もしも、記憶力日本一の男が美少女中学生の弟子を持ったら

青キング

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 両親の頑迷さを小牧が改めて思い知った日から一週間が経ったこの日。

 この日、蟹江の自宅でパソコンを借り、小牧は『MEMORY・GAME』の対戦に興じていた。



 テーブルの席に座る小牧は、集中した目で画面を見つめる。

 彼女は今、五種目のうちの一つであるNumbersの回答を始めるところだ。

Numbersは八十桁のランダムの数字列が一分間表示され、その一分以内に順番通り記憶する種目だ。

 小牧は脳内のルートを辿る。

 一カ所目は校門。二桁を一イメージとして、ストーリーを作りあげていた。



 校門の前で、パソコンを打つ『仕事(45)』をしている人が、『刺身(34)』を口に咥えて、『試算(43)(算盤を弾く)』を始めると、『菜の花(78)』が落ちてくる。

 と、このように4in1で20プレイス分記憶してある数字を、一桁目から順番通り八十ある回答の欄に数字を打ち込んでいく。

 時間を一分ほど残して、小牧は自信あふれる顔で回答を終えた。

 対戦相手の回答も終了し、勝負結果が映し出される。

 小牧の記録は49秒12 80/80だ。果たして。 



 YOU WIN



 相手も中々の強者らしく66桁一致していたが、小牧は80桁の一致で相手を上回っていた。

 テーブルの下で小さく拳を握るガッツポーズをする。

 画面から顔を上げて、向かいに座ってスマホを弄る蟹江に嬉々と話しかけた。



「師匠、また勝ちました。これで五連勝です」

「そうか、さすがだな」



 口ではそう褒めるが、蟹江はスマホを見つめたまま気のない返事をした。

 関心を示してくれない蟹江に、小牧は不満げに言う。



「弟子が連勝してるんですよ。もう少し喜んでくれてもいいじゃないですか」

「お前の実力なら五連勝ぐらいしてもおかしくないからな」



 太鼓判を押すような賛辞を口にする。



「そ、そうですか?」

「そうだ。現にスピードカードで30秒台出してるんだから、数字が苦手になる理由がない」

「あ、ありがとうございます」



 師匠からのお褒めの言葉に、小牧くすぐったそうには照れた。

 連勝記録を延ばしてさらに褒めてもらおうと、パソコン画面に目を戻す。

 するとその時、タブのホームの位置に情報が更新されたことを表わす赤いポイントがくっ付いているのを見つけた。

 小牧はまだ慣れきっていないマウス操作で、カーソルをホームに合わせてクリックした。

 数秒のローディングの後、ホーム画面が開く。



「なんだろう?」



 小牧は画面右隅に枠取りされた欄に目が留まる。

 枠の中で日本の国旗とともに『JAPAN MGC』と大きい文字で書かれてある。



「師匠?」

「うん?」

「これ、なんですか?」



 画面を指さして蟹江に尋ねる。

 蟹江は席を離れて小牧の横に来ると、小牧の指さす先を追う。



「ああ、これか」



 瞬間、理解した顔で微笑む。



「これは大会の告知だ」

「大会。なんのですか?」

「このゲームで使用した大会があるんだ。『MEMORY・GAME・CHAMPIONSHIP』、訳してMGCだ」



『MEMORY・GAME・CHAMPIONSHIP』とは、サイトのユーザーが参加できる『MEMORY・GAME』の公式大会であり、国の代表を決める予選とそれを突破した人のみが出場できる各国のチャンピオンが集まる本選がある。



「日本の国旗があるので、日本で開催するってことですか?」

「その告知は国内予選のだな」



 小牧の目の色が強い意欲を持つものに変わる。



「師匠!」



 蟹江を振り向き、弾む声で言う。



「この大会に出たいです」

「それはできない」



 蟹江はすまなそうな顔をして、そう返した。

 小牧の予想とは違った、ふざけたようには見えない師匠の言葉に、ほんとうに理由がわからず尋ね返す。



「なんでですか?」

「MGCに出場するには、本人のアカウントが必要なんだ。どうしてお前が大会に出られないかわかるだろ?」

「そういうことですか。あたし、パソコン持ってませんので出られませんね」



 小牧の目から意欲が消え、明らかな落胆を浮かべた。

 蟹江は気を落とす小牧を慰める。



「大会に出たいお前の気持ちもわかるが、パソコンでプレイする『MEMORY・GAME』の大会である以上は仕方ない。一年後にまた……」

「はい、仕方ないですよね」



 小牧は蟹江の言を遮るように、自分へ無理矢理言い聞かして納得した表情で言った。

 申し訳なさそうにする蟹江に、一度表に出した落胆を引っ込めて微笑む。



「今回は諦めます。お小遣い貯めてパソコンが買えるまで辛抱します」

「そうか……」



 蟹江が見たことない小牧の微笑だった。残念そうな我慢するような、しかしそれを隠して迷惑をかけるのを避けるような。



「さあ、次の対戦やりますよ師匠」

「ああ、頑張れ」



 小牧は気を取り直した声で、再びマッチングを開始する。

 気丈を装う弟子の横顔を見ながら、蟹江の頭には一つの解決策が組みあがっていた。
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