もしも、記憶力日本一の男が美少女中学生の弟子を持ったら

青キング

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逆らえない

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 門限である七時の数分前に、小牧はなんとか自宅の玄関を潜った。



「遅かったわね、梨華」



 門限に間に合い沓脱で安堵している小牧に気付いてか、リビングからエプロンを着けた神経質そうな顔立ちの母親が顔を出す。

 母親は訝しむ目で、小牧に尋ねる。



「何をしていたの?」

「ええと、友達と買い物してました」



 小牧は少し畏縮気味に母親の目を見返して答えた。



「どこで買い物してたの?」

「学校近くのブティックのお店です」

「何を買ったの?」

「あたしは何も買ってません。友達の買い物に着いていっただけです」

「友達って、前と同じ子?」

「はい」

「そう」



 母親は小牧の答えに納得して、リビングの中に戻る。



「夕食、早く食べなさい。片付かないから」

「はい」



 小牧は母の言葉に、諾々と返事をする。

 ハンドバッグを提げたままリビングの中へと足を向かわせ、彼女の分の夕食をテーブルに並べている母親の後ろに立ち用意されるのを待った。



「ほら、食べなさい」



 母親が食器を並べ終えてテーブルから離れると、小牧は所定の席に腰掛けた。

 姿勢良く座り、手を合わせる。



「いただきます」



 箸を手にして、料理を静かに口に運んだ。



「学校の方はどうなの?」



 母親が厳粛な口調で、食器洗いをしながらキッチン越しに問うた。

 箸を止めて顔を上げ、小牧は答える。



「何事もないよ」

「そう。ならいいわ」



 そう言って話は終わりとばかりに、母親は口を閉じて洗い物に意識を戻す。

 リビングには小牧が動かす箸以外の音が無く、短い会話が終わった途端に、室内に沈黙が降りた。

 しかし小牧は沈黙を気にせずに無言で食事を進めて、十数分後に完食すると箸を箸置きに置いて手を合わせた。



「ごちそうさま」



 小牧が食べ終わると、それまで無言だった母親がキッチンからダイニングに出てくる。



「後片付けはやっておくから、あんたは部屋で勉強しなさい」

「はい……」



 小牧は歯切れ悪く声を返す。

 どうかしたの、と母親は訊く。



「お母さん、あたし欲しい物があるんだけど」

「何?」



 煩わしそうに訊き返してくる。



「パ……」



 小牧は開こうとした口をすぐに噤んだ。

 母親の態度からして許可をもらえる見込みがない、と改めて認識した。



「いや、なんでもない」

「なんでもないことはないでしょう。お母さんに言えない物?」



 言葉の途中で口を噤んだ娘を、疑りの目で見る。

 小牧は視線を俯けて首を横に振った。



「それなら、はっきり言いなさいよ。何が欲しいの?」

「……」



 自儘な欲を口に出来る相手ではないと知っている小牧は押し黙った。

 娘の無言を訝しみ、母親は詰め寄るように問う。



「何が欲しいの、言ってみなさい」

「欲しい物なんてない」

「さっき欲しい物があるって言ったじゃない。あれは嘘?」



 小牧は頷いた。

 しかし母親の疑いは晴れずに、むしろ口調を激しくする。



「ほんとの事を言いなさい。何が欲しいの?」

「……」

「黙ってたって、はいはいとはなりませんよ」



 言ったってどうせ許可してくれないくせに、と小牧は内心腹を立てる。

 とその時、脱衣所から一人の足音が廊下を歩いてきた。

 足音を聞いて、母親がリビングから顔を出す。



「あなた、ちょっと」



 あなたと呼ばれた小牧の父親は、風呂上がりで手招きされて、リビングへ足を速めた。

 リビングに来て、小牧の俯く姿を認めると首を傾げる。



「何かあったのか、梨華?」

「梨華が欲しい物があるっていうのに、それが何かを話してくれないんですよ」

「そういうことか。梨華、欲しい物ってなんだ?」



 質問者が入れ代わって、上っ面は温厚な口調で小牧を詮索する。

 小牧は頑として答えずに緘黙を貫く。

 だんまりを決め込む娘に、父親も疑いを増幅させる。



「答えろ」



 直截に訊いても答えないとみて、父親は語調を凄ませた。

 びくりと小牧は肩を震わせる。

 娘の怯えるような様子に、途端に語調を柔らかくして気の毒そうに尋ねる。



「父さんもお前を怒鳴りたくはない。叱らないから正直に答えてくれ」

「ぱ、パソコンです」



 恐る恐る父親の言葉を信じて、小牧は欲を口にした。

 父親は目に怒りを浮かべる。



「パソコンだと。あんなものが欲しいのか」

「必要なんです」

「お前には必要ない。あんな全国中高生の学業成績低下の原因になっているものが」

「でもお父さん、パソコン持ってる」

「あれは仕事用だ、決して娯楽に使う物じゃない」



 言い聞かすように父親は弁明する。

 用途を明かしても受け入れてもらえないだろう、と小牧は言い返す気力をなくした。

 反論の言えない小牧を見て勝手に聞き入れたと思い、父親は幾分口当たりを弱くする。



「さ、わかったら勉強だ。母さんから聞いたぞ、この前のテスト少し成績を落としたらしいじゃないか。次は巻き返すんだぞ」



 勉強、勉強ってあたしに一体何になれっていうの?

 小牧はそんな憤懣が心の底から湧いては来るが、



「はい」



 両親への屈従に慣れた心が胸に湧き出た文句を喉に留めさせて、小牧は従う体をして両親へ頷いた。

 両親からの見張るような視線を感じながらリビングを後にし、自室のある二階への階段を小牧は憤懣を抱えながら重い足取りで昇った。

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