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サマー・ベジタブル
めざめ(その7)
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『今日は苗をホームセンターに出荷するぞ』
ついに、そのときが来た。
空気を振るわせるニンゲンどもの声が意味するところは分からなかった。
しかし、行動で何が起きているのかは分かった。
吾輩と親友は同じ箱に入れられ、場所を移動させられる。
「ついに来たな」
親友はすでに覚悟を決めているようだった。
「吾輩たちもついに売りに出されるのか」
まだ、しばし親友と一緒のようだが、もうカウントダウンは始まっている。
買い手の気まぐれで、吾輩と親友は一緒になることもあれば、バラバラになることもある。
望みを聞いてもらうこともできない。
ガタン。
振動とともに、吾輩たちを入れた箱が、置かれる。
どうやら、ここが目的地らしい。
今までいた場所とは、何もかもが違う。
冷たい空気、強い風、空を飛ぶ虫。
世界が変わった。
「ここが外の世界か」
開けた空間は、どこまでも広がっている。
未来への不安とともに、期待も感じる。
これから待ち受ける運命にも希望を持てる。
「盛り上がっているところ悪いが、ここはまだまだ入口だ。本番はこれからだ」
親友が声をかけてくる。
吾輩と同じく気分が高揚しているようだが、楽観はしていないようだ。
気を引き締めるように、手足を伸ばしている。
「見ろ。オレたちの主人になるかも知れない連中がきたぞ」
そう言って、注意を促してくる。
「あれが……」
その姿は巨大だ。
今まで吾輩たちを支配していた連中と似ているが、個体差が大きいようだ。
小さめの個体もいれば、大きめの個体もいる。
そして、身体の表面に皺が寄った個体や、身体が曲がっている個体もいるようだ。
このニンゲンたちがいずれかが、吾輩たちの新たな主人になるというわけだ。
『ねぇ、これ欲しい!』
ニンゲンたちの何体かが、こちらに近づいてきた。
『あら、水茄子ね。いいんじゃないかしら。漬物にしたら、おいしいわよ』
ぐいっ。
吾輩が足を延ばす敷地が、無造作に持ち上げられる。
隣を見ると、親友も同じことをされていた。
淡い期待が胸に沸き起こる。
『じゃあ、これ買って!』
『二つはいらないわよ』
『えーっ!』
『一つにして別のものも植えましょうよ。色々育てられた方が嬉しいでしょ?』
『うん! じゃあ、そうする』
突然、吾輩だけが元居た場所に戻された。
「なぜだ! 同じ場所にいけるのではないのか!」
一度、期待を持ってしまったために、それを裏切られたという思いが強い。
覚悟はしていたはずなのに、ショックが大きい。
そんな吾輩を慰めるように、親友の声が聞こえる。
「ふっ。ここでお別れのようだな」
親友は余裕の態度を崩さない。
「親友……」
吾輩たちは自分の意思で自由に移動することができない。
一度別れてしまえば、それは今生の別れになるだろう。
だが、親友の表情に影はない。
「先に新天地に行っているよ」
世間話をするかのように、そう言ってくる。
「……ああ」
吾輩としても、そう答えるしかない。
「そんな顔をするな。せっかくの旅立ちだ。笑顔で見送ってくれ」
親友も別れを残念がっている。
だからこそ、笑顔での別れを望んでいる。
それに応えないわけにはいかない。
「ああ!」
虚勢だと分かっているが、無理にでも笑顔を振り絞る。
去来するのは親友と過ごした日々だ。
思えば出会ったときもそうだった。
吾輩が暗い顔をしていたのを、立ち直らせてくれたのだ。
親友自身も不安であるはずなのに。
「じゃあな。お互い目的が果たせるように頑張ろうぜ」
去るのは親友だ。
なのに、励まされているのは吾輩だ。
「当然だ! 親友の目的が叶うことを祈っている!」
ただ、励まされるわけにはいかない。
吾輩も激励の言葉を返す。
「オレもあんたが目的を達成するのを祈っているよ」
次第に離れていく親友。
その姿が視界から消えるまで見送り、視界から消えても見送り続けた。
あまりにも、あっけない別れだ。
だが、思い返せば、今までの別れも似たようなものだった。
吾輩たちの意志とは関係なく、唐突に引き離される。
「さて」
いつまでも感傷に浸っているわけにもいかない。
次は吾輩の番だ。
なるべくよい環境にいけるように、手足を伸ばしてアピールする。
☆★☆★☆★☆★☆★
結局、親友が買われていった日は、吾輩が買われることは無かった。
初めて過ごす外の世界での夜。
寒かった。
これまでのような快適な気温が保たれているわけではない。
親友はまだ入口だと言っていたが、吾輩は早くも世界の厳しさを感じ始めていた。
『うーん……これがいいかしら』
次の日。
再び目の前にニンゲンが訪れた。
そっと吾輩を持ち上げる力は優しい。
『葉の大きさや色もいいし、虫もついていないようだし、これにしようかしら』
身体の表面に皺が寄っているニンゲンだった。
巨大な目玉が吾輩を観察している。
向きを変えながら、全身を隈なく見つめられる。
ふわり。
身体が運ばれていく。
どうやら吾輩も行き先が決まったようだ。
そしておそらく次の場所が、吾輩が一生を過ごすことになる場所だ。
生まれた頃を思い出し、ひさしぶりに日光浴でもしたい。
そんなことを考えながら、新天地へ向かった。
ついに、そのときが来た。
空気を振るわせるニンゲンどもの声が意味するところは分からなかった。
しかし、行動で何が起きているのかは分かった。
吾輩と親友は同じ箱に入れられ、場所を移動させられる。
「ついに来たな」
親友はすでに覚悟を決めているようだった。
「吾輩たちもついに売りに出されるのか」
まだ、しばし親友と一緒のようだが、もうカウントダウンは始まっている。
買い手の気まぐれで、吾輩と親友は一緒になることもあれば、バラバラになることもある。
望みを聞いてもらうこともできない。
ガタン。
振動とともに、吾輩たちを入れた箱が、置かれる。
どうやら、ここが目的地らしい。
今までいた場所とは、何もかもが違う。
冷たい空気、強い風、空を飛ぶ虫。
世界が変わった。
「ここが外の世界か」
開けた空間は、どこまでも広がっている。
未来への不安とともに、期待も感じる。
これから待ち受ける運命にも希望を持てる。
「盛り上がっているところ悪いが、ここはまだまだ入口だ。本番はこれからだ」
親友が声をかけてくる。
吾輩と同じく気分が高揚しているようだが、楽観はしていないようだ。
気を引き締めるように、手足を伸ばしている。
「見ろ。オレたちの主人になるかも知れない連中がきたぞ」
そう言って、注意を促してくる。
「あれが……」
その姿は巨大だ。
今まで吾輩たちを支配していた連中と似ているが、個体差が大きいようだ。
小さめの個体もいれば、大きめの個体もいる。
そして、身体の表面に皺が寄った個体や、身体が曲がっている個体もいるようだ。
このニンゲンたちがいずれかが、吾輩たちの新たな主人になるというわけだ。
『ねぇ、これ欲しい!』
ニンゲンたちの何体かが、こちらに近づいてきた。
『あら、水茄子ね。いいんじゃないかしら。漬物にしたら、おいしいわよ』
ぐいっ。
吾輩が足を延ばす敷地が、無造作に持ち上げられる。
隣を見ると、親友も同じことをされていた。
淡い期待が胸に沸き起こる。
『じゃあ、これ買って!』
『二つはいらないわよ』
『えーっ!』
『一つにして別のものも植えましょうよ。色々育てられた方が嬉しいでしょ?』
『うん! じゃあ、そうする』
突然、吾輩だけが元居た場所に戻された。
「なぜだ! 同じ場所にいけるのではないのか!」
一度、期待を持ってしまったために、それを裏切られたという思いが強い。
覚悟はしていたはずなのに、ショックが大きい。
そんな吾輩を慰めるように、親友の声が聞こえる。
「ふっ。ここでお別れのようだな」
親友は余裕の態度を崩さない。
「親友……」
吾輩たちは自分の意思で自由に移動することができない。
一度別れてしまえば、それは今生の別れになるだろう。
だが、親友の表情に影はない。
「先に新天地に行っているよ」
世間話をするかのように、そう言ってくる。
「……ああ」
吾輩としても、そう答えるしかない。
「そんな顔をするな。せっかくの旅立ちだ。笑顔で見送ってくれ」
親友も別れを残念がっている。
だからこそ、笑顔での別れを望んでいる。
それに応えないわけにはいかない。
「ああ!」
虚勢だと分かっているが、無理にでも笑顔を振り絞る。
去来するのは親友と過ごした日々だ。
思えば出会ったときもそうだった。
吾輩が暗い顔をしていたのを、立ち直らせてくれたのだ。
親友自身も不安であるはずなのに。
「じゃあな。お互い目的が果たせるように頑張ろうぜ」
去るのは親友だ。
なのに、励まされているのは吾輩だ。
「当然だ! 親友の目的が叶うことを祈っている!」
ただ、励まされるわけにはいかない。
吾輩も激励の言葉を返す。
「オレもあんたが目的を達成するのを祈っているよ」
次第に離れていく親友。
その姿が視界から消えるまで見送り、視界から消えても見送り続けた。
あまりにも、あっけない別れだ。
だが、思い返せば、今までの別れも似たようなものだった。
吾輩たちの意志とは関係なく、唐突に引き離される。
「さて」
いつまでも感傷に浸っているわけにもいかない。
次は吾輩の番だ。
なるべくよい環境にいけるように、手足を伸ばしてアピールする。
☆★☆★☆★☆★☆★
結局、親友が買われていった日は、吾輩が買われることは無かった。
初めて過ごす外の世界での夜。
寒かった。
これまでのような快適な気温が保たれているわけではない。
親友はまだ入口だと言っていたが、吾輩は早くも世界の厳しさを感じ始めていた。
『うーん……これがいいかしら』
次の日。
再び目の前にニンゲンが訪れた。
そっと吾輩を持ち上げる力は優しい。
『葉の大きさや色もいいし、虫もついていないようだし、これにしようかしら』
身体の表面に皺が寄っているニンゲンだった。
巨大な目玉が吾輩を観察している。
向きを変えながら、全身を隈なく見つめられる。
ふわり。
身体が運ばれていく。
どうやら吾輩も行き先が決まったようだ。
そしておそらく次の場所が、吾輩が一生を過ごすことになる場所だ。
生まれた頃を思い出し、ひさしぶりに日光浴でもしたい。
そんなことを考えながら、新天地へ向かった。
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