エンゼル係数高井さん

みなはらつかさ

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エンゼル係数高井さん

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「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 古式ゆかしいお嬢様学校で、少女たちの挨拶が交わされる。

「生徒会長、ごきげんよう」

「お姉様、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 生徒会長である私が微笑んで返すと、下級生たちも嬉しそう。

 ただ……。

 お腹空いた!

 「表」の顔は、生徒に慕われる完璧生徒会長。その実は、スーパーくいしん坊!

 きちんとお弁当を食べたけど、まさか巨大お弁当箱を見せるわけにもいかず、それはもう、可愛らしいお弁当箱でしたとも。

 もちろん、ぜんぜん足りない!

 買い食いは禁止されているし、家に帰るまでの我慢!

 うう……目が回って倒れ……。


 ◆ ◆ ◆


(あれ、ここは……?)

 気がつくと、どうも自分はベッドで寝ているらしい。

「会長、大丈夫ですか?」

 心配そうに私の顔を覗く、副会長の高井さん。見慣れたショートボブが、重力で垂れる。

「私、どうして……」

「廊下で突然、倒れられたんです。それでみんなで、一所懸命保健室までお運びして……」

 は、恥ずかしい! やってしまった!

「会長、頑張りすぎですよ。昨日も、学院祭の準備を遅くまで取り仕切って」

 ため息をつく高井さん。実はお腹が空きすぎて倒れましたなんて、死んでも言える空気じゃない。

 ぐうううううう……。

 お腹は空気を読んでくれませんでした。

「あの。お腹、空いてらっしゃるんですか?」

 ここにきて隠しても仕方ない。おずおずとうなずく。

「たしかに、会長のお弁当、小さかったですものね」

「面目ないです」

「いえいえ。仕事量に対して、たしかに少なすぎです。もう倍、カロリーが必要と見ました」

 そう言われ、もじもじ。

「でも、私にも見栄が……」

「見栄で倒れてたら、本末転倒です! 不肖高井、こっそりお弁当をお渡しします。そして、二人で食べましょう!」

 ええー!

「ほかの生徒会のみんなはどうするの?」

「仲良く全員で、食べなければいけない、という決まりはありませんから」

 それはそうだけど。

「感じ悪くないかしら?」

「いいえ、実はみんな、それぞれカップルでして。二人きりになりたかったはずです」

「えー!?」

 変な声を出してしまう。

「まさかでしょう?」

「不肖高井、情報網は抜かりありません」

 なんとまあ。女子校には多い話だと聞くけれど。灯台下暗し。

「でもそれだと、私と高井さんがその……」

 ごにょごにょ。

「お嫌ですか?」

「いえ! 嫌ということはないのよ!? ただ……」

「会長、人目を気にしすぎです。それでは、息が詰まってしまうでしょう」

 おっしゃるとおりで。我ながら、人目を気にしすぎだなあとは思う。

「では、お相伴に預かろうかしら。ところで、養護教諭の先生は?」

「所用で席を外してらっしゃいます」

 あら。恥ずかしい話を聞かれなくてよかった。……やっぱり、人目を気にしすぎよね。


 ◆ ◆ ◆


 翌お昼。私含めた学生たちが、各々のお気に入りスポットで食事するために、お弁当を手に散っていく。

 もちろん、私のお弁当はミニサイズ。やはり、今までのイメージを崩したくない。

 私たち生徒会一同は、いつものように生徒会室に集まるものの。

「みなさんにお話があります。これからは、別に生徒会だからとまとまらず、各々好きな場所で食べたほうがよいと思うのです」

 ざわめく一同。誰と誰の視線が交差するかで、「お付き合い」がわかってしまった。なるほどね。

「その、突然なお話ですけど、なんでまた急に?」

 う、フリーっぽい書記の子に突っ込まれてしまった。

「えーと、あー……」

 困った。言えるわけないじゃない!

「会長は、伝統と同時に、自由を重んじる方です。それで十分ではありませんか」

 高井さんのフォロー。書記の子も納得してくれたようで。

「おほん。ということで、自由行動としましょう」

 「わかりました」と、お弁当を手に手に生徒会室を去っていく。

「会長。わたしたちも行きましょう。いいところがあるんです」

 高井さんに先導され、後をついていくと……。

「綺麗……」

 紅く染まった紅葉が茂る並木道のベンチに、腰掛ける私たち。

「三年通っているけど、ここは気づかなかったわ」

「この学校も、広いですからね。ここがお気に入りでして」

「素敵ね」

 微笑み合う。

「では、いただきましょう」

 お弁当箱を開くと……。

「やっぱり会長のお弁当、今日も小さいですね」

「う。私にも、イメージが、その……」

 ごにょごにょ。

「ちょうどよかったです。今日、二人前持ってきましたから」

「ええ!? それじゃ、高井さんのイメージが……!」

「不肖高井、そのへんは気にしませんので」

 自由だなあ。それに引き換え、私はなんと小心なのだろう。……と落ち込みたいところだけど、空腹には勝てない。

 まずは、持参のものから。

 うちのシェフが作ってくれた一級品。う~ん、おいしい!

 あっという間に食べ終わってしまった。

「では、私のをどうぞ」

 もう一つのお弁当箱を手渡してくる彼女。

「それでは、ありがたく……」

 これは……! 伝説のタコさんウインナー!

 それに、だし巻き卵、ミニハンバーグ、アスパラベーコン、プチトマトにブロッコリー、エトセトラ……。

 彩りも鮮やかで、なんと可愛らしい!

「高井さんのシェフ、いいお仕事をなさるのね」

「いえ、不肖わたしの手作りです。趣味なんです、料理」

 なんと……。高井さんの腕やいかに。

 ……おいしい! うちのシェフとは、また一味違うおいしさ!

「おいしい……。趣味ですまないレベルだわ……!」

「照れてしまいます。でも、お褒めに預かり、ありがたく存じます」

 称賛に、お日様のような笑顔で返す彼女。

 なんだろう。そのとき、胸の奥がなにかぽっと、暖かくなるのを感じた。

 どうにも彼女を直視できなくなって、黙々と箸を進める。

「ごちそうさまでした! 高井さん、素晴らしいお弁当だったわ! ありがとう!」

 本当に、本当に最高のお弁当だった。こちらもお日様笑顔を向けると、彼女、照れてうつむいてしまう。

「大げさです、そんな……」

 もじもじと返される。

「お世辞なんて言わないわよ。よし! これで午後も頑張れそう!」

「あの!」

 お弁当箱をしまっていると、彼女がなにか言いたそう。

「これからもお弁当、作ってきていいですか……?」

「ええ!? そんなの厚かましくて、頼めないわ!」

「いえ、また倒れられたら事ですし、その……おいしいおいしいと言っていただけるの、すごく嬉しくて……」

 さらに、もじもじ。

「そこまで言うなら……。本当に、手間ではなくて?」

「一人ぶんも二人ぶんも、対して手間は変わりませんので!」

「では、恐縮ですけど、お願いしようかしら」

「はい、喜んで!」

 高井さんのお日様笑顔が眩しい。秋風が、私たちを撫でつけ、吹き抜けていった。


 ◆ ◆ ◆


「わあ……!」

 今日は中華風。春雨サラダに、ユーリンチー。チンジャオロース。そして、かわいいシュウマイ。

「いただきます」

 うん! やっぱり今日もおいしい!!

「高井さん、すごいわ!」

 感動のあまり熱視線を送ると、うつむいてもじもじしてしまう彼女。その様子に、また胸の奥がぽっと暖かくなる。なんだろう、この気持ち。

「わたしはその、会長の日々の頑張りに報いたいだけで……」

「本当に、その気持が嬉しい! もちろんお弁当も! ああ、なにかお返しできるといいのだけど……」

「いえそんな、滅相もない!」

 手を、わたわたと振る姿も微笑ましい。

「でも、厚意を受け取りっぱなしというわけにも……」

「では! その……デートしていただけませんか?」

「はい?」

 やや混乱。

「だめ……ですよね」

「いえ、だめというか、そういうのは意中の殿方とするものでしょう!?」

「わたしは……いえ、わたしたちは、いずれ政略結婚する身です。デートなどという些事、流されてしまうことでしょう。わたしは、青春してみたいのです!」

 政略結婚という言葉に、胸がズキリと痛む。この学校に通う多くの生徒は、良家や大企業の令嬢たち。

 大学を卒業したら、親同士で決めた、同じく良家や大企業の御曹司と結婚させられる。

 私たちに、自由恋愛という言葉はない。

 果たして、好きになれない相手であった場合、楽しくデートなどできるものだろうか。いや、そもそも相性が良くても、デートなどという浮いた話が持ち上がる余地が、あるだろうか。

 高井さんの発言は、重い。

「そう、ね。青春、してみましょうか」

 努めて、笑顔で返す。

「ありがとうございます!」

 きらきら輝く瞳を向けてくる彼女。

 お互い、デートなんて初めてで、どうなることだろう。


 ◆ ◆ ◆


 某駅で待ち合わせ。少し早く着いてしまった。遅れるのも、失礼な話だし。

「すみません! おまたせしましたか!?」

 おめかしした高井さんが、改札から出てくる。腕時計を見ると、時間ぴったり。

「いいえ。私が少し早く、着いてしまっただけだから」

「とりあえず、どこへ行きましょう?」

「カフェなどいかがかしら? 一旦、ゆっくりしましょう」

「はい!」

 彼女とともに、落ち着ける雰囲気のカフェを探す。

 デートって、こんな感じなのね。胸の奥が、暖かい。

 おしゃれなカフェを発見。口コミの評価も高い。

「ここにしましょうか」

「そうですね」

 二人で、レモンティーを頼む。私は、チョコケーキも。お腹が空いているんですもの。

「なかなかいい茶葉ね。ケーキも、良いお味」

「今度、なにかお菓子作ってきますね」

 弾んだ声で、提案する高井さん。

「そんな、気を使わなくていいのよ?」

「わたしがそうしたい、ではだめですか?」

「そこまで言うなら……」

 本当に彼女は、どうしてここまでしてくれるのだろう。

「ところで、本格的にランチといきたいわね」

 さすがに、ケーキ一つでは食べたりない。

「わたしにおまかせを! 行きましょう!」

 会計を済ませると、また屋外へ。どこへ連れて行くつもりなのかしら?

「こことかいいですね!」

 落ち着ける雰囲気の、公園に到着した。

「さあ、ベンチに座りましょう」

 彼女に促されるまま、ベンチに腰掛ける。向かいの池では、カルガモがのどかに泳いでいた。

「お弁当です!」

 彼女が取り出したそれは、いつもの二倍以上のサイズ!

「高井さん、この量は……」

「会長、いつも食べ足りなそうなので! いつもの二食ぶん、プラス五割増です!」

 す、すごい圧倒感! でも、はしたないけど、よだれが出そう。

「存分に、召し上がってください。多ければ、残していただいても結構ですので! あ、お茶です」

 水筒を差し出す彼女。ごくり。

「いただきます……」

「いただきます」

 高井さんと声を合わせ、開封。一つ目は、和食。きんぴらごぼうや魚の照焼きなどが食欲をそそる。

 ……おいしい!

「おいしいわ、高井さん!」

「お褒めに預かり、恐縮です」

 お日様笑顔で返す彼女。またも、胸がぽっと熱くなる。

 二つ目は、洋食……っていって、いいのかしら?

 唐揚げに、エビとブロッコリーのサラダ、イカリングに白身魚のフライ、コールスローサラダ。普段、我が家の食事として供されないようなものなのが、逆に嬉しい。

 ああ、おいしい! 箸が止まらない!

「ありがとう、とてもおいしかったわ」

 口元を拭い終わると、お礼を述べる。

「ありがとうございます。もしかして、まだ食べたりなかったりします?」

「いえ、さすがにお腹いっぱいよ。ありがとう。このあとは、どうしましょうか」

「ええと……その。手を繋いでよろしいでしょうか?」

「ええ、よろしくてよ」

 突飛もないけど他愛もないお願いを快諾。

 彼女が身を寄せてきて、指を絡めてくる。

「ずっと、会長とこうしてみたかったんです。夢が叶いました。嬉しいです」

 体も預けてくる。

 なんだか私も、胸がぽっぽと熱くなってしまう。

「高井さん」

「すみません。もう少し、このまま」

 言われるままにする。これで、少しでも恩返しができるのなら。

 どのぐらい、そうしていたろう。

「くしゅん!」

 くしゃみしてしまった。

「あ! 寒いですよね! 失礼しました!」

 慌てて手を解き、身を離す彼女。

「ううん、ちょっと冷えただけだから」

「いえ、会長が体調を崩されては事ですから!」

「じゃあ、もう一度カフェで、温かい飲み物でもいただきましょうか」

「はい!」

 こうして、先程のカフェへ舞い戻ってホットティーを注文し、飲み終わると、私たちのデートはお開きとなった。


 ◆ ◆ ◆


 うーん。

 デートしただけでは、お返しがし足りない!

 毎日、お弁当を作ってくれる高井さん。

 そんな彼女に、もっと恩返しがしたい!

 そこで、ある秘密のプロジェクトを遂行中……。

「会長。学院祭まであと一週間ですね」

「早いものね」

 高井さん弁当をエネルギー源に指揮を執り、ついにここまでやってきた。

 全体の進行は、すこぶる順調。

「あなたのおかげだわ」

「いいえ、これもひとえに会長の頑張りの賜物で」

 互いに称賛。

「さて、書類がまだ山積みだわ。一緒に片付けましょう」

「はい!」

 このまま皆の作業をほーっと眺めているわけにもいかない。我々生徒会の仕事も山積みだ。

 そして、学院祭当日――。

 なにぶんお嬢様学校なので、出し物は美術部員や書道部員の書画や、吹奏楽部のオーケストラなど。

 クラスの出し物も、概ね上品。

 その様子を、あくまで職務として見て回る我々生徒会。

 お昼のチャイムが鳴った。

「生徒会も、昼休みにしましょう」

 めいめい、散っていく。

「高井さん、一緒に来てくださる?」

「はい!」

 二人で、いつものベンチへ。

「では会長、今日は……」

「ありがとう。でも、今日はちょっとしたサプライズがあるの」

 そう言うと、お弁当箱を差し出す。

「私も、作ってみたの。食べていただける?」

「会長の手料理ですか! 喜んで!」

 蓋を開ける彼女。

 頑張ってうちのシェフに習った、料理の数々。

 だし巻き卵に、きんぴらごぼう。鮭の塩焼き、ちくわの磯辺揚げに、厚揚げのそぼろあんかけ。

 ごはんには、錦糸卵。

「すごい……! わたしのためにここまで……」

「それは、私の言葉でもあるわ。いつも、おいしいお弁当ありがとう。お口に合うといいのだけど」

「いただきます!」

 もりもりと食べる彼女。よかった。おいしいと、その食べっぷりが語ってくれている。

「おいしいです、会長!」

 お日様笑顔に、胸がぽっと暖かくなる。

「ありがとう。私、自分のぶんを持ってきていないの。高井さんの、いただけるかしら」

「はい!」

 二つのお弁当箱をいただく。

 おいしいものは、ダブってもおいしい。

「おいしい。今度から、わたしにも高井さんのお弁当を作らせて?」

「そんな、悪いですよ!」

「私がそうしたいからじゃ、だめかしら?」

「そうおっしゃるなら、ありがたくいただきます」

 やがて食べ終わり、食後のお茶を愉しむ。秋風が、私たちを撫でていく。


 ◆ ◆ ◆


 学院祭最後の夜。打ち上げ花火が夜空に大輪の花を咲かせていた。

「きれいですね」

「ええ」

 高井さんと隣り合い、そのさまをうっとりと眺める。

「このあとはもう、大きなイベントもないわね」

「そう、ですね」

 ん? 彼女、ちょっと言い淀んだような。

「不肖高井、副会長として最後までお供します!」

「大げさね」

 ちょっと、くすっときてしまう。

「手を、繋いでいいでしょうか」

「構わなくてよ」

 彼女が差し出してきた手を握る。

 花火ももうすぐ終わり。生徒会の仕事も、一つの山場を超えた。

 大学受験も、姉妹校への推薦をいただけることになったので、さほど苦労することもない。

「そういえば、高井さん、進路は?」

「姉妹校の大学に、推薦をいただけることになりました」

「まあ! 私と同じ! 楽しみね」

 そう言って微笑むと、彼女も微笑み返す。

 最後の花火が爆ぜた。


 ◆ ◆ ◆


 今日も今日とて、生徒会の執務。私たち三年生組の任期はもうすぐ終わるけれど、なんだかんだ、やることは多い。

 学院祭は終わったけれど、それこそ私たちが主役となる卒業式が訪れる。私は全卒業生を代表し、答辞を読む予定。

「会長」

 高井さんに呼びかけられる。

「何かしら?」

「執務が終わりましたら、少しお付き合い願えないでしょうか」

「ええ、構わないわよ」

 お弁当の新しいメニューでも思いついたのかしら。


 ◆ ◆ ◆


 高井さんに連れられ、人気ひとけのないところにやってきた。

「どんなご用かしら?」

 ずいぶんうら寂しいところに連れてこられたなと思いつつ、用件を尋ねる。

「会長。あの、その……」

 言い淀む彼女。気のせいか、頬が紅い。

「会長。恋をしたことはありますか?」

 突拍子もない質問返しに、ぽかんとなる。

「ええ、恋!? ええと……そういえばこの十八年、そういう浮ついた気持ちになったことないけれど……」

 高井さんの真意がわからない。とりあえず、率直な返事をした。

「わたしは、恋してます」

「まあ! 相手はどなた……って訊くのは失礼かしら?」

「いいえ。その相手は、眼前にいますので」

 さあ……っと、秋風が私たちの間を吹き抜ける。

「あの、私!?」

 自分を指差すと、耳まで真っ赤になって、おずおずと頷く彼女。

 女子校では珍しい話ではないけれど。自分が恋のお相手になってしまうとは……。

 でも、嫌な気持ちがしない。むしろ、胸がぽかぽかと暖かくなる。いや、熱い。

「高井さん、なぜ私なの?」

「才色兼備で、それでいて食いしん坊というちょっとした弱点があって……。そこが、たまらなく好きで好きで、好きになりました」

 潤んだ瞳で見つめられると、心臓がドキドキしてくる。

 ああ、そうか。私も彼女を好いているんだ。

「気持ち、受け取ったわ。そして、私も恋していたみたい。あなたに。抱きしめていい?」

「はい!」

 彼女の細い体を、ぎゅっと抱きしめる。晩秋の秋風の中で、彼女の温もりを感じる。

「会長に抱きしめられるなんて、夢みたいです……!」

「胃袋でハートを掴むなんていうけれど、まさにそのとおりね」

 くすりと笑む。

「高井さん。キスの経験は?」

「いえ」

「じゃあ、私と一緒ね。捧げ合いましょう?」

「はい……!」

 唇を重ねる。

 人を愛するって、こんなにも気持ちがぽかぽかして、浮つくものなんだ。

 ありがとう、マイ・エンゼル。
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