グラドル戦隊グラドルレンジャーズ

青キング

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第三話 女性たちを返せ! 残虐イケメン俳優

奇怪なタクシー

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某テレビ局の楽屋。

 神里晋一は手鏡で前髪の位置を調節していた。

二十代の頭にして二枚目俳優として映画デビューすると、各ドラマや映画、バラエティで演技の上手さや多才ぶりを発揮し、一躍世間の女性ファンを獲得した。今や街頭で名前を知らぬ者を見つけるのが難しい人気俳優だ。

それ故に彼は自身の美に繊細な意識を払う青年でもあった。

「うん、決まった」

 前髪を整え終えて、満足の顔で鏡の自分に頷いた。

 トントンと楽屋のドアがノックされる。

「神里さん、準備出来ました?」

 ドアの外から少し舌足らずな女性マネージャーの声が尋ねる。

「準備万端だ」

 神里はパイプ椅子から立ち上がり、楽屋の外に出る。

 神里の腹ほどの小柄で子犬みたいな印象の女性マネージャー柴田のくせ毛が、彼が楽屋から出てくるとチョコンと犬の尾みたいにはねる。

「今日もキマッテますね」

「テレビ出演だからね。ドラマ撮影の時と差があってはいけないからね。外見だけでも綺麗にしておかないと」

「またまた―、ご謙遜を。どうせ昨夜も念入りにシミュレーションをやったんでしょ?」

「わかるかい? 柴田さんには敵わないな。何でもお見通しだね」

 ははは、と神里は苦笑いする。

 さあ行きましょう、と溌溂な調子で柴田が誘導するように歩き出した。神里は柴田の後に着いていく。

「あっ、そうそう」

 歩きながら柴田が何やら思い出して、背後の神里に話しかける。

「今日あたし、用事があるから最後までテレビ局にいられないから。帰りは一人だけどよろしく」

 柴田のくせ毛が露の重さでしなる草のように揺れるのに見入っていた神里は、寸分遅れて柴田の言葉に反応する。

「えっ、なんだって?」

「だから、今日あたし早く帰るってこと」

「ああ、そうなんだ。何かあるの?」

「まあね。たいしたことじゃないけど、外せない用事なんだよ」

「へえ、マネージャーもいろいろと大変なんだな」

 彼氏彼女でもないので、それ以上を聞くのは憚った。

 人様のプライベートには突っ込みすぎるな、とは神里なりの配慮である。

 スタジオに入るドアが前まで来ると、柴田はドアの横に移動して神里を振り返った。

「それじゃ、いってらっしゃい」

 神里は柴田に送り出されて、スタジオ入りした。

 少しするとスタジオに現れた神里を目にして歓喜する、女性たちの黄色い声がドア越しでも柴田のところにまで響いて聞こえる。

「あたしも用事を済ましてきますか」

 柴田はドアから離れると、近くにいた番組スタッフに挨拶をしてテレビ局を後にした。

 彼女はまだ知らない、この時見た神里が神里本人たり得た最後の瞬間であると。



 テレビ番組の撮影が終了し、撮影に関わった現場の人達に暇を告げると、神里は真っすぐに楽屋に戻ってきた。

 楽屋に置いておいた手提げバッグを持って、スマホのカレンダーに書き込んだスケジュールを確認する。

「今日はもう仕事入ってないのか」

 ほっとして呟いた。

 神里は明日の仕事の首尾をシミュレートしながら、テレビ局を出た。

 近辺の道路で走ってくるタクシーを見つけ、掌を掲げる。

 彼の前にタクシーが停まり、神里は疲れた身を乗り込ませた。

 後部座席に腰を落ち着けると、ハンドルを持った運転手が顔を向けずに訊いてくる。

「行き先は?」

 その声が悪魔の囁きのように聞こえて、神里は少し胆が冷える思いがした。

「えっ、ああ。大島トレーニングジムの前で」

「かしこまりました」

 運転手は了解すると、ステアリングを両手で握って発進させた。

 夜を知らないかと思わせるほどに人口光に溢れた街の中を、神里の乗ったタクシーは進んでいく。

「お客さん」

「はい?」

 底冷えのする声で運転手に話しかけられて、神里は何を言い出すのかと少し緊張して受け答えた。

「俳優の神里晋一さんですか?」

 運転手の発した質問に、途端に口元を微笑ませる。

「ええ、ご明察です。俳優をやっている神里晋一です」

「テレビでよく見ますよ」

「そうですか、ありがとうございます」

お定まりな礼を返す。

 その会話以降、運転手は無言で車を走らせ数十分が経った。

道行く人をぼんやりと眺めていた神里は、ふとツンとする異臭を覚えた。

 クンクンと自ら鼻に匂いを取り込んでみる。やはり異臭がする。

「運転手さん、何か臭くないですか?」

 神里は失礼を承知で訊いた。

 運転手は何も答えない。

「運転手さん。聞こえてますか?」

「……」

 言語を失してしまったかのように返事がない。

「運転手さん! 聞いてますか! 大丈夫ですか!」

 身を乗り出して近づいて声をかけても、黙然と前方だけを見て運転している。

声掛けを続けているうちに、神里は次第に眠気を覚えはじめた。

 頭の中に靄がかかっていくように、眠気は強くなっていき、神里は落ちた。

 運転手は黙々と運転を続けたが、ルームミラーで眠った神里を一瞥した。

タクシーは車も人も気配のない路地に迷いなく入り込んでいった

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