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第三話 ありがとう、ネット塾と昔の偉い人!
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翌日の昼のこと。他のメンバーが偵察に出る中、俺とフォルは休憩中である。ユコは川で洗濯中。
フォルが、なにやら地面に枝で数式と思しきものや円だのを書いていた。何をしているのか気になるので、尋ねてみよう。
「これですか? 天の星ではなく、この大地が動いているのではないかということの検証です」
彼女が立ち上がり、答える。なるほど、天動説がまだはびこっている世界なのか。まあ、何ぶん異世界のことなので、そちらが正しいのかも知れんが。
「ほう……。やはり、教会に弾圧でもされていたのか」
「はい。地が動いていると主張した者は、数多く処刑されてきました。教会が滅んだことにより、やっと公に研究ができるようになったのです。その結果、やはりこの大地のほうが動いているのは間違いないと判ったのですが、壁にぶつかってしまいまして」
眼鏡のブリッジを上げながら、深いため息をつくフォル。
「壁とな?」
「星は円運動をしているはずなのですが、どうしても計算が合わないのです」
地面に書かれた計算式と図面を改めて見る。式の方は何を書いてあるのかさっぱりだが、描かれた円が真円であることに気付いた。
「フォル、真円ではなく楕円で計算してみよ。それで合うはずだ」
彼女は雷に打たれたように地面に向かい、式と楕円を大量に書き始める。
「……合います! 完璧です! さすがですルシフェル様! 素晴らしいお知恵を頂きました!」
地面が式で溢れかえると、彼女は再び立ち上がってこちらを振り返り、『尊敬』の二文字が瞳に書かれてそうな視線を向けながら、両手の指を顎の下あたりで組む。
フハハハハ! いいってことよ。学校ではまだ天体については習っていなかったが、無料のネット塾で楕円運動の話を知っていた。ありがとう、ネット塾と昔の偉い人!
そうこうしているうちに、「敵襲」の叫び声とともに偵察部隊が駆け戻ってきた。
ベルたちの駆けてくる方を見やると、天使どもがわらわらと迫ってくるのが見える。とりあえず、爆裂魔法を超長距離用にセットする。某アニメキャラを真似て、距離を測るために人差し指を立ててみるが、実はやり方がさっぱり分からん。まあいいや、適当で。見栄えはしてるはずだ、うん。
詠唱を終えて爆裂魔法をぶっ放すと、ちょうどいい距離で炸裂して、かなりの数の天使が落ちた。
「この距離であれだけの数を……! お見事です、ルシフェル様!」
ふふん、惚れてもいいぞ。
矢継ぎ早に魔法を連射すると、天使が面白いように落ちていく。ついでに、おなじみの『六六六の獣』も召喚しておこう。ある程度距離が縮むと、フォルも障壁魔法を展開して攻撃に参加する。我々と天使が魔法で殴り合う中、偵察組が障壁を迂回してこちらの陣地に滑り込み、そのまま馬上で魔法戦に加わる。
主に俺が撃墜数を稼いでるのでやや優勢だが、とにかく天使は数が多い。
……それにしても、何か引っかかる。いつもなら、ここら辺でセクンダディが出て来るはずだ。何とも言えない嫌な予感に、左右を見ると、右手から無数の煌めく何かが高速で飛んできた! 身を挺してその何かから一同を庇うと、俺を守る障壁がそれを弾き返す。それは、鋭い金属塊だった。挟撃か!
「惜しい、惜しい。惨めたらしく地を這う真似までしてみたのでございますが。改めて名乗らせていただきます。私はアナエル。この度ウリエル様に代わり、セクンダディに任命されました。すでに同格なのでへりくだらなくても良いとミカエル様は仰るのですが、これが生来の性分にございますれば。すぐに殺させていただきますが、以後お見知りおきを」
前方の、死角になっている下り傾斜の陰から、声の主が空中に飛翔する。長い緑髪の六枚羽根の天使だ。
「ほう……。星の動きを解明しましたか。しかし、そんなことをなさって何になるのです? 創造物が天の謎を解き明かそうなどと、思い上がらないことです。こうやって、主の教えに従わず、弓引くような真似をするから滅ぼされるので御座います。悔い改めて下さいませ」
フォルが地面に描いた式と図をひと目見たアナエルが、意味を理解して小馬鹿にした表情で含み笑いをする。
「黙れ下郎。フォルの、そして他の学者たちの、星に馳せる真摯な思いを侮辱することは許さん! 天の星は神のために輝いているのではない!」
怒りを込めて、間合いを半歩詰める。俺たちの間に、より一層緊迫した空気が流れる。
「冷に輝く鋼の刃よ! 千の槍となりて襲い狂え!」
「獣の根源よ! 獣性を開放し、猛る牙で敵を噛み砕け!」
アナエルの生み出した、飛来する無数の巨大金属針を喰い裂きながら、俺の放ったエネルギーの牙がアナエルを噛み裂く。
「セクンダディに……セクンダディになれたのにィィィィ……ッ!!」
哀れな悲鳴を残しながら、アナエルは八つ裂きになり、牙とともに虚空に消滅する。
あとは最早、下級天使どもを倒すのみである。そしてこれは、造作もなく終わった。
「ルシフェル様、あのセクンダディの侮辱への一喝、すごく嬉しかったです!」
天使を片付けた後、フォルが顎の下で両指を組みながら、きらきらした瞳で俺を見つめ、歩み寄ってきた。なんだか、頬が心なしか紅い気がする。
「なに、我がジュデッカから復活したのは、お前たちを神や天使の害意から護るためだ。これからも、勉学に励むが良い」
そう言って彼女の肩に手を置くと、耳まで真っ赤になってしまった。これは、本気で俺に惚れてしまったようだ。
「あの、ええと……わたし、なんだか熱いので、顔洗ってきます!」
彼女は両手を頬に当てながら、砦に走って行ってしまった。俺は、嬉しいような、こっ恥ずかしいような何とも言えない気持ちになり、頭を掻いた。
フォルが、なにやら地面に枝で数式と思しきものや円だのを書いていた。何をしているのか気になるので、尋ねてみよう。
「これですか? 天の星ではなく、この大地が動いているのではないかということの検証です」
彼女が立ち上がり、答える。なるほど、天動説がまだはびこっている世界なのか。まあ、何ぶん異世界のことなので、そちらが正しいのかも知れんが。
「ほう……。やはり、教会に弾圧でもされていたのか」
「はい。地が動いていると主張した者は、数多く処刑されてきました。教会が滅んだことにより、やっと公に研究ができるようになったのです。その結果、やはりこの大地のほうが動いているのは間違いないと判ったのですが、壁にぶつかってしまいまして」
眼鏡のブリッジを上げながら、深いため息をつくフォル。
「壁とな?」
「星は円運動をしているはずなのですが、どうしても計算が合わないのです」
地面に書かれた計算式と図面を改めて見る。式の方は何を書いてあるのかさっぱりだが、描かれた円が真円であることに気付いた。
「フォル、真円ではなく楕円で計算してみよ。それで合うはずだ」
彼女は雷に打たれたように地面に向かい、式と楕円を大量に書き始める。
「……合います! 完璧です! さすがですルシフェル様! 素晴らしいお知恵を頂きました!」
地面が式で溢れかえると、彼女は再び立ち上がってこちらを振り返り、『尊敬』の二文字が瞳に書かれてそうな視線を向けながら、両手の指を顎の下あたりで組む。
フハハハハ! いいってことよ。学校ではまだ天体については習っていなかったが、無料のネット塾で楕円運動の話を知っていた。ありがとう、ネット塾と昔の偉い人!
そうこうしているうちに、「敵襲」の叫び声とともに偵察部隊が駆け戻ってきた。
ベルたちの駆けてくる方を見やると、天使どもがわらわらと迫ってくるのが見える。とりあえず、爆裂魔法を超長距離用にセットする。某アニメキャラを真似て、距離を測るために人差し指を立ててみるが、実はやり方がさっぱり分からん。まあいいや、適当で。見栄えはしてるはずだ、うん。
詠唱を終えて爆裂魔法をぶっ放すと、ちょうどいい距離で炸裂して、かなりの数の天使が落ちた。
「この距離であれだけの数を……! お見事です、ルシフェル様!」
ふふん、惚れてもいいぞ。
矢継ぎ早に魔法を連射すると、天使が面白いように落ちていく。ついでに、おなじみの『六六六の獣』も召喚しておこう。ある程度距離が縮むと、フォルも障壁魔法を展開して攻撃に参加する。我々と天使が魔法で殴り合う中、偵察組が障壁を迂回してこちらの陣地に滑り込み、そのまま馬上で魔法戦に加わる。
主に俺が撃墜数を稼いでるのでやや優勢だが、とにかく天使は数が多い。
……それにしても、何か引っかかる。いつもなら、ここら辺でセクンダディが出て来るはずだ。何とも言えない嫌な予感に、左右を見ると、右手から無数の煌めく何かが高速で飛んできた! 身を挺してその何かから一同を庇うと、俺を守る障壁がそれを弾き返す。それは、鋭い金属塊だった。挟撃か!
「惜しい、惜しい。惨めたらしく地を這う真似までしてみたのでございますが。改めて名乗らせていただきます。私はアナエル。この度ウリエル様に代わり、セクンダディに任命されました。すでに同格なのでへりくだらなくても良いとミカエル様は仰るのですが、これが生来の性分にございますれば。すぐに殺させていただきますが、以後お見知りおきを」
前方の、死角になっている下り傾斜の陰から、声の主が空中に飛翔する。長い緑髪の六枚羽根の天使だ。
「ほう……。星の動きを解明しましたか。しかし、そんなことをなさって何になるのです? 創造物が天の謎を解き明かそうなどと、思い上がらないことです。こうやって、主の教えに従わず、弓引くような真似をするから滅ぼされるので御座います。悔い改めて下さいませ」
フォルが地面に描いた式と図をひと目見たアナエルが、意味を理解して小馬鹿にした表情で含み笑いをする。
「黙れ下郎。フォルの、そして他の学者たちの、星に馳せる真摯な思いを侮辱することは許さん! 天の星は神のために輝いているのではない!」
怒りを込めて、間合いを半歩詰める。俺たちの間に、より一層緊迫した空気が流れる。
「冷に輝く鋼の刃よ! 千の槍となりて襲い狂え!」
「獣の根源よ! 獣性を開放し、猛る牙で敵を噛み砕け!」
アナエルの生み出した、飛来する無数の巨大金属針を喰い裂きながら、俺の放ったエネルギーの牙がアナエルを噛み裂く。
「セクンダディに……セクンダディになれたのにィィィィ……ッ!!」
哀れな悲鳴を残しながら、アナエルは八つ裂きになり、牙とともに虚空に消滅する。
あとは最早、下級天使どもを倒すのみである。そしてこれは、造作もなく終わった。
「ルシフェル様、あのセクンダディの侮辱への一喝、すごく嬉しかったです!」
天使を片付けた後、フォルが顎の下で両指を組みながら、きらきらした瞳で俺を見つめ、歩み寄ってきた。なんだか、頬が心なしか紅い気がする。
「なに、我がジュデッカから復活したのは、お前たちを神や天使の害意から護るためだ。これからも、勉学に励むが良い」
そう言って彼女の肩に手を置くと、耳まで真っ赤になってしまった。これは、本気で俺に惚れてしまったようだ。
「あの、ええと……わたし、なんだか熱いので、顔洗ってきます!」
彼女は両手を頬に当てながら、砦に走って行ってしまった。俺は、嬉しいような、こっ恥ずかしいような何とも言えない気持ちになり、頭を掻いた。
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