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エピソード17 ボクたちの初先輩
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「おーす!」
「いらっしゃーい」
今日は、タケルくんが、うちに来ました。
「ちょっと、キッチンに寄っていいか?」
「いいけど……」
はて、珍しい。また、おそうめんでも作ろうってのかな?
「よっと」
彼がリュックを下ろし、ジッパーを開けると、ラッピングされた大きな箱が出現!
「なにこれ、どしたの?」
「バウムクーヘン。ほら、いつもお前がオレに弁当とか用意してくれるじゃん。だから、オレのぶんの昼食代・おやつ代がだいぶ浮いてな。それじゃ申し訳ないってんで、せめてものお返しにって」
テーブルの上に、バウムクーヘンが置かれる。
「えー! ボクが好きで作ってるんだから、気にしなくていいのに~」
「まー、おふくろの厚意だから、無下にせんでやってくれ。やっぱり、小学生から、もらいっぱなしってのはな」
「どっちの気持ちも、わかるのがな」と、自分の後頭部を、撫でる彼。
「うーん、じゃあお言葉に甘えて。夜になったら、お礼の電話しなきゃ。あ、タケルくんも一緒に食べようよ!」
「そりゃ駄目だろ。厚意の贈り物なんだから。オレが食っちゃ、意味ないよ」
「あー、そだね。じゃあ、お父さんたちが帰ってきたら、いただくね」
冷蔵庫にしまう。
「ところで、今度はキウイゼリー作ってみたんだけど、これは食べてくれるよね?」
「お、サンキュ。ほんと、お前には、もらってばかりだなあ」
「それこそ、気にしないでよ。ボクだって、タケルくんには守られっぱなしだし、手作りの、料理やお菓子を、美味しい美味しいって食べてもらえるの、すごく嬉しいんだよ」
入れ替えに、ゼリーと飲み物を取り出し、トレイに載せる。
「じゃあ、上に行こうか」
おやつを持って、自室に向かうのでした。
◆ ◆ ◆
「さて、一つ目の用事が、終わったわけだけど……」
「まだ、なにかあるの?」
首を傾げる。
「ああ。これ、親戚のおじさんが、自由に使いなさいって」
そう言って、渋沢さんを二枚、テーブルに出す彼。思わず、むせてしまう。
「大丈夫か!?」
「二万円って……! ちょっと、どういうアレ!?」
呼吸を整えると、我ながら意味不明な問いかけをしてしまう。
「んーと。最初に、謝っておくことがある。おじさんに、お前との仲と、お前の秘密を話した」
「な……! それはひどいよ!」
さすがのボクも、怒る。タケルくんに怒ったの、これが初めてかも知れない。
「だから、先に謝った。ごめんな。で、話は続くわけだが、聞いてもらえるか? それで、なんでオレがそんなことしたか、そして、二万円なんて大金もらったか、わかるから」
「……いいけど」
タケルくんは誠実な人だ。無意味に、親戚に恋仲はともかく、GIDのことまで話さないはずだ。
互いに、居住まいを正す。
「おじさんな。昔、お前みたいな人と恋仲だったんだ」
「え!」
しょっぱなから、まさかの展開!
「女性化の手術も受けててさ。それは、仲睦まじかったらしいよ。でも……。昔って、今以上に、差別も偏見もひどくてさ。遠回しに、ネチネチ攻撃されるのに耐えられなくなって、泣く泣く別れたんだそうだ」
「可哀想……」
つうと、涙が頬を伝う。タケルくんも、泣きたいのをこらえているようだ。ボクらにとって、他人事じゃないもの。
「で、近くに住んでるうちは、当時から、トランスの人や、同性愛者の居場所だった、新宿二丁目っていうところで会ってたんだけど、おじさん、名古屋に転勤になっちゃってな。遠距離恋愛をすることになったんだけど……。遠距離恋愛って、やっぱ長続きしなくて。関係は、自然消滅したらしい」
飲み物で、喉を潤して。
「それから、ずっと独り身で。お相手さんも、あれからどうしてるのか、わからないって。そんな経験を、以前話してくれた」
さらに、もうひと飲み。
「そんなおじさんが、名古屋から、ひょっこり遊びに来たんだ。そういう経験をしてきた、おじさんなら、信頼できるはずって、なにかアドバイスもらえないかなって、オレとお前のこと、打ち明けたんだよ。そしたらさ、酒が入ってたせいもあるのかな。『血筋なのかなあ。これ、その子とのデートにでも使いなさい。お前たちには、俺たちのぶんまで、幸せになってほしい』って、この二万円をくれたんだ」
タケルくんのおじさん……。優しくて、気前よくて。そして、哀しい人……。
「だからさ、お前がこないだ言ってたような、ちょっと金のかかるデート、今度しようぜ! おじさんの気持ち、受け取ってほしい」
「うん、そうだね。でも、うちの両親には相談しなきゃ。大金だもん」
「うん。じゃあ、今はとりあえず、オレが持っとくな」
財布に、再びお札をしまう彼。
ちょっと、しんみりした空気の中、ゼリーを食べるのでした。
「いらっしゃーい」
今日は、タケルくんが、うちに来ました。
「ちょっと、キッチンに寄っていいか?」
「いいけど……」
はて、珍しい。また、おそうめんでも作ろうってのかな?
「よっと」
彼がリュックを下ろし、ジッパーを開けると、ラッピングされた大きな箱が出現!
「なにこれ、どしたの?」
「バウムクーヘン。ほら、いつもお前がオレに弁当とか用意してくれるじゃん。だから、オレのぶんの昼食代・おやつ代がだいぶ浮いてな。それじゃ申し訳ないってんで、せめてものお返しにって」
テーブルの上に、バウムクーヘンが置かれる。
「えー! ボクが好きで作ってるんだから、気にしなくていいのに~」
「まー、おふくろの厚意だから、無下にせんでやってくれ。やっぱり、小学生から、もらいっぱなしってのはな」
「どっちの気持ちも、わかるのがな」と、自分の後頭部を、撫でる彼。
「うーん、じゃあお言葉に甘えて。夜になったら、お礼の電話しなきゃ。あ、タケルくんも一緒に食べようよ!」
「そりゃ駄目だろ。厚意の贈り物なんだから。オレが食っちゃ、意味ないよ」
「あー、そだね。じゃあ、お父さんたちが帰ってきたら、いただくね」
冷蔵庫にしまう。
「ところで、今度はキウイゼリー作ってみたんだけど、これは食べてくれるよね?」
「お、サンキュ。ほんと、お前には、もらってばかりだなあ」
「それこそ、気にしないでよ。ボクだって、タケルくんには守られっぱなしだし、手作りの、料理やお菓子を、美味しい美味しいって食べてもらえるの、すごく嬉しいんだよ」
入れ替えに、ゼリーと飲み物を取り出し、トレイに載せる。
「じゃあ、上に行こうか」
おやつを持って、自室に向かうのでした。
◆ ◆ ◆
「さて、一つ目の用事が、終わったわけだけど……」
「まだ、なにかあるの?」
首を傾げる。
「ああ。これ、親戚のおじさんが、自由に使いなさいって」
そう言って、渋沢さんを二枚、テーブルに出す彼。思わず、むせてしまう。
「大丈夫か!?」
「二万円って……! ちょっと、どういうアレ!?」
呼吸を整えると、我ながら意味不明な問いかけをしてしまう。
「んーと。最初に、謝っておくことがある。おじさんに、お前との仲と、お前の秘密を話した」
「な……! それはひどいよ!」
さすがのボクも、怒る。タケルくんに怒ったの、これが初めてかも知れない。
「だから、先に謝った。ごめんな。で、話は続くわけだが、聞いてもらえるか? それで、なんでオレがそんなことしたか、そして、二万円なんて大金もらったか、わかるから」
「……いいけど」
タケルくんは誠実な人だ。無意味に、親戚に恋仲はともかく、GIDのことまで話さないはずだ。
互いに、居住まいを正す。
「おじさんな。昔、お前みたいな人と恋仲だったんだ」
「え!」
しょっぱなから、まさかの展開!
「女性化の手術も受けててさ。それは、仲睦まじかったらしいよ。でも……。昔って、今以上に、差別も偏見もひどくてさ。遠回しに、ネチネチ攻撃されるのに耐えられなくなって、泣く泣く別れたんだそうだ」
「可哀想……」
つうと、涙が頬を伝う。タケルくんも、泣きたいのをこらえているようだ。ボクらにとって、他人事じゃないもの。
「で、近くに住んでるうちは、当時から、トランスの人や、同性愛者の居場所だった、新宿二丁目っていうところで会ってたんだけど、おじさん、名古屋に転勤になっちゃってな。遠距離恋愛をすることになったんだけど……。遠距離恋愛って、やっぱ長続きしなくて。関係は、自然消滅したらしい」
飲み物で、喉を潤して。
「それから、ずっと独り身で。お相手さんも、あれからどうしてるのか、わからないって。そんな経験を、以前話してくれた」
さらに、もうひと飲み。
「そんなおじさんが、名古屋から、ひょっこり遊びに来たんだ。そういう経験をしてきた、おじさんなら、信頼できるはずって、なにかアドバイスもらえないかなって、オレとお前のこと、打ち明けたんだよ。そしたらさ、酒が入ってたせいもあるのかな。『血筋なのかなあ。これ、その子とのデートにでも使いなさい。お前たちには、俺たちのぶんまで、幸せになってほしい』って、この二万円をくれたんだ」
タケルくんのおじさん……。優しくて、気前よくて。そして、哀しい人……。
「だからさ、お前がこないだ言ってたような、ちょっと金のかかるデート、今度しようぜ! おじさんの気持ち、受け取ってほしい」
「うん、そうだね。でも、うちの両親には相談しなきゃ。大金だもん」
「うん。じゃあ、今はとりあえず、オレが持っとくな」
財布に、再びお札をしまう彼。
ちょっと、しんみりした空気の中、ゼリーを食べるのでした。
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