もしも、記憶力日本一の男が美少女中学生の弟子を持ったら

青キング

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二人の乙女のスピードカード

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 ランチタイムが終わり、午前と同じく会場に選手が戻ってきた。

 めいめいが席につき、記憶用トランプが配されると、計測前の集中状態へと整えていく。



「それでは計測を始めます」



 刈谷さんの声に選手たちは、各々の持ち方でトランプを手にして開始の合図を待つ。



「スタート」



 記憶時間の五分が始まる。

 合図とともに選手たちは一斉に記憶を開始。各々の計測タイマが進みはじめた。

 この時、三列あるスチールの長机の三列目右隅で、小牧も手元のトランプを繰り始める。



 目視した一枚ごとにトランプのマークと数字がイメージにめまぐるしく変換され、イメージそれぞれをストーリーとして繋げていく。

 彼女が今、使用しているルートは自室だ。



 ルートの一カ所目はドア。♧10→♤8→♧7→♢4、『工藤さん』が『スーパーマーケット』から『クナイ』を持って出てきて『山車』に向かって投げた。



 ルートの二カ所目は洋服ダンスの上。♧8→♤9→♢1→♤4、『クッパ』の中に『レスキュー隊員』が潜っていき『ダイヤ』と『寿司』を掘ってきた。



 ルートの三カ所目は窓。♧2→♡1→♢2→♧5、『国枝さん』が『ハイボール』のジョッキを『ダーツ』の的に投げたら弾かれて『籠』に入った。



 四カ所目、五カ所目、六カ所目、と脳内で部屋を見回しながら、次々から次へとイメージとストーリーを貼り付けていく。

 トランプの枚数も残り四枚になり、小牧は根を詰めて最後の四枚を変換させる。



 ルート最終の十三カ所目はカレンダー。♡8→♢9→♢K→♢5、『葉っぱ』が『ダック』の脚を『抱っこ』したら『タコ』に吸われた。

 五十二枚が左手に移動した時、スタックタイマを止めた。



 39秒42。



 表示されているタイムを目の端に見て、小牧は思わず喜びの声を上げたくなったが、なんとか自制した。

 記憶時間はゆうにまだ四分余りある。

 目を瞑る。

 より鮮明になって頭に写し出される自室の様相。

 残り時間、小牧はイメージとストーリーを貼り付けた部屋の中を、時間の限り何度も何度も駆け回った。



「記憶おわり。回答してください」



 刈谷が声の合図で記憶時間の終了を告げる。

 選手たちが回答用のトランプを手に握った。

 小牧もほぼ無意識に回答用トランプを掴むと、スタックタイマの前に五十二枚を一列、マークと数字だけを見えるように端が重なったまま広げた。

 ルートの一カ所目で展開されるストーリー、登場する順番そのままにイメージの該当する一枚を探し出して右手で取り、左手の中に積み上げていく。

 それを二カ所目、三カ所目、と辿っていき、最後の十三カ所目のトランプ四枚を左手に積まれたトランプの上に載せた。

 積み上げたトランプをテーブルに静かに元の位置に戻す。

 一連の動作が終わり、合間を作るように深く一息を吐き出した。



 回答時間はまだ二分ほど残っている。

 順番を間違いなく揃えられた確信はあったが、積み上げたトランプを再び手にして、念のために入れ違いがないか確認する。



「回答おわり。審判、答え合わせ」



 刈谷の声で今まで審判に回っていたBグループの選手が、同卓のAグループ選手のトランプの記憶用を持ち、答え合わせの準備が出来た。

 Aグループの選手は回答したトランプで、審判の男性とタイミングを合わせて、一枚ずつ捲って答え合わせをした。

 周りには途中で記憶と回答のトランプの札が別物で、気を落としている人も数人ほどいたが、小牧は一枚のミスもなく五十枚まで捲り終えた。



 五十一枚目、審判と同時に捲る。

 審判の札と小牧の札はどちらも♢Kだ。そのため五十二枚目は案の定、両方の札で♢5が現れた。



 記憶成功。タイム39秒98。

 40秒を切る自身最速のタイムに、小牧は右手を握るだけの控えめのガッツポーズで喜んだ。



 Aグループ四回目が終わりしばし緩んだ空気が流れたが、それも十分後Bグループの選手と席を交代した刹那から、また会場は私語を許さない静けさに包まれた。

 会場の左前隅の席でBグループの弥冨は、使用するルートを選んだ後、集中をたかめるために努めて雑念を排していた。



 各選手が記憶前の集中域に入るための時間が過ぎ、刈谷の開始の合図とともにBグループ選手が揃って記憶用トランプに視線を定めて、右手から左手へ流すように送り始める。

 開始の合図から一分もしないうちに、弥冨はスタックタイマの時間を止めて、トランプを伏せた。



 35秒42。



 わずかにだが、午前に自らが出した単発記録を更新した。

 記憶終了まで瞑目して、ルート以外の景色を目に入れないようにする。

 五分経過し、回答の時間が始まった。



 目を開け、無表情で回答のトランプを積み上げていく。

 回答の時間も終わり、答え合わせの段になっても緊張の色を一切見せずに、二束のトランプが同じマークと数字で捲れていくのを眺めた。



 五十二枚成功。



 弥冨はもっと速く出来る、と自信を深めた。
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