癒し系○○○

みなはらつかさ

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癒し系○○○

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 不意に、目が覚めると、見知らぬ女がいた。

 確か、突然薬をかがされて……。

 だめだ、力が入らない。

「はーい、いい子、いい子。怖くないからねー。辛かったねえ。あなたみたいな素敵な人を、何度もしつこく怒鳴りつけるなんて」

 昨日の、課長のパワハラを思い出し、怒りがこみ上げてくる。

「かわいそう。あなたは有能で、何も悪くないのに」

 赤子を撫でるように、優しく頭を撫でる彼女。不意に、涙が出てきた。

「今日はね、私がママになってあげる。お口開けられる?」

 なぜかもう、この女に逆らう気力がなくなっていた。ゆっくりと口を開ける。

「はーい、美味しいプリンですよ~。あーん……うん、上手上手! 上手に食べられて、偉いねえ!」

 ママが、ぱちぱちと拍手する。

「とんとんしてあげるね。お歌、何か歌ってほしいのある?」

「あめ……ふり……」

 外では雨が降っていた。

「いいよー。あめ、あめ、ふれ、ふれ、かあさんがー……」

 とん、とん、とん、とん。穏やかな歌声に、眠気を催してくる。

「おねむだねー。じゃあね、いい夢見てね」

 そして、眠りの世界に落ちた。


 ◆ ◆ ◆


「ガイシャは日改承ひがい・うける、28歳。詳しくは鑑識の結果待ちですが、やつの仕業で間違いないですね」

 部下の背広男が、上司に伝える。二人は、刑事だ。

 ベッドの死体のそばには、食べかけのプリンが置かれていた。

 鑑識官たちが、激しくフラッシュを焚いて写真を取り、警官が周囲の聞き取りを行っている。

 死体が、それは幸せそうな笑顔を浮かべて亡くなっていた。

「癒し系殺人鬼か」

 忌々しそうに、顔を歪める上司。

 神出鬼没の殺人鬼で、関東一円を騒がせている存在だ。

 この殺人鬼の特徴は、いずれも被害者の死に顔が幸せそうであることと、毒殺を用いていることにある。

 とにもかくにも、この幸せそうな死に顔から、皮肉を込めて「癒し系殺人鬼」と称されるようになった。

 警察と世間を翻弄する、癒し系殺人鬼。その足取りは、ようとして知れない。
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