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 階段から転げ落ちるという方法ではあまり出血しないことはわかっていました。
 打撲では皮膚が裂けて血管が裂けることが少ないからです。
 でも彼が受け身を取らなかったので前回よりは出血が多かったみたいです。
 輸血により私と彼の血の繋がりが少し薄まりました。

 こういうことは根気よくコツコツと積み重ねることが大切だと思います。
 今回は咄嗟の思い付きで実行しましたが大切なことはきちんと考慮しました。
 それは場所が病院ということです。
 場所が病院ならすぐに輸血してもらえます。

 それにすぐに治療してもらえるので痛みを感じる時間も短いと思います。
 長く痛みを感じさせてしまうと私が彼から嫌われてしまうかも知れません。
 だからそうならないようにしました。
 きちんと考慮しました。

 何パーセントくらい血の繋がりが薄まったのでしょうか。
 正確な数字はわかりません。
 でも確実に血の繋がりは薄まっています。
 このまま順調にいけば私と彼は確実に結婚することができます。

 そう思っていたのですが少しだけ誤算がありました。
 階段から転げ落ちる際に彼が頭を打ってしまったのです。
 すぐに意識は取り戻したのですが検査入院をすることになりました。
 私は反省しました。

 彼に出血してもらうのは彼が元気なときの方がよかったのです。
 元気がないときは万が一の事故が起きるかも知れません。
 気を付けることにします。
 それに方法も変えた方がよいと思いました。

 階段から転げ落ちてもらう方法は頭を打つ可能性があります。
 脳みそが飛び散るほどではありませんがたんこぶができてしまう可能性があります。
 たんこぶができると治るまで痛みが続いてしまいます。
 それは避けた方がよいでしょう。

 そんなことを考えていたら両親がやってきました。
 彼が入院したと聞いてやってきたのです。
 やってきたときはなんだか顔が青かったです。
 ですがお医者さんと話をしたらもとに戻りました。

「お兄ちゃんが心配だろうけど一緒に家に帰ろう」

 彼の様子を見た後で両親は私に言いました。
 けれど私は彼の看病をするつもりでした。
 一晩中看病して病院のベッドで一緒に寝るつもりでした。
 そう主張する私に両親は言いました。

「お医者さんに任せた方が安心だよ」

 私は考えました。
 それは一理あると思いました。
 それにもしかしたら追加で輸血してもらえるかも知れないと考えました。
 だから私は両親と一緒に家に帰ることにしました。

 そして翌日私は朝から彼の看病に行くつもりでした。
 けれどそれを両親に止められました。
 私は学校があるから看病してはいけないと言うのです。
 ひどい言葉です。

「お兄ちゃんと学校とどっちが大切なの?」

 私は責めるように両親に言いました。
 まるで彼より学校の方が大切だと言っているように聞こえたからです。
 両親は困った顔をして私を説得してきました。
 私はどんな説得にも応じないつもりでした。

「自分のせいで学校を休んだと知ったらお兄ちゃんが悲しむよ」

 でも私は説得されてしまいました。
 卑怯です。
 彼が悲しむと言われたら説得されないわけにはいきません。
 私に看病されて彼が悲しむはずなんてありません。

 でも万が一ということがあります。
 彼が悲しむと考える人がいるなら可能性があるということです。
 それに気付いてしまったら私はその可能性を避けなければなりません。
 私は学校に行き放課後に看病をすることにしました。

 その日の授業中は勉強に全く集中できませんでした。
 一分一秒でも早く彼に会いたくてずっとそわそわしていました。
 放課後になるのがとても待ち遠しかったです。
 まるでデートの待ち合わせをしているかのようでした。

「待っていてね、お兄ちゃん」

 ようやく念願の放課後になりました。
 私は早足で病院へ向かいました。
 もちろん学校から直接です。
 いったん家に帰る余裕なんかありませんでした。

 そして彼がいるはずの病室にやってきたのですがそこに彼はいませんでした。
 お手洗いでしょうか。
 そう思って待っていても彼は戻ってきませんでした。
 私は異常事態に気付きました。

 私は病院内をくまなく探しました。
 彼が行く可能性が高いところから順番に捜しました。
 彼はなかなか見つかりませんでした。
 そして最後に彼が行く可能性が最も低いところに捜しに行きました。

 そこに彼はいました。
 彼はそこであの女と一緒にいました。
 楽しそうにお喋りしていました。
 女の病室の前には入口を塞ぐ連中はいませんでした。
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