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不思議生物8

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「――というわけなのだ」
「「「へー、そうなんだー」」」

 ヤタさんの説明に、部員のみなさんが相槌を打ちます。
 ヤタさんの説明を、疑うことなく受け入れています。
 さすがです。
 この部のみなさんは順応性が高いです。
 ただしそれは、みなさんがヤタさんの説明を信じたという意味ではありません。
 設定を語るヤタさんを、生暖かく見守ってあげているという意味です。
 きっと、みなさん程度の違いはあれど、そういった時期があったのでしょう。
 具体的には中二の頃に。

「それで部長、ヤタさんをこの部のペットとして飼いたいんですけど、いいですか?」
「少女よ、話を聞いていたか? 我をペット扱いするなど――」

 説明が終わったタイミングを見計らって、私は部長に許可を求めます。
 ヤタさんが何やら言っていますが、とりあえず後回しです。
 設定に付き合うのはやぶさかではありませんが、今日はそろそろ部活が終わりの時間なのです。
 部長もそのことがわかっているのでしょう。
 ヤタさんの言葉をスルーして――

「いいわよ」
「!?」

 ――あっさり、許可をくれました。
 ヤタさんが驚愕の表情をしていますが、それもスルーです。

「でも、餌やりをどうするかが問題ね。平日は交代で世話するとして、休日はどうしようか?」
「金曜日に多めに餌をやれば、土日は大丈夫なのでは?」
「そうね。問題は夏休みとかの長期休暇かしら」
「こ、こら、おぬしら、我の話を――」

 ヤタさんをスルーしながら、ヤタさんの飼育方法について話し合います。
 とはいっても、基本的には部室で飼って、部員が交代で世話をすることは、ほぼ確定です。
 反対意見も出ていません。
 残る問題は長期休暇にどうするかだけです。

「放し飼いでもいいのでは? 学校の敷地内に餌になるミミズくらいいるでしょうし」
「それだと冬が心配ね。餌が無くて餓死したらかわいそうよ」
「……我はミミズなど食わん。好待遇を希望する」

 ヤタさんは、飼われるという状況は受け入れたのか、厚かましい要求を言い始めました。
 お仕置き目的で連れてきたので、あまり甘やかしたくはないのですが、部員のみなさんは生暖かい目でヤタさんを見ています。
 甘やかしてしまいそうですが、まあよしとしましょう。
 きっと後から、黒歴史として悶えることになるでしょうから、それをお仕置きということにしておきます。

「まあ、一戸建てか、ペット可のマンションに住んでいる人が、連れて帰って世話をすることになるかしらね」

 話し合いの結果、そういうことになりました。
 こうして、この部に新しい仲間が加わりました。

 *****

 翌日。
 朝の通学時に電車を待っていると、電話がかかってきました。

「……そうですか。ありがとうございます」

 手短に話を聞いて、私は電話を切ります。

「お仕事の電話?」

 隣にいるソラが尋ねてきます。
 それに対して、私は首を横に振ります。

「いいえ。土木作業をお願いしていたのだけど、それが無事に終わったという連絡よ」
「土木作業?」
「ええ。穴が開いちゃったから、コンクリートで埋めてもらったの」
「そうなんだ」

 私の言葉にソラが納得します。
 ちなみに埋めてもらったのは、ヤタさんが地獄へ通じていると言っていた道のことです。
 地面の下へ向かって、底が見えないくらい続いていたので、私は穴と呼んでいます。
 ノリノリで設定を語っていたヤタさんには悪いと思いましたが、人が落ちたら危ないので埋めさせてもらったのです。

「そういえば、昨日、部活をしていたら、でかい音が聞こえてきたけど、何かやったのか?」

 穴を埋めてもらった、というところから連想したのでしょうか。
 リクが疑わしそうに聞いてきます。
 それに対して、私は首を横に振ります。

「失礼ね。なにもしていないわよ」

 そう。
 私は何もしていません。
 木を倒したのは、おっぱいお化けが発射した、おっぱいミサイルです。
 私が渡した衣装が原因なのは確かですが、ちゃんとフォローはしました。
 だから、何も問題は無いはずです。
 そうそう。
 その衣装については、何かしら改良をしなければなりません。
 昨日の今日なので何もできていませんが、近日中に対応することにしましょう。

「まあ、なにもしていないならいいけどよ。でも、気をつけろよ。叫び声みたいなのも聞こえてきたから、不審者がいるかもしれないしな」

 叫び声を上げた不審者というのは、私が倒した鬼のことでしょう。
 そういえば、お仕置きした後、ほったらかしにしてしまいましたが、大丈夫だったでしょうか。
 あとで校舎裏を見に行くことにしましょう。

 ガタンゴトン

 そんなことを考えていたら、電車がきました。
 ソラとリクと一緒に、乗り込みます。
 さて、今日もいつもと変わらない一日の始まりです。
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