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第三章 非日常生活

合宿(漆)

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「ユウ……レイ……?」

 ギギギッという音がしそうな感じで、イトウさんが視線を動かす。
 動かした先にいるのは、部長さん、副部長さん、わたしだ。

「?」

 部長さんは、きょとんとしている。

「(ふいっ)」

 副部長さんは、視線を逸らした。

「…………」

 どうしよう。
 視線を逸らすわけにもいかないし、何か喋った方がいいとは思うのだけど、気の利いた台詞が思いつかない。
 でも、何も話さないわけにはいかない。
 だった、イトウさんが、じっとこちらを見詰めて、視線を逸らす気配がないのだ。
 仕方ないので、思い付くまま、口を開く。

「えっと……妖精と幽霊って、親戚みたいなものだよね?」

 その後、暴れるイトウさんをみんなでなだめるのに、三十分くらいかかった。

 …………

 宿での夕食後。
 部屋にはすでに布団が敷かれている。

「もう! みんなひどいですよ!」

 なんとか機嫌を直してくれたイトウさんだけど、まだ少しぷりぷりしている。
 お風呂で背中を流してあげたときは上機嫌だったんだけど、また文句を言い出した。
 ちなみに、宿に温泉は無いらしく、沸かし湯の内風呂だった。
 温泉があるのは、山を登った場所らしい。

「夜に探検は無しですからね」
「わかっているさ。もともと、探検は昼間の予定だよ」
「夜に山を登るのは危ないしね」

 イトウさんの念押しに、部長さんと副部長さんが答える。
 その答えに、イトウさんは一応納得した態度を見せる。
 けど、実はこのやりとりは数回目だったりする。
 かなり、疑り深くなっているようだ。

「それより枕投げでもするか」
「…………」

 修学旅行のノリで部長さんが言った台詞に、イトウさんが無言で立ち上がる。

 ぶんっ!

「わぷっ!」

 イトウさんが力いっぱい投げた枕が部長さんの顔面にヒットした。

「お! やる気だな! 受けて立つぞ!」

 部長さんも負けじと投げ返す。
 唐突に始まった枕投げは、あっと言う間に激しさを増し、わたしでは止められそうにない。
 この場で唯一の男である副部長さんに期待を込めた視線を向けると――

「あ、じゃあ、僕はそろそろ自分の部屋に行くね」

 ――逃げられた。
 楽しそうに枕を投げる部長さんと、ストレス解消するように枕を投げるイトウさん。
 二人を止めるのは、わたしの役目になりそうだ。
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