シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第二章 白雪

038.尋問

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「な、なにを・・・」

 動揺した様子を見せるメイド。
 どうやら、ポーカーフェイスはあまり得意ではないようだ。
 まあ、私も得意じゃないから、こうして単刀直入に切り出したんだけど。

「王子の部屋で捕まっていれば、怪我をすることもなかったのにね。左腕の怪我はどうしたの?ガラスの破片で切ったの?」

 私が問いかけるが、メイドはまだ平静を装うことを諦めていないようだった。

「なにを・・・仰っているのか、分からないのですが・・・」

 そう答えてくる。
 確かにここまでで私が口にした言葉は、どうとでも解釈できる言葉だ。
 微かな希望に縋りたいのだろう。
 少しだけイタズラをしてみたくなった。

「『襲撃者が』王子の部屋で捕まっていれば、『あなたが』怪我をすることもなかったわよね?」
「え?・・・ええ、そうですね。運が悪かったです」

 先ほどとは違い、明らかに、ほっとした様子でメイドが答えてくる。
 私は別に騙したりはしていない。
 『襲撃者』≠『あなた』とは言っていないのだから。
 メイドが勝手に勘違いしただけだ。

「それでね。怪我をしているところ悪いけど、あたなに協力して欲しいのよ」
「協力・・・ですか?」
「ええ、襲撃者を捕まえるためにね」
「・・・・・」

 メイドが何かを考えている。
 おそらく、どう答えれば有利になるかを考えているのだろう。
 当然、彼女は自分が協力したところで襲撃者が捕まらないことを知っている。
 なにせ、本人だ。
 本人が本人を捕まえられるわけがない。
 だから、私の心証をよくするなら同意すべきだろうが、協力しても成果がでないことで逆に心証が悪くなることを懸念しているのだろう。
 その懸念は的外れなのだけど、どう答えるかによって、彼女の判断記述が見えてくる。

「あの・・・申し訳ないのですが、私はこのように怪我をしている状態です。とても協力できるとは思えません」

 なるほど。
 メイドは『今後』を考えているらしい。
 この場限りを凌ぐだけではなく、『今後』のことをだ。
 私は次に口にする言葉を決める。

「別に足を使って追いかけろというわけじゃないわ。襲撃者の情報を教えてくれるだけでも、こちらとしては助かるわ」
「情報・・・私に答えられることなんか・・・」
「襲撃を依頼した黒幕が分かると一番いいんだけど、下っ端はそんな情報は知らない可能性があるしね。襲撃者の出身地だけでも分かれば、手がかりになるわ」
「いえ・・・ですから私にはそんなこと答えられませんけど・・・」

 メイドは戸惑っている。
 まあ、そうだろう。
 私の質問は、襲撃者に遭遇して怪我をしたメイドにする質問としては無茶振りもいいところだ。
 そんなことが分かるわけがない。
 けど、私は言葉を続ける。

「それにあなた、その怪我じゃ、しばらくメイドの仕事は無理よね。ここでやることが無いとなると、親元に戻されるんじゃないかしら」
「親元・・・」
「そう、親元。襲撃者に襲われて怪我をしたわけだから、治療費を持たせて、親元までの警護くらいはつけてくれるだろうけどね」

 親元と言っても、このメイドが名乗っている名前の親元だ。
 そして、警護がつくということは、逃げることができないということだ。
 おそらく、本人と入れ替わって城に侵入した彼女にしてみたら、正体がバレることを意味する。
 さらに、城に居られないということは、彼女が本来の任務を果たせないということになるだろう。
 怪我をした上に、任務も果たせない彼女を、彼女の故郷の人間はどう扱うだろうか。
 真っ当な騎士や兵士ならともかく、彼女のような任務の人間の行く末は、想像に難くない。

「どうする?今なら、ちょっと知っていることを話すだけで、三食昼寝付きで城に居られるわよ」
「・・・・・」

 こちらを怪しんでいるのが分かる。
 答えられることが無いと言っているのに、話せといっているのだから、当然だろう。
 後押しをしてあげることにする。

「そうね。こちらに都合のよい情報を流してくれるなら、アフタヌーンティーもサービスしようかしら」
「っ!」

 さすがに、ここまで言えば、自分がどんな状況に置かれているか理解したようだ。
 扉のところに立っているエミリーに視線を向ける。
 自分の正体を知っているのが、私だけなのか気になったのだろう。

「彼女のことが気になる?それなら、席を外してもらいましょうか」

 私はエミリーに部屋から出てもらうようにお願いする。
 それに対し、エミリーは特に迷う様子もなく部屋を出ていく。
 これで部屋には私とメフィ、そして怪我をしたメイドだけだ。

「これでいい?じゃあ、交渉を始めましょうか?」
「・・・交渉?尋問の間違いでしょう。それとも拷問かしら?」

 どうやら、自分の立場を理解したようだ。
 話が早くて助かる。
 しかし、拷問とは失礼な。

「拷問なんかしないわよ。右腕だって、後遺症もなく動くでしょ?」

 私は残酷なことが苦手なのだ。
 相手が苦しんでいるのを見て悦ぶ性癖はないし、悲鳴を聞くだけで鳥肌が立つ。
 でも、そんな私の言葉に、メイドは不満そうだ。

「よく言うわ。私の両足をボロ雑巾のようにしたくせに。落とし穴に敷き詰められていた木の枝が腐っていたから、引き抜いても欠片が肉の中に残って、動かすだけで激痛が走るのよ。よくもあんな極悪な罠を思いつくものね。この悪魔っ!」

 彼女の言葉に、私とメフィが驚いた表情になる。
 一瞬、メフィの正体を見破ったのかと思った。
 まあ、直前の台詞から、比喩で言ったのだろうとは思うけど。

「罠にかかったのは、あなたの自業自得でしょ。それにあの罠は狩りをするときに使うもので、特に極悪ってわけじゃないわよ」
「獣に使う罠を、人間に使おうと思う時点で、極悪だって言っているのよ」

 そんなに極悪だったかな。
 獲物が逃げないようにするには便利な罠だし、狩りに使ったときも獲物を殺さないから、最適だと思ったんだけど。
 ちなみに、狩りをするときに獲物を殺さないのは、血抜きを確実に行うためだ。
 心臓が停止していると、血液が血管を流れないから、血抜きが上手くいかず、肉が生臭くなる。
 でも、そうだな。
 獲物の場合は、その後で確実に仕留めるから関係なかったけど、人間を捕まえて生かすなら、怪我の残り方も少し気をつけるべきだったかも知れない。
 足の傷は、後遺症が残るかどうかは微妙なところだが、傷跡は確実に残るだろう。

「どちらにしろ、逃げようとしたから怪我が増えたのは間違いないんだし、そんなこと言われても知らないわ。第一、王族を暗殺しようとして拷問を受けていないだけ、感謝して欲しいくらいよ」
「・・・ふん」

 私の言葉に、自分の運命を誰が握っているのか思い出したのか、悪態をつくのをやめる。
 それじゃあ、質問だ。

「まずは、名前を教えてくれるかしら?」
「アンよ」

 素直に答えてくるが、私が知りたいのは『そっち』じゃない。

「それは、あなたが入れ替わった娘の名前でしょ?そうじゃなくて、本当の名前よ」
「・・・シェリー」

 一瞬間があったが、別の名前を答えてきた。
 私には本当にそれが本名なのかを確認するすべはないけど、別に構わない。
 単に呼び名が欲しかっただけだ。

「よろしくね、シェリー。できれば、長い付き合いになることを願うわ」
「・・・・・」

 シェリーは私の言葉を慎重に検討しているようだ。
 そして、それは正解だ。
 彼女の答えによっては、この場限りの付き合いになる可能性もある。

「じゃあ次ね。シェリーの故郷を教えてくれるかしら」

 最低限、これは手に入れたい情報だ。
 証拠とまではいかなくても、黒幕を確信することはできる。
 でも、シェリーの反応は芳しくない。

「私みたいな人間が、素直に自分の国について喋ると思うの?」

 もっともだ。
 だから、少しだけ脅すことにする。

「大した情報じゃないでしょ。予想できていることの、答え合わせをしたいだけなんだから」
「・・・それなら、訊く必要はないでしょう」

 口調は大人しいが、なかなか反抗的な態度だ。

「それはそうなんだけど、何か情報を提供してくれないと、シェリーに酷いことをしなくちゃならないのよ」

 表情は平静を装っているが、びくっと震えるのが分かった。
 やはり、あまり感情を隠すことが得意じゃないみたいだ。
 本来は荒事には向かない、情報収集の役割なんじゃないだろうか。
 そのことも少し気になったが、今は脅迫の時間だ。

「例えば、シェリーをメフィに食べさせたり、ね」
「メフィくんに?」

 これは別に脅迫というだけじゃない。
 シェリーが何も情報を漏らさなければ、それも選択肢の一つになってくる。
 私の『返済』に役立ってもらう。
 しかし、当のシェリーは何を思ったのか、メフィを見ると顔を赤らめる。
 どことなく、何かを期待しているようにも見える。

「・・・言っておくけど、性的にって意味じゃないわよ」

 私は呆れる。
 人の性癖に口を出すつもりはないけど、それは犯罪だろう。
 ああ、そもそも犯罪者だった。
 だけど、それは方向性が違うだろう。
 早めに方向を修正しておくことにする。
 私はベッドに近づくと、おもむろにシェリーにかけられているシーツを剥ぐ。
 彼女は左腕と両腕に怪我をしている。
 服を着ようとすると苦痛を伴うからだろう。
 下着こそつけているが、服は着ていない。
 そして、左腕と両足には包帯が巻かれている。
 そんな露出度の多い彼女の身体が、私とメフィの前に晒される。

「どう、メフィ?なかなか柔らかそうじゃない?」
「ふむ」

 私の言葉にメフィがシェリーの全身を舐めるように見る。
 はっきり言ってセクハラだが、脅迫のためだから突っ込まないでおく。
 するとメフィは、ベッドに近づくと、ゆっくりとシェリーの身体の表面に指を這わせていく。

「モモ肉は少し傷がついていますが、味には影響ないでしょう」

 傷を避けながら、ふとももの敏感なところをなぞっていく。
 内側のきわどいところまで指が這うのを見ていると、なんだか、こちらまで、ぞくぞくとしてくる。

「ムネ肉は量が少ないようですが、弾力があって歯ごたえがよさそうですな」

 下着の上から軽く押すようにしながら、円を描くように掌全体を這わせていく。
 どうでもいいけど、量が少ないって、どういうことだ。
 思わず突っ込みそうになるのを、必死に堪える。

「どれ、少し味見してみましょうかな」

 メフィはノリノリだ。
 口元をシェリーの顔の横まで近づけていくと、耳に歯を立てようとして、

「ひっ!」

 シェリーに突き飛ばされた。
 怯えたような声から、充分な効果があったことが分かる。
 セクハラには突っ込みたいところだけど、この成果に免じて突っ込むのは止めておいてあげよう。
 そんなことを考えながらシェリーに視線を向けると、私は予想を超える光景を見ることになる。

「ガタガタガタガタッ!」

 私は最初、それが何の音か判らなかった。
 判ったのは、彼女の腕に巻かれた包帯から血が滲み出るのを見てからだった。

「怖がらせ過ぎましたかな?」

 メフィが呑気に言っているが、そんなレベルではない。
 ここまで歯を打ち鳴らす音が聞こえるほど震えているのだ。
 しかも、傷が開くほど強い力でメフィを突き飛ばしたらしい。

「えっと、シェリー?」

 私は出来るだけ穏やかに話しかける。

「お、お願いっ!食べないでっ!私を食べないでっ!」
「あの・・・」
「許してっ!ごめんなさいっ!お願いっ!」

 ダメだ。
 耳を塞いて、身体を硬直させている。
 こちらの言葉など聞こえていないだろう。

「トラウマを刺激してしまったようですな」
「トラウマ?」
「ただの辛い記憶などではない、思考を狂わせるほどの体験をしたことがあるのでしょう」
「食べられることに対して許しを乞うって、どんな体験よ。猛獣にでも襲われたのかしら?」
「どうでしょうな。そうだとしても、子供の戯れでそのようなトラウマが呼び起こされるとは思えませんが」

 私とメフィが会話をしている間にも、シェリーの状態は悪化する。
 身体によほど力が入っているのだろう。
 先ほどメフィを突き飛ばした腕の包帯だけでなく、両足の包帯からも血が滲み始めている。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!だって、食べないと、私の方がっ!」

 ついに自分の身体に爪を立て始めたのを見て、これ以上はマズいと判断する。
 私がシェリーに鎮静薬を嗅がせようとするのと、彼女の絶叫が響き渡ったのは、ほぼ同時だった。
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