カンブリアン・アクアリウム

みなはらつかさ

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第二十一話 あくあ

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 木曜。企画課の朝礼にて。

 課長とスタッフが挨拶を済ませると、課長が重い表情で告げる。

「五月の残業を、隔日の週三日にしようと思う」

 ざわつくスタッフたち。

「ありがたいお話ですが、どうしてでしょうか? それほど、好ペースで進んでいるようには見えませんが」

 スタッフの一人が問う。

「このままだと、春木が潰れる」

 皆の視線が、あくあに集まる。

「あの、アタシやれます! 大丈夫ですから!」

「ダメだ。お前、最近鏡見てるか? 死にそうな顔してるぞ」

 しゅんとなる、あくあ。たしかに、連続残業を始めてから、疲労が深く溜まっているのを感じる。

「まだ、入社一ヶ月ちょいのひよっこなんだ。甘えられるうちに、うんと甘えておけ」

 課長、つっけんどんな印象があるが、部下想いな人物である。

「でも、絶滅展が……」

 入社三日目で手にした、ビッグプロジェクト。絶対に成功させたい。

「同じ事を繰り返させるな。ダメだ。命あっての物種だぞ。様子を見て、週三でもだめそうなら、週二とか週一にもしていくつもりだ。以上、解散。作業開始」

 机に散る一同。あくあも、重い足取りで机に向かうのであった。


 ◆ ◆ ◆


「アタシ、そんなダメそうですか?」

 昼休み。社員食堂で、里愛と食事しながら、ため息をつく。

「うん。ほんとに、疲労困憊って顔してる。私からも、課長に進言しようと思ってたんだけど、課長が自ら気づいてくれて良かったよ」

 カレイの煮付け定食を食みながら、告げる里愛。

「間に合わなかったら、どうしよう……」

「五月のデスマーチは、保険だって考えて。あとね、入社してからの三年は、ボーナスタイムだと思って。たくさん失敗しても、叱られて、教えられながら、許される時期。私も、そうだったから」

 三年間、芽が出なかった里愛。お荷物扱いコースに乗りそうなところを、企画二つを通して、逆転ヒットを放った彼女。

 もちろん、実際の企画が受けるか外れるかは、まだわからない。

「絶滅展を成功させたい気持ちは、すっごくよくわかる。でも、しくじったらそれでおしまいだなんて、考えちゃダメ」

 苦労人の思いやりが、言葉に込められていた。

 あくあはただ、無言で耳を傾けながら、ざるそばをすするのであった。


 ◆ ◆ ◆


「おかえり……」

「あれ!? 今日は早いね?」

 相部屋のベッドで横になっているあくあに、バッグを壁にかけながら、声を掛けるまりん。

「ちょっと、仕事中倒れちゃって。今日はもういいから、帰れって課長に言われた」

 深くため息をつく。

「えーっ!? 大丈夫!?」

「明日、病院行ってこいって」

「ええー……」

 心底、心配そうな顔をするまりん。

「波部先輩は?」

「残業中。アタシの穴を埋めるために、頑張るって。情けないなあ。自分の企画なのに」

 泣き出してしまった。

「気負い過ぎなんだよ、あくあちゃんは。今は、とにかくゆっくりしよう?」

 短大時代から、あくあには責任感が強すぎる部分と、ちゃらんぽらんな部分、両極端な面が同居していたことを、まりんは思い出す。

 今は、大プロジェクトを動かしているということもあって、責任感モードが強く出過ぎてるように感じた。

 夕食の時間になると、ぼそぼそと食事するあくあであったが、食べきれずお残ししてしまう。

 そんなあくあを、心配そうに見つめる案内課トリオ。

 二日間の休暇を挟んで緊張の糸が切れ、気合で動いていたのが、一気にガタが来たという感じだ。

 就寝時間近く、里愛が帰ってきたが、あくあがぐっすり寝ているのを、まりんから知らされると、「お大事にね」と言い、シャワーを浴びに行った。

 翌日、朝イチで病院に行ったあくあは、一日安静を言い渡され、欠勤することとなる。

 情けなくて、涙を流すあくあ。そんなあくあを、帰ってきたいつもの四人が、慰めるのであった。
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