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解散の危機!?
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早いもので、俺たちのバンド活動が始まって二週間が過ぎた。
まだ自分たちの曲を作る段階までは至っていないが、簡単な曲であればなんとかカバーできるくらいまでは成長していた。
実際のところ、メンバーの中で一番レベルが低いのは俺だ。足を引っ張らないようにもっとスキルを磨かなければ……。
焦る気持ちを押さえきれず、今日も一番乗りで第二音楽室に到着し、苦手なコードが入った曲を練習してみんなが来るのを待った。
しばらくして放課後のチャイムが鳴ると、いつもどおり黒田が一番にやって来たのだが、今日は珍しく大人しい登場だった。
「おっすー、お客さん連れて来たよー」
「お客さん?」
黒田が珍しく走らずに登場した理由はわかったが、ここに来るような客人とはいったい誰なのだろうか?
黒田の後から来た恵と山吹に連れられて、その客人が姿を現した。
「こんにちは佐倉君、しばらく振りね」
教室に入って来た客人の正体は、担任の山吹先生だった。
「あ、どうも、ろくに挨拶にも行かずにすみません。もしかして俺にご用ですか?」
「ううん、佐倉君だけじゃないの」
「にひひー、あんたがお目当てじゃなくて残念だったねー」
「うるせぇ」
先生の横から茶化してくる黒田に、むっとした表情で返した。
「あ、すみません。それで、先生のご用っていうのは?」
「実は、生徒指導部の先生から言われたんだけど……」
生徒指導部と聞いて、なんだか嫌な予感がした。
「部活にせよ同好会にせよ、学校で活動する以上、顧問の先生も就けずに、生徒だけで自由にさせるのは良くないって指摘があってねぇ……」
「えっ⁉ それじゃあ私たちここで活動できなくなるんですか? 音楽の先生にはちゃんとここの使用許可貰ってるんですけど……」
先生の言葉に恵が慌てて飛びついた。
「落ち着いて原田さん、まだ決まったわけじゃないわ」
「いったいどんな厳しい条件を出されたんですか? 相手が生徒指導部ってことは〝鬼の吉本ちゃん〟ですよね、丸坊主でこーんな怖い目した」
黒田が指で目尻を吊り上げて、鬼のような形相を再現してみせた。
「ふふ、確かにあの怖ーい先生からのご指摘だけど、そんなに厳しい条件じゃないわ。ようは顧問の先生が就けばいいのよ。そこでなんだけど……」
「もしかして先生が顧問になってくれるんですか!」
先生が全てを言い終える前に、恵が生き生きとした表情で口を挟んだ。
「ええ、ぜひそうさせてもらいたいと思ってるんだけど、バンドどころか、音楽のこともあんまり知らない私でも大丈夫かしら……」
「もちろんです! 山吹先生みたいに優しい先生なら大歓迎です!」
少し不安そうに尋ねる先生に対し、恵が嬉しそうに答えた。
「でもどうして山吹先生が引き受けてくれたんですか? 先生って美術の先生でしょ?」
なぜ音楽の先生ではないのかと、俺も少し疑問に思っていたことを黒田が尋ねた。
「あ、えっとそれは……私がお姉ちゃんにお願いしたからなんだ」
なぜか先生ではなく、今まで恵の隣で黙っていた山吹が答えた。
「ん? なんでアヤのお姉ちゃんに……ってまさか⁉」
「うふふ、そのまさかよ。私が彩乃のお姉ちゃんです」
驚きの表情を浮かべている黒田に、先生はお茶目に微笑みながら答えた。
「やっぱり! 前からアヤちゃんに似てるなーって思ってたんだ」
恵と同時に、先生の隣に並ぶ山吹の姿を見た俺もそれを納得した。
「黙っててごめんね。身内が同じ学校に居る先生だって言ったら、みんな変に気を使っちゃうかなぁと思って言わなかったの……」
俺が小学生のころのクラスメイトにも、親が同じ学校に居る先生だという子が居たが、確かにお互い変に気を使ってしまい、いつも周囲は一歩下がった交流をしていた覚えがある。
「そんな細かいこと気にしなくてもいいって。アヤの身内は私たちの身内も同然なんだし」
「なっちゃんの言うとおり、先生がお姉ちゃんなら私も大歓迎だよ」
黒田と恵の言い方は少しずれているが、心配する山吹にはいい励ましになっただろう。
「みんなありがとう。このとおり内気な妹だから、みんなみたいな優しいお友達が居てくれて助かるわ。ね?」
「もう、恥ずかしいよお姉ちゃん、みんなの前で子ども扱いして……」
先生が山吹の頭を優しく撫でると、顔を赤くして、みんなの前では見せたことのない可愛らしい膨れっ面を見せた。
「では、あらためまして、顧問になった山吹恭子です。さっきも言ったとおり音楽は素人だけど、精一杯みんなをサポートできるように頑張るわね!」
先生はあらためて自己紹介をして、両手でぐっと可愛らしいガッツポーズを見せた。
先生の挨拶が終わってすぐ、俺は恵と黒田に使いっ走りにされ、実習棟の一階にある空き教室から、生徒用の机と椅子をひとセット取って戻って来た。
教室の真ん中で向かい合わせに寄せてあった四つの机の側面に、俺が持って来た五つ目の机が合わせられ、新たな仲間が増えたことを実感させられた。
こうして無事に顧問の先生が就くことになり、突然やって来た思いもよらない解散の危機は、なんの苦労もなく風のように去って行ったのであった。
次の日から、毎日ではないが先生が俺たちの練習を見に来るようになった。先生が居ることで堅苦しくなったかというとそうでもない。
大きく変わったことといえば、感想を言ってくれる第三者が増えたことと、お菓子の減りが早くなったことくらいだろうか。お菓子のことはさて置き、正直に感想を言ってくれる人が身近に居てくれるのはありがたいことだ。
まだ自分たちの曲を作る段階までは至っていないが、簡単な曲であればなんとかカバーできるくらいまでは成長していた。
実際のところ、メンバーの中で一番レベルが低いのは俺だ。足を引っ張らないようにもっとスキルを磨かなければ……。
焦る気持ちを押さえきれず、今日も一番乗りで第二音楽室に到着し、苦手なコードが入った曲を練習してみんなが来るのを待った。
しばらくして放課後のチャイムが鳴ると、いつもどおり黒田が一番にやって来たのだが、今日は珍しく大人しい登場だった。
「おっすー、お客さん連れて来たよー」
「お客さん?」
黒田が珍しく走らずに登場した理由はわかったが、ここに来るような客人とはいったい誰なのだろうか?
黒田の後から来た恵と山吹に連れられて、その客人が姿を現した。
「こんにちは佐倉君、しばらく振りね」
教室に入って来た客人の正体は、担任の山吹先生だった。
「あ、どうも、ろくに挨拶にも行かずにすみません。もしかして俺にご用ですか?」
「ううん、佐倉君だけじゃないの」
「にひひー、あんたがお目当てじゃなくて残念だったねー」
「うるせぇ」
先生の横から茶化してくる黒田に、むっとした表情で返した。
「あ、すみません。それで、先生のご用っていうのは?」
「実は、生徒指導部の先生から言われたんだけど……」
生徒指導部と聞いて、なんだか嫌な予感がした。
「部活にせよ同好会にせよ、学校で活動する以上、顧問の先生も就けずに、生徒だけで自由にさせるのは良くないって指摘があってねぇ……」
「えっ⁉ それじゃあ私たちここで活動できなくなるんですか? 音楽の先生にはちゃんとここの使用許可貰ってるんですけど……」
先生の言葉に恵が慌てて飛びついた。
「落ち着いて原田さん、まだ決まったわけじゃないわ」
「いったいどんな厳しい条件を出されたんですか? 相手が生徒指導部ってことは〝鬼の吉本ちゃん〟ですよね、丸坊主でこーんな怖い目した」
黒田が指で目尻を吊り上げて、鬼のような形相を再現してみせた。
「ふふ、確かにあの怖ーい先生からのご指摘だけど、そんなに厳しい条件じゃないわ。ようは顧問の先生が就けばいいのよ。そこでなんだけど……」
「もしかして先生が顧問になってくれるんですか!」
先生が全てを言い終える前に、恵が生き生きとした表情で口を挟んだ。
「ええ、ぜひそうさせてもらいたいと思ってるんだけど、バンドどころか、音楽のこともあんまり知らない私でも大丈夫かしら……」
「もちろんです! 山吹先生みたいに優しい先生なら大歓迎です!」
少し不安そうに尋ねる先生に対し、恵が嬉しそうに答えた。
「でもどうして山吹先生が引き受けてくれたんですか? 先生って美術の先生でしょ?」
なぜ音楽の先生ではないのかと、俺も少し疑問に思っていたことを黒田が尋ねた。
「あ、えっとそれは……私がお姉ちゃんにお願いしたからなんだ」
なぜか先生ではなく、今まで恵の隣で黙っていた山吹が答えた。
「ん? なんでアヤのお姉ちゃんに……ってまさか⁉」
「うふふ、そのまさかよ。私が彩乃のお姉ちゃんです」
驚きの表情を浮かべている黒田に、先生はお茶目に微笑みながら答えた。
「やっぱり! 前からアヤちゃんに似てるなーって思ってたんだ」
恵と同時に、先生の隣に並ぶ山吹の姿を見た俺もそれを納得した。
「黙っててごめんね。身内が同じ学校に居る先生だって言ったら、みんな変に気を使っちゃうかなぁと思って言わなかったの……」
俺が小学生のころのクラスメイトにも、親が同じ学校に居る先生だという子が居たが、確かにお互い変に気を使ってしまい、いつも周囲は一歩下がった交流をしていた覚えがある。
「そんな細かいこと気にしなくてもいいって。アヤの身内は私たちの身内も同然なんだし」
「なっちゃんの言うとおり、先生がお姉ちゃんなら私も大歓迎だよ」
黒田と恵の言い方は少しずれているが、心配する山吹にはいい励ましになっただろう。
「みんなありがとう。このとおり内気な妹だから、みんなみたいな優しいお友達が居てくれて助かるわ。ね?」
「もう、恥ずかしいよお姉ちゃん、みんなの前で子ども扱いして……」
先生が山吹の頭を優しく撫でると、顔を赤くして、みんなの前では見せたことのない可愛らしい膨れっ面を見せた。
「では、あらためまして、顧問になった山吹恭子です。さっきも言ったとおり音楽は素人だけど、精一杯みんなをサポートできるように頑張るわね!」
先生はあらためて自己紹介をして、両手でぐっと可愛らしいガッツポーズを見せた。
先生の挨拶が終わってすぐ、俺は恵と黒田に使いっ走りにされ、実習棟の一階にある空き教室から、生徒用の机と椅子をひとセット取って戻って来た。
教室の真ん中で向かい合わせに寄せてあった四つの机の側面に、俺が持って来た五つ目の机が合わせられ、新たな仲間が増えたことを実感させられた。
こうして無事に顧問の先生が就くことになり、突然やって来た思いもよらない解散の危機は、なんの苦労もなく風のように去って行ったのであった。
次の日から、毎日ではないが先生が俺たちの練習を見に来るようになった。先生が居ることで堅苦しくなったかというとそうでもない。
大きく変わったことといえば、感想を言ってくれる第三者が増えたことと、お菓子の減りが早くなったことくらいだろうか。お菓子のことはさて置き、正直に感想を言ってくれる人が身近に居てくれるのはありがたいことだ。
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