もしも、記憶力日本一の男が美少女中学生の弟子を持ったら

青キング

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小牧のMLデビュー戦

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 蟹江と小牧は仕事仲間と会う約束があるというエミリーと別れて、蟹江の自宅に帰ってきた。

 小牧はいきなり蟹江に所望する。



「師匠、早速『MEMORY・GAME』やってみたいです」

「ちょっと待ってろ。準備するから」



 蟹江は真っ先にリビングテーブルの上に置かれているノートパソコンを立ち上げる。

 ピン留めしてある『MEMORY・GAME』のサイトをクリックした。

英語表記でサイト名が書かれた水色の円環の中に抽象化された像の顔が描かれたロゴが画面の中心に現れ薄くなって消えた後、サイトのホーム画面が開かれた。

 ホーム画面では、プレイヤー間の対戦経歴の直近五試合、プレイヤーのランク昇格の情報などの閲覧ができる。

 小牧は蟹江の後ろから画面を覗き込んだ。



「あんまりゲームっていう感じの画面じゃありませんね」

「あくまでメモリースポーツのサイトで、客寄せする必要がないからだろ」

「プレイヤーはどれくらいいるんですか?」

「どうだろう、二千人ぐらいじゃないなかったかな」

「少なくないですか?」

「宣伝とか広告を出したりしてないみたいだからな、中々人も集まりにくいんだろう」



 わずかに寂しさを交えて蟹江は言った。

 小牧はホーム画面上のタブ欄の一つを指さす。



「これ、なんですか。レートランキング?」

「ああ、これか」



 蟹江が小牧の指さすタブをクリックすると、画面が切り換わり、レートポイントの順位が現れた。

 二位の枠には、ローマ字表記で蟹江の名前が。



「師匠、凄いですね。二位ですか」

「それほどでもないよ。所詮二位だ」



 微かにも嬉しさを見せず、蟹江は謙遜する。



「これ、何て読むんですか?」



 小牧は蟹江の一つ下の順位にある名前に指先を向ける。

 その枠のプレイヤー名は日本語ましては英語ですらない、わざと流して書いたような複雑な線と点の組み合わせの言語。

 その名前を見て、蟹江はああ、とすぐに理解する。



「これアラビア語で、プレイヤーはアブラヒムだよ」

「師匠、読めるんですか?」



 しれっと言う蟹江に、小牧は目が飛び出そうな思いで尋ねる。

 蟹江は苦笑した。



「アラビア語は読めないよ。けど、『MEMORY・GAME』界隈ではこの名前がアブラヒムだっていうのは大体の人が知っていることだから」

「あの人、認知度高いんですね。やっぱり世界ランク四位だからですかね」



 小牧は改めてアブラヒムにメモリーアスリートとして敬意を抱くと同時に、自分がそんな人物から褒められた事実を思い出し、恐れ多く身の縮まる感じがした。

 彼女が一人で恐縮している間に、蟹江は『バトル』のタブをクリックして、レートポイントの画面から移動した。

 『バトル』メニュー画面が出てくると、蟹江は小牧を振り向く。



「小牧、今から試しに俺が一戦やるから見ててくれ」



 蟹江に指示されて、小牧は先日の記憶から意識をパソコンの画面に戻す。



「お前にもわかるように、『Cards』にしとくか」



 蟹江は五種目のうちトランプ記憶で競う『Cards』を選んで、対戦相手とマッチングするのを待った。

 待つこと数秒、マッチングが完了する。

すぐに対戦画面に切り換わると十秒のカウントダウンが始まり、蟹江は使用するルートを脳内に広げた。

 カウントダウンがゼロになると、画面中央にずれて四枚重なった♡10、♧9、♧2、♢5のトランプの札と、四枚の下には右と左に矢じりを向けた青の矢印が出現する。

 四枚をイメージに起こし、それらをストーリーとして連絡させ、蟹江はプレイスに貼り付けた。

 右の矢印をクリック、新しく次の四枚が現れる。

 クリックを繰り返すこと十三回、蟹江は五十二枚全て覚えた。記憶時間の大半が残っていたが、タイムアップする。記憶に要した時間が矢印群の下に表示される。



20秒19。



 回答に移る前に、二十秒のカウントダウンが始まる。

 蟹江はカウントダウンの間に、プレイスに貼り付けたストーリーを辿り直した。

 カウントダウンの数字がなくなり、回答時間に入る。

 画面に五十二枚分の枠が用意され、画面下の縁に左から♧、♢、♡、♤の順で頭を飛び出させて並んでいる。

迷いない手つきで該当する札を選んでいき、蟹江は一枚のミスもなく対戦結果を待った。

 相手の回答も終了し、双方の結果が表示される。

 相手は48秒33、二枚のミスがあり、結果は蟹江の勝利。

 レートポイントの数値が画面上部に現れ、50ポイント加算された。

 一戦を終えると、蟹江は画面から顔を離して小牧に視線を移す。



「どうだった、大体ルールと操作は理解できたか?」

「はい」

「なら、早速対戦してみろ」



 そう促して、テーブルの上で小牧の方へパソコンを横に押し滑らせる。

 小牧はパソコンの前に腰を下ろして、緊張した面持ちで画面を見つめてマウスを手で包んだ。



「い、いきます」



 先程の蟹江の見よう見まねでマッチングを開始、間もなく対戦が組まれた。

 十秒のカウントダウンの後、四枚のトランプが蟹江の時と同様の形式で出現する。

 出てきた四枚を覚えて、おぼつかない指でクリック――するが、右矢印にカーソルを合わせておらず、次の四枚が現れない。

 クリックしても次が来ないことに、小牧は内心首を捻りつつも幾度も指で押した。

 トランプが進まないまま五秒近くが経過し、助けを求めて縋るような目で蟹江を振り向く。



「下だ、下」



 小牧のレスキュー要請に、蟹江は手振りを使って指示する。

 蟹江の指示を聞き入れ、カーソルをのろのろと右矢印へ動かした。

 その間にも制限時間は減っていき、最初の四枚で止まったまま十五秒が過ぎていた。



「もっと早く動かせるって」



 もたつく小牧を見かねて、蟹江はマウスに手を伸ばした。

 よってマウスを包む小牧の手の上から、さらに蟹江の手が覆いかぶさる。



「あぅ」



 突然手を重ねられて、小牧は心臓が跳ね上がる驚きで、か細く短く声を漏らした。

 右の矢印にカーソルが合うと蟹江はマウスから手を離したが、不意を打たれ手を重ねられた小牧は、プレイスも頭に浮かばずぼおぅとした。



「あとはクリックだけすればいい」

「えっ、あ、はい」



 蟹江の声でようやく画面に意識を戻し、次の四枚へ送る。

 しかし小牧は流れていくトランプの札を見つめるだけで、蟹江の手の感触が忘れられずに頭の中を乱していた。

 結局、制限時間が過ぎて回答に移ったが、集中力散漫で五十二枚も覚えられているはずもなく、最初の四枚以外、ほぼでたらめに回答する羽目になった。

 YOU LOSEの文字が画面に浮かぶ。

 蟹江のレートポイントが50ポイント減退した。



「ごめんなさい」



 大いに精彩を欠いた敗北をして、蟹江のレートポイントを下げてしまったことに申し訳なさが立って謝った。

 蟹江は温容に微笑む。



「ポイントの事は気にするな。初心者のお前が負けることも考えに入れてなきゃ、アカウントを貸してないよ」

「そうですか」



 ランキングが下降することも顧みずに自分の希望に付き合ってくれる蟹江を、小牧は感謝の気持ちで見つめた。

 感謝の気持ちとともに、弟子として情けない敗北ばかり出来ない、と意気込み心も持った。

 その日小牧は蟹江から種目ごとの説明と指導を、親の決めた自宅の門限が迫るまでみっちり受け続けた。
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