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第二章 日常生活

部活動(捌)

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 さっき聴こえたノイズについて説明すると、部長さんはそのときの会話内容を覚えていた。
 事前にノイズが入ることを知っていたわけではないのに、普段から会話内容を覚えているのだろうか。
 もしかしたら、ノイズの件があるから意識してくれていたのかも知れない。
 わたしが感心と感謝をしていると、部長さんが考え事を始める。

「性別に関する単語にノイズが入るのか? けど、あのとき……」

 呟いている内容を聞いていると、やはり偶然覚えていたわけではなく、会話内容を覚えているようだ。
 記憶力がよいというのとは、ちょっと違うと思う。
 観察力があるのだと思う。
 その証拠に、少し考えただけで、気になる点が出てきたようだ。
 会話内容を分析している部長さんを邪魔しないように眺めていると、その視線がこちらに向く。

「……なあ、アイザワさん」
「なんでしょう?」

 部長さんの視線が少し動いて、わたしが膝枕をしているイトウさんに移る。

「アイザワさんは、■■■■■■について、どう思う?」
「えっと・・・ノイズで聞こえませんでした」
「ふむ。では、違う質問をしよう」

 今のノイズは、おそらく、わざとだ。
 ノイズの入る内容を、わざと質問したんじゃないかと思う。
 だとすれば、部長さんはノイズについて何か解ったということになる。
 それが何か気になったけど、違う質問をすると言っているから、おとなしくそれを聞くことにする。
 すると、部長さんがいたらずらっぽくニヤリと笑う。

「女子高生のおっぱいは好きかい?」
「部長! なに言ってるんですか!?」

 部長さんの質問は、きっとノイズに関することだ。
 だから、わたしは真剣に考える。
 自然に頭に浮かんだのは、さきほどの感触だ。
 それを反芻しながら、わたしは答える。

「大好きです」
「答えるんだ!? しかも、大好きって……」

 なぜか副部長さんが赤い顔でわめいているけど、とりあえず放っておく。
 今は部長さんの質問の方を優先する。

「揺れているのを見ていると、食べちゃいたくなります」
「ほほう。なかなかツウだね」

 実際、イトウさんのおっぱいを触ったときは、お餅やプリンを思い出した。
 そうだ。
 プリンを包んだ大福というのはどうだろう。
 お餅の皮をできるだけ薄くすれば、似たような揺れを再現できるんじゃないだろうか。
 食べても、きっとおいしいはずだ。
 今度、イトウさんと一緒に作ってみよう。
 見本が近くにあれば、再現度も高くなるはずだ。
 そんなことを考えていると、部長さんが次の質問をしてくる。

「ちなみに、自分の■■■■は好きかい? アイザワさんだって、■■■■だろう」
「……あれ?」

 わたしは首を傾げる。
 前後の文脈から判断して似たような質問のようなのに、さっきの質問にはノイズが入らず、今の質問にはノイズが入った。
 これは、おかしなことなんじゃないだろうか。
 今までは、ノイズのことを知らない人に質問内容を再確認することができないから、聞き流すことしかできなかった。
 でも、改めて考えてみると疑問に感じる。
 そのことを訊いてみようと思って部長さんの方を見ると、部長さんの表情が変わっていた。

「どうしたんだい? 今の質問にはノイズが入ったかな?」

 笑顔なのは変わらないけど、いたずらっぽい笑顔から、好奇心を満たされて満足した笑顔に変わっていた。
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