偽りの聖女~裏切られた王妃は真実に目覚めました。~

雪月華

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本編

断罪される聖女

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「リリアーヌ! 貴様はこの国の聖女であり、王妃でもありながら醜い嫉妬に狂い、よくも生まれて間もない余の王子を、殺害したな!
 王族殺しの重罪、王妃と言えども到底許すことなど出来ぬ」

 突然城の礼拝堂に入って来たのは、黄金のような髪に緑柱石エメラルドの瞳を持つ、美貌の若き王、ジェレミーだ。
 祭壇の前で祈りを捧げていたリリアーヌは、驚いて立ち上がった。

「王子が? 先程まで健やかにベッドの中で眠っていたのに」
「白々しい。貴様が王子の部屋を訊ねた直後に、息を引き取っていたのだ! 証人もいる」
 
 ジェレミーは自身の妻であるリリアーヌへの憎しみに、顔を歪ませて怒鳴った。
 亡くなった赤子は、リリアーヌの実子ではない。ジェレミーの寵姫が産んだ王子だった。

「王妃さま、あんまりでございますっ。
 いくらわたくしが憎いからと言って、罪のない王子を殺してしまうなんて!
 わたくしの赤ちゃんを返してっ」

 王の腕に縋って泣き叫んでいるのは、彼の寵姫だ。
 リリアーヌが王を巡って、この寵姫と確執があったことは宮廷中の者たちが知っていた。

「違うの、誤解よ。私は殺してない。話を聞いて、ジェレミー!」

 金色の瞳を見開き、豊かな真紅の髪を振り乱してリリアーヌは必死に無実を訴える。蒼ざめて震える華奢な身体はふらついて、今にも気を失って倒れてしまいそう。

 礼拝堂にいる人々の冷たい視線の中で、リリアーヌの忠実な聖騎士ニコラだけが主人を案じてその身体を支えた。

「その女を捕らえよ! 西の牢獄塔へ連れて行け」
「ジェレミー!! 待って――」

 リリアーヌの悲痛な叫びを残して、衛兵たちは罪人を拘束すると、西の牢獄塔へと引き立てて行った。





 二人が収監されたのは塔の上階にある貴人用の部屋などではなく、身分の低い者が入る地下牢だった。
 小さな明り取りの窓が天井近くにあるだけの暗くジメジメとした牢獄。

 暗闇の先にネズミやコウモリ、サソリなどの生き物がうごめいているのが見える。とても貴婦人が耐えられるような環境ではない。

「このお方は聖女にしてこの国の王妃! 貴婦人にふさわしい待遇を要求する。お前たちのここでの無礼の数々は、主神フレイアが決して許さないぞ」

 リリアーヌの守護聖騎士ニコラが獄吏長に抗議したが、無視される。

「ニコラ、これはきっと何かの間違いよ。きちんと調べればわかるはず。ジェレミーも落ち着いたら、私が赤ん坊を殺したりなどしないって思うわ」 
「……リリィ、罠にはめられたな」

 王妃の乳兄弟で幼馴染でもあるニコラは、上着を脱いで石の床に敷くと、リリアーヌを座らせた。

「まだ王を……ジェレミーを愛しているのか?」

 リリアーヌはぎゅっと手を握りしめ、目蓋を固く閉じる。

 ジェレミーがまだ王太子だったあの頃。

 他国から亡命して来たリリアーヌを暖かく迎え入れてくれたこと。
 共に国中を旅して回った、かつての日々が鮮やかに脳裏に甦った。

 
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