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英国からの渡来者
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イギリスのとある市中の国際空港。
異国情緒あふれるサファイアブルーの瞳に、ブラウスを押し出すたわわな双丘、輝くような金髪を真っすぐに下ろしたエミリー・ウィンターは空港の待合のベンチに腰掛け、多忙な兄の到着を待っていた。
携帯でに兄のトニー・ウィンターから待合にいるよう指示されてから、すでの一時間が過ぎ、エミリーの乗る飛行機便の発つ時刻が迫っている。
待っている旨をメールで送ってから数分後、兄から返信が来る。メールの文面はもちろん英語だ。
メールを開くと、先程空港に着いたという。
立て続けにメールが送られてきて、どこにいる、と質問された。
右隅、と送り返すと了解と返ってくる。
「いた、エミリー」
兄とのメール経歴を特に意味もなく眺めていたエミリーの耳に、聞き馴染んだ兄トニーの声が届く。
携帯から目を離して声の方に首を上げると、待合を囲むパーティションの間から顔を出してトニーが息を乱していた。
トニーはエミリーと目が合うと、朗らかな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「エミリー、なんとか間に合ったよ」
「仕事抜け出してきたの?」
「いや、早めの昼休憩をもらった」
妹の出発に間に合うように同僚から計らってもらったことを、苦笑して告げた。
エミリーはトニーへ気遣うような目を向ける。
「メモリースポーツの講師の仕事も意外と大変ね。兄さんなんか特に生徒が多いから」
「自分がしたくてしてるんだ。仕方ないよ」
「世界一位だからね、兄さんは。憧れる生徒も数知れないわ」
エミリーがニヤニヤと冷やかす。
「あんまり持ち上げるな。たかだが世界大会で二連覇しただけのことじゃないか」
トニーは自負していないが、一昨年と昨年の記憶力世界大会で総合一位を二年連続で獲得したメモリーアスリートの中でも随一の実力者である。
「たかだがって、二連覇じゃ満足しないってこと?」
驚異的なものを見る目をして、エミリーは首を傾げた。
そういうことじゃなくて、とトニーは妹に説く。
「二連覇したといっても、全種目で一位だったわけじゃない。全種目で一位になってこそ、ほんとの世界一だと思うよ」
記録力世界大会は全部で十種目もあり、トニーはその内の七種目で一位だった。
「謙虚ね、兄さん」
そう言って、感心したように微笑んだ。
トニーはカジュアルな装飾の腕時計で時刻を確認する。エミリーが搭乗する飛行機のフライト時刻まで、十分もない。
他愛もない会話をやめて、トニーは本題を切り出す。
「エミリー、伝えといたほうがいいと思う話があるんだ」
「うん? なあに兄さん?」
「日本に行っても、人にあまり迷惑かけるなよ」
「そんなこと? わかってるわよ、兄さんは私が人様の迷惑になるようなことを妹だと思うの?」
当たり前のことをどうして、というふうに肩をすくめる。
飄々とした妹の態度に、トニーは気苦労を感じて溜息を吐く。
「人様の中でもとりわけカニエには、あまり迷惑かけないようにしてくれ。カニエだって暇じゃないはずだ」
「カニエが嫌と言わない限りはいいでしょ?」
「限度ってものが必要だ。君のカニエに対する態度は、日本人を相手にしては度を超えてる」
「仕方ないわよ、私日本人じゃないから」
「開き直るな。とにかくカニエに迷惑をかけないでくれ」
「はいはい、わかった」
おざなりな返事をして、エミリーは自身の腕時計に目を落とす。
搭乗口に行くべき時間が来た。エミリーは兄の酸っぱい説諭から逃れられる嬉しさで、満面で笑顔になる。
「そろそろ行くわ。それじゃあね、兄さん」
兄と一時期遠く離れて暮らすというのに、わずかの惜別の情もない弾んだ声音で別れを告げると、英語の鼻歌を奏でながら搭乗口に足を進めていった。
トニーは安心しきれない心持ちで、妹の後姿を見送った。
異国情緒あふれるサファイアブルーの瞳に、ブラウスを押し出すたわわな双丘、輝くような金髪を真っすぐに下ろしたエミリー・ウィンターは空港の待合のベンチに腰掛け、多忙な兄の到着を待っていた。
携帯でに兄のトニー・ウィンターから待合にいるよう指示されてから、すでの一時間が過ぎ、エミリーの乗る飛行機便の発つ時刻が迫っている。
待っている旨をメールで送ってから数分後、兄から返信が来る。メールの文面はもちろん英語だ。
メールを開くと、先程空港に着いたという。
立て続けにメールが送られてきて、どこにいる、と質問された。
右隅、と送り返すと了解と返ってくる。
「いた、エミリー」
兄とのメール経歴を特に意味もなく眺めていたエミリーの耳に、聞き馴染んだ兄トニーの声が届く。
携帯から目を離して声の方に首を上げると、待合を囲むパーティションの間から顔を出してトニーが息を乱していた。
トニーはエミリーと目が合うと、朗らかな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「エミリー、なんとか間に合ったよ」
「仕事抜け出してきたの?」
「いや、早めの昼休憩をもらった」
妹の出発に間に合うように同僚から計らってもらったことを、苦笑して告げた。
エミリーはトニーへ気遣うような目を向ける。
「メモリースポーツの講師の仕事も意外と大変ね。兄さんなんか特に生徒が多いから」
「自分がしたくてしてるんだ。仕方ないよ」
「世界一位だからね、兄さんは。憧れる生徒も数知れないわ」
エミリーがニヤニヤと冷やかす。
「あんまり持ち上げるな。たかだが世界大会で二連覇しただけのことじゃないか」
トニーは自負していないが、一昨年と昨年の記憶力世界大会で総合一位を二年連続で獲得したメモリーアスリートの中でも随一の実力者である。
「たかだがって、二連覇じゃ満足しないってこと?」
驚異的なものを見る目をして、エミリーは首を傾げた。
そういうことじゃなくて、とトニーは妹に説く。
「二連覇したといっても、全種目で一位だったわけじゃない。全種目で一位になってこそ、ほんとの世界一だと思うよ」
記録力世界大会は全部で十種目もあり、トニーはその内の七種目で一位だった。
「謙虚ね、兄さん」
そう言って、感心したように微笑んだ。
トニーはカジュアルな装飾の腕時計で時刻を確認する。エミリーが搭乗する飛行機のフライト時刻まで、十分もない。
他愛もない会話をやめて、トニーは本題を切り出す。
「エミリー、伝えといたほうがいいと思う話があるんだ」
「うん? なあに兄さん?」
「日本に行っても、人にあまり迷惑かけるなよ」
「そんなこと? わかってるわよ、兄さんは私が人様の迷惑になるようなことを妹だと思うの?」
当たり前のことをどうして、というふうに肩をすくめる。
飄々とした妹の態度に、トニーは気苦労を感じて溜息を吐く。
「人様の中でもとりわけカニエには、あまり迷惑かけないようにしてくれ。カニエだって暇じゃないはずだ」
「カニエが嫌と言わない限りはいいでしょ?」
「限度ってものが必要だ。君のカニエに対する態度は、日本人を相手にしては度を超えてる」
「仕方ないわよ、私日本人じゃないから」
「開き直るな。とにかくカニエに迷惑をかけないでくれ」
「はいはい、わかった」
おざなりな返事をして、エミリーは自身の腕時計に目を落とす。
搭乗口に行くべき時間が来た。エミリーは兄の酸っぱい説諭から逃れられる嬉しさで、満面で笑顔になる。
「そろそろ行くわ。それじゃあね、兄さん」
兄と一時期遠く離れて暮らすというのに、わずかの惜別の情もない弾んだ声音で別れを告げると、英語の鼻歌を奏でながら搭乗口に足を進めていった。
トニーは安心しきれない心持ちで、妹の後姿を見送った。
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