敗戦国の王女たちの処女を散らす愛を知らない若き国王アルダールが、アリシアと出会って愛を知るまで

佐保やよい

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8.意外と名君

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 アルダールは昨夜はほとんど眠らずにヘロデアの王女を抱いたにもかかわらず、いやだからこそスッキリとした頭で王宮の王の執務室で仕事を始めた。

最近は子を作るためにエリクシアの元に毎晩通っていた。それが楽しくないために気分が鬱々としていたのだと、昨夜エスティア王女を抱いて気づいた。今朝は鼻歌を歌いだしそうなほど気分がよい。

 宰相が、オルドネージュと戦うよりも属国となる道を選ぶ周辺国の報告のために入ってきた。

「ユルゲンか。我が国との戦を避けたいと願い出てきた国は今現在、どの程度あるのだ?」「クライストン帝国の南西に位置するチトリス、わがオルドネージュの北にあるヘロデア、そして東北にあるダットンです。」中央大陸の地図を広げながら、宰相のユルゲン公が説明した。

「ヘロデアとダットンをオルドネージュに取り込むと、国土がクライストンとほぼ拮抗するな。だが、チトリスはダメだ。クライストンに近すぎる。第一、なぜ我が国に近づいたんだ?属国を願い出るならまずは地の利を考えてもクライストンだろう。」

「クライストンは我が国と違い、属国は解体して旧王家も取り潰すので、クライストンの属国になるメリットがないからでしょう。」

さすがはユルゲンだ。クライストンの最近の情報をよく抑えている。

「それに比べて我が国の属国になれば、国土の4分の3は安堵され、地方の1公国として生き残れます。忠誠の証として人質を30年間王都に送ることと、オルドネージュ人の3倍の税は課されますが、10年後には税は2倍、30年後には生れながらのオルドネージュ人と同等の税率になります。我が国の同化政策の方がおだやかで、受け入れやすいのでしょう。」

「もっとも」と宰相が続けた。「陛下は昨夜、すでにヘロデアからの人質を堪能されたようですが。」

宰相は暗に順番が違うと言いたいのだ。まずは属国となる契約を結び、税の取り決めとオルドネージュに明け渡す国土の4分の1を決め、それから人質を王宮に差し出すのが筋だと宰相は言いたいのだろう。

それが、勝手にヘロデアが交渉前から人質を送り、それをあろうことか受け取って楽しんでしまうなど。小言を続けようとした宰相を、手をあげてさえぎった。

「あれは人質ではない。単なる貢ぎ物だ。いわばおもちゃだな。いや、生きているからペットか。」
一国の王女をペット呼ばわりとか。宰相は頭を抱えたくなった。

「陛下、まだヘロデアを属国とする決定はされておりません。」
「だから、人質ではなく貢ぎ物だといったんだ。ユルゲン、誰がその属国のオルドネージュ同化政策を考えたと思っているんだ?俺がこの政策の意図と中身を知らぬとでも?」

そうだった、この若い国王が地方の小国に過ぎなかったオルドネージュを東のクライストンが迂闊に手を出せない国へと導いてきたのだ。

「属国となった国から人質を取るなら、王子だ。女子しかいないならともかく、ヘロデアには王子が2人いるはずだ。」

国王は昨晩、たっぷりとヘロデアの年端のいかぬ幼い王女を可愛がったと今朝、離宮の管理人から報告が上がっていた。珍しく気に入ったようで、今晩も離宮に泊まる予定だと。若いから情に流されたかと思ったが、そうではなかったらしい。

宰相の表情から何を考えたのか読み取ったアルダールは、ニヤリと笑った。

「ユルゲン、俺を見くびったことへの謝罪なら受け取るぞ。ヘロデアの王女は気に入った。だが俺は公私混同はせぬ。」

「陛下、恐れ入りました。ヘロデアとダットン、チトリスを我が国の属国とするか否かを早急に議会にかけます。次に南部領地での穀物の不作の影響の件ですが・・・」

当面の国際問題のあとは、国内問題の対処だ。ユルゲン公爵は、次の報告に移った。



 その日の夜はまた離宮に足を向けた。あんな幼い少女を抱くなど、変なところで父と似ているとは。アルダールは苦笑した。父が母を無理やり犯した時、母はまだ12か13歳だったはず。自分を生んだ時、母は13歳だったのだから。

 それにしても、ヘロデアの王女に対するこの感情をなんと呼べばいいのだろう。エスティアの物怖じしない態度、アルダールの顔色を伺わずに自分の意思で言葉を紡ぐ意志の強さは好もしい。エスティアを抱くのも面倒ではない。

ふと、3年前に滅ぼしたユディン王国の公妃を思い出した。ユディンの国王はアルダールよりも若い10代の少年だった。少年王の命乞いのために、公爵家に嫁いでいた王の姉、公妃レアナがユディンの生き残っていた廷臣たちの手によりアルダールに差し出された。

思えば、この時からアルダールの元に滅ぼした王族の女たちが貢ぎ物として贈られるようになった。

公妃レアナは嫁いで半年で故国が滅び、夫はその戦で戦死、懐妊していた公妃は悲しみとショックで流産した。幸せの絶頂から一気に地獄に突き落とされ、夫の後を追って自害しようとしていたところを廷臣たちに止められ、まだ戦争の後処理でユディンの王城に留まっていたアルダールに贈られた。

ユディンでの抵抗勢力の制圧と残務に手間取り、疲れて夜更けに寝所に入ると、薄布の夜着だけを身に付けた女がベッドに腰掛けてアルダールを待っていた。

「誰だ?」一瞬女と気づかず、剣を抜いた。暗闇に目が慣れて、女だと分かった。また部下が気を利かせて娼館で調達した女をよこしたのかと最初は思った。なぜ娼館の女かというと、城の侍女たちに手を付けることを厳禁したからだ。国を攻めるたびに平民や使用人の女をレイプしていては、軍の規律が保てない。

「ユディン国王の姉、ジョルダナ公爵の公妃レアナでございます。弟の命乞いに参りました。」女の顔は暗くてよく見えないが、声は若い。あの少年王の姉なら、20歳前後かも知れない。

「弟の命乞いで、なぜ俺の寝所にきた?」
「代わりに私の命で弟の命を贖いたく存じます。」
「お前の命で?体ではなくて?」面白いことをいう女だ。

「そうです。オルドネージュの王よ。もし弟の処刑が決まっているなら、代わりに私の首を差し上げます。その代わりに弟を去勢して神殿の祭司にでも据えれば、我が王家の直系の血は途絶えますから。」

言っていることが、やけに過激だ。弟を去勢してでも生かしたいということか?

「だが、お前が俺の寝所にいる意味がまだわからない。俺に抱かれるために来たのではないのか?そんな恰好をして。」

「いいえ。弟の命乞いはしますが、ここに来たのは私の意志ではありません。」それで悟った。この女は公妃と名乗った。つまり誰かに嫁いだが、王には王妃も妹もいないから、嫁いだ姉が無理やり差し出されて来たのだろう。

「お前の夫はお前が俺の寝所に送られたことを知っているのか。」

少しの沈黙のあと、レアナが答えた。「夫は戦死したわ。」

ふむ。どうしたものか。アルダールはまだ21歳の元気な若者だ。つい数日前までは戦場に立っていた。体は別の意味で臨戦態勢にあり、戦場での興奮状態もまだ完全には冷めていない。

つまり、アルダールはこのベッドに腰かけた女に激しく欲情したのだ。ただの体の生理反応だとその時は思った。

女の前まで行き、その顔を見下ろしながら「そんな薄着で、夜遅くに若い男の前でベッドに座って、何も起きないと本当に思ったのか?」バカにしたように笑って、レアナに手を伸ばした。

「触らないで!」レアナが隠し持っていた細い短剣を握りしめ、自分の喉元に突きつけた。

「弟を生かしてください。それが、あの馬鹿な廷臣どもの願いなのだから。夫も弟を助けるために死んだ。だから私も、弟の命乞いで死ぬわ。」

アルダールは、強烈にこの女に欲情した。
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