もしも、記憶力日本一の男が美少女中学生の弟子を持ったら

青キング

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約束

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 建物の外が暮色に染まった頃、結果発表を兼ねた閉会式が終わった。



 Bグループ五回目の挑戦で答え合わせの一致数が三十九枚目で止まった弥冨は、平均記録一位を逃して、単発記録一位の結果に終わった。五回全てで成功し、弥冨に次いで二位だった小牧が繰り上がり、平均記録で一位を獲得した。



 大会開催の記念を兼ねた参加者全員での集合写真のを撮影した後、周囲の人達から刈谷メモリースポーツクラブに勧誘される小牧を、部屋の隅で眺めていた蟹江は、不意に服の袖を引っ張られる。

 引っ張っている手を目で昇ると、弥冨の問い詰めるような顔に行き当たった。



「ちょっと来なさい」

「なんだ?」

「いいから来て」



 訳のわからぬまま弥冨に連れられ、会場の外の廊下に出る。

 弥冨が袖から手を離すと、蟹江に振り向いて眉根を寄せた。



「このまま続ける気なの?」

「何をだ?」



 弥冨の問いに、察しのつかない蟹江は尋ね返す。

 釈然としない視線を、弥富は会場内で多くの人から勧誘されて恥ずかしそうにしている小牧に向ける。



「師弟関係のことよ。あんたの弟子は規格外の実力を持ってる、悔しいけど負けたわ。でもあの子以外だって、あんたの弟子になりたい人はたくさんいるはずよ」

「そうだな」

「その人達をないがしろにして、あの子だけ特別に扱うのはやめた方がいいわよ」



 優等生だけ優遇されるのはおかしい、と訴える親のような指摘。

 蟹江は弥冨の顔を真っ直ぐ見つめて言葉を返す。



「俺も小牧が弟子になりたいって頼みに来た時、似たことをあいつに言ったよ」

「それなら、どうして?」

「話は単純だ。あいつが天才だからだ」

「天才って理由だけじゃ、他の人達は納得しないわよ。反発を買わないうちに、弟子をやめさせて普通の一人のメモリアスリートして接するべきよ」

「普通じゃダメだ」



 蟹江は断固たる口調で言い張った。

 普段は強い自己主張しない蟹江の強い口調に、弥冨はたじろぐ。



「どういうこと、それ?」

「周りの初心者と同じ境遇に置いても、小牧には合わない。普通じゃダメだ」

「なんで?」

「あいつは近い将来、世界で戦うプレイヤーになる。今のうちから高いレベルに身を置くべきなんだ」

「……」



 弥冨は何も言い返せなかった。

 世界の強者たちと渡り合う蟹江がここまで言うのだ。同じ天才として、相当に才能を見込んでいる。

 間違っていない、と悔しいながらも弥富は思った。同時に、蟹江と比較される少し特別な存在であり続けたい身勝手な願望が、自分の口を動かしている実感が伴い、歯噛みしたい気分になった。

 それでも願望を押し殺して、瞳に真剣さを湛えている蟹江へ顔を戻す。



「わかった。あんたがそこまで言うんなら、私も口出ししない」

「そうか、ありが……」

「でも、これだけは言わせて」



 蟹江の感謝の言葉を遮って、弥冨は付け加える。



「もしもあの子が原因であんたが腑抜けるようなことがあったら、その時はすぐに関係を絶ってもらうから」

「そんなことにはならねえよ、心配すんな。世界一になってもないのに、腑抜けてる余裕があるかよ」

「そう、その言葉が聞けて良かった」



 蟹江の返答に、厳しい表情を解いて口元を綻ばせる。



「それじゃ、私帰るわ。次は平均記録でもあんたの弟子に負けないから」



 小牧への対抗心をあからさまに言い残して、弥冨は出口に降りる階段へと歩き去っていった。

 夕暮れの陽光が窓を抜けて、建物の廊下を茜色に染め上げていた。


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