シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第八章 北風と太陽

133.勝敗の行方

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「エリザベート王女と婚約したバビロン王国のプラクティカル王子が、兵を率いてシルヴァニア王国へ向かっておるぞ。なんでも、おぬしが簒奪したシルヴァニア王国を取り戻すため、というのが大義名分らしい。傷心旅行のついでに伝言を頼まれたのを、すっかり忘れておった」
「・・・・・それ、逆じゃないの?」

 師匠へのツッコミを入れつつ、私は考える。
 やっぱり、行動してきたか。
 それは予想通りだ。
 だけど、タイミングは予想より早い。
 意外とギリギリだったな。

「聖女殿!何を呑気なことを言っている!すぐにシルヴァニア王国に戻らなければ!」

 突然、大声を上げたのはフィドラーだ。

「聖女殿から取り戻すという大義名分を掲げているが、これは侵略だぞ!」

 耳がキーンッとなった。

「・・・もう少し、声を抑えてください」

 そんなに大きな声を出さなくても聞こえている。
 それに、なんで、あの国に所属しているわけでもないフィドラーが大声を上げるのだ。
 冬の間、滞在していたから、愛着でも湧いたのだろうか。

「ご婦人、プラクティカル王子とエリザベート王女がシルヴァニア王国へ向かったのは、いつ頃なのだ」

 ファイファーの方は師匠に状況を確認しているようだ。

「バビロン王国とアヴァロン王国の国境を通過するときに、先ほど言った通達があったのじゃ。それからすぐに、わしがここへ向かったから・・・あと、二、三日でこの近くを通過するのではないか?」
「なら、すぐに戻れば、迎え撃つ準備ができそうだな」

 なんだか、物騒なことを考えているみたいだな。
 それじゃ、戦争を起こそうとしているみたいじゃないか。

「シンデレラ、どうする?」

 問いかけてきたのは、アーサー王子だ。
 こちらは、短絡的な思考はしていないみたいだけど、緊張した面持ちをしている。

 ・・・・・

 なんで、みんな、深刻そうな顔をしているのだろう。
 もう、準備は『終わって』いるのに。
 私はさっきの問いに答える。

「どうもしないわよ。もう少し温泉でのんびりするつもりだったけど、仕方がないわね。解散して自分達の国に帰りましょうか」
『・・・・・はあ!?』

 *****

 混乱した場を落ち着かせるのに、しばらく時間がかかってしまった。
 しまったな。
 事前に説明しておけばよかった。
 これもプラクティカル王子とエリザベート王女の行動が早かったせいだ。
 本来なら、その連絡を聞くのは、自分達の国に戻ってからの予定だったのだ。
 その点だけは、予想外と言える。

「私達は雪のせいで帰ることができなくて、冬の間、シルヴァニア王国に滞在していただけ。だから、自分の国に帰るのは当たり前でしょう?」

 そう説明するけど、何人か納得いっていない人間がいるようだ。

「・・・オレ達はそうするのが筋なのだろうが、聖女殿はそれでいいのか?王位に手が届く場所にいるのだぞ?」
「そんなつもりは無いと、何度もいったじゃないですか」

 フィドラーは、王位に就くつもりはないという、私の言葉を信じていなかったのか。
 まあ、野心を持っていそうだしな。
 強引に奪うつもりはないようだけど、手が届くのに、それを手放すことが信じられないのだろう。
 けど、私は全く興味がない。
 なんなら、フィドラーにあげてもいいくらいだけど、それは国民が納得しないだろうしな。

「だが、このままだと、プラクティカル王子とエリザベート王女がシルヴァニア王国を支配することになるぞ。それはいいのか?」

 ファイファーは、王位に就くつもりはないという、私の言葉には納得しているようだ。
 だけど、あの二人がシルヴァニア王国を治めることを懸念しているようだ。
 そして、その懸念は正しい。
 プラクティカル王子とエリザベート王女。
 どちらが主導権を握っているのか知らないけど、どちらも危険人物だ。
 野心があるとかではない。
 他人を同じ人間と思っていない節がある。
 もし、あの二人が国を治めることになったら、国民は家畜扱いだろうな。
 もっとも、それは『国を治めることになったら』の話だ。
 つまり、意味のない仮定だ。

「あの二人、何を取り戻して、何を支配するつもりなのかしらね」
「なに?」
「どういうことだ?」

 フィドラーとファイファーは、ぴんと来なかったようだ。
 アーサー王子はどうかな。

「・・・もしかして、仕事を手伝うときに一時的にもらった議決権が関係している?」

 アーサー王子は、勘が良い。
 けど、ちょっと、おしいな。

「私、『一時的』なんて言ったかしら?」
「・・・やっぱり」

 アーサー王子が溜息をつく。
 そう。
 私がヒルダからシルヴァニア王国の代表を押し付けられて仕事をしていたとき、手伝ってくれていたアーサー王子、ファイファー、フィドラーに『議決権』という、国の政策を決定できる権利の一部を与えている。
 そうでないと、最終的な承認を全て私が行わなければならず、私に回される仕事が一向に減らなかったからだ。
 そして、当たり前だけど、その『議決権』は正式な手続きを踏んで与えており、今も有効のままだ。
 さらに私は、ここへ来る直前に、執務室の机の上に一枚の書類を置いてきた。
 今後、シルヴァニア王国の政策を決定する権利についての書類だ。

 *****

「悪魔か、おぬしは」

 私の説明を聞いた師匠の第一声は、それだった。
 失礼な。

「悪魔なら知り合いにいるけど、私は違うわよ」

 ちらっとメフィの方を見るけど、素知らぬ顔だ。
 まあ、ここでメフィの正体をバラしても意味がないから、放っておこう。

「だって私は、あの二人が望むものを、あげようっていうのよ。感謝されてもいいくらいじゃない」
「確かに望むものじゃろうが、望む状態ではないじゃろうが」

 師匠は呆れ顔だ。
 だけど、失敗だとは言ってこなかった。。
 及第点はもらえたかな。

「一冬で、そこまでしてきたのか。あの国は、これから混乱するじゃろうな」
「そうでしょうね」

 けど、私には関係ない。
 ヒルダにでも頑張ってもらおう。
 そんな会話を私と師匠がしていると、私の説明を聞いて唖然としていた、フィドラーが声をかけてくる。

「聖女殿は、怖ろしいことをするな」
「そうですか?みんなで協力し合うって、素敵なことじゃないですか」

 私がそう言うと、唖然としながらも、どこか納得したような表情だ。
 これなら、解散してそれぞれの国に帰ると言った、私の言葉に従ってくれるかな。
 そう考えていると、別の声が上がる。

「策はわかった。だが、もし、あの二人が兵を使って強引に国を支配しようとしたら、どうする?」

 同じく唖然としていたファイファーが問いかけてきた。
 あの二人が強引な行動に出た場合か。
 そのときに、どうするかは、決まっている。

「与えた餌に食いついて、ぶくぶくと太った豚は、ぺろりと食べちゃいましょうか。みんなでね」

 笑顔でそう答えた。
 私のその答えを聞いたファイファーは、身体をぶるりと震わせる。

「やはり、女王様と一緒にいると、新しい刺激を体験できそうだ。我もそちらの国に行ってもよいか?」
「自分の国に帰れ、ブタ」

 被虐趣味のブタが近くにいても、扱いに困る。
 食べたら、お腹を壊しそうだし。
 でも、まあ、色々と協力してもらったのは確かだ。

「正式に訪問してきたら歓迎はしますよ」

 そう言っておく。

「だから、今は自分の国に帰ってください。私達は、シルヴァニア王国にいないで、それぞれの国にいることに意味があるのですから」

 それで、私の策は完成だ。
 あとは、ヒルダの頑張りにかかっている。
 彼女が成功したら、それでよし。
 彼女が失敗したら、『ぺろりと食べる』ことになる。
 私はどちらでも、かまわない。

 *****

「聖女様を迎えに行かせてください!」

 報告を聞いて、私はすぐに指示を出す。
 けど、それが間に合わないであろうことは、すぐに予測できた。
 聖女様が滞在している村は、シルヴァニア王国とアヴァロン王国の国境付近にある。
 そして、たった今聞いた知らせは、その国境付近をプラクティカル王子とエリザベート王女が兵を連れて通過したという内容だ。
 こちらから迎えに行く時間のロスを考慮すると、間に合うはずがない。
 間に合う可能性があるとすれば、聖女様が事態に気づいて、すでにこちらに向かっていた場合だが、それは希望にすぎない。

「聖女様・・・」

 こんなとき、聖女様がどれだけ凄かったのかが分かる。
 各国の王族を前にして、堂々としていて、対等以上に交渉していた聖女様。
 それに対して私は、平静を取り繕うだけで精一杯だった。
 シルヴァニア王国の王族や上層部が不在の今、この国の代表は私ということになっている。
 けど、やはり私はそんな立場にいるような器ではない。

 聖女様に、この国を治めて欲しかった。
 最初は消去法でそう思っていた。
 エリザベート王女のやっていることを知ってしまった私にとって、エリザベート王女が王位に就く事態は、もっとも避けるべきことだった。
 でも今は、心の底から聖女様にこの国を治めて欲しいと思っている。
 どうでもよさそうにしていて、達観していて、でも行動の結果として残るのは、この国の利益だ。
 本人は慈悲深くないけれど、行動の結果は慈悲深い。
 おそらく彼女は、奇跡で人々を救う聖女ではなく、善政で人々を救う統治者なのだ。
 そして、私にとっては、どちらでも同じことだ。

「聖女様、どうか私達をお救いください」

 このままでは、エリザベート王女、もしくは、その夫になるプラクティカル王子が王位についてしまう。
 この国の王族の血を根拠に王位継承権を主張されたら、それは避けられない。
 そうなれば、この国は終わりだ。
 すぐに国が崩壊はしなくても、ゆっくりと内部から喰われていくだろう。

 私は救いを求めるように、聖女様がいた執務室に入る。
 そして、ソレを見つけた。

「これは・・・」

 ぽつんと置かれた一枚の紙。
 こちらからお願いして処理してもらっていた書類ではない。
 聖女様が自ら作成した書類のようだ。
 それを読んでいくうちに、私は見送るときに聖女様が言っていた言葉の意味を理解した。

「『帰る』とは、そちらの意味ですか!!!」

 どうやら、私は嵌められたらしい。
 やはり、彼女は聖女ではない。
 彼女は、ときに冷徹な判断を下すことができる、優秀な統治者だ。
 なのに、その椅子に座るつもりは無いらしい。
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