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018.熟れていく果実
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一言で言えば、その若い女医は大人になりきれなかったのだと思う。
表と裏がある大人の付き合いについていけなかったのだろう。
心が子供のまま、身体だけ大人になってしまったのだ。
だから、子供達と話が合ったし、お年寄り達に孫のように可愛がられていた。
診療所は保育所か寄合所のようになっていた。
「せんせー、遊びにきたよー」
子供達が女医に会いにやってくる。
「先生、一緒に茶でも飲まんかね」
お年寄り達が女医に会いにやってくる。
「いらっしゃい」
女医は嫌な顔一つせず、子供達やお年寄り達を迎え入れる。
むしろ、話し相手が来てくれたと、嬉しそうに迎え入れる。
女医にとっても、心落ち着ける時間だったのだと思う。
ただし、子供達もお年寄り達も患者ではない。
だから、診療費をもらうわけにはいかない。
医者というのは職業だ。
そして、医者にとって、患者はお客様だ。
患者から診療費をもらって生計を立てている。
けれど、子供達もお年寄り達も患者ではない。
だから、診療費をもらうわけにはいかない。
当然の結果として、女医は医者という職業の割りには金回りはよくなかった。
それでも、女医は生活に困窮していたということはなかった。
補助金とかそういうものもあったようだが、それ以外にも理由はあった。
「せんせー、拾った栗やるよ」
「ありがとう」
子供達が、山で採れた収穫物を持ってくる。
「先生、うちの庭で採れた柿じゃ」
「ありがとうございます」
お年寄り達が、庭で採れた収穫物を持ってくる。
子供達やお年寄り達が、絶え間なくお裾分けを持ってくる。
相手をしてもらう対価として、物々交換のように様々なものを置いていくのだ。
だから、少なくとも食べるのに困ることはない。
子供達やお年寄り達からすれば、毎年自然になるものだから、元手はほとんどタダのようなものだ。
しかし、都会で買おうと思ったら、それなりの値段がする。
女医は喜んでそれらを受け取り、子供達やお年寄り達とおしゃべりをする。
女医はその生活に満足していた。
都会の病院で精神的に疲れる人付き合いをするより、田舎で子供達やお年寄り達の相手をしながら、のんびり暮らす方が合っていたのだろう。
女医は幸せだったのだと思う。
「せんせー、オレと結婚してくれよ」
「ふふっ。アオイくんには、仲良しの女の子がたくさんいるじゃない」
「せんせーと結婚したいんだよ」
「うーん、アオイくんが大きくなったら考えようかな」
子供のプロポーズにそつなく答える。
「先生、うちに嫁に来んかね」
「おばあちゃんのお孫さんは、女の子じゃないですか」
「心配せんでも、同性愛には理解がある方じゃ」
「私はノーマルですよ」
お年寄りの誘いに困ったように答える。
色気のある話は無かったが、女医に不満そうな様子は無かった。
平穏を好む性格だったのだと思う。
そんな女医であるが、その存在は子供達の成長に刺激を与えていた。
「せんせー、お兄ちゃんを取っちゃダメだよ! お兄ちゃんとはアンズが結婚するの!」
アンズは嫉妬から性別の違いを意識するようになった。
「せ、せんせー、お医者さんって手術でお腹切ったりするんでしょ? 怖くない?」
サクラは好奇心から医者という職業に興味を持った。
「せんせーって都会から都会から来たんでしょ? 都会ってどんなところ?」
カエデは憧れから都会の話を聞きたがった。
良い刺激だったか悪い刺激だったかはわからない。
けれど、子供達の成長を促したのは確かだ。
都会から来た女医という存在が、田舎に影響を与えたのだ。
しかし、影響というものは一方通行ではない。
影響を与えた側も、影響を受ける。
都会から来た女医という存在も、田舎から影響を受ける。
影響というものは、与える側と受ける側の認識に違いがあるときに発生する。
その認識の違いとは、主に文化の違いだ。
常識の違いと言い換えてもいい。
自分が常識だと思っていることと違う。
そのことに驚き、自分の中に変化が起きる。
新しい常識を受け入れれば、影響を受けたことになる。
自分の常識を持ち続ければ、影響を与えたことになる。
影響を受けるか、影響を与えるかは、そのときの状況や本人の性格しだいだ。
女医の場合はどうだったろうか。
地味で自信が無く流されやすい性格の女医は、影響を受けることの方が多かったように思う。
都会から田舎に一人でやって来たのだ。
多勢に無勢という面もあったかも知れない。
女医は田舎に馴染んでいった。
それが良いことだったか悪いことだったかは、女医がどう思っているかしだいだ。
それは、周囲の人間にはわからない。
ただ、女医は田舎での生活に満足して幸せそうだった。
だから、周囲の人間は善意で影響を与え続ける。
女医は、それに流されていった。
女医は、それを受け入れていった。
女医は、それに染まっていった。
女医は、それに染められていった。
表と裏がある大人の付き合いについていけなかったのだろう。
心が子供のまま、身体だけ大人になってしまったのだ。
だから、子供達と話が合ったし、お年寄り達に孫のように可愛がられていた。
診療所は保育所か寄合所のようになっていた。
「せんせー、遊びにきたよー」
子供達が女医に会いにやってくる。
「先生、一緒に茶でも飲まんかね」
お年寄り達が女医に会いにやってくる。
「いらっしゃい」
女医は嫌な顔一つせず、子供達やお年寄り達を迎え入れる。
むしろ、話し相手が来てくれたと、嬉しそうに迎え入れる。
女医にとっても、心落ち着ける時間だったのだと思う。
ただし、子供達もお年寄り達も患者ではない。
だから、診療費をもらうわけにはいかない。
医者というのは職業だ。
そして、医者にとって、患者はお客様だ。
患者から診療費をもらって生計を立てている。
けれど、子供達もお年寄り達も患者ではない。
だから、診療費をもらうわけにはいかない。
当然の結果として、女医は医者という職業の割りには金回りはよくなかった。
それでも、女医は生活に困窮していたということはなかった。
補助金とかそういうものもあったようだが、それ以外にも理由はあった。
「せんせー、拾った栗やるよ」
「ありがとう」
子供達が、山で採れた収穫物を持ってくる。
「先生、うちの庭で採れた柿じゃ」
「ありがとうございます」
お年寄り達が、庭で採れた収穫物を持ってくる。
子供達やお年寄り達が、絶え間なくお裾分けを持ってくる。
相手をしてもらう対価として、物々交換のように様々なものを置いていくのだ。
だから、少なくとも食べるのに困ることはない。
子供達やお年寄り達からすれば、毎年自然になるものだから、元手はほとんどタダのようなものだ。
しかし、都会で買おうと思ったら、それなりの値段がする。
女医は喜んでそれらを受け取り、子供達やお年寄り達とおしゃべりをする。
女医はその生活に満足していた。
都会の病院で精神的に疲れる人付き合いをするより、田舎で子供達やお年寄り達の相手をしながら、のんびり暮らす方が合っていたのだろう。
女医は幸せだったのだと思う。
「せんせー、オレと結婚してくれよ」
「ふふっ。アオイくんには、仲良しの女の子がたくさんいるじゃない」
「せんせーと結婚したいんだよ」
「うーん、アオイくんが大きくなったら考えようかな」
子供のプロポーズにそつなく答える。
「先生、うちに嫁に来んかね」
「おばあちゃんのお孫さんは、女の子じゃないですか」
「心配せんでも、同性愛には理解がある方じゃ」
「私はノーマルですよ」
お年寄りの誘いに困ったように答える。
色気のある話は無かったが、女医に不満そうな様子は無かった。
平穏を好む性格だったのだと思う。
そんな女医であるが、その存在は子供達の成長に刺激を与えていた。
「せんせー、お兄ちゃんを取っちゃダメだよ! お兄ちゃんとはアンズが結婚するの!」
アンズは嫉妬から性別の違いを意識するようになった。
「せ、せんせー、お医者さんって手術でお腹切ったりするんでしょ? 怖くない?」
サクラは好奇心から医者という職業に興味を持った。
「せんせーって都会から都会から来たんでしょ? 都会ってどんなところ?」
カエデは憧れから都会の話を聞きたがった。
良い刺激だったか悪い刺激だったかはわからない。
けれど、子供達の成長を促したのは確かだ。
都会から来た女医という存在が、田舎に影響を与えたのだ。
しかし、影響というものは一方通行ではない。
影響を与えた側も、影響を受ける。
都会から来た女医という存在も、田舎から影響を受ける。
影響というものは、与える側と受ける側の認識に違いがあるときに発生する。
その認識の違いとは、主に文化の違いだ。
常識の違いと言い換えてもいい。
自分が常識だと思っていることと違う。
そのことに驚き、自分の中に変化が起きる。
新しい常識を受け入れれば、影響を受けたことになる。
自分の常識を持ち続ければ、影響を与えたことになる。
影響を受けるか、影響を与えるかは、そのときの状況や本人の性格しだいだ。
女医の場合はどうだったろうか。
地味で自信が無く流されやすい性格の女医は、影響を受けることの方が多かったように思う。
都会から田舎に一人でやって来たのだ。
多勢に無勢という面もあったかも知れない。
女医は田舎に馴染んでいった。
それが良いことだったか悪いことだったかは、女医がどう思っているかしだいだ。
それは、周囲の人間にはわからない。
ただ、女医は田舎での生活に満足して幸せそうだった。
だから、周囲の人間は善意で影響を与え続ける。
女医は、それに流されていった。
女医は、それを受け入れていった。
女医は、それに染まっていった。
女医は、それに染められていった。
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