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 転校先の学校も私と彼は一緒でした。
 でも常に一緒には居られませんでした。
 彼は転校先の学校でもすぐに友達ができました。
 そのせいで常に一緒には居られませんでした。

 彼は勉強も運動も得意です。
 彼はすぐに人気者になりました。
 彼の周囲には常に人が居るようになりました。
 そのせいで私と一緒に居る時間が減ったのです。

 耐えられることではありません。
 でも私は耐えました。
 私には目的があったからです。
 彼の全身の血液と入れ替える血液を集めるのです。

「お兄ちゃんと結婚したいから、血液を分けて欲しいの」

 私は同級生にお願いしました。
 でも同級生は断ってきました。
 やはり友達でないとなかなかお願いを聞いてくれません。
 私は根気よく大勢の人にお願いしました。

 でも誰も協力してくれませんでした。
 それどころか私の話を聞いてくれる人が減っていきました。
 私が話しかけると嫌そうな顔をする人が増えていきました。
 私が話しかけようとすると距離を取る人が増えていきました。

 それでも私は諦めずにお願いを続けました。
 違うクラスの生徒や上級生にもお願いしました。
 そしてついに協力してくれるという人が現れました。
 協力してくれると言ったのは不良と呼ばれている人でした。

「血液は嫌だけど、白い体液ならいいぜ」

 その人は条件があると言いました。
 不良と呼ばれるような人です。
 カツアゲをするような人です。
 お金を要求されるのだと思いました。

 でもお金は要求されませんでした。
 代わりに私の手で白い体液を出させろと言ってきました。
 私は迷いました。
 提供してくれると言っていますが提供してくれるのは血液ではありません。

 白い体液とはなにか私は知りませんでした。
 でも体液というからには血液の代わりになるかも知れないと考えました。
 私は提供の申し出を受けることにしました。
 私はその人について行きました。

 連れて来られたのは空いている教室でした。
 人があまり来ない教室でした。
 大声を出しても他の人に聴こえないような場所にある教室でした。
 そこで私は手を使って白い体液を出させることになりました。

 牛の乳しぼりはやったことがあります。
 だから似たようなものだと思いました。
 牛の乳しぼりをやったときは上手だと褒められました。
 だから同じようにやりました。

 でも白い体液はなかなか出ませんでした。
 その人は私に下手だと言いました。
 下手だから代わりに身体を触らせろと言ってきました。
 私の返事を待つことなくその人は私の身体を触ってきました。

 気持ち悪い感覚が全身を駆け巡りました。
 でも私は我慢しました。
 協力をお願いしているのは私です。
 だから我慢して手を動かし続けました。

 どのくらい時間がかかったかは覚えていません。
 でも私は白い体液を出させることができました。
 ドロリとした感触は血液に似ていました。
 でも変な匂いでした。

 成分を調べたら血液に似ていたのかも知れません。
 でも私はすぐに判断しました。
 白い体液を血液の代わりに使うことはできません。
 だって臭い体液を彼の身体に入れるわけにはいきません。

「気持ちよかったぜ。もっと提供してやるよ」

 白い体液を出した人はさらなる提供を申し出てきました。
 返事を聞かずに私の身体を触ってきました。
 でも私はすでに白い体液は不要と判断していました。
 だから断ろうと思いました。

 けれど考え直しました。
 私に協力を申し出てくれる人は他にいません。
 せっかくの申し出を断ると後々困るかも知れません。
 だから血液を提供してもらうことにしました。

「今度は口でしてくれよ」

 その人はそう要求してきました。
 その人はせっかちでした。
 白い体液の代わりに血液を提供して欲しいと言うタイミングはありませんでした。
 だから事後承諾をもらうことにしました。

 その人は口で出すことを要求してきました。
 私はその要求を受け入れることにしました。
 お願いしているのは私なのだから要求を受け入れるのは当然のことです。
 私は口を大きく開いて先ほど白い体液を出したものを咥えました。

 ガリッ!

 私が歯で噛み切ると血液が溢れ出ました。
 最初は白い体液と混ざって濁っていました。
 ですが次第に純粋な血液だけになりました。
 私はペットボトルにそれを集めました。

「ありがとうございました」

 私はお礼を言いましたがその人からの返事はありませんでした。
 気を失っていたからです。
 白い体液を出したときに気持ちいいと言っていたので気持ち良すぎて気を失ったのかも知れません。
 私は血液を提供してくれたことに心の中で感謝しながら教室を去りました。
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