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部活見学2

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 私の心を込めた謝罪に感銘を受けた様子のお股がゆるい女が、がばっと立ち上がります。

「あ、あんたねえ!」

 何かを言おうとしてくるけど、リクがその肩を引いて止めます。

「おい、よせ! キララ、悪かったな」
「全くよ」

 リクが謝ってきたので、はっきりと迷惑したことを伝えます。
 すると、リクが叱られた子犬のような顔になります。
 たまに見せるこういう仕草は、少しだけソラに似ています。

「俺、サッカー部に入るから、マネージャーにならないかって、誘いに来たんだけど……」
「なるわけないでしょ」
「だよな……」

 私の当然の答えを聞いて、がっくりして肩を落とします。
 これじゃ、私がいじめているみたいです。
 少しだけ悪い気がしてきました。

「でも、応援くらいは来てくれよな」
「気が向いたらね」

 社交辞令くらいはいいだろうと思って言うと、リクがぱっと笑顔になります。

「絶対だぞ! 中学のときみたいに、一度も見に来ないなんてのは、無しだからな!」

 そう言い残し、取り巻きを引き連れて、リクは去っていきました。
 やれやれ。
 やっと、うるさいのがいなくなりました。

「ソラ、待たせてゴメンね。それで、どこに見学に行くんだっけ?」

 お詫びの意味も込めて、極上の笑顔を浮かべて、ソラとの会話に戻ります。

「キララって……もしかして、魔性の女?」

 なぜかサチコがモニョモニョした表情をしていました。

 …………

 思わぬことで時間を取られてしまったけど、当初の予定通りソラの部活見学に付き合うことにします。

「この学校には、サブカルチャー研究部っていうのが、あるみたいなんだ」

 廊下を歩きながら、ソラが教えてくれます。

「簡単に言うと、ラノベとかアニメとかを研究する部だね」

 それは単に学校でラノベを読んだり、アニメを観たりしているだけじゃないのでしょうか。
 学校でそんなことをしていて、いいのでしょうか。
 そんな疑問が顔に浮かんだのでしょう。
 ソラが補足してくれます。

「文化祭で研究成果を発表しているから、部として認められているみたいだよ。同人誌を作っている人もいるみたいだね」
「そうなんだ」

 まあ、サブカルチャーは今や日本の重要な観光資源ですからら、学校側も頭ごなしに否定はできないのでしょう。
 遊んでいるだけじゃなく、ちゃんと活動しているなら、部として認めないわけにはいかなかったのだと思います。
 私も魔女っ子が出てくるアニメは好きですし、ソラが入るなら一緒に入ろうと思います。

「あ、ここだね」

 話しながら歩いていたら、あっと言う間に目的地についたようです。
 ソラが指した部室を見ると、確かに『サブカルチャー研究部』と書いてあります。

「失礼します」

 ガチャッ

『いらっしゃ~い!』

 扉を開けると同時に、部屋の中から華やかな声がハーモニーを奏でて聞こえてきます。
 ついでに目に入ってきた光景も、華やかでした。

「見学の子達よね! さあ、入って入って!」
「やった! 男の子も来てくれたのね!」
「女の子の方は、すらっとしてモデルみたいね!」

 華やかすぎて、頭の中までお花畑の人達なのかと思いました。
 わらわらと、上級生らしき女の人達が私とソラを取り囲みます。
 全員、学校の制服を着ていません。
 アニメに出てくるような衣装を着ています。
 いわゆる、コスプレってやつです。

「キミ、かわいいわね!」
「マンガ、好き? それとも、ラノベ?」
「女の子の衣装しかないけど、着てみない?」

 ソラが大人気です。
 ほっぺをツンツンされたり、腕にモニュモニュと抱き着かれたり、服をクイクイされたりしています。

「え? え?」

 ソラは顔を赤くしてワタワタとしながらも、それを振り払おうとしません。
 いけない。
 ソラの童貞がピンチです。
 私は慌ててソラとお花畑の人達の間に割り込み、ソラを背中に庇います。

「離れろビッチども! 私の大切なソラに近づくな! ソラの童貞は渡さないわよ!」

 相手が上級生だろうと関係ありません。
 私は宣戦布告のように宣言します。
 すると、お花畑の人達が、きょとんとした顔になります。
 そして、私とソラに交互に視線を向けた後、揃ってニマッとしました。

『きゃあ~~~~~~!!!!!』

 黄色い声が部室に響き渡りました。
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