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エルフを創ってみよう
029.泣く子には勝てない
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映像の中では、ぼたんがエルに迫っているところだった。
『さっそく始めよっか♪』
『や、やだ……来ないで……』
ご機嫌で近づくぼたんとは対照的に、エルは恐怖で表情が歪む。
性知識が無いエルにとって、繁殖行為というのは未知のものだ。
生物は未知のものに対して、好奇心を抱くか、もしくは、恐怖心を抱く。
快楽をもたらす繁殖行為は、本来であれば好奇心の対象となるはずだ。
しかし、身体を縛られ自由を奪われているという状況が、好奇心より恐怖心を上回らせたのだろう。
『やだあああぁぁぁ!!!』
エルの感情が、あっさりと決壊した。
エルが叫び声を上げる。
それとともに、映像が乱れる。
「な、なにが起こったんですか!?」
「地震か? それにしては、こちらは揺れていないが……」
映像の乱れが、激しい揺れが原因だということはすぐに分かった。
しかし、これほどの揺れをともなう地震だとしたら、吾輩がいる地域も揺れるはずだ。
よって、地震ということは考えづらい。
幸い、ド○ーンの自爆機能は起動していないので、映像の回復を待つ。
そして、揺れの原因が映し出された。
「なんですか、アレ!?」
我が助手が驚きの声を上げる。
回復した映像に映っていたのは、一本の巨大な樹木だった。
ぼたんとエルがいたはずの場所に、そびえ立っている。
「世界樹だな。そういえば、エルがいつも持ち歩いていたな」
吾輩は心当たりがあったので、我が助手のように驚きの声は上げなかった。
冷静に分析する。
エルの能力は歌で植物を急成長させるというものだが、正確にはその方法は歌でなくてもかまわない。
エルの能力を付与した声が植物に届けばよいのだ。
恐怖という強い感情と、悲鳴という大きな声によって、世界樹の苗に能力が作用したのだろう。
「ふむ。狙い通り、世界樹はエルの能力に耐えられるようだな」
世界樹が生えている周囲には、もともと別の樹木が植わっていた。
それらの樹木も世界樹とともに急成長したようだが、急成長による負荷と寿命によって枯れてしまったようだ。
結果として世界樹だけが残り、周囲の木々を見下ろす王者のように生い茂っている。
「5階建てのビルの高さくらいか。まだ、成長を続けているようだな」
「教授! 分析していないで、ぼたんとエルちゃんがどうなったか映してくださいよ!」
吾輩が映像から状況を分析していると、我が助手が邪魔してくる。
まったく落ち着きが無い。
映像をよく見れば、すぐに分かるだろうに。
「落ち着け、我が助手よ。世界樹が成長を続けているということは、エルが能力を発動し続けているということだ」
「じゃあ、エルちゃんは無事なんですね! ぼたんは……!」
「あそこだ」
吾輩は世界樹の根本を指す。
さらに、少し見づらいだろうと思う、映像を拡大してやる。
『ぷぎーっ! いきなり、なに!』
『『ブヒブヒッ!』』
急成長した世界樹に弾き飛ばされたようだが、ぼたんも豚達もぴんぴんしている。
ついでに、ぼたんが攫ってきた男達も無事だ。
『なにこの、でっかい木? どこから現れたの?』
ぼたんが世界樹を見上げている。
突然のことに、エルのことは頭から抜け落ちているようだ。
エルが逃げ出すなら今がチャンスなのだが、それは難しそうだ。
エルは世界樹の枝に乗って泣き続けている。
『うえええええぇぇぇぇぇん!』
エルは優等生タイプなのだが、その反動なのか、泣いている姿は子供そのものだ。
しばらく泣き止みそうにない。
泣き止んで冷静になれば自力で逃げるだろうが、泣いている間は無理だろう。
「仕方ない。エルを回収するか」
「はあ!? できないんじゃなかったんですか!?」
「そんなことは言っていないぞ。人を運べるド○ーンがあるから手段はある。ただ、先ほどまでは、ぼたんがエルを連れて逃げる可能性があったから、状況的に無理だったというだけだ」
「なんでもいいから、エルちゃんを助けてあげてください!」
場所は撮影用ド○ーンからの情報でわかっている。
吾輩は回収用ド○ーンをエルに向かわせる。
ぼたんも回収したいところだが、それは難しいだろう。
逃げ出すことは、容易に予測できる。
ぼたんは、もう好きにさせておこう。
しかし、ぼたんが今後どのように行動するかは観察したいので、今回使った撮影用ド○ーンに追跡と撮影を継続するように指示を出しておく。
「しかし、想定外の場所に世界樹が根を張ってしまったな。土地の持ち主に許可を取っていないが、大丈夫だろうか?」
「許可を取るとか以前に、突然あんな巨大なものが生えてきたら、騒ぎになると思いますけど」
「むぅ」
あの辺りは、ぼたんが男漁りをしたせいで、行方不明者が出たと事件になっていた場所だ。
山の中だから住民は少ないだろうが、マスコミが注目しているので、何かあればすぐに知れ渡る。
世界樹を隠すことは難しいだろう。
まあ、どこに植えたとしても、あの巨体なので、いずれはバレることになるだろうが。
『……県の山中に突然……』
我が助手がテレビを付けると、さっそく速報が流れていた。
『さっそく始めよっか♪』
『や、やだ……来ないで……』
ご機嫌で近づくぼたんとは対照的に、エルは恐怖で表情が歪む。
性知識が無いエルにとって、繁殖行為というのは未知のものだ。
生物は未知のものに対して、好奇心を抱くか、もしくは、恐怖心を抱く。
快楽をもたらす繁殖行為は、本来であれば好奇心の対象となるはずだ。
しかし、身体を縛られ自由を奪われているという状況が、好奇心より恐怖心を上回らせたのだろう。
『やだあああぁぁぁ!!!』
エルの感情が、あっさりと決壊した。
エルが叫び声を上げる。
それとともに、映像が乱れる。
「な、なにが起こったんですか!?」
「地震か? それにしては、こちらは揺れていないが……」
映像の乱れが、激しい揺れが原因だということはすぐに分かった。
しかし、これほどの揺れをともなう地震だとしたら、吾輩がいる地域も揺れるはずだ。
よって、地震ということは考えづらい。
幸い、ド○ーンの自爆機能は起動していないので、映像の回復を待つ。
そして、揺れの原因が映し出された。
「なんですか、アレ!?」
我が助手が驚きの声を上げる。
回復した映像に映っていたのは、一本の巨大な樹木だった。
ぼたんとエルがいたはずの場所に、そびえ立っている。
「世界樹だな。そういえば、エルがいつも持ち歩いていたな」
吾輩は心当たりがあったので、我が助手のように驚きの声は上げなかった。
冷静に分析する。
エルの能力は歌で植物を急成長させるというものだが、正確にはその方法は歌でなくてもかまわない。
エルの能力を付与した声が植物に届けばよいのだ。
恐怖という強い感情と、悲鳴という大きな声によって、世界樹の苗に能力が作用したのだろう。
「ふむ。狙い通り、世界樹はエルの能力に耐えられるようだな」
世界樹が生えている周囲には、もともと別の樹木が植わっていた。
それらの樹木も世界樹とともに急成長したようだが、急成長による負荷と寿命によって枯れてしまったようだ。
結果として世界樹だけが残り、周囲の木々を見下ろす王者のように生い茂っている。
「5階建てのビルの高さくらいか。まだ、成長を続けているようだな」
「教授! 分析していないで、ぼたんとエルちゃんがどうなったか映してくださいよ!」
吾輩が映像から状況を分析していると、我が助手が邪魔してくる。
まったく落ち着きが無い。
映像をよく見れば、すぐに分かるだろうに。
「落ち着け、我が助手よ。世界樹が成長を続けているということは、エルが能力を発動し続けているということだ」
「じゃあ、エルちゃんは無事なんですね! ぼたんは……!」
「あそこだ」
吾輩は世界樹の根本を指す。
さらに、少し見づらいだろうと思う、映像を拡大してやる。
『ぷぎーっ! いきなり、なに!』
『『ブヒブヒッ!』』
急成長した世界樹に弾き飛ばされたようだが、ぼたんも豚達もぴんぴんしている。
ついでに、ぼたんが攫ってきた男達も無事だ。
『なにこの、でっかい木? どこから現れたの?』
ぼたんが世界樹を見上げている。
突然のことに、エルのことは頭から抜け落ちているようだ。
エルが逃げ出すなら今がチャンスなのだが、それは難しそうだ。
エルは世界樹の枝に乗って泣き続けている。
『うえええええぇぇぇぇぇん!』
エルは優等生タイプなのだが、その反動なのか、泣いている姿は子供そのものだ。
しばらく泣き止みそうにない。
泣き止んで冷静になれば自力で逃げるだろうが、泣いている間は無理だろう。
「仕方ない。エルを回収するか」
「はあ!? できないんじゃなかったんですか!?」
「そんなことは言っていないぞ。人を運べるド○ーンがあるから手段はある。ただ、先ほどまでは、ぼたんがエルを連れて逃げる可能性があったから、状況的に無理だったというだけだ」
「なんでもいいから、エルちゃんを助けてあげてください!」
場所は撮影用ド○ーンからの情報でわかっている。
吾輩は回収用ド○ーンをエルに向かわせる。
ぼたんも回収したいところだが、それは難しいだろう。
逃げ出すことは、容易に予測できる。
ぼたんは、もう好きにさせておこう。
しかし、ぼたんが今後どのように行動するかは観察したいので、今回使った撮影用ド○ーンに追跡と撮影を継続するように指示を出しておく。
「しかし、想定外の場所に世界樹が根を張ってしまったな。土地の持ち主に許可を取っていないが、大丈夫だろうか?」
「許可を取るとか以前に、突然あんな巨大なものが生えてきたら、騒ぎになると思いますけど」
「むぅ」
あの辺りは、ぼたんが男漁りをしたせいで、行方不明者が出たと事件になっていた場所だ。
山の中だから住民は少ないだろうが、マスコミが注目しているので、何かあればすぐに知れ渡る。
世界樹を隠すことは難しいだろう。
まあ、どこに植えたとしても、あの巨体なので、いずれはバレることになるだろうが。
『……県の山中に突然……』
我が助手がテレビを付けると、さっそく速報が流れていた。
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