もしも、記憶力日本一の男が美少女中学生の弟子を持ったら

青キング

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蟹江に次ぐ女子高生

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 少女の弟子入りを承諾した次の日。

 真昼時である正午を回った頃、蟹江はお昼のニュース番組を観ながら昼食のインスタントカレーを頬張っていた。



「今日未明、○○区の交差点で自動車の衝突事故がありました。幸い怪我人はいないということで……」



 蟹江は頭の中に描いた自室でストーリーとイメージを貼り付けていく。ドアにカレンダーを一枚めくり、壁掛け時計の針がぐるぐる回るイメージ。靴入れに交差点で自動車同士がぶつかるイメージ。幸福そうに笑う警官の顔に怪我は見られないイメージ。



 キャスターが読み上げるニュースを、特に必要もなかったがイメージ化して記憶していると、不意にドアのインターホンが鳴らされた。



 ゆっくりと意識を、脳内の自室から現実のドアに向ける。こんな時間に誰だろうか、と記憶を邪魔されて少し苛ついた足取りでドアに近づいた。

 ドアの外の人物は蟹江が席を離れて向かう時間も惜しいのか、一度のインターホンの後に立て続けにプッシュし出した。



「うるせぇ、連打するな!」 



 けたたましいドアベルに蟹江は耳を押さえて、訪問者に怒鳴った。

 部屋の主の怒声を聞いてか、インターホンがぴたりと鳴り止む。



「弥冨だな。開いてるから入っていいぞ」



 蟹江はドアの外の人物に入室を促した。

 半ばドアが引き開けられて、紺色のブレザーにチェック柄のプリーツスカートの女子制服を着たストレートロングの黒髪にツリ気味の目をした弥冨楓が顔を覗かせる。



「あんた、起きてたのね。てっきり寝てるのかと思ったわ」

「昼ごはんしながら、ニュースの内容覚えてるところだったのによ。途中までしか分からなくなっただろ」



 弥冨はドアを開けられるまで開けて、言い分あるなら訊いてあげる、といった感じに腕を組んで沓脱の真ん中に立った。



「前々から今日行くって言ってあったでしょ?」

「そんなこと言ってたか?」



 ほんとに記憶にない様子で、蟹江は片眉を上げる。

 弥冨はこめかみをピクリとさせて不満げに顔を顰めた。



「あんたねぇ。トランプ五十二枚を二十秒とか、人の名前と顔を五分で百人とか、二進数の数字の並びを五分で千桁とか、単語の羅列を十五分で三百語とか、ランダムな写真を五分で三百枚とか、オセロの盤面を十二面とか覚えられるのに、私が四月八日の昼に来るってことは覚えてないのよ」

「これと記憶力競技では訳が違うんだよ」

「言い訳するな!」



 ツリ気味の目尻をキッといっそう鋭くして、弥冨は蟹江を叱った。

 蟹江は口を閉じる。

 怒った目で蟹江をしばらく睨みつけた後、はあああ、とデカい溜息を吐いた。



「あんたが興味ない事にはズボラなのを知ってて、期待した私が馬鹿だったわ」

「俺ってズボラか?」

「メモリスポーツか自分の目的以外の事だとね」



 呆れたという顔で弥冨は肩を竦めた。

 飄々とまあ入れという蟹江に促されるまま、彼女は部屋に上がる。

 部屋の中を一通り見回して、途中だった昼食のカレーを手に持った蟹江に尋ねる。



「最近、掃除してる?」



 カレーを口に含んで、蟹江は迷った素振りの後に縦に首を下ろした。



「本当?」



 疑うように、弥冨は問いを重ねる。

 蟹江は一つ大きく頷いた。

 弥冨は蟹江の言い分を信じることにして、話頭を転じる。



「話変わるけど、陽太は次のSCCも出場するの?」

「刈谷さんのところで開催されるやつだろ。次回は出ないつもりだ」

 蟹江が出場するつもりで訊いた弥冨は、予想と違う蟹江の返答に戸惑った。

「出ないんだ。珍しく予定が入ってるの?」

「進行補佐での参加だ。一日刈谷さんの手伝いをするんだ。刈谷さん一人だと回らないかも知れないからな」



 進行補佐とはその名の通り、大会進行の補佐をする役目だ。

 答えを聞いて、弥冨はくすりと微笑む。



「師匠思いね」

「そんなんじゃねーよ。俺はすでに何回も出てるからな、たまには審判役もいいと思ってるだけだよ」

「なんだそうだったの」



 うそばっかし、と弥冨は言葉とは逆に、総合審判を買って出るのが蟹江なりの師匠への思いやりであることに気付いて心の内で呟いた。

 蟹江が弥冨に訊き返す。



「お前は出場するのか?」

「ええ、前回が納得いかなったから」

「とか言って、単発二位で平均二位だろ。充分凄いけどな」

「単発一位、平均一位の陽太に言われても嬉しくない」



 慰めはいらない、という口調で言った。



「そればっかりはどうしようもねえよ。俺も手を抜くわけにはいかないからな」

「手を抜いたら軽蔑するから」



 厳しく釘を刺す。

 重々承知している顔で、蟹江は頷いた。



「そんなことしねえよ。競技に対する侮辱になる」

「陽太の言う通りね。ところで、これから少し時間ある?」



 急に訊かれて蟹江はどうしてだ、という目で見返す。



「ほら、陽太は日本記録保持者でしょ?」

「そうだな」

「私は陽太の記録より遅いでしょ?」

「そうだな」

「ということは?」

「応援すればいいのか?」

「バカ」

「なんでだよ」



 唐突に罵られて、蟹江は突っ込んだ。

 弥冨は唇を尖らせる。



「俺が教えてやろうか、くらいのこと言えないの?」

「どうして俺がお前に指導をするんだ。俺は一つの場所に四枚で、弥冨は一つの場所に一枚だろ。要領がまるきり違うだろ」

「四枚だろうと一枚だろうと、場所にイメージを貼り付ける基本は一緒よ。だから、コツとかイメージの変換を教えてくれるくらいしてよ」



 不満を露にして、弥冨は指導を請う。

 要求を突っぱねると彼女の機嫌を悪くなる気がして、蟹江は要求を呑む。



「わかったよ。悪い点があったら教えてやるから」

「ありがと。それじゃテーブル使うわよ」



 テーブルにスペースを作るため、蟹江は食べかけのカレーライスの器を手に持ち上げて退かす。

 弥冨がテーブルの隅にあった布巾で念のために拭き、湿り気や水滴がないのを確認してから椅子に腰かけた。



「タイマーとトランプは使うか?」



 用具もなしに腰掛けた弥冨に、蟹江は尋ねる。

 弥冨は小さく首を横に振る。



「いらないわよ。持ってきたもの」



 スクールバッグの口を開き、中から時間計測に使用するブーメランのような形をしたスタックタイマと遮音するためのイヤーマフ、トランプ二束を取り出す。

 回答用のトランプを任意で並べ、スタックタイマの後ろに置いた。



 ふうと集中に入るために一息吐いてから、記憶用のトランプを右手に持ってスタックタイマの計測を開始させる。

 トランプを右手から左手に繰りながら、一枚ごとに変換したイメージを脳内のルートに焼き付けていく。

 最後の一枚が左手に移ると、スタックタイマの計測を止めた。



 要した時間は38秒。



 SCCでは、規定された記憶の時間の五分が終わるまでは、回答が出来ないルールとなっている。

 弥冨は残りの時間をルートを回ることに費やした。

 蟹江が回答開始を告げると、回答用のトランプ五十二枚をスタックタイマの前で、横に一列広げて、一枚ずつ探しながら記憶した順番に積み上げていった。



「答え合わせしてもらっていい?」

「ああ、まかせろ」



 蟹江は記憶用と回答用のトランプを裏面を上にテーブルに並列させて、順々に捲った。

 五十二枚で一枚のミスもなかった。



「成功だな。38秒か、この前のSCCが確か41秒だろ」

「そうよ。20秒のあんたに比べたら大したことないかも知れないけど」

「そんなことねえよ。俺が抜くまでは日本記録は師匠の35秒だったことを思えば、匹敵してるよ」

「でも、大会だと五回やるでしょ。四回目ぐらいになるとミスが出ちゃうのよね」



 悩んでいる口ぶりで、弥冨は言う。

 なんだそんなことか、と蟹江は気軽に笑った。



「ようにスタミナを強化すればいいんだよ」

「それはわかってるけど、どうすればいいのよ?」

「走り込みだな」

「走り込み?」

「もしくは眠い状態でやるか」

「そんな状態じゃ覚えられないわよ」



 弥冨は蟹江の返答が腑に落ちない。



「初めはそうかもしれんが、疲れた状態を作り出して、身体を慣らしていくのが適解だと思うけどな」

「あんたはそうしてスタミナを強くしたの?」

「まあな。トランプ記憶の前にランニングして、帰ってきたら直後に記憶を始めるんだよ」

「そう。なら試してみるわ」

「でも、俺の言うことが最高の答えとは限らないぞ?」

「いいわよ。私はメモリスポーツに関してはあんたの言うことを信じてるから。実際結果を出してるわけだし」



 そう言って、信頼している笑みを浮かべた。
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