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40話 相棒と苦いクッキー。
しおりを挟む「あー、その、呼び方は珍妙丸さんで良いんですよね?」
ミライが問う。
「うむ。それで良い、してお主ら。某に何用か?」
安藤に向きなおり珍妙丸がそう言う。
「こいつに刀見せてくれや」
「……ふむ、なるほど。良い、合格である」
珍妙丸は、安藤に指を差されたツバサを眺めてから一つ頷くと、奥に有る引き戸へと向かって行った。
「行くぞ」
安藤はそう言うと珍妙丸を追う。慌ててミライとツバサも追う。今日は追い掛けてばかりだ。
(物置?刀の宛って、なるほどね。)
引き戸の先は物置になっているらしく、刀が何本も置いてある。
「刀の声を聞くと良い」
そう言って珍妙丸は、ツバサを部屋に押し込むと、また道場入口の方へと戻って行った。
とりあえずミライと、安藤は物置の外で待つ。
「あー、アレって?」
「……おっさんは刀集めんのが趣味なんだよ。」
「え、そうなんですね。でもそんな大事な刀をくれるんですかね?」
聞こえていたのか珍妙丸から返事があった。
「……、使われぬ武器に意味などない故な。刀に選ばれたならば、差し出すのが通りであろう。」
要するにくれるけど刀に選ばれなければ駄目らしい。
(何それ?スピリチュアルな感じ?刀に選ばれる?)
ミライは半信半疑だ。
◇◇◇◇◇◇
少しして、ツバサが一本の刀を持って出て来た。ミライは小さく呟く。
「え……?朱白雪雨?」
見覚えの有る刀にミライは目を見開いた。ツバサが手にしていたのはアニメでのツバサの愛刀、朱白雪雨だったのだ。本来なら師匠になる筈の、老剣士から貰うのだ。
「ほお。そやつがお主を選んだか。まこと今日は珍しい事だらけであるな。」
珍妙丸が面白そうに、呟く。
「あ?………、なるほど強制力ってやつか?」
ミライの様子を見てから、安藤も呟いた。
「え?何?え?」
ツバサは分かってない。完全に偶然だと言うわけだ。
(ううん、……運命。やっぱり強制力は有るんだ。)
その後刀を貰える事になり、これからどうするのかと思っていたら、安藤から今日は解散だと言われた。外はいつの間にか日が暮れていた。
「別に焦る必要もねーだろ?」
そう言う安藤に、ミライもツバサも頷く。
それから少し話して、明日は休日だから、朝から道場に集合することになった。
「送らなくて大丈夫?」
ツバサが送ると行ってくれたが、女子寮までの道は明るいので断り、一人で帰るミライだった。
一人歩いていると、目線の先に見覚えのある執事服が見えた。
「あれ?またあの人だ。」
謎のイケメン執事。多分学校関係者?
こちらに気づいた執事は、ミライへと近づいて来た。手に何か持っている。
(また、お使いか何かかな?)
「失礼、少しよろしいでしょうか?」
「あ、はい。なんですか?」
「実は、このクッキーを色々な方に食べて頂いて、感想を聞いているのです」
執事が差し出した、手のひらにハンカチに包まれたクッキーが数枚あった。甘い匂いがふわりと広がる。
「あー、じゃあ頂きます?」
「はい、よろしいのですか?……助かります。」
丁度小腹も減っていたし、美味しそうに見えたのでその頼みを引き受けることにした。
(職員さんなら、流石に変なもの入れてないよね?)
「えーと味の感想って、正直に言う方が良いんですよね?」
「ええ、そうして頂けると助かります」
ミライはクッキーを一枚とって口に含む。甘い匂いのわりには少し苦かった。美味しくない。
(うえ……にが……何だろ?コーヒー系?)
「あー、なんかちょっと苦くて私は苦手かもです、美味しくは無いかな……、すみません」
そう、正直に感想を伝えると執事はじっとミライを見ている。
「あ、あの?」
(やばい、正直すぎたか?)
「………いえ、そうですか。ご協力ありがとうございました。」
そう言って頭を下げた執事の首から肩口に痣のような物がいくつか見えた。思わず眉をひそめるミライだったが、執事は、もう用が済んだとばかりにスタスタ去っていったのだった。
「んー?何だったの?……うー、まだ苦い味が、残ってる…うえ…」
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