアンはユアンへパチリとウインクする。

「恋………男もそうなのかな?」

ユアンははにかむ。

「ふふふ、どーやろなぁ………、それにしてもなんかちょっぴり寂しいわ、皆、恋してるんやんなぁ?私だけ仲間外れやん」

そんな風に談笑してるとエリカが走り寄って来た。

「なに?何で二人で楽しそうにしてるの?なんの話?私にも教えて?」

「ふふ、エリカちゃんの恋の話かなぁ?」

ライアンがそう言うとエリカの頭が爆発した、ように見えた。

「なっ?!私の居ない所でそんな話しないでよねっ!!」

頭が煙で包まれてエリカの顔は見えないが多分真っ赤になっている筈である。

「エリカ落ち着いて?さっきも教室でずっと煙を出していたね。魔力のコントロールをちゃんとしなくちゃ危険だよ?」

ユアンがエリカに声をかける。少し声が震えている。

「笑いたければ笑いなさいよっ!!」

まるで綿飴のお化けみたいなエリカの姿に訓練場にいる他の生徒も笑いを堪えて居る。あちこちから視線を感じる。

ププッ。あ、しまった。
ドゴッ!!!!!
若ーーーーー!!!!

耐えきれずに笑った安藤がエリカの放った炎の竜にぶっ飛ばされて行った。その後を安藤の取り巻きが慌てて追いかける。

「ふー‼︎!スッキリしたわ………。馬鹿安藤、いい気味だわ」

魔力を一気に放出してやっとエリカは煙が収まった。

「さっ、早く戻りましょ!!」

元気良くエリカはそう言う。

「はいはい、ほないこーかお姫さま」

「はい、は一回!!」

「はーい」

ライアンとエリカのやり取りに思わずユアンはクスリと小さな笑みを零す。

(エリカ………、嬉しそうだな。僕もだけど………はは………。)

教室に戻る道すがら、ライアンがユアンにこっそり耳打ちしてくる。

「ユアンちゃんの良い人もちゃーんと紹介してなぁ。昨日から楽しみにしててん」

ライアンのその言葉にユアンが思わず頬を染めるとライアンはキョトンとしてから笑った、

「ほんま、めずらしわー」




◇◇◇◇◇◇




頬を染めた幼馴染の珍しい姿にライアンは驚いてそれから喜びが湧き上がる。ライアンは昨日からとっても浮かれていた。何故なら最近少しギスギスしていた幼馴染達が昔みたいに楽しく過ごせているからだ。

一月ひとつきちょっと前にこの軍学校に入ってから、なんとなくお互いがお互いを避けていた。勿論理由はちゃんと有る。

(ひどいもの見てしもたもんねぇ)

一月前三人で行った初めての任務で目の前で子供が生きたまま魔物に食べられた。ユアンだったら助けられた筈だった。 だが学生の身分では上官の命令に従うしかなく、その命令が見捨てろと言う物だったのだ。確かにユアンが飛び出していたら一緒に居たライアンやエリカ、他の学生が危なかったかもしれない。それほど危険な相手だった。他の仲間達は運が悪かったなと口々に言っていた、ライアンもその通りだと思った。まさか学生が従事する軽い筈の任務で上位の魔物が出てくるなんて誰も思わない。だからライアンは運が悪かった。仕方ないって思った。それでお終い。

でもエリカとユアンの二人は仕方ないで済ませられなかった。その後も自分の弱さを責めた、エリカはユアンの足手纏いになった自身を。ユアンは上官に逆らえず助けられた子供を見捨てた自分を。ライアンやエリカの事も思っての事だろう。幼馴染と見知らぬ子供を天秤にかけてユアンはライアン達を選んだ。その事が溝を作った、お互いがお互いに後ろめたさも有ってか最近は一緒に居る時間が減っていた。

ライアンはそんな空気をなんとかしたくて、エリカが通常クラスの食堂に行っているのを知ってそれとなくユアンにも勧めてみた。そしたら二人で帰って来て凄く嬉しかった。作戦はうまく行ったのだ。そして昨日も一緒に通常食堂に向かう二人をこっそりと見送った。

そしたら昨日更に奇跡が起きた。二人共食堂から帰って来てからは何でかめっちゃ幸せそうに笑ってて、よくよく聞いてみると素敵な相手と出会ったそうだ。エリカは初恋だと幸せそうにしているし、ユアンは恋したと明確に言っていた訳では無いが、あの顔を見れば分かる。

(仲直りだけやなくて、二人がこんな幸せそうにしてるやなんて………、なんやめっちゃ嬉しいわぁ、食堂の事ユアンちゃんに教えてほんま良かったぁ………)

それからその幸せをくれた子らが今日特別クラスに来るって聞いて、会えるのをめっちゃ楽しみにしてた。ユアンやエリカの心を射止めるくらいだ。

きっと凄いお姫さんと王子様なんやろーと思ってた。


そう過去形である。


ライアンは目の前の男女を見て、幼馴染二人の趣味は悪かったのかと暫く頭を抱える事になる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...