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オーガを創ってみよう

062.戦闘開始!

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「いやいや、おかしいでしょう!? なんで鬼なんかいるんですか!? それこそ空想上の生き物ですよ!?」

 我が助手が声を上げる。
 捕獲対象に気付かれるので静かにして欲しいのだが、幸い捕獲対象は熊と戦っていて気付いていない。
 ちなみに、捕獲対象である鬼は、熊と素手で戦っている。
 ふむ。
 格闘家は熊と戦うことがあるというが、鬼はそれと同等かそれ以上の腕力があると証明されたな。

「火の無いところに煙は立たないという諺を知っているか? たとえ目撃数が少なくても、目撃例があるということは、そこになにかがいるということだ」

 鬼の生態を分析しながら、我が助手の言葉に答える。

「それでも普通は鬼なんていませんよ! せいぜい、イタズラか、村おこしの話題作りです!」
「そうは言っても、現にいるではないか」

 吾輩もイタズラの可能性があることは承知している。
 だから、ちゃんと情報は精査した。
 噂だけで目撃例が無い場所は対象外とし、目撃例があっても痕跡が無い場所も対象外とした。
 そして、痕跡が残っている場所の中から、最も可能性が高い場所を絞り込んだのだ。
 たとえ、鬼でなかったとしても、吾輩が求める条件に近い何らかの生物がいる。
 そんな場所だ。
 もし鬼が見つからなかったら、その生物を代替とする予定だったのだが、本命が見つかったのでなによりだ。

「さて、どうやって捕まえるかだが……」

 吾輩と我が助手が言い合いをしている間に、鬼は熊を倒したらしい。
 熊が地面に倒れている。
 素手で殴り合いをして熊を倒すところを見ると、身体能力はかなり高そうだ。
 そして、熊が出るような場所で暮らしているということは五感も鋭敏な可能性が高い。
 先ほどまでは熊と戦っていて、こちらに気付く様子は無かったが、今はそうではない。
 こちらを発見する可能性がある。
 それがわかっているのだろう。
 我が助手も口を閉ざして静かにする。
 やがて鬼は熊を担いでどこかへ行こうとする。
 おそらくは住処へ持ち帰るつもりなのだろう。
 追いかけるチャンスだ。
 そう思ったところで、ぼたんが動き出す。

「アレを捕まえればいいんだね! パパ、私が捕まえてくるよ!」

 止める間も無かった。
 ぼたんが鬼に向かって駆け出す。
 
「?」

 鬼が気付くのは早かった。
 ぼたんが鬼に接近する前に気付き、担いでいた熊を地面に落とすと、即座に戦闘態勢を取る。

「ぷぎーっ!」
「ガアアアァァァッ!」

 ぼたんが飛び掛かりながら蹴りを放つ。
 鬼は雄叫びを上げながら、それを腕で防ぐ。

「うむ。腕力で勝る相手に、腕より強力な足を使って攻めるのは正解だ」
「冷静に言っている場合ですか!?」

 唐突に始まったぼたんと鬼の戦いに、我が助手が悲鳴に近い声を上げる。

「なんで鬼がいるのかはこの際置いておくとしても、あんなものに挑むなんて無茶ですよ!!!」

 その意見には同意する。
 吾輩ももう少し穏便に、罠などを仕掛けて捕まえるつもりだった。
 だが、始まってしまったものは仕方がない。
 目的を達成すれば、方法がどうだろうと、問題はない。
 そのためには冷静に分析して対策を取ることが重要だ。

「……ふむ」

 身体能力の高さを使ったぼたんの蹴りは強力で、熊くらいなら倒せそうだ。
 だが、鬼は熊よりも知能が高い。
 原始的ではあるが、格闘技の技術を使って、ぼたんの攻撃を防いでいる。
 先ほども腕で急所を護りつつ、攻撃を受け流すようにしていた。
 ぼたんだけでは、鬼を倒すのは難しいかも知れないな。
 今は突然の襲撃者であるぼたんを警戒して積極的な攻撃を控えているようだが、そのうち反撃を始めるだろう。
 そうなったら、ぼたんが不利になる可能性が高い。

「エル、弓でぼたんを援護してやってくれ」
「わ、わかりました」
「そうだ。これを鏃に塗るといい」

 吾輩はエルに援護を頼み、瓶を渡す。
 瓶の中身は動物を捕獲するときに使う麻酔薬だ。
 鬼に通用するかどうかはわからないが、人型の生物である以上、多少は効果が出ると思う。
 エルが、ぼたんの攻撃の合間を狙って矢を放つ。
 しかし、鬼はいち早くそれに気付き、あっさり躱してしまう。

「父様、当たらないですっ!」
「援護にはなっている。そのまま続けてくれ」

 エルの放つ矢は鬼に当たらない。
 だが、これで鬼はぼたんとエルの二人の攻撃を警戒しなければならなくなった。
 鬼を防戦一方にさせる作戦だ。

「ぷぎーっ!」
「グウウウゥゥゥッ!」

 ぼたんが攻める。
 だが、鬼は追加の襲撃者に苛立ちながらも、的確に攻撃を防いでいる。
 ただし、防いでいると言っても、わずかな負傷や疲労は蓄積する。
 このままいけば、ぼたんが鬼を倒すのは可能かも知れない。
 しかし、それには時間がかかりそうだ。
 マズイな。
 このままでは、エルの矢が先に尽きてしまう。
 そうなったら、この作戦は終了だ。
 別の作戦を考えなければならない。
 吾輩は残るメンバーをちらりと見る。
 我が助手と道子。
 戦闘をさせるのは無謀だろう。
 となると、吾輩がなんとかするしかなさそうだ。

「やはり、これを使うことになるか」

 吾輩は持ってきていた改造キャリーバッグを開けて、中に入っていたものを取り出した。
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